第9話 杞憂なんかじゃないはずだ 6

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-From 1-

俺に背中を向けたままの牧野をそのまま抱きしめる。

「早く抱きてぇ」

回りくどい言い方は俺には似合わない。

単刀直入に今の思いを言葉にする。

「ちょっ・・・ちょっ、ストップ」

相変わらずの色気のねぇ返事が返ってきた。

「待たねぇ」

「でも・・・ほら・・・まだ明るいし・・・着いたばっかしだし・・・」

牧野は身体をくねらせ俺の腕を振りほどこうとやっきになり出した。

たいして意味のねぇ五択並べて最後の悪あがき始めやがった。

「さっき朝まで付き合うと言ったよな」

バタつかせる両手を絡め取り身体を拘束して耳元でつぶやき耳たぶに軽く歯をあてる。

今さらトランプとかウノとか徹夜でやるつもりなんて呆れたいい訳考えてるんなら速攻押し倒す。

ジタバタするんじゃねッと羽交い絞めにかかる。

「さっきは究極の選択で・・・」

「車の中で襲われるより朝までの方がいいかななんて・・・」

「ホントはどっちも選びたかった訳じゃ・・・な・・・い」

俺がムスッとしたのに気がついたのか牧野の言葉は尻切れトンボみたいになって歯切れが悪くなる。

珍しく素直だと俺をニンマリさせといて突然地獄に落とすいつものパターン。

思わずピキッと額に血管が浮かびそうになっていた。

究極の選択て・・・

そんな言い訳聞いたことがねッーーーーーー。

いつ俺がお前が襲った!?

それじゃあ、いつも俺が無理やり押し倒しているみてぇじゃないか。

確かにそんなこともあると完全形で否定できないのが俺の弱点だ。

でも・・・

最初はそうかもしれねえが、後はお前も納得済みで俺を迎え入れてるだろうがぁーーーー。

無理強いなんてしたことなんかねぇーーーーーーー。

ムッとしそうになる思いを必死で身体の奥に閉じ込めた。

ここで俺がキレたら本当に必死で押し倒すしかなくなる。

俺の選択肢なんて一つしかねえじゃねえか。

理性で押さえつけられている欲求を解放させて牧野をその気にさせる!

