第8話 From one's heart 3

From one's heart 2からの続きです

*

-From 1-

「誰と喧嘩してんだ」西門さんが呆れたように言う。

「西田」

プイと横に顔を向けた道明寺の右手には携帯が握られたままだ。

西門さんを突き飛ばすように車の後部席に飛び込んで道明寺から携帯を奪い取った。

「西田さん、つくしです、聞こえてます?」

早口で一気に喋り携帯から西田さんの声が返ってくることを願う。

「聞こえてます」

いつもの冷静な西田さんの声にホッと安心する。

「あれ全部ウソですから、道明寺の大きな勘違いです。信じてませんよね」

最後は押しつけがましい言い方になる。

私の妊娠説止められるのは西田さんしかいない!

あなたが最後の砦なんです!

「クスッ」

一瞬西田さんが小さく笑ったような感触に耳を疑った。

緊迫の糸が緩んでふわっとなった感じを耳元に感じる。

空気が変わった?そんな感じだった。

「失礼しました」

次はいつもの冷静な西田さんの声が聞こえてきた。

あの西田さんが・・・表情変えた。

携帯の向こう側では確認できないけど絶対クスッと笑ってる。

あの西田さんを笑わせたのって私?道明寺?

どっちだろう?

なんだかすごいところに遭遇した?無理なことやってのけた?

未知との遭遇!天然記念物!絶滅危惧種

見れなかった、確認できなかったのが残念でならない。

「坊ちゃんのおっしゃったこと確認が取れるまでは公にはできませんから、水際で対処させてもらいました」

「でもうれしいですね。坊ちゃんより私を信用してもらえて」

うれしい・・・

うれしいって西田さんが言った。

あの人にそんな感情あったんだとなぜか感激してしまった。

「よかった~」私は安堵のため息をフーと長めに吐いた。

「人の携帯を勝手に取るな」

道明寺がふてくされたように私の手に握られていた携帯を奪い返す。

「西田!全部聞こえてたぞ!覚えてろよ」

携帯を睨みつけて道明寺が吐き捨てる。

「坊ちゃん、今日の事全部覚えていてよろしいので?」

道明寺が言い返せない状態に西田さんが切り返す。

道明寺が返り討ちにあった・・・そんな感じだった。

携帯電話を車の外めがけて道明寺が力いっぱい投げ捨てる。

運よくそれを美作さんがキャッチした。

「おい、情報源をむやみに捨てるな。変なのに拾われて悪用されたら俺らが困る」

「牧野に知らない男から携帯に着信あるかもしれないぞ」

ニヤリと美作さんが道明寺に視線を送る。

車から飛び降りるように出てきた道明寺が、ガバッと美作さんから携帯をぶんどると真っ赤な顔でジャケットの内ポケットに携帯をしまい込んだ。

「「ブハハハハハ」」

西門さんと美作さんが噴き出すように大声あげた。

-From 2-

「なにがそんなにおかしいッ」

馬鹿笑いしている二人をグッと睨みつける。

ついでに類も牧野も笑いを押し殺してる感じだ。

大口開けて笑われた方がまだ対処しやすい。

「いや~ そんなに牧野の携帯番号をほかの奴に漏れるの嫌なのかなと思って・・・」

言い終わらぬうちにあきらが「グフッ」噴出した。

「わりぃ、我慢できねぇ」

そんな一言いらねぇ!

「違う!そんなんじゃねぇ。ほかにも人にばれたら困るもんある」

「違わねえだろう。司の慌てぶりどう見てもあきらの言葉に焦って携帯撮り返した感じだったぞ」

総二郎は自信満々な顔を俺に近づけてきた。

お前に顔近づけられて喜ぶのは女だけだろうがぁ!

