第1話 100万回のキスをしよう! 8
*-From 1-
さっきまでの会場の雰囲気。
最悪だった・・・。
が・・・。
なんとか灰色から白に周りの感じが和らいできているのが解かりだす。
アホづらだ・・・
ふやけているようにしか見えない道明寺の顔。
これが効果を表していると認めざる得なかった。
ご満悦に機嫌よく私を連れまわして紹介する道明寺に周りは切れることなく集まってきている。
「結婚されて穏やかな感じになられましたな」
てっぺんの剥げかかったおじさんに言われて「ありがとうございます」と、お礼言って挨拶交わしていた。
どこかの社長だと説明されるが名前なんて右から左に抜けていく。
お礼言われたおっさんが不思議そうに道明寺を見返していたのが印象的だった。
今までの道明寺の横柄な態度からはきっと想像もできなかったことに違いない。
私たち二人を興味深深、他人の不幸は蜜の味みたいで見ていたニアンスはパーティーが終わるころには消去され、
参加者達に好印象を植え付ける事に成功したようだった。
「仲いい雰囲気見せつけられたみたいだね」
花沢類はにっこりほほ笑んで立っていた。
何となく・・・いつの間にかみんなの中に二人で溶け込んでいた。
この状況は何事にも代えがたい安心感を生みだしてホッとしてしまう。
ようやく全身の力が抜けた感じだ。
「俺の芝居もまんざらじゃなかったろ」
どこが芝居だッ的に西門さんと美作さんが呆れた顔を道明寺に向ける。
クスクス小さく漏れた笑い声はいつの間にか大きくなって私たちを包んでいた。
「フーッ」
ため息ついて後部席のシートに身体を預ける。
なんとか無事にパーティー会場から家路につくために道明寺と一緒に車にのり込んだ。
「疲れたか?」
「慣れてないからね」
珍しく私に気遣いみせる道明寺がおかしくて小さな笑いがクスッとおこる。
「こんな騒ぎはヤダ、ドレスとかもかたぐるしいし、早く脱ぎたい」
思わず愚痴ぽくなっていた。
「脱ぐ時は手伝ってやるぞ」
そう言った道明寺の指先は今にも私の背中のファスナーに行きそうな感じだ。
そんな問題じゃないと思いつつもポッとなる。
「バカ・・・」
照れながらプーッと頬を膨らませた。
「ところで・・・どうするつもり?」
「なにが?」
こいつがこのままなにも考えてなかったらどうなる?
ただ今までの流れに乗って俺様の性格が出ていただけなんて事だったらどうしようーーーーッ
「私・・・このまま修習続けられるのかな?」
最悪な気分をなんとか必死に押し込んで道明寺を見つめる。
最初は別居がばれそうで夫婦の不仲説が独り歩きしそうだから仲良くパーティーにでて噂を消すと説明された。
それが・・・
ふたを開けてみれば・・・
道明寺が人気女優のホテルの訪問を丁寧にも写真を撮られ不倫の噂で週刊誌をにぎわせていたと知らされた。
私のがちがちの真面目スタイルの修習のための別居生活を盗み撮りした写真をとり返すためだったとはいえ、
道明寺にべったり寄り添った女優の姿にやきもちを焼いてしまっていた。
あーーーーー。
今思い出してもムカムカするッーーーー。
元をただせばお前のせいだと開きなった道明寺は焦って必死に弁解してた事はすっかり記憶からぬけ落ちている様だ。
「心配するな、全部俺におませておけ。お前の邪魔はさせないから」
「俺とお前の関係がばれても仕方がないと言うのが前提だけど、心配ないから」
「あのガチガチのスタイル変装も止めていいぞ」
機嫌よく不敵な笑いを浮かべる道明寺は、さっきまでの締まりのない顔とはうって変わって、道明寺ホールディングスの代表の威厳をのぞかせている。
安心感。存在感。リーダーシップ。
それに有無を言わせぬ強引さが加わって伊達に代表の座に座ってるわけじゃないと納得させる。
やっぱり道明寺は一流企業のトップに君臨するだけのカリスマはもっていると精悍な横顔に見惚れてしまった。
任せておけばいいのかな・・・
その気になって・・・
安心して・・・
いつの間にか道明寺の肩に頭をのせていて・・・
緊張感が抜けたせいなのか・・・
道明寺が耳元でささやく声が子守唄みたいで、気持ちよくって・・・
睡魔を取り除くことが出来なくなって・・・
そこでプッンと記憶が途切れてしまっていた。
-From 2-
「おっ!元に戻ってる!」
「変装もういいのか?」
相変わらずの気安さで公平が声をかけてきた。
休日明けの司法研修所。
ぼちぼちと同じグループの研修生とも顔を合わせ軽く挨拶を交わす。
「メガネ外したんだ。そっちの方がかわいい」と気軽に声をかけられる。
一応「ありがとう」と返事を返す。
今のところ気がつかれた様子はない。
今までと同じ雰囲気に胸をホッと撫で下ろす。
午前の研修が終わって公平と並んで食堂まで歩く。
「いろいろあってね・・・変装も意味なくしてしまってるみたいだし・・・」
ため息交じりにつぶやく。
「週刊誌見た。大変そうじゃん」
