第1話 100万回のキスをしよう!10

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-From 1-

「キャー!つくしちゃんいいな~」

ため息ついて羨望のまなざしがところどころから集中している異次元空間が一つ。

「でも、つくしちゃんバタバタしてない?」

「嫌がってる?」

「嘘でしょう!」

「私なら自分から抱きつくのに~」

「ヤダーッ」

黄色い声を上げながらも真面目に分析してるあたり、テレビドラマでも見ている気分なのだろうかと松岡公平は思う。

「あれ、いつもの事だから」

自分たちのおしゃべりに夢中な様子の女性陣に後ろから声をかけた。

同じグループの女性メンバーに数人の女子が混ざっている。

皆顔見知りの司法修習生たちだ。

「えっ?そうなの?」

「どうして?」

「なに?」

「教えて松岡君」

目を輝きだした女性陣に囲まれ思わず公平はたじろぐ。

「大学時代からあんな感じ」

「急に道明寺さんに抱きつかれてつくしが嫌がるパフォーマンス」

「パフォーマンスなの?」

公平の言葉に安心したような笑いが上がる。

「つくしは人前で抱きつかれるの嫌みたいでさ」

「拉致される~なんて叫んだまま車に乗せられた事もあったぞ」

「周りは二人が付き合ってる事知っていたから黙って見てるだけだけで結構楽しんでいたよ」

恒例みたいな、じゃれあいみたいな、真面目に受け取るとバカを見るみたい感じかなと公平は付け加えた。

「さすがに今日は大人しい方だ」

しっかり道明寺に肩抱かれて車に乗り込むつくしを見つめながら公平はクスリと笑う。

「もしかして・・・松岡君つくしちゃんの事好きだった?」

遠慮がちに一人の女性が公平に聞いてきた。

「解かる?」

食事する?そんな軽いノリで答えた公平に質問をぶつけた方が焦った表情を作る。

「なんとなくそんな気がしてた」

「つくしは全然気がついてないけどね」

「今でも好きなんだけどな」

ため息交じりに公平がつぶやく。

「いいの?そんなこと私たちに言って?」

「隠すよりも宣言してた方が嘘っぽくて重くないだろう」

「それでいいんだ松岡君」

公平からは悲壮感なんて全くない感じられないことで軽いノリで女子が聞き返す。

「まあね」

「告白するつもりがあれば大学時代にしてるよ」

公平の口元にやさしい笑いが浮かぶ。

知り合った大学時代、あいつの傍にはいつも道明寺がいて・・

あいつは道明寺しか見てなくて・・・

バカとか自己中とか愚痴っているのも好きだと言っているようにしか聞こえなくて・・・

俺なんか入り込める隙間なんて見つけられなかった。

大学で抱きつかれて嫌がるそぶりしていても

穏やかに・・・

幸せそうに・・・

愛しそうに・・・

見つめる先にいつも道明寺がいた事知っていたから。

諦めた。

秘めた思いは昇華してあいつの幸せだけを願っている。

「松岡君いい男だね」

「だろう?」

「私に彼氏いなければ立候補するんだけど」

「ゲーーッ遠慮します」

ゲラゲラ上がった笑い声が突然ピッタと止まった。

「キャー嘘ッー」

悲鳴じみた声にドキッと公平の心音が上がる。

公平の視線の先で睨みつけるように絡み合う視線を向けた司が立っていた。

 

