第7話 満ちる月に欠ける刻 3

第7話 満ちる月に欠ける刻 2からの続きです。

-From 1-

*

許せねえ!

牧野の皮をかぶった英 慶介とか言う野郎!

チョイ数分前、着替える牧野・・・じゃなかった英 慶介を一人残して病室を出る。

最後まで抵抗を見せる俺に類が耳打ちした。

「元に戻ったら牧野にいろいろ頼んでみれば、きっと逆らえないよ」

英 慶介が牧野でしたこと全部、イヤそれ以上の事を・・・

服着替えて、脱がせて、風呂行って・・・

ベットになだれ込んで朝まで寝かせねぇ!

それをあいつは逆らわず俺の言うなりで大人しく・・・

そんでもって手取り足とり・・・

天国じゃねえか!

にやけて考えていたらいつの間にか病室から引っ張り出されていた。

「あんまり自分の都合のいいように考えない方がいいと思うけど」

さらりと類が言い放つ。

類!お前が俺に期待が膨らむ想像させたんじゃないか!

「司君、俺達には君の考えていること手にとるように解かる」

「あまり期待すると反動が大きいぞー」

俺に『君』なんてつけやがった。

あきらっーーーーーー俺をおちょくて、この後どうなるか覚えてろ。

「なんせ、相手はあの・・・・」

「「牧野だからね~」」

俺の締まりのない顔をからかう様に総二郎とあきらが視線をかわしニヤリとしている。

「てめえら、大人しく聞いてれば、言いたいことぬかしやがって、覚悟はいいだろうなっ!」

指をボキボキ鳴らしながら奴らにすごむ。

「カチャ」

病室のドアが開いて「お待たせ」と着替えを済ませた英 慶介が現れた。

俺の目の前にたたずんでいるのはやっぱり牧野で・・・

その牧野の着換え・・・英 慶介見てたんだよな・・・

目をつぶったままじゃあ、着替え出来ねえだろうし・・・

病衣脱いで・・・下着姿で・・・

想像したら鼻血出そうになった。

俺は思春期のガキじゃねーぞーーーーーっ。

やっぱ・・・我慢できねえ!許せねえ!

身体の中で爆弾にスイッチが入ったような気分になって叫んでいた。

「俺の牧野をいいように触りやがって!」

叫んだ瞬間、英 慶介の皮をかぶった牧野に殴られた。

さすがに本物の牧野に殴られるよりパンチに重みがありやがる。

結構いいブローが腹部に効いている。

「お前、ちょっとは手加減しろ!今お前男だろう・・・が・・・」

俺をじろっと睨んで涙目になりやがった。

男の姿で泣かれても・・・

それはやっぱり牧野なわけで・・・

俺の心もチクリと音がする。

禁句の言葉を言っちまったことにさすがのおれも後悔するが、口から出てしまったものは取り返しがつかない。

パンチの痛みより涙目の方が速攻効いてしまった。

もう・・・なにも言いません。

そんな気分になってきた。

そんな俺を後に残してあいつらぞろぞろと病室を後にする。

結構人目を引く容姿端麗な4人に囲まれた牧野の皮をかぶった英 慶介。

その後ろをすごすごとついて行く俺。

牧野の後ろ姿見ていたら・・・

ムカムカ、むくれた気分が山になって出てきやがった。

なんで俺と入れかわらねえんだ。

俺はお前の彼氏だぞ!

とにかく誰が何と言おうと今の状況納得できねえ。

そんな気分が俺を支配し始めた。

俺と入れかわリやがれ!そんな思いを込めて思いっきり牧野の背中めがけて頭からタックルしてみた。

ひっくり返る牧野の上に追いかぶさる状態の俺。

それを呆然と見つめる容姿端麗4人組。

結果は・・・

「なにしてんのよっ!」と罵声浴びせられ英 慶介の皮をかぶった牧野に蹴りをいれられていた。

俺の牧野入れかわり大作戦はこうして不発に終わってしまった。

-From 2-

無事になんとか道明寺の部屋までみんなでたどり着く。

使用人にみんなの部屋の準備を指示すると道明寺はドカッとソファーに腰を落とした。

「失礼します」

タマ先輩が私が来たことを聞きつけてやってきた。

「つくし・・・今度はあんたが記憶なくしたのかい?私の事も覚えてないか?」

私が横に数回首を振る仕草を見せた。

「かわいそうに・・・」タマ先輩がしわくちゃな顔をもっとしわくちゃにして私を抱きしめた。

「うっ」泣きそうになった。

記憶ちゃんとあります!今男の子になってしまっています。

こんな事実タマ先輩が知ったら心臓発作起こされそうで言えません!

