第9話 杞憂なんかじゃないはずだ 5

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-From 1-

「なあ、もうまいった。牧野は俺に惚れぬいてる」

西門さん、美作さん相手に崩しっぱなしの表情で道明寺が独りで盛り上がっていた。

二人はうんざりした雰囲気で相槌を打つのも億劫になっている様だ。

道明寺の態度に全身の血流が勢いよく逆流し始める。

馬鹿な事を二人相手に喋るなーーーーー。

私の赤面は限界に達していた。

「いい加減にして!」

爆弾を爆発させる勢いで道明寺の目の前のテーブルの目の前にバンと両手をついた。

「牧野・・・お前、司の事どうしようもなく好きなんだって?」

「えっ?」

「もう絶対離れないだってな?」

「あっ?」

さっきまで無関心だった二人が突然にやつきだす。

もしかして・・・

道明寺・・・

この前の事を全部喋っている?

確かにそれなりの事は言った。

面と向かって道明寺に言うつもりもなかった言葉。

それは・・・

無理やり道明寺に言わされたんだ!

それに勝手な解釈で蛇足されて喋られてる。

あの時は身から出た錆と言う奴で・・・

気まずい思いが全身をまっ黒く覆っていたからまともじゃなくなってて・・・

道明寺にすまない気持ちが充満していたから、いつもと違う態度をとってしまってた。

それに道明寺がすごくやさしくて・・・

あいつの腕の温もりに安心して・・・

私を抱きしめてすべてを受け入れてくれている力強さに幸せを感じてしまっていた気持ちは本当で・・・。

その気持ちを伝えたくって・・・

私らしくない態度をとっていた。

その時の気持ちは純粋に道明寺だけに向かっていたと否定はしない。

思わず頭の中にプワッと浮かんだ熱い気持ちは消しようがなく私の体温の上昇に一役かってしまってた。

でも・・・・

それとこれは別物だーーーーー!

こんなことならあの時意地でも言いなりになるんじゃなかったと後悔しはじめる。

「西門さん、美作さん!そこまで私は言ってないからね」

「勝手にこの馬鹿が蛇足しているだけだから」

「たいして変わんねだろうが」

道明寺は相変わらずの機嫌の良さを見せている。

「別にそんな照れなくていいだろうがぁ」

「それともお前の気持ちこいつらにばれたら困ることあるのかよ」

「困るとか、困らないの問題じゃないでしょう」

「普通こういうことは自分の胸にそっと秘めるものなの!」

思いっきり力を込めて言葉を口にした。

「司にそんな高度な芸当出来るわけねえだろう」

美作さんの言葉にクッと唇かみしめて納得してしまう自分が悲しい。

「こいつ・・・よっぽどうれしかったみたいだぞ」

「内緒にしとくことが出来ないくらいにな」

「いつもこんなに素直な牧野なら俺も楽だ~なんてぼやいていたし」

交互に西門さんと美作さんに聞かされる話に私は照れを隠すことが出来なくなってきた。

後は二人でやってくれなんてぽつんと道明寺と取り残される。

あまりの気恥ずかしさに道明寺の顔を見ることもできなくなってしまっていた。

-From 2 -

「なんだ!」

「なによッ!」

そんな言い合いがしたい訳じゃねぇ。

牧野の不機嫌さ理解出来ねぇーーーー

俺はあいつの告白に全身で喜んでいる。

これ以上の幸せをかんじねぇくらいに。

お前の思いをしっかり受け止めいる俺に感激しろーーーーと叫びたいくらいに。

今さら俺達の関係を把握している奴らに対してまで隠す必要なんてあるはずはない。

全く素直じゃないんだからな。

お前の強い否定形も照れ隠しだと納得済みだ。

照れを隠すための不機嫌さだと理解してる。

俺も結構学習してるんだ。

言い聞かせたいがグッと心の底にのみ込んだ。

「俺・・・お預け食ったままなんだけど・・・」

「えっ?」

「この前の続き・・・」

グッと言葉に詰まって牧野が固まった。

「どうしようもなく好きだから!離れらんない」

あんな世界最大の告白の後・・・

行きつくところは一つだろうという俺の願い(願望)裏切ってするりと逃げて行かれてしまった。

「親がご飯作って待ってるし・・・」

そんな言い訳おまえしかしねぇぇっぇぇ!

それにすんなり帰す俺って・・・

馬鹿じゃねッーーーー。

今回はお前から聞けた言葉で満足するか・・・・

満足できるはずがねぇぇぇぇっぇーーーーーー。

蛇の生殺し状態で数日が経過。

ようやくこいつを捕まえた。

人目も気にせず抱きつく俺に反抗を見せる牧野。

それはいつもの事だから学習済みだ。

最小限の拒否的動きを抑制して抱き寄せる。

俺の膝の上に抱き寄せた格好の牧野の耳元で囁いた。

「今日はたっぷり俺に付き合う時間あるよな?」

「まあ・・・少しは・・・」

一瞬に身を引いた様な感覚を示しながら牧野が答えた。

正午も少し回った時間帯。

今日はバイトもないことも確認済みだ。

「お前の親にも明日まで借りると連絡入れといた」

有無も言わせない現状をつきつける。

「なにするの?」

「別に?]

