第9話 杞憂なんかじゃないはずだ 4

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-From 1-

「えっ・・・それは・・・その・・・」

しどろもどろに耳まで赤く染めて口をもごもごさせる牧野に負の気分が増大されていく。

「俺はお前と別れるつもりはねえからな!」

「どけっ!」

さっきから俺の膝の上に乗ったまま動こうともしない牧野を怒鳴りつけていた。

「あっ・・・ゴメンッ」

ようやく自分の姿勢に気が付いた牧野は慌てながら全身の赤を増強させいて飛び退いた。

「あんな告白受けたらたまんねェよな~」

俺を煽る様に男が声を上げる。

「てめぇ!なにが言いたい!」

男の悪びれない態度に触発される様に倒れてる男に馬乗りになって襟首を締めあげていた。

「冗・・談・・・あれは俺に・・じゃ・・・ない」

俺に首絞められて男は息も絶え絶えに声を絞り出す。

「お前じゃなきゃ誰なんだ!」

ぶっ殺しても気が済まねぇ!そんな凶暴さが頭をもたげて俺を支配し始めていた。

「あれ!告白じゃないから!道明寺に言ったの!」

目の前の男の代わりに牧野の声が響いてきた。

中越しに矢で射ぬかれた様に俺の動きがぱたっと停止する。

男の襟首から手を外しゆっくりと後ろを振り向く。

大声で叫んで真っ赤に頭の先まで沸騰させた牧野が俺を睨むように立っていた。

「意味・・・わかんねぇ・・・」

俺・・・

その時まだお前の数メートル後ろにいたぞ?

なんでいなかった俺に向けて告白できる?

解かんねェ・・・

男をほっとくように立ち上がり牧野に歩み寄る。

ゲホゲホとせき込む男にもう用はなくなっていた。

「どういう・・・ことだ・・・?」

「えっ・・・それが・・・成り行きで・・・」

確信的なことに触れると、もたもた煮え切らない様にしゃべる牧野にイライラとじれったい想いだけは先行する。

「はっきり言え!それじゃ解かんねーッ」

牧野を脅しにかかってた。

「その人に告白されて・・・彼氏いるて答えて・・・」

「どんな奴て聞かれて・・・」

相変わらずまとまりのない話しかこいつの口からは出てこない。

ようやく起き上がった奴が牧野に告白したというのはムカつく以外の感情はない。

が・・・

こいつは牧野に振られた訳だと納得してムカつく気持ちを抑え込む。

彼氏て・・・俺の事だよな?

俺がどういう奴か聞かれて・・・

「どうしようもなく好きだから!離れらんない」

て・・・

答えたのか?

それって・・・

全然、俺の説明になってねぇーし。

どう考えても自分の気持ちを告ってるだけじゃねえか。

こいつの思考回路信じらんねぇーーーーーーッ

それ聞いたら誰だって勘違いするぞ!

牧野の赤面が移った様に俺まで身体がほてり出す。

無性にうれしさがこみ上げてきた。

「そんな告白、面と向かって聞いてみてぇ」

「えっ・・・あっ・・」

焦る牧野を両手でギュっと抱きしめていた。

-From 2-

「ど・・・う・みょ・・・う・じ・・・くる・・しい・・・」

思いっきり力加減なしに抱きしめられて胸の圧迫が限界に近付いていた。

これ以上胸が小さくなったらどうする!

そう叫んだらすぐに離してくれるだろうか・・・

私の状態に気がつかないままに私を抱き寄せる腕の力は強くなっているようだ。

酸欠状態まであと数秒・・・

死ぬかも・・・

本気でそう思えてきた。

「そんな凶暴な奴の相手俺には無理だわ、つくしちゃんこの前のキスの事忘れて、じゃあ」

抱きしめていた道明寺の腕の力がス~と抜けて両耳がピクッと動いたのが見えた。

失いかけた意識が一気に引き戻される。

香川達也の歩く後ろ姿だけがぼんやりと瞳に映る。

なにを言いだす香川達也!

ここで言いだす必要全くなし!

仕返しにしか思えない。

絶対これは殴られた仕返しだよーーーーーッ

香川達也の姿が消えて安全圏に逃げ出したころ私をじっと睨みつけるような道明寺の視線とぶつかる。

「キスって・・・したのか?あいつと?」

「突然だったから・・・避けられなくて・・・」

胸の圧迫感がなくなったと思ったら道明寺に掴まれた両肩がミシッと悲鳴を上げ出していた。

「この前のお前の挙動不審の原因はそれか?」

なぜこんなことだけ突然、感が良くなるんだろう。

キュッと唇かんで頷くしかなくなっていた。

「あの野郎ーッ!もう数発殴り倒しとけばよかった」

怒り沸騰で香川達也の消えた暗闇を道明寺が睨みつける。

「で・・・お前、なんでそんな奴と今日も一緒にいたんだ?」

「普通ありえねぇだろうがぁ」

血走った様に赤く燃えてる目が私の心にグサッと突き刺さる。

言いわけなんてあるはずなく・・・

ただ「ゴメン」と謝るしかなくなっていた。

無防備過ぎるだろうがぁ」

「ごめん」

「無邪気にもほどがある!」

「ごめん」

会話のたびに道明寺の怒りのバロメーターが徐々に下がっている不思議な感覚に包まれた。

いつもなら・・・

もっと・・・こう・・・

激しい感情が爆発!