タマ先輩ごめんなさい。

心の中で両手をついて謝った。

「姉さんが記憶なくしたって、あんたもつらいね・・・」

泣きそうな英 慶介の私に近づいてきたタマ先輩。

ギュッと両手を握りしめられた。

確かに今の私を見たら姉を思う弟の悲しい心情を勝手に作りあげてしまうだろう。

もう一度心の中でごめんなさいと手をついた。

「坊ちゃん、しっかりつくしの面倒見て、記憶が少しでも回復するよう手助けしてくださいね」

「ああ、解かってる」

めんどくさそうな態度で道明寺が返事をした。

面倒は見てもらわなくて結構です!と思わず叫びそうになった。

道明寺の態度に不満そうな顔を見せたタマ先輩だったが、何にも言わずに道明寺の部屋を出て行った。

ようやく「ホッ」と一息つくことができた。

出来たと思ったのは私達だけ?かな?

「納得出来ねえ・・・」

相変わらず道明寺は誰に聞かせるともなく一人ブツブツ文句を言っている。

私の中に英 慶介がいるのが道明寺に受け入れられないのもなんとなく解かる。

だからと言って、もし道明寺が私の知らない女の人と入れかわったとしても、私がその人追い出して自分が道明寺の中に入りたいなんて思わないはずだ。

どうして道明寺が私の体の中に入りたがるのか理解に苦しむ。

まずは私達二人が元に戻ることが先決だとは考えないのだろうか。

あんたが私の体に入りこんでどうするっ!と詰め寄りたくなってしまう。

道明寺の行動監視に西門さんと美作さんが目を光らしている。

これ以上私の体にタックルされて怪我でもさせられたら目も当てられない。

道明寺はあてに出来ないので、5人で知能持ち寄って作戦会議。

たいしたことが話し合われる訳でもなく・・・

どうすればいいかなんて解かる訳がない。

「まずは事の起こりを再現するしかないだろう」誰からとなくそんな当たり前の結果に行きついた。

-From 3-

「なあ、お前なんで入院してたの?生死の境さまよっていたって言ってたよな?」

あきらがふと思い出したようにつくしの中の英 慶介に問いかけた。

「川でおぼれた子供助けようとしておぼれたみたい、1週間ぐらい意識が戻ってなかったみたいだけどね」

「うちの親、もう駄目なんて医者から宣告受けてたみたいだし・・・」

だからあの看護師さん慌てて飛んで行ったんだ。

つくしは自分が英 慶介として目覚めた時の看護師の驚きにようやく納得できた。

「へえ・・・結構いい奴じゃん」と総二郎が意外そうな表情を見せる。

「えっ・・・じゃあ大変じゃない。早く、両親に会って安心させたあげなきゃあ」

あっ・・・でも会うの私だよね。

この子の両親の情報て、全然持ってないのに、大丈夫なんだろうか・・・

つくしは眉を八の字に曲げ真剣に悩みだしている。

「別に・・・会わなくても大丈夫」

「大丈夫って・・・そんなわけにはいかないでしょう」

英 慶介の言葉につくしは驚きが隠せない。

どうして会わないで済むのか理解に苦しむ。

自分達の息子が助かったんだよ。

少しでも早く元気な姿見せるべきでしょう。

うちの親なら絶対泣き叫んで喜び合うに違いない。

「うちの親、俺が入院して運ばれた時に一度着たきり、後はなんかあったら連絡よこせってさ」

「俺がどうなろうとあの人たちにはたいしたことないみたいだし・・・」

「よくあるでしょう、形だけの結婚で跡取りが出来たら両親はどちらも自分勝手にやってるてやつ」

今はほとんど公の席ぐらいしか夫婦で顔を合わせることもない。

二人とも愛人と楽しくやっている。

と英 慶介は補足した。

「小さい頃から一人で親なんていないのと同じだったし、今さら心配顔されても困るだけです」

「この状態でうちの親とつくしさんが会ってもきっと入れかわっていること解かりませんよ」

典型的政略結婚の犠牲者か・・・

親達の仲がいいだけまだ俺らましな方だ。

牧野の声でこれ聞かされると身の置き場がないて感じがするとあきらは違和感を感じた。

英 慶介の冷めた口調に、いくら中身が牧野じゃねえって言ったって、こんな牧野見たくねえっーーーー。

司が視線を無意識に牧野から離す。

牧野はもっと明るくて・・・

表情がくるくる変わって・・・

太陽みたいなやつで・・・

悲しい時も悩んでる時でもその中には前向きな光みたいなもん持っている。

元から人生捨てたみたいな、冷めた態度なんて似合わない。

牧野の姿のままそれを見せ付けられるのは許せない。

絶対、牧野から追い出してやる。

早く出て行きやがれ!司は思い切り心の中で叫んでいた。

-From 4 -

俺達に自由なのは恋愛までで、その先は親に決められたレールの上を歩く政略結婚。

それが当り前で・・・

仕方がないことだ自分に言い聞かせていた。

牧野に夢中になる司にも「本気になるな」なんて最初の頃はあきらと忠告していたこと思い出す。