「相変わらず情報早いね。内容は知ってるけど中身は見てない」
あんなの見たくもない!て、気分で口調を強める。
「おふくろと妹がね、いろいろ教えてくれるから。結婚式の雑誌もハルがもって行けてうるさくて」
「あの二人はつくしの事を気にいっているからね」
と、公平は苦笑する。
公平の家族は皆、気さくでちっとも金持ちを鼻にかけてないところが気にいっている。
私から見ても仲の良いいい家族だ。
大学時代はよく公平の家で世話になったことを思い出す。
もち目的は学習の為に集まる場所を提供させてもらっただけだけど。
「ハルちゃんも元気なんだ。確か今年から英徳大学だったよね?」
「ますます言いたい事言うようになってるけどね」
「お前の結婚式の時はなんで招待されなかったのかって攻められるし」
「母親には恋人になれないなら、せめて友達で掴まえていて欲しかったて泣かれたんだぜ」
困った様な顔をして公平が愚痴っぽく話す。
「ごめん、急だったからね」
妹と母親に責められる公平を思い浮かべ私の顔にもクスクス笑いが浮かぶ。
「浮気の記事には二人とも相当怒っていたぜ」
「いい男はこれだから信用できない!お兄ちゃんぐらいがちょうどいいのにてハルに言われた」
俺は喜んでいいのだろうかと真剣に悩んだなんて真顔になってブフッと笑いだしていた。
「今までのお前見てたら大丈夫だろうとは思っていたけどな。会って話すまではこれでも心配してたんだぞ」
目を細めてクシャクシャの顔になって公平の手のひらが私の髪をクシャクシャに乱す。
やっぱり公平はいい奴だ。
じ~んと胸が熱くなってくる。
折角綺麗に髪とかしたのにッと反撃してうれしくて泣きそうになる気持ちをごまかした。
「なあ・・・もしもの話だけど・・・」
「お前が道明寺と出会ってなかったら俺達どうなってたかな?」
「えっ?」
公平の意図が解からず疑問符で返す。
「心配するな深い考えはないから・・・」
「ただ何となくそう思ってな」
気楽な感じで答えてみろと公平が笑う。
そんなこと考えたことなんて一度もなくて・・・
もしもの話しなんてと戸惑いながらもさらりと軽く流す感じの公平にせかされる様に記憶を高校時代まで遡らせる。
道明寺に会わなかったら・・・
赤札張られることもなく平穏に高校を卒業する。
大学には進学できる財力は家にはないから今頃はOLでもやって働いているだろうか・・・
弁護士になろうなんて思ってもいなかったかも。
こんな苦労もしてなかっただろうなという結論に行きついた。
「きっと公平とは知り合ってないよ、弁護士になろうとも思ってないだろうしね」
明るく笑顔を作って言ってみる。
「俺ってそれくらいのもんか・・・」
「嘘でもどこかで会って友達にぐらいはなってるって言えないの?」
残念そうにがっくりと公平が肩を落とす。
「そんな・・・落ち込まないでよ」
「もしもの話でしょう?」
公平の落胆ぶりに思わず焦ってしまっていた。
「冗談」
落ちた肩を公平は上下に揺らしていた。
「もっーーーッ」
頬を膨らせて公平の背中に思いっきり手形を貼りつける。
二人ケラケラ笑いあって食堂のドアをガラッと開け一歩踏み入れた。
真正面の大型液晶テレビを見て私の動きが拘束された。
「ど・う・みょ・う・・・じ?」
「えっーーーー」
「道明寺!」
「なんで・・・テレビに出てんの?」
アップで画面に映し出される見慣れた顔に訳が解からず冷たい汗がスルリと背中を伝っていた。
-From 3-
「あれ、つくしの旦那だよな?」
「だよね・・・」
公平に確認する様な返事をしてしまっていた。
セルフの昼食を選びながらも視線は集中的に画面から外せない。
空いているテーブルに公平と腰を下ろす。
並んで座る格好でテレビの画面を見つめた。
「今話題の若き経営者道明寺ホールディングス代表の道明寺司さんにお越しいただいています」
なんて、結構有名な司会者に紹介されてほほ笑んだ表情がどアップで画面に映し出されている。
「これ何の番組なの?」
「時々やってるよ。今話題の人物にスポットあてていろいろ話聞く番組」
「全国放送だよ、確かこれ」
「なんでそれに出てんの?」
「俺に聞かれても知る訳ないだろう」
「道明寺司も名人だから出ていてもおかしくないだろう」
お前も一緒に出ればよかったのになんて真顔で言う公平の脇腹に肘鉄を入れる。
当たり障りのない話が自然に流れている。
スマートに対応する道明寺にテレビ映りいいな~なんて見惚れてしまっていた。
周りの女子からも「かっこいい」なんて感嘆符がついた言葉が漏れだしている。
よく見れば同じグループの修習仲間だと気がついて思わず頭を下げて顔を隠した。
「最近結婚されたばかりですよね」
「はい、まだ1カ月なりません」
司会者の言葉に、はにかんだ表情で穏やかに道明寺が答える。
「キャーッ」
黄色い声が増えていた。
ここって女子は少ないはずじゃなかったのか?