-From 2-

「なあ、あそこで女に囲まれている奴だろ?この前お前を送ってくれた奴?」

つくしを車の後部座席に座らせて俺が乗り込む寸前で痛いくらいに俺に向けられる視線に気がついた。

「えっ?公平の事?」

俺の脇の下から顔を出す感じにつくしが俺の視線の先を目で追いかける。

俺は道明寺で、なんであいつが公平なんだ。

名前で呼ぶんじゃねえッ。

つくしは照れくさがって未だに俺を呼ぶのは道明寺だ。

司と呼ばれたのってかぞえるほどしかねェぞッーーーー。

公平と呼び捨てで呼ぶつくしにムッとする。

「あっそうそう、よくわかったね。あの横にいる女の子二人も一緒に修習受けてるんだ」

相変わらず俺の気分が傾いていることには全く気がつかない鈍感女はにっこりほほ笑んで見せる。

つくしのグループのメンバーは写真付きで西田に報告受けている。

無難な無害の連中をグループのメンバに選んだと言いながらその中に松岡公平がいた事に俺は納得していなかった。

つくしと法学部の同期で、学生時代から比較的仲の良かったなんて聞かされて、そうかと喜んで大人しくできるほど俺は人間出来ちゃいねっーーーーーーー

今まで聞いたことも見た事もない男の存在にドロドロとした感情が流れ出す。

坊ちゃんの感情なんて論外ですとでも言う様に「いろいろ手助けしてくれるのではないかと思いまして同じグループにさせました」なんてあの冷血漢は言いやがった。

あの時は西田に任せることしか手立てがなかったから変な手助けされたらどうなると言う不安も堪えた。

週末帰ってきたつくしはあいつに送ってもらったとか、自分の事知っている人が側にいると頼りになるとか無駄口をたたく。

俺以外の男と二人車の密室で過ごした時間は気にくわない。

間違いでもあったらどうする。

相変わらずの無防備は健在のままだ。

俺以外の男を頼りになるとうれしそうに話す無神経さも腹が立つ。

お前は俺だけを頼ってりゃいいんだと叫びそうになっていた。

実際に松岡公平を見てうれしそうにほほ笑むあいつに今までの不満が一気に頭をもたげてきた。

「お前のお気に入りの公平君に挨拶しとかないとな」

いつもより低い声は俺の不機嫌さを暴露して目の前のつくしが不安そうな顔で固まった。

「挨拶なんていい!早く帰ろう!」

車の中に引き入れようとつくしが俺の腕を必死に引っ張る。

「大人げねえ事はしない」

俺の腕を掴んでいた細い腕を力任せに剥がす。

「里井、この辺しばらくつくし乗せてドライブしとけ」

運転手の里井が無言でうなずく。

「な・な・・・なにする気、公平になんかしたら許さないからねッ」

動揺から怒に変わったつくしが凄んだ目で俺を睨む。

「挨拶するだけだ」

憮然と答えて「もしお前が顔出したらそんときはあいつぶっ飛ばすからな」と付け足して車のドアをバンと閉めた。

走り去る車にクルリと背を向けゆっくり歩き出す。

「つくしは全然気がついてないけどね」

「今でも好きなんだけどな」

聞こえてきた話声に足が止まって固まった。

聞き間違えじゃないよな?

やっぱこいつ、つくしに気があるんじゃねえっかぁーーーー。

手を出す気じゃねえだろうなッ。

あいつは俺のもんだーッ。

ムカムカ、フツフツ、ドカドカ、バンバン、

どんな副詞をくっつけても表現できない気分に支配される。

目的の数歩手前で「キャー」と悲鳴が上がる。

そんなのは無視で松岡公平だけをじっと睨んでいた。

「道明寺さんですね。初めまして」

俺の目の前に右手を出して松岡が俺に握手を求める。

目の前で両手をスラックスのポケットに突込んで無視してた。

「話あるんだけど、付き合え」

凄むように言っていた。

緊迫感の張り付いた様な空気の冷え込みに女たちの黄色聞こえがピタッと止まる。

「私たちお邪魔でしょうから」

ありの子を散らすように外野の奴らは俺達二人から遠ざかる。

「別にかまいませんよ」

俺の怒りをいなすように余裕の表情で見つめ返す松岡公平の口元が軽く緩められた。

 

