第1話 100万回のキスをしよう! 7

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-From 1-

花沢類の返事を待つまでもなかった。

会場の入口が突然ざわつきだす。

テレビでよく見かける女優の柏木零だと気がついた。

さすがはセレブ集結のパーティー会場だと見惚れてしまってた。

柏木零の前の人込みがパッとわれて開いた先の空間は道明寺と前へとつながっているようで、なんだ?と疑問が頭の中に浮かび上がる。

道明寺のそばにゆっくり歩み寄る柏木零。

映画のワンシーンみたいだ~

なんて見惚れている場合ではなかった。

そのあたりから周囲のヒソヒソの噂話が会場を異様な雰囲気に包んでいる。

週刊誌の・・・

写真・・・

ホテルで・・・浮気・・・

とぎれとぎれの単語がぽつぽつと私の耳に聞こえだしていた。

私が道明寺の奥さんだなんて気がつかない雰囲気で周りの噂話は確信に近づいて聞こえだす。

「なんでもホテルで密会していたみたいですよ」

サッーと血の気が引いて手足の体温が奪われたような感覚に襲われる。

「気にしないで大丈夫だよ」

そばでそっと花沢類が肩を抱いてくれていた。

「私に聞かせたくない話ってこれだったんだ・・・」

倒れそうに見えたからなんてにっこり花沢類がほほ笑んでくれている。

下手したらこの状態も噂の的になるんじゃないのなんて考えが頭に浮かぶがそんなことはどうでもいい!

問題は道明寺だと気分をグッと持ち上げた。

「司の側に戻ろうか」

花沢類に促されて道明寺の側に歩きだす。

私の目の前で、柏木零が道明寺の首に腕をまきつけて身体を預けた。

どう弁解しても親密な関係を思い浮かべてしまう。

なんか道明寺デレッとなってないか?

奥さんいる前でよその女と抱き合うなんてありえないーーーー

ムカムカする気持ちは押さえようがなく、道明寺の顔をサウンドバック代わりに頭の中で蹴りあげる。

「やっぱり噂は本当・・・」

「結婚前かららしい・・・」

なんて言葉が飛び交っている。

結婚前からって・・・

それはどう考えてもありえない話で、道明寺がそこまで器用な奴ではないことは確かだ。

それに私に惚れぬいている。

うぬぼれでない自信。

浮気なんてあるはずない!

しっかり本気で断言してみた。

周りのヒソヒソ話がある程度私の思考を正確な方へと導いてくれるようだ。

柏木零から逃れるように道明寺が彼女の腕を振り払うのが見えた。

遅すぎだぁぁぁぁぁーーーーー。

感情と思考は別物で・・・

噂は噂と解かっていても不機嫌さ丸出しで道明寺を軽蔑的に睨んでしまってた。

「つくし・・・」

私と絡み合った視線を外せないまま道明寺の表情が強張る。

「牧野!ここは冷静にな」

私の側に駆け寄ってきた美作さんを私は冷静だと睨みつける。

「俺、何もやってねえからな」

なにもやってないって・・・

さっき抱きついていたじゃないか!

