第1話 100万回のキスをしよう! 5

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-From 1-

愛人の女性が男性宅に乗り込み本妻に数週間の怪我を負わせた殺傷事件の判例の検証

戻ってからの最初の学習がこれだった。

このギャップはなんなのだろう・・・

今日の朝までの出来事が別世界のようだ。

思いだしてその余韻に浸ってるわけではない。

週末帰った途端に私の部屋に道明寺がいて・・・

そのまま納得づくで押し倒されて・・・

朝が来て・・・

どこにも行けずに部屋の中で時間だけが過ぎていき・・・

週末に帰ってからというもの二人一緒にずっと過ごしていた。

私を離してくれなかったというのが正解かも・・・

休みが休みでない感覚に無性に戸惑っていた。

あのタフさはどうにかならにものだろうか。

「あんまり言うと他の女に嫉妬されるぞ」

なんて嘯く道明寺を呆れた顔で眺めてた。

最後の手段と・・・

週末に少しは仕事を残しておいてくださいとメモを西田さんあてに残しておく。

この調子でやられたら残りの修習に影響が出かねないハードさだ。

道明寺が鼻歌うたいだしそうな雰囲気で機嫌よく会社に出かけて行ったのが恨めしくも羨ましくも思えていた。

話を今に戻そう・・・

「浮気する方が悪い」

「いや・・・けがさせるのは問題だよな」

判例めぐって意見が飛び交う。

結局は故意か故意でないかが争われる訳で・・・

それに至る経緯がどう被疑者に影響するかそこが問題にあるのだろうけど・・・

飛び交う意見を聞きながらなぜか「フッー」とため息ついていた。

「心ここにあらずて感じだけど?」

私の耳元で公平がぼそっと呟く。

「お前心配じゃねえの?」

「なにが?」

「別居生活」

「いい男で類を見ない金持ちて・・・結構誘惑ありそうに思えるけど」

「信じてるから」

昨日までのあの状況じゃあ、浮気なんて絶対無理だ。

もともと道明寺自体にそんな器用な真似が出来るとは微塵も思っていない。

「そうじゃなきゃ結婚できないか・・・」

確信犯的に公平がニンマリした。

「もしかして・・・からかってる?」

「幸せそうな顔してるからな」

「遊びたくもなる」

笑いを噛み殺しながら公平が悪戯っぽい視線を私に送った。

「別に変わんないと思うけど・・・」

そう言いながらも頬が熱くなる感覚は隠すことが出来なくて・・・

「集中しろ」と私の脇をついてくる公平を照れ隠しに睨んでいた。

-From 2-

牧野と別れて3日目

なんとか中間地点に行きついた。

あと二日過ごせばまたあいつに会うことが出来る。

牧野のいない部屋に帰りたがらない俺に西田は喜んでスケジュールを組んでいる。

その代わり週末はスケージュールを強制的に真っ白にさせているけど。

今週は三日連続でパーティー入れてやがった。

結婚したばかりの俺様が独りで出席するのは目立つらしく、同じことを質問されてうんざりしていた。

「奥さんが一緒じゃないのは残念だ」

今日も俺ににっこり話しかけてきたのはパーティーの主催者のテレビ会社の社長だった。

どいつもこいつも俺の結婚相手が気になるらしい。

連れまわして見せびらかしたい!という気持ちは俺にはある。

だが・・・

あの週刊誌の一件以来牧野にも西田にもくぎを刺されているから目立つことはご法度になっている。

当たり障りのない返事をして作り笑いで対応する。

「つまらなそうにしてるんですね」

一人の女性が飲み物の入ったグラスを俺に差し出しにっこりほほ笑んだ。

確かテレビで見た事のある女優だと気がついたが名前も知らない。

グラスを無言で受け取りグッと一気に飲み干した。

横で顔見知りの一人がその女優を紹介したので、一応礼儀上の挨拶を少なく交わした。

俺に視線を送る女性の存在は後を絶たない。

誘うような見え見えの態度には嫌悪感しか持ち合わせていなというのに。

ましてや、つくしを手にいれた俺に今さらと失笑しか持ち合わせてはいなかった。

「奥様とは別居されてるって聞きましたけど」

その女の言葉に一瞬ギクッとなるが内心の心の乱れをすぐに隠して「どこからそんな情報を」とだけ口にした。

「知り合って損のない方の情報はいろいろ集めていますの」

耳元で妖艶な笑顔を作り女が囁やく。

そんな簡単にばれるような情報じゃねえぞ。

下手な返事は出来ない雰囲気に緊張が走る。

クスッと笑って女が俺に一枚の写真をそっと手渡した。

髪をUPに伊達メガネをかけたつくしが男と二人で仲良く笑顔で会話をしている正面写真。

男は松岡公平だと気がつく。

男と二人楽しそうないい雰囲気の写真に思わず嫉妬した。

問題はそんなことじゃない!