これしかない。

どうせ最後は俺に組みしかれる事になるんだからと心のうちで満足そうに高笑いをする。

牧野が逃げ出せない様に両手の腕に力を入れる。

ここまで来ても悪あがきを見せる牧野はどうしようもなく厄介なやつだが、そんな奴にどうしようもなく惚れている

自分が愛しくてたまらない。

好きだとか、愛してるとか、もう誰にも渡さないとか、離さないとか・・・。

そんな言葉じゃ、今の思いを表せ様がない。

どんなにこいつが愛しくて・・・

どんなにこいつのすべてを欲しているのか・・・

どんなに・・・どんなに・・・どんなに・・・・ 

押し込んでも押さえようがないくらいに・・・

こいつで思いはいっぱいになる。

自分の心の内の全てを込めて苦しいくらいに牧野を抱きしめた。

「俺、どうしようもなくお前が好きだ、今も、これからもずっと」

「抱きたくなる気持ちは押さえらんねぇ」

俺の言葉に反応を示すように牧野の身体から力が抜ける。

「どうして・・・そんなこと言えるのかな・・・ずるいよ」

牧野が俺の胸に顔をうずめるよう様に向きを変えた。

胸の間で響く牧野の震える様な声色に背中を押された気になった。

それが合図のように牧野を身体を両腕で抱きあげる。

「あっ」と軽く発した牧野は突然宙に浮いた不安定な身体を守る様に自分の腕を俺の首にまわしてきた。

ベットの上に下ろした牧野の身体を拘束するつもりで重みを華奢な横たわる身体に預ける。

動けるか動けないかのはざまに束縛して胸元の服は微妙にいやらしくはだけていく。

「手間のかかる奴」

牧野の顎に指を添える。

もう片方の指先は欲望のままに邪魔な布地を剥いで白い肌を直になぞる。

「素直じゃねぇんだから」

自分の方に向かせた牧野の唇にゆっくりと唇を重ねてた。

まだもの言いたげな唇の形をなにも言わせない様に吸い上げる。

微かに拒否する唇の中の言葉は俺の熱い吐息を同時に飲み込んで溶けて消えいく。

俺の指先に感じるすべての肌が柔らかくそこから放たれる熱に二人、理性が落ちるように抜け落ちる。

わずかに漏れていた「イヤ」とか「ダメ」の言葉は吐息となって甘く俺を求めてる。

牧野の両手が俺を求めるように彷徨いだした。

その手をしっかりと受け止めて握り締めると最後の高まりに向けて走り出していく。

わずかな時間も離れたくなくて・・・

愛しむように・・・

甘い音色を奏でたくて・・・

聞きたくて・・・

一つにつながってもそれ以上の高鳴りを求めて恋焦がれてしまう。

朝までじゃ、たんねぇかも・・・

そんな俺の思いを飲み込んで、時間だけが欲望と激高の激しさを飲み込んで流れていった。

-From 2-

俺の腕の中にとりこんだと思ったらもぞもぞと動いてガバッと起き上がって「ふ~~~ッ」と長い溜息つかれてしまってた。

情事のあとで愛しい女にため息つかれる男ってそんなにいねぇ!

