第9話 杞憂なんかじゃないはずだ 8
*-From 1-
デートして・・・
デートして・・・
デートした。
極上の時間。
手をつないで・・・
腕を組んで・・・
肩を抱いて・・・
並んで歩いた代わり映えのない街並み。
交差点の赤信号で何気なくキスしようとしたらぶんなぐられた。
相変わらずの反応。
今さら照れるなと言ってみたが無理なのは無理と逃げられた。
バカを言って・・・
愚痴言って・・・
じゃれあって・・・
文句言って・・・
追いかけて・・・
・・・そして・・・また・・・肩を抱く。
今日は庶民デートとだって言って、うかれる牧野に連れ回される。
ショッピングなんて言ってもなにも買わずに見てるだけ。
買ってやると言ってもいちいち理由をつけて買わせないのは学習済み。
欲しいものなんてないなんて強がってジーッと物欲しそうに見ていたバック。
・・・・しっかり記憶した。
昼食を済ませ向かった先はゲームセンター。
ぬいぐるみのいっぱい詰まったゲーム機に夢中になった。
「UFOキャッチャーだよ」と俺に牧野が説明する。
クレーンで取るだけの単純なゲーム。
楽勝だと思ったが・・・
挿んで取れたと思ったら、途中で揺れてポロっと落ちる。
お前と一緒だ、全く思い通りになりはしないとイラッとさせられる。
牧野は小さなぬいぐるみを目の前でブラブラさせて全然とれない俺に1発でとれたと自慢げだ。
まったく頭にくるその態度。
俺が負けず嫌いだと知ってるだろうがぁぁぁぁぁ。
それもお前に負けるなんてプライドが許さない。
抱きかかえる大きさのぬいぐるみ取ってやるッ
硬貨を積み重ねて機械の前をぶんどった。
何度も失敗する俺の横で「もう少し右、横、下」て、指示出すなッ。
ようやく取れた白いウサギのぬいぐるみ。
「ぬいぐるみ買った方が安い」「もったいない」を繰り返された。
「ありがとう」の言葉を忘れたように愚痴られる。
かわいくねッーーー
言葉とは裏腹に大事そうにウサギを抱きしめるうれしそうな横顔。
さっきの言葉を取り消して、ぬいぐるみと変わりてぇーーーーーーッ。
牧野に知れれば逃げられそうな事を考えながら、牧野が取った小さいやつよりでかいぬいぐるみが取れた事で俺は満足する。
夕方近く珍しく総二郎からの携帯音が鳴った。
「なにしてる?」
「デート中、邪魔するな」
「どこにいる?」
「外」
俺、振られたから慰めて、て・・・泣きつく相手が違うだろうがーーー。
「今日は牧野と庶民デート楽しんでるからお前はダメ」
返事も聞かずに携帯をきる。
ポケットに携帯を押し込む最中に牧野の携帯が鳴りだした。
「西門さんだ」
牧野の声に天を仰いで手のひらで両目を覆った。
俺がダメなら牧野かよッ。
牧野が断れるはずはねぇ。
悪知恵だけは働きやがる。
数分後携帯をきった後になぜかF4全員集合でお食事会のお約束が出来あがっていた。
総二郎だけでも邪魔なのになんなんだ!この展開ッーーーー
一気に不機嫌になる。
「いつも連れて行ってもらってるような高そうな店じゃなく、みんなが行く様な安い店に行ってみたいんだって」
やけに牧野はうれしそうだ。
「そんなのがいいのかよ」
「普通の店って完璧に仕切られた個室なんてないんだよ」
「居酒屋みたいなところでF4がそろってジョッキで乾杯なんて・・・レアだよレア」
「俺ら見せものかよ」
「いつも注目浴びてるから慣れてるでしょう」
クスッと笑って牧野が腕をそっと俺の腕に絡める。
知っているのかいないのか・・・
それだけの事で俺の不機嫌さは半減する。
「で・・・どこに行くんだ?」
「西門さんが知ってるところあるって教えてくれた」
クスクスうれしそうに笑いだす牧野を見て仕方ないと苦笑しながら二人並んで目的の店に向かって歩いてた。
-From 2-