「変なことしない?」

「変なことってなんだ?」

焦って質問するあいつがおかしくって、からかいたい気分がムズムズ湧きあがる。

真っ赤になって言葉に詰まるあいつに軽くキスを落とす。

「一緒に朝までいたい」

「解かったから・・・離してくれるかな?」

ストレートな俺の言葉にコツンと俺の胸にあいつが頭を預けてきていた。

-From 3-

強引に押し切られて車に乗せられる。

「で・・・変な事ってなんだ?」

「俺の質問まだこたえてもらってねぇぞ」

人を見下す様な相変わらずの態度で道明寺がふんぞり返える。

意地悪だ。

馬鹿な質問してしまった私も私だが、絶対に私が困っているのを見て喜んでいるその態度。

解かっているのに対抗できず悔し紛れにギュっと唇かみしめて黙りこむ。

本当に意地悪!横暴!傲慢!わがまま!

感じ悪るーーーーーーーッ。

私が言えないと解かっていてわざと聞いてくるのだら、なおさら始末が悪い。

「教えてくれなきゃお前の嫌がることいっぱいするかもな」

「うっ・・・」

ギクとなって小さく固まってる私の肩に道明寺の右腕がまわされた。

私の髪を道明寺のしなやかな指先が丸めとる様に弄ぶ。

微かに首筋を触れてはなれる指先の感触がなまめかしく顔が紅葉してくるのは隠せない。

胸の奥でさざ波がざわざわとうねりだす。

「だから・・・そんな何気なく私を触るとことか・・・」

「キスしたり・・・抱きついたり・・・」

だんだん消え入りそうな声になって、心臓は口から飛び出して来そうになっていた。

「俺は好きだけど」

「やってほしいて言ってるようにしか聞こえねぇけどなッ」

うつむいたままの私は、確信的にニンマリしているに違いない道明寺の顔を想像する。

そんな私の反応を楽しむようにあいつの唇が頬をかすめる。

「ヒッー」

首筋に触れる唇の感触に条件反射みたいに身体を引いて声が出た。

「逃げんなッ」

「もっと色気のある声でねぇのかよ」

「そう言われても無理」

道明寺との密着度を薄めるために腰を浮かせてドアの方へ身体をずらす。

移動させてもたいして離れることが出来るわけがない車の中。

道明寺が腕を伸ばしてくればいつでも胸の中へと引き寄せられる状態が回避できたわけではない。

「ククク」とうれしそうに道明寺が笑い声を上げ出す。

「やっぱお前おもしれぇ」

「そんなとこのお前の反応、好きだわ俺」

機嫌のいい笑い声が車の中でこだまする。

運転席の里井さんの肩が心なしか上下に動いてるのが見えた。

笑えずに顔を真っ赤にして羞恥心と戦っているのはどうやら私だけのようだ。

目の前の運転席と後部席を遮断するように黒い壁がスーと出てきて目の前の風景を消し去った。

「里井の奴が気を利かせてくれたみたいだ」

鼻歌うたいだしそうなテンポの道明寺をキッと睨む。

こんな個室・・・

知らない!

いらない!

必要ない!

個室なんて作らなくても結構だ。

檻に入れられてしまった!そんな感覚・・・

「なんで・・・こ・ん・な・・・装置ある・・の?」

「便利だろう」

完全に戸惑って、これから起こることであろうことを予測してうろたえてしまってた。

無駄だった・・・

私を触れるのは当り前みたいな顔して道明寺の指先が私の肩を掴まえる。

「ど・・・みょ・・・・じ、ダメだからね、なんもしないでよ、私朝まで付き合うことは約束するから」

道明寺の瞳が熱を帯びたみたいになって潤んで私を見つめてる。

あんたの屋敷に着くまで待ってよ!!!!

叫びそうになっていた。

道明寺から延びてきた右腕が私の肩を引き寄せる。

「心配すんな、ここでやっちまうほど飢えちゃいない」

照れくさそうにほほ笑んだ道明寺が頬を引き締め真顔になった。

「俺も・・・どうしようもなく好きだから・・・お前と離れらんない」

なにを言われたか解かんなくてボゥーとした感じで道明寺の顔を眺めていた。

それって・・・

私が言った言葉だよね?

そっくり返された?

グッと言葉に詰まって身体の導火線にボッと点火した。

ーーーーーーーすごく恥ずかしいッーーーー。

赤面通り越して燃え尽きて灰になってしまってた。

「そんな、まじまじ見んな」

耳まで真っ赤になった顔は怒った様な、不機嫌そうな、困った様に表情を変えて私に近づく。

触れ合った唇は熱いままにあいつの情熱をそのまま押し付けられる様に・・・

絡め取り・・・

責められて、奪い合うように・・・

煽られる様に・・・

愛しさに満たされていく。

今・・・

ここが・・・

車の中だと忘れるくらいに

続きは 杞憂なんかじゃないはずだ6 で

司頑張れ!

蛇の生殺し状態解放までカウントダウン中!

だといいんですが(^_^;)

司応援隊の方はプッチと拍手お願いいたします。