し・・・ない・・・ん・・・だ・・・。

初めての経験に私の心の中で戸惑いが生まれる。

「だからほっとけねぇ」

「えっ?」

身体を固くして緊張する私をフッとやさしい香りが包んでくる。

道明寺の胸元にスーと自然に抱き寄せられていた。

「怒ってるんだからな、馬鹿、あほ、鈍感」

どんな罵声も耳元で甘い囁きに聞こえてくる。

「ごめん」

その言葉しか出てこなかった。

道明寺の指が動いて私の顎をそっと持ち上げる。

「消毒」

そう言って私の顔を引き寄せて道明寺の唇が重なった。

「足んねぇ」

つながりは熱を帯びて激しさを増していく。

私の気まずい思いも戸惑いもすべてを飲み込むように・・・

道明寺が強く私を抱きしめた。

-From 3-

「そろそろ離してくれるかな・・・」

「ヤダ」

「ここ道端だし・・・」

「かまわねぇ」

「人目・・・ある・・し・・・」

「見せつければいい」

牧野の顔を胸に抱き寄せたまま離れない様にギュっと力を入れる。

俺の胸に頭ごとうずめている牧野の顔なんて周りから見られるはずはなく目立っているのは俺の方だ。

でもそれは全然関係ない。

ただただ抱きしめていたかった。

こいつは俺のもんだから手を出すな!

世界中に発信したい気分なんだからッ

「ちょっと・・・苦しい・・・」

顔を上げて上目使いで俺を見上げる牧野の瞳は熱を帯びて潤んでいる。

たまんねぇ

俺の男の本能を刺激する表情に今にも抑えが利かなくなりそうだった。

そんな俺の変化に気がつく訳もない小悪魔化した牧野はどうしようもなく俺を刺激する。

苦しそうにハァと息を吸う仕草も、キスを催促されているように今の俺は感じてしまってる。

「そういや、ちゃんと聞いてねぇ」

気分を落ち着かせるために密着率を緩める。

「なに?」

「さっきの告白」

「聞かせろ」

さっきから顔まで真っ赤になっていた牧野だが頭から湯気出しそうな状態まで体温が上昇したようで、ゆでダコが一つ出来あがっていた。

「マジで?」

「ああ」

「言うの?」

「ああ」

「わすれーーー」

執拗に拒否反応を見せる牧野に最後の言葉を言わせねえように口をふさいでやった。

「忘れたなんて言わせねぇ」

「言わないんだったらここで今より恥ずかしい事はじめるかも知んねェぞ」

もごもご言ってる口元がピタッと閉まる。

「どうしようもなく好きだから・・・離れらんない」

小さく牧野の唇が動く。

「聞こえねぇ」

「どうしようもなく好きだから・・・離れらんない」

なんとか聞き取れる様な声が返ってくる。

「心がこもってねぇ」

いじめるな!みたいな目で睨まれた。

何度も聞きたいからついやっちまってるガキの俺がいる。

「俺・・・これでも結構傷ついたんだけど、この傷しっかり塞いでもらわないと立ち直れないかも」

今日は絶対ひかねえぞーて態度を見せる。

観念したように牧野はそっと両目のまぶたを閉じる。

フッと息を吐いてそのまま牧野の腕が俺の首に回され抱つかれた。

思いもしなかった牧野の動きにドキッと一つ胸の奥で音が鳴った。

「どうしようもなく好きだから・・・離れらんない」

耳元でそうつぶやかれた。

俺にしか聞こえない様な小さな声が心臓の奥まで入り込んだ。

こんな反則・・・

たまんねぇーーーーーーー

俺・・・

牧野にはかなわない。

降参だ。

子供じみた俺の態度が気恥ずかしくなっていた。

牧野の腰に腕をまわして抱きかかえる。

触れ合う頬が暖かく、体温が混ざり合って、溶け合う様に俺を包んでいく。

牧野への愛しさを全部飲み込んで伝えたくて、牧野の頭へ腕を回し引き寄せた。

包み込むように・・・

愛しむように・・・

そして・・・

離れぬように・・・

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