待秋

*「昨日大変だったんだから、道明寺からいきなり夜中に携帯が鳴って起こされて・・・」

くったくなく牧野が笑う。

夜中に起こされたと司の愚痴を言いながらもコロコロと笑い機嫌がいい。

俺も牧野の明るい笑顔に釣られる様にほほ笑んでしまう。

「類、お前がそんな優しく笑うなんて見た事がない」

誰に言われたか忘れるくらいやさしい笑顔が自然にこぼれるようになってることに気が付いたのは、いつからだろう。

牧野と知り合ってからに違いはないだろうけど。

そして・・・

牧野が離れたあとで感じる寂しさ。

それは笑った頬の筋肉をこわばらせてる。

できることならこの花を見たい

しかしもう見られないかもしれない

牧野を見ていてふと以前読んだ本を思いだした。

確か・・・

吉村正一郎の待秋日記だったかな・・・

『できることならこの花を見たい。

しかしもう見られないかもしれない。

たとえ見ることができなかろうととも、花は咲くべきだし咲かせたいから。

いつまで出来るかわからないが水をやるのを怠るまい。

私が見なくても私の愛した花を誰かが見るだろう。

そして、

私に代わって愛してくれるだろう。

それを望んでいる』

俺達が生まれるずいぶん前に出版された本。

確かこの本書いた人・・・

がんで亡くなってたんだっけ。

牧野を花にたとえて思い出すなんて予想外。

くすぐったい笑いがこぼれた。

俺・・・

いつまで君の傍で水やること出来るのかな?

牧野の為に・・・

牧野に大輪の花咲かせるのは司の役目だろうけど・・・

あいつは肥料やりすぎてダメにしちまう可能性あるもんな。

「ねえ、花沢類そう思うでしょう?」

「聞いてる?」

黙ったままの俺に牧野が、すねた感じに頬を少し膨らませた。

「ちゃんと聞いてるよ」

牧野の手前そうは言ったものの・・・

ほとんど耳をすっリ抜けてよく変わる表情を眺めていただけだった。

牧野の司に対する愚痴はいつも同じだ。

だから、大体の予想はつくけどね。

俺は何も言わずにただ聞いてうなずくだけで牧野は満足してるって知ってる。

「俺に言われても仕方ないから本人にいったら」

息を切らせて走ってきた司を視線で示す。

「お前、急に電話切るなよ」

「うそ!なんで!帰ってくるの来週じゃなかった?」

「会いたかったから・・・速攻で片づけて帰ってきた」

驚く牧野を司が両手で抱き締めた。

これで牧野の愚痴を聞く俺の役目も今日は終了。

俺の存在が邪魔したのか牧野が司の腕から逃れ出るのが見えた。

「花沢類、愚痴聞いてくれてありがとう」

牧野の言葉に手で合図を送りながら「クスッ」と俺の口元から笑いが漏れていた。

その後に一抹の寂しさを残して。

                          

                                           引用  待秋日記

                                           吉村正一郎 / 朝日新聞出版

たまには真面目に書いてみよう・・・

ギャグ抜きで・・・

気分転換に書いてみました。

そうするとどうしても類の視点になってしまいます。

今度は司で!

無理だろうな・・・

拍手コメント返礼

ココちゃん 様

コメントありがとうございます。

新しい記事にコメントをいただくのも嬉しいですが、以前の作品にコメントを頂けるのはなおさらうれしいです。

思わず作品を読み直して手直ししちゃいましたよ。

類が主人公になると、どうしても切なくなっちゃいます。

ハッピーな恋より切ない系が似合うのはF4の中ではピカイチですよね。

せんくま 様

拍手ありがとうございます。

初期の作品なんですが久し振りに読み返してみました。

また類の切ない系書きたくなったな。