焦った様子で私に飛びついてきた道明寺にプイと顔をそむける。

「お前が司法研修所にいるときの写真見せられて・・・」

「別居の事がばらされそうで・・・・」

「写真取り返そうとして・・・」

「あっーーーなにしゃべってんのか解かんねっーーーー」

クルクル天パーに両指突込んでかきむしるような感じで一人で勝手に道明寺が焦っていた。

「俺が浮気してると噂をばらまくためにはめられただけだからな」

「・・・・・」

「お前以外の女に手を出すなんて死んでもありえない」

「・・・・・」

無言のまま強硬な視線をただ道明寺に注いでいた。

「どうすればいい?」

最後は頼み込む感じに道明寺が弱音を吐く。

「プッー ハハッハハ」

私の横で見ていた美作さんが突然吹きだした。

「すげ~いい訳。こんな焦った司見たことねェーーーッ」

「確かにな」

相槌を打つように西門さんが笑いだす。

「牧野、機嫌なおしてやったら」

「クスッ」と花沢類まで笑いだしていた。

-From 2-

「別に浮気なんて思ってないから・・・」

類達のフォローが功を制したようでつくしのお許しが出た事にホッと胸をなでおろす。

ホッとなったら浮気もしてない俺がこんなに焦る必要なんてなかったはずだと気が大きくなり始めてた。

俺、なんでこんな言い訳しねえといけないんだ。

つくし以外の女に目をくれた事もないし、ましてや浮気なんて言葉を想像したこともない。

結婚してからこいつの夢の為にと別居も渋々ながら了承した。

週末の逢瀬は最大のエッセンスになっている。

寛大な夫じゃねえか。

こんないい男いねぇだろう。

元をただせば今回の事もつくしのせいじゃないのか?