「ヘイ!いらっしゃい!」
入り口のドアを開けたとたん威勢のいい掛け声が御店中から湧きあがる。
「な・・・なんだ」
物を投げられたかのように身構える道明寺がおかしくてクスクスと笑い声を上げていた。
いつも目立たない様に人目を気にしない静かな個室に通されることに慣れている道明寺にとって、この歓迎ぶりに驚きは隠せないらしい。
ざわざわとざわめく話声。
ところどころで重なり合うグラスの乾杯の音。
数人がけのテーブルはほとんど埋め尽くされている。
「こっち」
店の片隅の座敷の合間からひょっこり西門さんが顔を出す。
「さっきからジロジロ見られて落ち着かない」
雑誌から抜け出たようなモデル並みの色男3人が畳の上に邪魔そうな長い脚を折り曲げて座ってる。
それもみんな正座して座ってるなんて行儀がよすぎだ。
こんな大衆居酒屋にこの人たちがいるだけで、その空間だけ洗練されて高級な感じに見えてくるのだからたいしたものだ。
用事もなさそうなのに部屋の前を行き来する女性の数も一人二人ではない。
私の後ろをすれ違いながら『なに?この女?』的、視線を向けられた。
慣れてます。
慣れてます。
この感じ!高校の時からねッ!
上座には美作さん。
西門さんと花沢類と向かい合う形で道明寺と並んで座った。
「西門さんよくこんな店知ってたね?」
「俺も来たの初めて、牧野に携帯かけていた時に若い女の子がこの店に行っていくところが見えたからここにした」
「その女の子かわいかったの?」
「それじゃあ俺が見境ないみたいじゃないか」
「純粋に牧野が行きそうな店かなと思っただけだ」
機嫌よく会話を続ける私の横で道明寺は不満そうに眉をひそめてる。
「・・・司・・・機嫌悪いの?」
何気ない感じの花沢類の問いにも「当り前だ」と不機嫌に道明寺が答える。
「折角のデートの邪魔されたんだもんな総二郎に」
対照的な機嫌のよさで美作さんが喋る。
「お前達もだろうがぁ」
青筋が道明寺の額に浮かびだしていた。
「お前だけにいつも牧野を一人占めされたんじゃなぁ」
「「面白くねっーーー」」
相変わらずのお祭りコンビの対応に「ハーッ」と、ため息をついていた。
場の雰囲気を変える必要性に気が重い。
暗雲立ちこめているのは道明寺の頭の上だけで、周りはそれで遊んでいるのがミエミエなのも癪に障る。
「ねっ、折角だから食べようよ」
「まだ何も頼んでないの?」
テーブルの上は御手ふきと付け出しの小鉢がぽつんと置いてあるだけだ。
「どれが食えるかわかんねーし」
「あのね、居酒屋に食べられないものが置いてある訳ないでしょう」
「もう、私が勝手に決めるからね」
店員を呼んで手当たり次第に頼んでやった。
ついでにアルコールも日ごろ飲んだことがないであろう物をわざと物色する。
美作さんは梅酎ハイ。
西門さんは酎ハイ緑茶割。
花沢類はカルピス酎ハイ。
道明寺は巨峰酎ハイ。
目の前に並んだ色とりどりの液体の入ったジョッキを見つめてこんなの飲むのかと悲壮感が浮かんだ顔にゲラゲラ
一人笑い声を上げていた。
意を決したように道明寺がゴクンと最初に口を付ける。
てめえらも飲めと睨みつけれて3人も鼻をつまむ感じに飲み込んだ。
「まずくはない」とは花沢類。
「酒じゃねッー」と美作さん。
「お茶が泣くーーー」と西門さんからはお酒の感想はブッ飛んでしまっていた。
みんなのそれらしい反応に納得しながら面白くてしょうがなかった。
花沢類が焼き鳥の竹グシもってほおばって・・・
美作さんが上げ出し豆腐突ッ付いて・・・
西門さんが餃子を口に運んでいて・・・
道明寺はたくあんを口に投げ込んだ。
一人だけアルコールも入ってないのにテンションが上がりっぱなしだ。
滅多にないレアな瞬間に完璧に舞い上がっていた。
-From 3-