と・・・

思うが、調べようがあるわけない。

総二郎らに聞いたら馬鹿笑いされそうだ。

こんな無神経なところも愛しいと思うのだからやっぱり狂っているとしか思えない。

どんな気分でため息ついたか聞くまでは放さない。

強引な気持ちのままベットから抜け出そうとする牧野の片腕を掴んで引き寄せる。

「な・・・なに?起きてたの?」

俺の胸元にスッポリと背中から収まった牧野の素肌を遠慮なく抱きしめる。

「ため息つくとこしっかり見た」

「ため息なんかついていた?」

「俺にため息つかれた様な気がしたんだけど」

「そんなつもりはない・・・と思う・・・自然とでたのか・・な?」

「キャッー」と小さく声を漏らす牧野を力ずくでシーツの上に仰向けた。

ツンととがったままの二つの頂に誘われる様に顔をうずめる。

「ど・ど・ど・み・・・ょじ・・・」

慌てたようにどもりだす。

俺を呼ぶ声も音符つきの音程にしか聞こえない。

ドドドミの次に音程足せばなんかの歌が出来そうだ。

「今、終わったばかりだよね?」

どもりが早口に変わった。

「だから、なんだ?」

俺は全然余裕で回復してるんだけど、こいつは全然気がついてない。

「ムリだって」

頭を上げた視線の下で牧野がボヤキ気味につぶやく。

「ため息ついた罰だ」

唇が触れそうな距離でつぶやく。

「道明寺の事考えていた訳じゃないから、離して」

哀願するような牧野の態度に押さえつけていた腕を解放する。

上半身はお互いの素肌を感じるままに触れ合ったまま互いの動きをけん制し合っている。

「それじゃあ、なんのため息だ」

「考え事してたから・・・」

言いにくそうに牧野の表情がゆがむ。

「怒らない?」

「場合による」

大体ベットの中にいて俺以外の事を考えている事態信じられない感性だ。

俺に抱かれている間も別な事考えていたなんて言ったら気が狂うぞ。

「いや・・・本当に朝まで付き合わなきゃいけないのかなとか。つかれるなとか・・・」

「明日バイトあるしなぁとか考えていたかな・・・」

「アハハハハハ・・・」

最後は笑いでごまかしている。

結局こいつ俺とのこと考えてため息ついていた訳だよな。

相変わらずややこしい言い方しやがる。

内心お前のため息が無性に気になって・・・

落ち込ませる様な事をしでかしたかと、ここに至るまでの経過を反復して・・・

て・・・

俺・・・

小心者になっている気がした。

こいつといるとテンション狂われっぱなしの気がしてならない。

このままじゃ終われない。

重苦しい気分から解放されてもう一度牧野の両手に指を絡め拘束し直す。

「ほどほどで我慢してやる」

「つかれさせねぇ自信はないけど・・・」

首筋にキスを落としながら「明日のバイトってなんだ?」と何気に聞いてみた。

「家・・・庭・・教師」

牧野の口元から漏れる単語に俺の愛撫の動きが止まる。

「あっ!」

思わず牧野の身体から身を離す。

ありえねッーーーーー。

気分は一瞬にして萎んで牧野をまじまじと見つめていた。

-From 3-

道明寺の驚きに私の方が仰天した。

「お前・・・家庭教師断ったんじゃねぇのかよ」

さっきの甘い囁きは一瞬にして凍ったようで、すごみを利かせた低音が返ってきた。

完全に怒り沸騰気味の道明寺に変化している。

「あっ、違う、全然違う」

慌てるように首を振る。

「今度は女の子で週末の昼間だし、夜じゃないし、前みたいな事はないと思うから」

「パパが取引先の人に頼まれて・・・断れなくて・・・」

「ダメかな?」

ベットの上に胡坐をかいて腕組みして道明寺が真っ直ぐ私を見つめていた。

「そいつに兄貴とかいねぇだろうな?」

「あ・・・あっ、そうか・・・」

道明寺がなにを心配してるか気がついてハッとする。

「家族構成までは知らなくて・・・」

消え入りそうな声で答えるしかなかった。

道明寺の眉が吊り上っているのが解かる。

今にも雷が落ちてきそうな雰囲気にかたくなる。

フワッと道明寺の両腕が私の体を包んで抱き寄せた。

「詰めが甘すぎ」

「うん」

「しっかり考えろ、あぶねえだろうが」

「ごめん」

「だからほっとけねぇ」

「明日終わったら迎えに行くから」

「悪いよ・・・大丈夫だから・・・」

「俺が心配で落ち着けねェだろうが」

有無を言わせない感じにギュと腕に力を入れられる。

二つの鼓動が一つになって・・・

重なりあって・・・

いっぱいいっぱいに愛しい想いに包まれる。

肌の重なりで伝わる温もりに素直に身体を預けた。

「さっきは俺達すげー格好だよな」

「ベットの上で胡坐いた俺と正座してたお前と向き合って、それも裸て、ありえねッ」

想像して思わず絶句する。

思わず見上げた視線の先で黒い瞳が細く閉じて悪戯っぽく笑っている。

「見てた?」

「あぁ、今も離れると丸見えだぞ」

クスッと笑って微かに空いた二人の胸元の空間に道明寺の視線が移っている。

慌てて道明寺の胸元に顔を押し付けた。

どっちにしても状況はたいして変わらないことなど考える思考は止まってしまってた。

「全部見た?」

「全部しっかり記憶した。お互い様だろう」

私見てない、気がつかなかった」

道明寺にどう説明するかで頭がいっぱいで服着てないことなんてすっかり忘れていた。

「もうヤダ!離せ!」

「今さら隠すな!」

押し倒されて・・・

抱きしめられて・・・

動けないぐらいに押し付けられた道明寺の身体の重みがこれ以上にない身体の密着度を作り出す。

「俺が明日お前を迎えに行くバイト代、先払いだ」

フッとやさしく笑って形を変えた唇は髪先に、額に、まぶたに、頬に流れるようにどこからともなくふりそそぐ。

甘く責める指先に負けそうになる気持ちを必死に押さえて道明寺の頭をギュっとつかむ。

引き寄せた耳元で「私、結構高いかもよ」とつぶやいた。

「一生付き合ってやる」

軽く触れた唇は幾度も重なり合って・・・

触れ合って、離れられなくなっていく。

深くなって・・・

つながりを求めてる様に・・・

彷徨う様に・・・

奪う様に・・・

慈しむように・・・

愛しむように・・・

すべての思いにのまれるように・・・

                                     続きは 杞憂なんかじゃないはずだ7 で

なんでまた家庭教師?

なんて思わないでくださると助かります(^_^;)

題名が杞憂ですからね♪