別居していてもそれはこいつが弁護士になるための過程で必要なだけの事。

俺達の夫婦間の問題じゃない。

『妻の夢を応援する夫』

いいフレーズになるじゃないか。

つくしのこと公にしといても外野の騒ぎは無視すればいい。

浮気だ、なんだと騒がれるよりそれが一番いい方法だと思えてきた。

ようやく調子が戻ってきた。

いつもの様に頭の回転もスムーズだ。

周りが見えだした瞬間に、つくしの腰を抱いてるような雰囲気で類がそばに張り付いているのにムッとなる。

ムッを顔に貼りつけたままつくしの腕をとり自分の方へ引き寄せた。

俺の胸に倒れ込む寸前につくしの腰に手を回す。

まだ怒ってんだからって感じに見られクッとなる。

こいつの不機嫌も単なる嫉妬だと解かっている。

甘えられている感じがして実に気分がいい。

心の中はニンマリ優越感に浸たりだしいていた。

それでも・・・

類がつくしの側にいるのは気分が悪い。

「こいつにさわんなッ」

さっきのつくしの不機嫌さを俺が引き継いだようなものだ。

「支えてないと倒れそうだったけど・・・」

仕方なかったから側に寄り添っていただけと悪びれずに「クスッ」と笑われた。

いちいち気の障る言い方をわざとしやがってーーーー。

ピキッっと頭の血管が浮立た。

「道明寺ッ!」

非難の視線をつくしに向けられて、拳をギュっと握ってグッと耐える。

今夜は気分の変動がジェットコースターなみの起伏の激しさで襲ってくる。

「いつもの司に復活だ」

俺の不機嫌な感情など関知せず軽い調子に総二郎が喋り出す。

「ところでこれからどうするんだ?」

思案気な顔をあきらが俺に向ける。

「徹底的に叩く」

すぐにでも西田に連絡してあの女の裏で糸引いてるやつ見つけ出す。

ぶっ殺しても俺の気が済まねぇーーーー。

「あきら、お前が調べられそうなところは頼むわ」

「それはいいが・・・まずは今だよな」

訳知り顔であきらが意味深な笑いを作る。

「まずはこのパーティーの雰囲気変えなくっちゃね。仲のいいとこ見せつける必要はあるでしょう」

類の言葉につくしが沸騰寸前まで湧きあがっているのが見えた。

こいつらすげー

いい展望もってるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ。

つくしとの仲のよさアピールすれば噂も消えてつくしの機嫌も直って俺もいい想いが出来るというものだ。

「それは俺も賛成だな」

こいつらの言葉に乗せられたつもりはないが、さっきとは雲泥の気分の差で空まで飛べる気分になってきた。

ギョッと身体をこわばらせたつくしを無視して腰にまわしていた腕に力を込める。

周りに見せつけるようにつくしをガシッと抱き寄せた。

-From 3-

仲いいとこ見せつけるって・・・

いったいなにを私にさせるつもりだッーーーーーー。

悪い予感が正解の様に、道明寺の指先がお触り状態になってきている。

私の腰のあたりでくすぐったい感触を生み出し始めている。

止めてと言いたい気持ちを噂の終焉の為だとグッと飲み込んだ。

だが・・・

本当にこんな事で浮気の噂が収まるのだろうか・・・

どこまで我慢すればいいのだろう・・・。

道明寺の満面の笑みとは対照的に困惑気味の顔になっていた。

「牧野そんなに不安そうな顔するな」

美作さんにそう言われてもさっきから必要以上に道明寺に身体を触られっぱなしの気がしてならない。

なんだか満員電車で痴漢にあってるような気分になってきた。

私がそう思ってると知ったら「なんで俺が痴漢だ!」と道明寺にマジギレされそうだけど。

人前で好き勝手にやられてる気分は抜け出せようがなく羞恥心しか湧きでてこない。

「牧野は司の側にいるだけでいいんだから」

花沢類の言葉に勇気づけられる様に「それじゃあ、この手・・・いらないよね」と、私の腰にあてられていた道明寺の手のひらをつまんで横に捨ててみた。

「なにする!お前の腰を抱くぐらい問題ないだろう」

瞬時に道明寺が反論を見せる。

「なんか・・・くすぐったくて・・・」

「わざとらしくないかなって思ってね」

気まずい思いを必死で誤魔化す。

「牧野の言うとおり、必要以上にべたべたする必要はない」

「なんだそれ?」

西門さんの言葉に不服そうな表情を道明寺が作る。

「牧野が横にいるだけで普段見ることのできない司が出来あがってるからなぁ」

美作さんがニンマリとした表情を見せる。

「冷静で冷淡な経営者の存在は全く見れない」

「締まりのない顔で、デレデレにしている司なんてほかじゃあ見られないぞ」

「普段の司しか知らない奴が見たら別人と思われても仕方がない」

「これ見せられたらそれだけで噂は消えちまうと思うけどな」

交互に喋りだした美作さんと西門さんの二人は完全に道明寺をからかいだして

いた。

「てめえら、さっきから人を持ち上げたり、茶化したり遊び過ぎだぁぁぁぁ」

今一つ迫力が出ない様子でうなる道明寺を二人がゲラゲラ笑っていた。

「こんなやさしい表情をする司は牧野がいるときじゃないと見れないからな」

花沢類がそう言って私ににっこりほほ笑んでくれていた。

とにかく今日は楽しめばいいと私の周りは一番華やかになってきている。

私の横に貼りつく道明寺の体制は変わることなく、道明寺の右腕はしっかり私の腰にまわされた状態に復活ている。

二人の側面接触部分は密着度を増し、強力接着剤で貼りつけられたみたいに引っ張り回されていた。

挨拶を受けるたびに妻だと紹介されニコッと頑張って笑顔を作る。

顔の筋肉が緩んでこのまま元に戻らないんじゃないかと思うぐらい道明寺の表情はふやけ切っていた。

確かにこんな道明寺を見た事はない・・・

ふんぞり返って俺様的な傲慢さは微塵もなくなっていた。

冷静な分析力で会社を導く若き経営者なんてイメージーは総崩れだ。

大丈夫かぁぁぁぁ~なんて老婆心まで湧きあがる。

これじゃあ確かにみんなの言うとおりかもしれないけど・・・

こんなに派手に目立ってしまった私の立場・・・

この後はどうなるんだろう?

一抹の不安を感じて見上げる道明寺の横顔。

相変わらず気分の緩んだままの呑気な顔に私の不安が煽られる。

私の思いなど関知してない緊張感の全くなくなってる道明寺がほほ笑んで私を見つめていた。

続きは 第1話 100万回のキスをしよう!8 でお楽しみください

昨日から雨です。

私の住んでる宮崎は梅雨入りしたみたいです。

口蹄疫が大変なのに・・・

どこもかしこも消毒!消毒!て感じでしょうか。

じめじめぶっ飛ばすお話を書けたらいいな~