第9話 杞憂なんかじゃないはずだ 7

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-From 1-

無事に家庭教師先の家を出る。

今度は一人っ子の兄弟なしを確認してホッとした。

家庭教師先の玄関まで迎えに来ると言いだした道明寺を保護者同伴みたいなことは止めてくれと泣く勢いで頼んで止めさせた。

ただでさえ目立つ風貌なのにそれが普通の家の前の玄関でうろうろされたら迷惑この上ないと思う気持ちは内緒にした。

近くの待ち合わせの喫茶店まで急ぐ。

テーブルの上に片ひじ付いてその上に顎を乗せて不機嫌そうにカップの中にスプーン入れてグルグル回してる道明寺が窓の外から見えた。

「遅せッ」

不機嫌そのままの態度を私にとる。

「ごめん、でも今度は男の兄弟いなかったから」

急いで向かい合う様に椅子に腰を下ろす。

「ああ」

ぶっきらぼうに返事が返ってきた。

そんなに約束の時間に遅れたわけでもないのに遅いと怒られた。

家庭教師先にも心配の種は今のとこ見当たらないはずだ。

道明寺の不機嫌さの意味が解からず戸惑った。

今朝はあんなに機嫌が良かったはずなのに・・・

「なんでそんな機嫌悪いの?」

「5人」

「えっ?」

「お前待ってる間に俺に声かけてきた女の数」

「最初は彼女待ってるて断っていたけど、後から声かけてきた奴なんて彼女来ないねとか、自分に付き合えとかしつこくてたまんなかったぞ」

「最後はうるせーーーブスて怒鳴り散らした」

怒鳴られた相手はさぞ驚いたことだろうとほんのちょっと同情する。

これが西門さんあたりならスマートに喜んで対応するんだろうけど・・・

「怒鳴った後は静かになった」

道明寺の口調が少し柔らかくなった。

怒りのオーラー爆発させた状態じゃ誰も声なんてかけてこないだろう、私だって嫌だもんね。

しかし・・・

普通逆ナンされたこと彼女に不機嫌そうに報告する彼氏っているのだろうか?

ここに一人いるけど・・・

私の為だって解かりすぎることがうれしいが照れくさい。

道明寺の説明に思わず腕時計を見る。

約束の時間からまだ5分も経過していない。

数分の時間ではいくら人目を引くカッコ良さと言っても5人にコナかけられるなんて不可能だと思われる。

数十分は居たんじゃないかと頭の中ではじき出す。

「ねえ、いつからここにいたの?」

「・・・」

「待ちくたびれている感じだったし・・・」

「・・・」

「待ち合わせの時間からはそんな過ぎてないと思うけど」

「1時間」

道明寺がムスッと渋々に口を開く。

「えっ?」

「それ以上居た」

もしかして・・・

私の後を追ってきてた?

その直後からここにいたってところだろうか。

どう考えても時間を逆算するとその可能性が高い。

「私が出た後すぐに出たの?」

「ああ」

「お前の後を追っていた訳じゃねえからなッ」

道明寺は耳まで真っ赤になってカップの液体をすべてく飲み込む勢いで口に運ぶ。

バレバレだ。

道明寺の気持ちはうれしい様で照れくさくて自然に顔がほころんでくる。

「笑うな」

クスクス笑う私にしびれを切らしたようにキツイ目で睨まれた。

睨んだ目の奥がやさしくなっていることにすぐに気がつき無性におかしさがこみ上げる。

「全然怖くない」

そう言って笑う声は大きくなる。

「るっせ・・」

ツンと横を向いてすねる顔になった。

「子供みたい」

クスと笑って伸ばした指先でふくれた頬を突っついてみる。

「かわいくねっ」

私の指先をギュっと握りしめられた。

道明寺の口元が緩んでクスッと動く。

握り返す指先が絡み合って愛しくて・・・

見つめ返す瞳がやさしくて・・・

照れくさそうにクスクス二人笑いあっていた。

*

-From 2-

とんでもない悪ガキだった。

その正体に気がついたのは家庭教師をはじめて半月を過ぎたあたりからだった。

1回目の家庭教師。

何事もなくスムーズに終わる。

拍子抜けするほど単純に簡単に。

2回目の家庭教師。

彼氏がいるかと質問される。

一応一人いると答えて勉強に戻った。

まあこれくらいの年齢なら異性の事に興味があっても当たり前だと需要出来る範囲ではある。

3日目の家庭教師。

彼氏はどんな人かと興味深深聞かれた。

顔は?性格は?付き合う気かけは?etc・・・etc・・・

人目を引くカッコ良さ!スタイルもモデル並み均等がとれている!

凶暴・・・でも私にはやさしい!

きっかけなんて私が殴ったから!