迷惑なその顔を両手で押し戻す。

「それに牧野の番号放出意外にばれたら困るもんてなにがあるんだ?」

「しつこいぞ」

いい加減にこいつらが鬱陶しくなってきた。

「おい、バカ!止せ!くすぐってぇーッ」

突然総二郎が俺のスーツの内側に手を入れてきた。

ニヤッと笑った総二郎の手の中に見慣れた携帯が握られている。

それ!俺んじゃねかぁーーーー。

取り返そうと手を伸ばした瞬間に、総二郎が俺の胸を突き飛ばす。

俺はそのまま車の中へ逆戻りさせられた格好だ。

急いで降りようとする目の前でバタンとドアが閉められた。

ドアに総二郎が身体を預けて開かないようにしやがった。

力いっぱい押してもびくともしねぇ。

「登録してるの携帯の番号だけだぞっ!」

「そんなの見ても面白くねえだろうがぁ。人の携帯電話勝手に許可なく見ていいと思ってるのかッ!」

どんなに叫んで窓をドンドン叩いてもびくともしなかった。

「あっ!窓開ければいいんだ」

気がついたときは遅かった。

「ババァはおふくろさんだよな」

「お茶て・・・俺か。寝ぼすけは・・・類。あきら、お前はマザコンだってさ」

ボタン操って人の電話帳をゲラゲラ笑いながら総二郎が読み上げる。

「携帯なくしたとき時に本名のまま登録してたら困るだろうがぁ!返せッ」

車の窓から身を乗り出してなんとか総二郎から携帯を奪い返した。

「ひでーなッ、俺はマザコンじゃねーぞ」

牧野だけが大口開けてゲラゲラ笑ってた。

「牧野はなんて登録してあるか教えてやろうか?」

「総二郎!見たのか!」

思わずギクッとなる俺。

「しっかり見た」

口笛吹くような軽いノリの総二郎だ。

「牧野は牧野だ!それ以上言うな!」

俺の焦りは急上昇で車の窓から転げ落ちそうになる。

「えっ?違うの?なんなの西門さん?」

牧野の奴、興味深深ワクワク感漂わせた表情になりやがった。

ニヤリとした笑いを総二郎が俺に送る。

「『マイハニー』だってよ」

一呼吸おいて、総二郎がばらしやがった。

思わず両手で顔を覆う俺。

牧野の反応見たくても見れない感じに襲われる。

総二郎を殴る気力もうせてしまった。

「ありきたり過ぎ~っ」

また大声あげて笑いだす馬鹿野郎たちを睨みつけようとするが、腹に力が入んねぇ。

相手にする気力もどこかへ飛んで行っていた。

-From 3-

マイハニーて・・・なんだ!?

確かに美作さんが言う様に単純な発想ではあるけれど・・・

単純なだけにそれが恥ずかしさを増長させる効果を生み出してしまってる。

道明寺から携帯取り上げて「牧野」にあとで変換させるぞ!と決心する。

「司・・・空気抜けちゃったよ」

全身ほかほか、ゆであがりかけていた私に花沢類がつぶやいた。

車の開いた窓から道明寺がブラッと両手たらしてガクッと項垂れている。

まるで空気を抜かれてしぼんでしまったサル風船みたいな感じになってしまっていた。

「牧野にばれて結構照れてるんじゃないの」

クスッと花沢類が笑う。

「で・・・騒動の決着はついたの?」

そうだった!

それが今回の一番の大事なことで・・・

道明寺の携帯の事なんて問題外のないものでもない。

話題がすり変った原因は・・・

西門さんだ!

ムッとする思いより呆れた感じが私の身体を包む。

「お前達の様子からすると無事に事なきを得たんだろう?」

西門さんは悪びれた様子もなくいつもの軽いノリで返してきた。

「西田さんは道明寺の言葉を全部は信用せずに確認できるまではて公にせずに対処していてくれたみたい」

私の妊娠の話はこれ以上大きくなることを西田さんがしっかり阻んでくれた・・・はず。

解決したと思いつつ・・・

そのことを西門さんと美作さんにすぐに教えるのはシャクな感じがしてふくれっ面で話してた。

「大学の方は大丈夫?」

「ああ、しっかり噂が広まらに様にくぎを刺しといた」

どんなくぎを刺したんのだろう・・・

今日の事喋った女子はすべて無視!

これで大抵の女学生は口を閉ざすだろうし・・・

あとは会社関連の圧力だろけど・・・

なんとか光見えてきたじゃないかぁ。

ホッと胸をなでおろす。

「さすがは司の秘書」

「司の秘書にはもったいない!俺んとこに来てほしいくらいだ」

美作さんが道明寺に聞えよがしに喋り出す。

「あきら、お前には防波堤なんて必要ねえだろう」

「お前は俺達随一の慎重派だし、なにやらかすか解かんない奴につかえてるから秘書は優秀になるしかない」

「そんなもんか?」

「そんなもんだ」

私を間に二人並んで道明寺にニヤリと視線送ってた。

私を仲間に入れないでくれーーー

人がやっと安堵のため息つけたと思ったその矢先、この二人はなにを好んで嵐を巻き起こそうとするんだ!