「俺は牧野を泣かせない」と、自分の気持ちを一直線に走り出した司を「俺には理解できねえ」なんて言いながら、

いつの間にか真剣に応援してた。

こいつら見ていて、忘れかけてた初恋の苦い思い出よみがえらせた1年前。

更には再会して自分の気持ち伝えることもできず振られてしまった。

あの時・・・

更とちゃんと向き合っていられたら、今の俺は変っていたのだろうか。

時間なんて無情に人の気持ちを変えて流れていくて知た瞬間だった。

更を怨んだ訳ではないく、兄貴を好きだと思いこんで素直になれなかった自分の馬鹿さ加減をただ笑っただけだった。

更との事に区切りを付けて思い出に変えることができたのは牧野と知り合えた御蔭だと思っている。

今は恋愛楽しみながらもどこかで真剣に恋する相手探してる気がする。

今・・・

俺の目の前にいる牧野は、牧野であって牧野ではない。

それは解かっている。

でも見た目や声はやっぱり牧野で・・・

牧野じゃないんだって認識するには無理がある。

牧野を牧野と比べて見るなんて変な現象が俺の感情の中で起こっている。

「よくある政略結婚」て言葉を牧野の声で聞くなんて結構重いもの感じた。

自分は愛されてないみたいな冷めた言い回し・・・

牧野には似合わない。

あきらも戸惑った表情して俺に視線送ってきやがった。

類なんて瞳の中に愁いの感情浮き出てる。

司に至っては牧野のから完全に目をしそらしやがった。

司が牧野から視線外すなんて普段ならあり得ないことだ。

英 慶介の中の牧野は全く俺達の感情なんて思い知るわけなく、なにか考え込んでいる。

どうすれば英 慶介と両親が仲良くできる?なんて考えてるんじゃないのだろうか。

それが一番こいつらしいとなぜか英 慶介の姿をみてほっとした。

司・・・

大丈夫だろうか・・・

俺らの中で一番痛い想いしてるに違いない。

こんな牧野見たくねえ。

俺達4人全員同じ気持ちのはずだ。

俺達・・・

牧野の日向みたいな性格に、司とは違った意味で惚れていたこと思い知らされた。

-From 5 -

やけに時間が過ぎるのが遅く感じる。

昼過ぎに司の部屋に入ってまだ1時間も経っていなかった。

英 慶介が身の上話始めた後からこの場の空気が変わった。

まさかこんな気持ちにさせられるなんて思いもしなかった。

ただ単に司が暴走しないように止める役目、そんなことを軽く考えていた。

あきらと、総二郎の表情からも病院での明快な気分は消えている。

「類、司壊れねえか?」なんて

真面目に司の心配しだしてる。

牧野が牧野じゃなくなる姿。

それを見せつけられてやるせなくなる気持ちが湧き起こるなんて俺も考えてもいなかった。

俺達の言葉に一喜一憂してくるくる表情変える牧野。

泣いたり、笑ったり、怒ったり、叫んだり・・・

そそかしくて、忙しい奴。

でも・・・

純粋に真剣に司を愛してる。

司は傲慢で、わがままでどうしようもない奴だけど、これ以上ないってくらいやさしく牧野を大事にしている。

司と牧野・・・

二人が俺達の中心で・・・

こいつらの関係を見てると安心できた。

なあ・・・牧野・・・

俺・・・

牧野と司、二人をひっくるめて見てないと世界が変わったみたいに落胆してしまうみたいだ。

いつもじゃれあう二人を見てないと安心して眠れない。

単純な日々も・・・

お前達二人を見てるから・・・

だから飽きないんだと気がついた。

「花沢類・・・どうすれば英 慶介は両親と仲良くなれるのかな?」

牧野の姿を見つめていた俺の目の前に英 慶介がちょこんと顔を出す。

英 慶介の仕草の中に牧野の姿が垣間見える。

牧野・・・

なに考えていたの?

俺達4人結構暗く落胆している状態。

やけに静かにしていると思ったら当事者の牧野は意に反さずの状態でそんなこと考えてたのか。

あんたらしい・・・

姿は変わってもここに牧野がいた。

「フッ」と俺から笑いが漏れた。

「その前に、やるべきことあるでしょう」

「まずは元の身体に戻らないと、親子の関係は当事者の問題だしね」

「牧野が考えてもどうにもならないと思うよ」

「やっぱり、そうだよね」

俺の言葉に見た目英 慶介がガクッと肩を落とした。

牧野、早く元に戻れ!

その思いで肩を落とした英 慶介の背中に俺は視線を送っていた。

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司だったら・・・

つくしの中に男が入ってるの許せなくて、自分が入れかわってやる!と単純に思いこむんじゃないかと

今回の From 1 は書いてみました。

本当は元に戻すことが先決なんですけどね。

みなさんの中の司はどんな行動をとるのでしょうか?