-From 2-

落ち着き払った態度にムカついた。

だが・・・

すぐに殴りかかるほどガキじゃない。

大人になったもんだと少し長めに息を吐く。

「つくしを助けてくれてるみたいで礼を言う」

全然気持ちのこもっていない威圧的な態度は崩しようもなかった。

つくしに大人の対応するだけと言った手前の最低の礼儀と礼を言った。

こんな奴に礼をいう必要なんてないと思ってる俺の考えは一目瞭然だけどな。

仕事ではあれだけ自分の感情を押し殺すことに慣れているのはずなのに、つくしの事となると未だにダメで・・・

ここで自分の気持ち隠せるほど大人になりきれない。

理性より感情が優先されていく感覚。

俺らしくていいじゃないか。

「べつに礼を言われる様な事はしてませんよ。友達としてしてあたり前のことしただけです」

鼻で笑われた様な気がした。

友達なんて思ってねぇだろうが。

好きだって言ってたよな、さっき。

プッンと頭の中で一本切れる。

「友達か・・・便利だよなッ」

「好きなんだろう、つくしの事」

自分でもヤバイと思うくらいに冷気を帯びた冷たさで言葉を吐く。

「もしかして・・・さっきの会話、聞こえてました?」

表情も変えないままの松岡公平に理性の免罪符がはがれかかる。

「今さらつくし・・・つくしさんに告白しようとかどうかしようなんて思ってませんから」

こいつまでつくしを呼び捨てかよ。

プッツン、プッツン頭の中で音がした。

「当り前だッ」

胸ぐら掴んで詰め寄った俺に倒されもせず松岡公平は両足を踏ん張る感じに耐えている。

「俺・・・あなたを・・・好きな・つ・・くしが・・・気にいって・・る・んです」

息苦しさから逃れるように詰まりながら言葉を吐く松岡公平は必死の形相に変わっていた。

澄ました顔が崩してやったと気がはれるが・・・

今聞いた言葉の意味を考えあぐねていた。

こいつ・・・

俺の事すきなわけじゃねよな・・・

違う意味でやばくねえよな?

松岡公平の言葉に掴んでいたシャツの握力が緩む。

俺の手から外れた首筋を右手でさすりながら松岡公平は言葉を続ける。

「大学の頃から彼氏のこと話すつくしは何とも言えない表情するんです」

「穏やかで、暖かくって、やさしくて、愛しいそうに・・・」

俺の知らないところで・・・

見えないところで・・・

俺が大好きみたいな表情を見せていたなんて照れくさい。

かわいいじゃねぇかとニンマリなった。

だが・・・

そんな顔俺以外に見せんじゃねッーーーー。

「いつの間にか彼女から目が離せなくて、好きだと思ったんです」

「彼女にこんな表情させる男が羨ましくて、妬ましかった」

ほらみてみろ!

だからこんなことになる。

簡単に・・・

何気なく・・・

その気もなしに・・・

無防備に・・・

男ひっかけてくるんじゃねッーーーーーーー。

結局こいつもつくしの好きなんじゃねぇかぁ

俺以外の男の告白なんて聞きたくねッ

「勘違いしないでください、あなたの変わりに自分がなれるなんて思ってませんから」

当り前だ。

俺以外に俺の変わりが務まるなんてありえるはずかない。

「今の関係を崩したくないだけの付き合い許してもらえせんか」

それ・・・

交際認めてくださいのニアンスじゃねぇか?

頑固おやじにされた気分になっていた。

「イテッ!」

いつの間に近づいてきたのかつくしに耳たぶ引っ張られ、身体が斜めに傾いた。

「誰と友達だろうが道明寺に許可もらう必要ないと思うんだけど」

その耳元で強めた口調に怒が混じった音が唸りを上げて襲ってきてた。

                                      続きは 100万回のキスをしよう!11 で

つくしもバトル加わって~

公平&つくし VS 司 というのはどうでしょう?

ダメですか?

ダメかな・・・・