「司、いい加減、機嫌直せ」
直る訳ない。
午前中から牧野と一緒にいるなんて久しぶりで楽しんでいたところを横取りされたようなもんだ。
俺がふてくされようが、暴れようが全部こいつらのせいだ。
さっきからテンション高めに騒いでる牧野も気にくわない。
一緒になって楽しめるかぁーーーーッ。
「牧野が食べてんのなに?」
「あっ、これ?つくね」
「肉だんごみたいなやつ、食べてみる?」
類は最初からうまそうに何でも食っている。
まずくはないと言いながら。
牧野が自分が一つ食べた残りの竹グシを渡してた。
「類!食べるな!」
「なんで?」
「それ、さっき牧野が口付けたやつだぞ」
間接キッスになるじゃねぇーか。
「別なの食え」
無理やり類から竹グシをうばいとる。
そしてその団子の塊みたいなやつを全部、口にほおばった。
自慢じゃないがこんな行儀の悪い食べ方なんてしたことない。
「・・・司、ガキじゃねぇんだから間接キッスもダメなんて言うなよ」
口の中に入れ過ぎてむせかえる俺を見てあきらがゲラゲラ笑いだす。
ダメに決まってるだろうと睨んでやった。
「牧野、あんまり司を甘やかすとダメだぞ」
「そのうち俺らとも口きくな~なんて束縛されるぞ」
総二郎が牧野に耳打ちするように顔を近づける。
聞こえてんだよ!
「今からそうしてもいいぞ」
総二郎から遠ざけるように牧野の腕を引っ張って自分の胸の中へ囲い込んだ。
「こんなとこでわがまま言わないでよね」
牧野から肘鉄くわされた。
「怒られてやがんの」
総二郎がニヤついて笑いだす。
「帰るぞ」
完全に遊ばれて、笑われて、機嫌の直る要素は全くなし。
怒鳴り出すまでのゴールが見え隠れする。
「えっ、今、食べ始めたばかりだよ」
飲みたいものはないし、食欲そそるものはない。
別な意味でのそそられるものはあるけどな。
ここで言ったら肘鉄だけでは済まない事は分かっている。
「こいつらに付き合う義理はねっ」
「ヤダ、帰るんだったら一人で帰れば」
「みんなと居酒屋なんて二度とないかもしれないし、楽しいし、おいしいし」
こいつ本気で言ってんじゃねぇよな?
俺とこいつらとどっちが大事なんだ!
バカらしい疑問が頭の中にプカリと浮かぶ。
今の状況だと、こいつらといる方が楽しいと言われそうだ。
「グダグダ言うな」
無理やりつくしを引っ張り上げるように同時に立ち上がる。
「ヤダ」
「ウルセッ」
俺の腕から逃れようとする牧野を無理やりに拘束して胸の中へ押し込めた。
「さっきから目立ってギャラリー増えてるみたいだから場所を変える必要はあるんじゃない?」
類の言葉に促さされるように、周りを見渡すと視線が合った女から「ギャー」とか「F4だー」なんて声が一斉に上がってた。
「まずいな」
「確かに」
「落ち着かない」
これ以上ここにいたら騒ぎが起こりそうな雰囲気だ。
「別なところで飲み直そう」
「いいよな、牧野」
さすがの状況にいつの間にか牧野も俺の傍で大人しくなっていた。
「うん」
牧野が動揺したまま頷いて俺のジャケットの裾をギュっと握りしめている。
「俺達は先に出るから後は頼むぞ」
後の事はこいつらに押し付けて出てしまえばこっちのもの。
そのまま牧野と消えてやる!
こいつらの返事を待たずに牧野の肩を抱いて入り口に向かう。
「司、そのまま二人で逃げんなよ」
総二郎の声が背中から追いかける。
「分かんねぇーーーーっ」
振り向いてニヤリと笑って歩幅を速めて外に出た。
続きは 杞憂なんかじゃないはずだ 9 で
居酒屋にF4集結したらどうなるのか?
書きたいことはいっぱいありますがお話が進まないのでこの辺でお許しを~
全員揃ったその後は・・・・
なにが起きる?
トラブル勃発の気配は?
今のところ・・・・解かりません(^_^;)