グッと嫉妬心を飲み込んで女の顔をまじまじと覗き込む。

フッと不敵な感じに女がほほ笑んだ。

「目的はなんだ」

絞る出すように言って女を蔑視していた。

-From 3-

週末自宅に帰るため司法研修所を後にした。

公平の今回も送ってくれるという申し出は丁寧に断った。

先週帰った時に大学の同級生に送ってもらったことを喋ったら道明寺が不機嫌極まりない状態に陥ったからだ。

電車に乗る為に歩道を一人急ぐ。

その横をスーと一台の車が近づいて止まった。

「お迎えにあがりました」

道明寺家のお抱え運転手里井さんが頭を下げて後部席のドアを開ける。

「えっ?目立つからってお迎えは着いた駅からだったんじゃ・・・」

ここで里井さんと言い合ってみても目立つばかりだ。

「とにかくお乗り下さい」

周りをキョロキョロ視線を動かし知り合いがいないことを確かめて車に乗り込んだ。

「状況が変わったから迎えに来たとだけ伝えてくれと坊ちゃんに言われました」

「それ以外の事は解かりませんが・・・」

車のハンドルを操りながらそう言って里井さんは無言になる。

状況が変わったて・・・

何の状況?

まさか修習が続けられなくなったて事はないよね?

今のとこ何の問題もなく順調に進んでるはずの集合修習。

もし私と道明寺の関係がばれたとしても修習を止めるまでの騒ぎにはならないはずだ。

たとえそこは大騒ぎになったとしても身の危険を感じるほどではないと思われる。

司法研修所には関係者以外の立ち入りがしっかり抑制されているはずだから。

とにかくは道明寺に聞いてみるしかないようだと腹をくくる。

相変わらずだだ広い落ち着かない空間で道明寺の帰りを待つ。

この前の道明寺に会える喜びをもつ緊張感とはまるきり違う緊張感・・・

いや・・・

緊迫感が私を包んでいた。

またなんか派手に週刊誌の話題になったとか・・・

ここから通えとか言いだす?

なんてたわいない事しか思い浮かばない。

屋敷内がざわめきだし道明寺の帰宅が告げられる。

「お帰りなさい」

不安を隠してにっこりほほ笑んだ。

苦虫を噛みつぶした様な表情のまま道明寺がドカッとソファーに腰を下ろす。

こんな表情の道明寺は結婚以来初めてだった。

私と別居が決まった時もこんな顔はしてなかったはずだ。

「どうしたの?」

不安げな感じが言葉に浮かんでしまっていた。

ネクタイをゆるめながらフーと道明寺がため息ついて私を見つめる。

「俺が結婚したこと結構広がっている」

それは・・・

この前の週刊誌で解かっている事だから仕方ないことだと思うのですが・・・

それもあなたが原因で・・・

「少しお前にも公の場にも出てもらわないといけなくなってきた」

「えっ?」

「結婚したのに姿を見せないからいろんな憶測が飛び交っている」

「なかいいとこ見せつけないとそのうち離婚の噂まで出てくるような勢いだぞ」

「西田も同じ考えだから」

言い終えた安心感からか道明寺の口元がにっこりほころんだ。

結局あの週刊誌の記事がもとでどうにもこうにも静かにしている事は出来なくなったというわけか・・・

その原因を作った張本人は私に悪いとでも思って不機嫌な態度をとっていた?

道明寺に限ってそれは思ってもいないだろうと否定する。

あの時の週刊誌に載った写真をしっかりもらって引き出しにしまってデレッと眺めているのを私は知っているのだら。

引き延ばして部屋に飾ると言うのだけは必死で止めた。

「とにかく、明日の夜はパーティーだから、うんと着飾ったお前をエスコートするからなッ」

さっきの苦虫は宇宙まで追い出したようにほほ笑んでご機嫌極まりない状態に復活していた。

私の腰に回された大きな腕は我慢できない様に急速に二人の距離を縮めて密にしていった。

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ここからお話が急展開していく予定です。

どうなるでしょうか?

続きは100万回のキスをしよう! 6でお楽しみください。