なんて言えるわけない。

普通、それなり、何となくと答える。

うんざりだった。

誤魔化しながら勉強に戻ろうとする私の努力なんて無視され続けた。

4回目の家庭教師。

今日はまともに勉強できるのかと気が重い。

部屋入ってすぐに私を見つめて田崎京香は悪戯っぽくにっこりとほほ笑む。

ギクッとなって身がまえた。

「先生の彼氏ってうまい?」

「うまいって?」

質問の意味が解からずキョトンとした顔になる。

「セックス」

食べ物の感想でも聞いてきた軽いノリ。

どこのラーメン屋がおいしいとか・・・

スウィーツのお勧めはとか・・・

そんな話ならノッて楽しくおしゃべり出来るのだが、問われた問題は規格外れで戸惑って・・・

「セッ・・・えっ!」

叫んで、聞かれた意味を理解して、耳の先まで真っ赤になって完全に崩壊した。

私の状態を見てクスッと笑った田崎京香に完全に主導権を奪われる。

「もしかして・・・今の彼氏が初めてとか・・・」

答えられずに口をパクパク酸欠状態になりそうだった。

「先生真面目そうだもんね」

高校時代からそんな暇あるかぁぁぁーーーー

付き合った彼氏も道明寺だけだと言ったら大笑いされそうな雰囲気だ。

「だったら比べられないか」

「経験少なそうだし・・・」

小馬鹿にされた様な態度にムッとした。

「だったらなに?文句ある」

比べるって・・・

比べるって!

なにを比べるんだーーーーーー。

どう比べるのか予想もつかない。

私もあいつも満足すればそれでいいのではないのか・・・と思う。

幸せだし、うれしいし、満足だし。感じてるし・・・

ゆで上がりそうな気分を頭を振って追い出した。

経験が多とか少ないとかの問題じゃないと胸を張る。

道明寺以外とあんな事出来る筈ないし、考えたくもない。

「先生・・・私がお教えてあげようか?」

「必要ない!」

今日の予定の教科書のページを開いてバンと机の上に叩きつける。

結局勉強に集中なんて出来なかった。

5回目の家庭教師。

1か月まともに家庭教師が続くのなんて初めてですと親に頭を下げられ、週末家に娘がいるのも奇跡なんですと泣かれて拝まれた。

どうやら私で10人目の家庭教師と聞かされてガクッとなった。

もうこの子の家庭教師はムリ!

家庭教師自体のバイトも絶対やらない!

と決めたのにッーーーーーー

ここに来て親に拝み倒されるとは思わなかった。

「真面目に勉強してくれれば・・・もう少し頑張ってみます」と言って2階の部屋を目指す。

ドアを気の重いまま「トントン」とノックする。

反応なし。

そっと開けたドアの先、いる筈の住人の姿か見つからない。

そこから抜け出したように窓が開けっぱなしでカーテンが風に吹かれて揺れていた。

「あの・・・いないみたいですけど・・・」

遠慮がちに1階の居間にそっと顔を出す。

「またか・・・」

がっくりと肩を落とす中高年夫妻。

見たくない姿だ。

「私・・・必要ないみたいんなんで・・・これで最後ってことで・・・」

返事を待たずに数歩後ずさりして踵を返して玄関に直行した。

家を出た歩道の前でホッと胸をなでおろす。

「今日、早いじゃん」

見慣れたクルクルパーマが目の前で一瞬ギョッとなって照れたように笑っていた。

「なんでここにいるの?」

人目を避けるように道明寺を歩道の脇に引っ張って身をひそめる。

「あぶなくねぇ様にガードしてやってたんだ」

不機嫌そうに道明寺顔をゆがめる。

「えっ?」

「お前がこの家に入るの確かめて、それから時間つぶして待ち合わせ場所に行っていた」

気まり悪そうな表情になって口をとがらせる。

「もしかして毎週?」

「ああ・・・」

照れ隠しにぼやいてる道明寺が子供っぽくてかわいくてくすぐったいような想いが私を包む。

思わず「クス」と笑っていた。

「ストーカーじゃん」

「るっせっ」

「暇だねぇッ」

「暇じゃあねッ」

「バカじゃない」

「バカじゃねえッ」

「でも・・・嫌いじゃない」

「エッ?・・・」

私がなに言ったか理解できない呆けた顔が目の前に転がった。

「ありがとう」

背伸びしてふくれっつらの頬に唇をチュッとくつけた。

「出来れば、ここがいい」

緩んだ顔ごと道明寺が唇を付きだす。

「調子に乗るな」

道明寺の腕が動き出す前に身体を離す。

「今日はいっぱいデートしよう」

こぼれる様な笑顔になって道明寺の腕をとって新緑の明るい日差しの中を歩き出していた。

                                       続きは 杞憂なんかじゃないはずだ 8 

いろいろ考えて、今回は女子高生にちょっかいだしてもらいました。

この後の展開は?