第1話 100万回のキスをしよう! 4

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-From 1-

自室でとった道明寺から携帯への電話。

「どういうこと?」

ボタンを押してあいつの声を聞く前にケンカ越しに言っていた。

「なんのことだ?」

しらじら過ぎるあいつの返答に頭の中でプッン音がした。

「何の事って!西田さんにしっかり聞いてるんですからね!」

「顔も見たくないから離れていてよかったわ、電話もかけてくるな!週末も帰らないからねッ」

「お・おい待て!本気で言ってるのか!」

焦ったような声が携帯から漏れてくる。

「本気で怒ってる!この馬鹿男!」

「てめえよくそんなことが俺様に言えるなッ」

一瞬の沈黙の後、どなるように響く道明寺の声に思わずギクとなる。

「な・・・なによ」

「帰りたくないなら帰りたいようにさせるだけだ」

今度は凄んだような声が聞こえてきた。

「な・なに・・・する・つ・も・り?」

形勢逆転、今度は私が焦って声が震えてきた。

「俺が運転手つきの車で迎えに行ってやるよ」

「すげー目立つぞ!お前の顔は知られてなくても俺の顔は知れ渡ってるしなッ」

「お前の目の前に立って抱きしめてキスの一つでもしてみるか」

軽い調子の声が返ってきた。

そんなことされたら大騒ぎにあるのは目に見えている。

一瞬にして静かに騒がれることなく修習を終えたいというささやかな願いは海の藻屑と消えてしまうことだろう。

「ほ・・・本気で言ってる?」

「俺は思ったことは実行する」

ふんぞり返ってニンマリしている道明寺の顔が浮かんできた。

「解かった・・・帰る・・・」

唇かんでつぶやくように言って携帯を切る。

きっと携帯の向こうで「ヨッシ」なんてガッツポーズをしていることだろう。

なんでこんな時だけ知恵が回るのか・・・

完全に悪知恵だ。

「あーーーーーー」

大声上げてベットにうつぶせた。

まあ・・・

結局・・・

声を聞けば・・・

会いたくなる感情は私の怒りを沈めるのは充分なわけで。

なんだかんだと怒ってはみても長続きしないのは経験済みだ。

迎えに来るって言ったって西田さんがさせるわけないはずだ。

道明寺が私に会いたいと思ってくれる気持ちは嬉しくて・・・

本当に帰らなかったら道明寺のことだきっとここへヘリでも飛ばして押しかけかねない。

「クスッ」と笑ってため息をつく。

気がつくと道明寺の事ばかり考えている私がいた。

帰ってはやるけど、素直に相手はしてやんない。

今回のことは・・・

やっぱり・・・

怒ってるんだからね!

頭の中で反復する。

そうしないと週末までに私の怒りは持続しそうになくて・・・

そしてまた頭の中で繰り返す。

それでも週末は楽しみで・・・

待ちどうしい気持ちを胸の奥にしまいこんで、ベットの中にもぐりこんだ。

-From 2-

修習1週目は無事に経過。

道明寺つくしと呼ばれることも何となく慣れてきた。

同じグループの人からは「つくしちゃん」と呼ばれている。

公平だけ相変わらず呼び捨てだけどね。

公平の私に対する態度が功を奏してか「あの道明寺と関係あるの?」の質問も1度はされるが「全くないです」の私の返事が疑われた形跡はなかった。

「お前の変装完璧だもん」

なんて相変わらず公平は私をからかう。

22年間の貧乏生活の習性もそう変わるものではない。

この場所での生活は質素そのもの。

どう見ても節約家の金持ちには程遠い習慣が身についている。

案外ダサい格好しなくても大丈夫かな?なんて思いつつあった。

今日の夜には道明寺に会えるといううれしさで気の緩みが生じているようだった。

ここで油断したら足元すくわれる。

まずは2カ月を乗り切らなくては!