どこから湧いてきたのか聴衆人数が増えいる。
職員総動員で視聴していることに気がついた。
わぁぁぁぁぁぁぁ
一番触れられたくない話題だぁぁぁぁぁ
こんなのって質問事項事前に打ち合わせとかないのかぁぁぁぁ
これ以上なにも聞くな!
ふるな!
喋るな!
インタビューなんて受けるなーーーーーー
テレビなんて見られなくなるくらい緊張しているはずなのに視線が外せない。
「奥様は確かお名前つくしさんでしたよね?」
司会者の言葉に完全に固まった。
「ええ、そうです」
こぼれる様な笑顔でにっこりと道明寺がほほ笑む。
なんで認める!
隠しようがないことだから仕方ないけど質問させるな!
そんなこと思っていても今さら遅い事なのに諦め悪く考えてしまっている。
「まだ・・・終わらないのかな・・・」
横に座る公平のシャツの端を力いっぱい握りしめていた。
「新婚生活はどうですか?」
そんなことまで聞くの?
さすがにこれには道明寺を答えないだろう・・・
「週末にしか会えないので寂しんですよ」
道明寺が照れるようにほほ笑んで司会者に受け応えし始めていた。
喋ってるーーーーーー。
完全にのせられてるじゃないか。
もう駄目だ!
どうしてですか?なんて司会者が追求し始めた。
なにを隠す訳でもなく戸惑う感じも見せないままに弁護士になるためとか、司法修習生、司法研修所なんて聞きなれた単語を道明寺が連発している。
グッと唇かみしめて握りしめた割り箸がボキッと手のひらで音を立てていた。
「つくし・・・みんな気がついたみたいだ」
「ウン・・・これで気がつかない人いたら間抜けだよね」
私に注がれる視線が増えてヒソヒソな話声が聞こえだしている。
「やっぱりつくしちゃんなの?関係ないっていってたのは嘘?」
同じグループの二人の女子が私の目の前に雪崩のような勢いで押し寄せる。
「騒がれなくなかったから・・・ごめんなさい」
必死の思いで声を絞り出す。
よりによって全国放送でばらすなーーーーーー。
諦めた・・・
これも道明寺と結婚したからには仕方ないことと甘んじて受けよう。
事前の相談なしに事を起こすのは相変わらずだ。
それが許せないつーーーーの。
「最後になにか奥様に伝えることがあればどうぞ」司会者のふりにフッと道明寺に対する怒りを忘れる。
道明寺が満足そうに一瞬笑ったように感じた。
あいつ・・・
絶対何か考えている。
変なこと言うつもりだ。
そんなものいらない。
なにも道明寺に喋らせるなーーーー
「つくし 愛してる」
照れもせず真顔で唇が8文字に形を変えてゆっくり動く。
「すげー全国ネットで告白されてるぞ」
公平の言葉に対抗する気分も薄れ、恥ずかしさや照れはとっくの昔に通り越してあきれ果ててしまっていた。
続きは 100万回のキスをしよう!9 で
車に乗った帰宅後のお話は?
がっくりした方には申し訳ありません。
お話を進めさせていただきました。
車で爆睡中になった後のお話が読みたいとご希望のかたは 短編 でお楽しみください。