つかの間の休息を私に与えてもいいでしょうーーーーー

心の中で叫んでいたら、「てめえら!俺に喧嘩売る気かッ」

ガバッと頭をもたげた道明寺が眉を吊り上げ二人を睨んでいるのが見えた。

「おーーー復活!空気注入されたみたいだぞ」

牧野よかったなって・・・復活と言うより機嫌悪くなってるんですけどお二人さん!

バンと力ませに車のドアを開けて道明寺が一歩踏みだした。

獰猛な肉食獣が檻から解き放たれた雰囲気。

「ねぇ・・・ど・どうするつもり?」

道明寺の怒りの方向はこの二人のはずで・・・・

私には関係ないと思いつつもシカっと目を閉じて二人の返答を待っていた。

「「わかんねぇ」」

声を合わせた二人の即答にきょろきょろと目ん玉見開いて交互に顔を見つめ合わせた。

「猛獣の調教は牧野の役目だろう」

「えっ?私?」

私がどうする?どうなる?

もしかして生贄にする気ですかぁぁぁぁぁ。

サッと血の気が引いてきた。

そんな私にお構いなく、にっこりと西門さんと美作さんがほほ笑んだ。

そして二人ニヤリと視線を合わせると同時に私は背中を押され、倒れ落ちる寸前に猛獣の腕の中にスッポリとはさまってしまってた。

-From 4-

どいつもこいつも西田!西田!と、俺の存在どこ行った?

西田に尻叩かれて追いだされたような気分で落ち込んでる俺を慰めようとする神妙な奴はどこにも見当たらない。

それどころか、俺が手がかかるから西田が優秀なんだみたいな言い方!

総二郎とあきらが二人の間に牧野を挿んで優雅に肩なんて抱きながら俺を挑発していやがる。

それはねえだろうがぁぁぁぁぁぁ!

牧野に触るなぁ!

無性に腹が立ってきて、西田にへこまされた分の怒りもこいつらに向けてのパワーになってきた。

今日の牧野の妊娠騒動発端は全部こいつらだ。

こいつらが「つわりかも!」なんて言い出さなきゃぁ、今頃俺は、しっかり会社に戻ってふんぞり返って仕事していたはずだ。

西田にため息つかれることもなかわけだし、牧野に愛想尽かされそうになることもなかったはずだ。

一発殴らなきゃ気が済まねえッ!

爆発噴火まで後数秒の勢いでと車のドアを開ける。

「バン」とドアを閉め両手の拳を握りしめ靴音が響く感じにアスファルトを一歩踏み出した。

怒りに目が血走る様な感覚は久しぶりだ。

そこに牧野が飛び出して思わず両腕伸ばしてた。

「お前何やってんの?」

両手にかかる心地よい重さ。

慣れているはずの柔らかい感触が俺のボルテージを下げていく。

「わ・わざとじゃないくて、西門さんと美作さんに背中押されて・・・不可抗力」

「道明寺に近づく気分じゃなかったんだから!」

焦り気味に早口で牧野がまくしたてて「キッ」と俺を睨んだ。

近づきたくないなんて普通言わねえだろうがぁ。

お前は俺をなんだと思ってるんだ気分悪るッ。

「付加効力って?なんでお前が出てくんの?」ムッとしながら牧野に自分の身体を押し付けるように両腕に力を入れる。

「押し付けられた・・・」

「押し付けられたって?」

「道明寺が怒ってるのみんな解ってるからおはちが私に回ってきたの!」

俺から逃れるように両手をグッと牧野がツパリ出しす。

「牧野!後は調教頼む!」総二郎の声に牧野のツパリが止まった。

類が「ククッ」と笑いをかみ殺している様子が目に入る。

「調教て、私は猛獣の調教師じゃない!」

今度は俺から逃れるように両手を使って俺の肩に上るような感じで這いだそうと必死の抵抗を牧野が試みだしてきた。

どう考えてもお前が俺の頭の上から這い出すのは無理がある。

顔が引っ掻かれそうな雰囲気だからしょうがなく両手を抑え込んで羽交い絞めにしてやった。

「もう・・・離せ・・」

やっと観念してた牧野の口からは強がるような甘えるようなそんなニアンスの言葉しか感じない。

が・・・

さっきからこいつら俺を猛獣扱いしてねえか?