ブルッと頭の楽天的考えを振り払う。

「なあ、一緒に帰るか?それともお迎え来るの?」

一日の修習が終わりを告げた頃公平が声をかけてきた。

「目立つことはしたくないから途中までは電車で帰るつもりだけど」

「俺、車だから送るよ」

そう言えばこいつもお坊ちゃんだった。

F4と比べることなんてできないが英徳に幼稚舎から通っていたのだから生粋のお坊ちゃんにはちがいない。

「いいの?助かる」

無邪気に喜んで返事して途中まで迎えに来ることになっていた車の手配を断る電話を入れた。

夜7時過ぎ久しぶりに屋敷の門をくぐる。

公平にはここで別れを告げた。

道明寺の帰りは八時を過ぎるだろうと使用人の人が教えてくれていた。

1時間もあればシャワーを浴びて着替えを済ませるのには充分な時間だ。

自分の部屋に戻ってダサダサスーツを脱ぎ棄てる。

まだここが自分の部屋だと実感出来なのが難点ではある。

この部屋に道明寺がいなければ絶対一人では過ごせないそんな思いをこの空間は生み出す効果があるようだ。

浴室の湯船にはたっぷりお湯がはられ湯気が覆っていた。

ゆっくりお湯につかって体を休ませる。

週刊誌の事での私の怒りもとうの昔にしぼんでなくなっていた。

怒っていると繰り返し呪文のように唱えていたこともまったく効果はなかったようだ。

バスローブを羽織って濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻る。

「よっ!」

見慣れたクルックル天パーがベットの上に腰かけて座っていた。

「えっ?えーーーッ!帰ってくるの8時過ぎじゃなかったの?」

思わず時間を確かめる。

時計の針は8時までにはまだ30分ほど時間を余らしていた。

「速攻帰ってきた」

こぼれそうな笑顔を振りまいて道明寺が私の腰に腕をまわした。

手に持っていたタオルが落ちて髪の毛の滴がポタリと首筋を伝った。

「濡れちゃうよ」

「構わねえ」

これ以上密着出来ないくらいにギュっと身体を抱きしめられた。

「私、シャワー浴びたばかりで・・・」

「食事もまだだし・・・片づけてないし・・・」

突然の道明寺の出現に完全ペースを乱され戸惑ってしまっていた。

「1週間も会ってなかったって信じられねえ」

「会いたかった」

耳元でささやかれる道明寺の声に甘くくすぐられる。

「うん」

そう答えることしかできなくて・・・

道明寺の背中に腕を回し抱きしめる。

高鳴る鼓動が自分のものなのか道明寺のものなのか解からないくらいに交じりあう。

道明寺の指先がそっと私の顎を持ち上げた。

見つめる瞳は言葉もなにもいらないくらいに愛しいと私に伝えている。

重なり合う唇はやさしく愛しく・・・

そして・・・

私の肌を愛撫する。

離れていた時間を取り戻すように・・・

情熱に流されるままに・・・

二人抱き合って・・・

快楽の波にのまれる様に堕ちていった。

-From 3-

朝、気分よくすっきり目が覚める。

こんなにぐっすり眠ったのは1週間ぶりだ。

寝顔見てるだけで飽きない幸せ。

そばにいるだけで満足してしまうなんて相当俺もいかれている。

「ん・・・おはよう・・・」

まだ眠たそうに目をこすりながらようやく天使が目を覚ます。

「・・・」

「どこ・・・触ってんの?」

一気に目ざめた様子でつくしが耳たぶまで真っ赤になっていた。

「いや~つい・・・暇で・・・」

こいつの顔を眺めていたら呼吸に合わせるように動く胸に誇張するような二つの丘がどうしても目について・・・

触ってくれと言ってるようだと勝手な解釈。

触れたら離れられなくなっていた。

「触っていたら俺の手に吸いついてきて離れなくて困った」

俺の言葉に唖然としたように開いた口を閉じるの忘れている。

「ほ・・ほかになにかした?」

胸に置いてた腕を払いのけられ、うろたえる様な視線でガバッとシーツをたくし上げられた。

「寝てるやつ襲うほど飢えてはいない」

「あっ、でも明るい日の光の中で見る裸体も結構いいもんだな」

指でファインダーを作って覗き込む仕草でつくしに視線を向けた。

「裸・・体て・・・見てたの?」

「ああ」

「どこを?」

「全部」

「馬鹿ッ」

枕がぼこぼこ頭に振ってきた。

「いいじゃん、減るもんじゃねえし、俺のもんだし」

「うっ・・・もうヤダァ」

泣きだしそうな顔で睨まれた。

その・・・

すねたような顔は反則だ。

どうしようもなく俺が悪者にされた気になる。

責めるような・・それでいて俺を煽るような潤んだ瞳が見つめている。

欲しても欲してもまた湧き出てくる貪欲さ。

自分ではどうにもならない。

そんな俺の心を置き去りに警戒しきった顔でシーツを身体に手早く撒きつけて、狙った小鳥はベットを飛び出して行った。

「お腹すいた」

俺の邪な心をそらすように無邪気な笑顔が返ってくる。

そう言えば昨日の昼からなにも食していない。

「俺もお前しか食ってねぇ」

蜜刻の長さを知らせるように「ギュルッ」と腹から音がした。

「今日の予定は?」

俺の腹の虫が聞こえたのか「クスクス」笑って、すっと細める目はどこまでもやさしげに俺を見つめている。

「何にもねぇ、ただ一緒にいればいい」

笑いあって・・・・

見つめあって・・・

抱きあって・・・

一分、1秒タイムリミットまで二人の時間を刻んで過ごそう。

離れ離れの時を埋めるように・・・・

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