「お前ら俺をなんだと思ってる!」

俺ら見て笑いだしてる総二郎とあきらに笑いすぎだとくぎも刺す。

「オオカミの目の前に投げ出されたウサギちゃんをとらえて食おうとしてるとこ」

そう言ってまたまた「ククク」と笑いだした。

「後は二人でやってくれ。俺達は解散するわ」

背中を向けて歩き出すあいつらの肩は俺が苦笑するしかねえくらいしっかり未だに震えてた。

-From 5-

動くに動けないこの状態。

道明寺に羽交い絞めにされて完全に捕らわれの身になっていた。

誰がウサギだーーーーーッ

叫びたいが胸が圧迫されて声を出せば胃の中身まで出てきそうだ。

胃の調子が悪かったこと思い出してしまった。

ここで吐いたら「やっぱりお前・・・つわり?」なんて言われそうだからグッと我慢する。

最後の始末を全部私に押し付けられた。

ここで道明寺に言いなり、思い通りにされた日にはマジで速攻妊娠させられそうだ。

観念なんかしたくない!

「里井、ドア開けろ」

命令口調の道明寺の声が冷酷に耳元で響く。

思わずゴクンと生唾飲み込んだ。

「私・・・帰りたいんだけど・・・」

キッとあいつに睨まれた。

「お前はお詫びのしるしにあいつらが差し出した貢物だろうがぁ」

不敵な笑いを浮かべ腕にギュっと力を入れられた。

お詫びって?

何のお詫びだ!

お詫びをされたいのは迷惑かけられた私の方じゃないか!

言い返したいが言い返せないこの雰囲気。

以前どこかで経験したことがなかったか?

道明寺の独裁者的な部分が強調された威圧的な空間が出来あがっている。

根本にはマゾ的な性格が道明寺にあったこと思い出す。

抵抗できそうもない雰囲気、緊迫感に押し殺されそうな気分になってきた。

もう一度ゴクンと唾を飲み込んだ。

「私、食べてもおいしくないよ!胃の・・・調子も悪いし・・・吐く・・・かも・・・知んないし・・・」

道明寺の腕に胸を押さえつけられたままだから最後は息吸うのも大変で、とぎれとぎれにしか言葉が続くない。

おいしくないって・・・

なに言ってんだろう私・・・

ドンドン追いつめられて焦っていく。

里井さんによって開かれた車の後部席のドア。

ブラックホールが口をパカッと開けていて、その中に力づくで投げ込まれる。

里井さんに哀願するように視線を送ったが里井さんは私の視線を回避してパタンと車のドアを閉めた。

「出せ」

単発単語で飛び出した道明寺の低音は充分な威圧感で、里井さんは無言のままで車のアクセル踏み込んだ。

「ぼっちゃん・・・どちらへ?」

息苦しい沈黙の中バックミラーで道明寺の表情をちらちら確認しながら最初に里井さんが口を開く。

「帰る」

道明寺の一言で車は進行方向急転換Uターンして走り出す。

いつも慎重なはずの里井さんの荒々しい運転のひょう変に、思わずのけぞり道明寺の膝の上に身体を投げ出す格好になってしまった。

「お前・・・どこ触ってる?」

照れてるような・・・にやけてるような道明寺の声のトーン。

「・・・」

「・・・・?」

見開いた目の前、肌触りのいい上等な絹の感触が頬をクスぐる。

道明寺の言葉にガバッと顔を上げる。

「ギャーーーーー」と思わず飛び退いた。

私・・・

道明寺の股間の上に顔を押し付け倒れこんだ格好になってた。

さっきのフニュッとした感触を思い出し赤面するどころ話じゃなくなってる。

「わざとじゃない!意味はなし!」

全身ブルッて焦り丸出しで叫んでた。

「すげー顔真っ赤!照れるの俺の方じゃねえのかよ」

「ククク」道明寺の喉の奥から笑いがほころびだしている。

全く笑えないこの失態。

「里井さんストップ!私降ります!降ろして下さい!」

哀願するよう運転席の後ろにしがみつく。

「往生際が悪いぞ」

簡単すんなり力強い腕で「ベリッ」と引き離され、またまたすっぽり道明寺の腕の中で引き戻される。

「静かにしねえとここで食っちまうぞ」

「ヒーッ」

耳元で息を吹きかけるようにささやかれ思わず背中がピクンと反応してしまう。

身体が道明寺を拒否したのか受け入れたのか・・・

どっちらの反応だったのか自分でも解からなくなっていた。

続きを読まれる方は From one's heart 4

そろそろ最終話が見えているはずなのになかなかたどりつきません。

この先どうなるんだろう?

最後はどう終わる?

で・・・・

妊娠騒動は解決?

たぶん?

忘れてた・・・(^_^;)