第1話 100万回のキスをしよう!11

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-From 1-

「顔を出したらあいつをぶっ飛ばすって言ってたよな」

必要以上に凄んでみる。

「そんなことしたら許さないからね」

やれるもんならやってみろと強気な瞳で睨まれた。

「お前にゆるしてもらう必要ないし」

火花散らす感じににらみ合う。

「公平を殴る必要もどこにもないと思うけど」

「俺が気にくわないなんて子供じみた事は言わないでよ」

先手を打たれて次の言葉を飲み込んだ。

押され気味の自分に言葉を失う。

どうしてこうなる?

俺が対立したいのはお前じゃない。

お前に色目使ってるこいつだろうがぁ。

・・・そう・・・言えたら・・どれだけ楽か・・・

つくしが松岡公平の気持ちに気がついてないのはうすうす分かる。

知っていれば相手の事を考え過ぎて・・・

悩んで・・・

自分追い込んで・・・

一緒にいることなんてできなくなるだろうから。

俺から教える必要はない。

そんな力のこもった目で睨むな、潤んだ目で俺を見つめる方がよっぽど効果的だぞ。

心の隅に少し生まれた余裕が俺を楽にする。

「お前の側に俺以外の男がいるのが気にくわないのはいつもの事だろうが」

「慣れろ」

「だからって、公平を脅すのは止めてよね。本当に助けられてるんだから」

呆れたように顔をしかめられた。

「公平、ごめん、気にしないで」

他人に気を使うよりまずは俺じゃないのかと舌打ちする。

相変わらずの鈍感さに怒りもため息に変わる。

そんなお前の態度がいけないんだと、いつになったら気がつくのか・・・

俺の前で他の男の名前を呼ぶな!

喋るな!

かばうな!

誉めるな!

目を向けるな!

全然わかっちゃいねぇーーーーッ。

バカ女。

それでも・・

かなり・・・

愛してる。

片手で胸元につくしを引き寄せる。

「暴れたら本気で喧嘩始めるぞ」

脅しで言った言葉につくしの動きがピタッと止まった。

こんな感情が芽生えたのはいつからだろうか?

きっとこいつと知り合ってすぐだ。

つくしを全部自分のものにしたくて、欲しくて、離したくなくって・・・

誰にも触られたくなくって・・・

いつしか想いは大きくなって・・・

願いは強くなって・・・

そして・・・

ようやく手に入れた俺の極上の幸せを生み出す天使。

素直じゃないのが難点だけどな。

「必要以上にこいつに近づくな、絶対触るな」

振り向いた先の松岡修平を睨みつけるように言い放つ。

つくしは俺のもんだと見せつけるために抱きしめて離さない。

「すげー、番犬飼ってるな」

「番犬だって」

からかうような松岡の声につくしがクスッと反応する。

「お前に近づいたらかみ殺すと教えとけ」

「マジで?」

「ああ」

「本気?」

「当り前だ」

「友達なくすよ」

「その方がいい」

照れるように笑うつくしの頬にそっと手を添えてまだなにか言いたそうな唇を塞ぐ。

「こんなとこで発情するな!」

完全!不意打ち!久しぶり!

つくしのパンチの直撃を腹部にうけた。

公衆の面前で膝をつかない様になんとか踏ん張る。

せっかく仲のよさをアピールしているのにここで倒れたらどうなる?

道明寺司!新妻に殴られるなんて見出しだけはごめんだ。

「クソッ」

ギャーと車に走り込むつくしを追いかけ後部席に押し倒すように乗り込んだ。

呆然と見つめるいくつもの表情を置き去りに二人を乗せた車は静かに走り出していた。

 

-From 2-

道明寺に押し倒されたままの恰好の後部座席。

そんなこと無関係に車が走り出す。

まったく振動の感じないのはさすがは高級外車。

普通の車だったらこんな格好では乗りきれないし、車が走り出した振動で座席からゴトッと落ちて後頭部を打ちつけてる事だろう。

道明寺の長い脚は座席の下にはみ出しているみたいだけど・・・。

道明寺の上半身だけはしっかり私の身体を抑え込んでいる。

「あのさ・・・重いんだけど」

「今なら抵抗ができねぇだろう?」

「じょ・・・冗談は止めてよねッ」

スカートの裾から滑りこんできた指先に焦った表情になっていた。

こんなところで何か始められたら絶対いやだ!

完全に警戒警報なり出して、反撃態勢始動開始と全身に力を送り込む。

私の反応を楽しむように指先がゆっくり動いてそして止まる。

思わず声を出しそうになって慌てて唇をかんだ。

「プッハハハハ」

私から身体を離して座席に座りなおしながら道明寺が大声で笑いだす。

拍子抜けしてた・・・

「期待してたか?」

うれしそうに道明寺がニヤッとする。

「バカ・・・」

小さい声で言ってバタバタと起き上がると乱れたスカートの裾を慌てて直した。

「変な顔」

「すげ~真っ赤」

「なにもしねぇよ。時間はたっぷりあるんだし」

表情を崩した道明寺の瞳の奥がやさしく色づいて私を見つめる。

子犬がお預けさせられても、それでも必死で待ってる・・・

そんな表情見つけたらキュッと胸をつかまれた。

「あっ、あのさ、今日は迎えありがとう」

自分の気持ちが悟られない様に誤魔化す。

「なんだ、突然」

「文句を言われるなら解かるけど」

意外そうな顔でクスッと笑われた。

「公平にとった道明寺の行動は怒っているんだからね」

公平はあんな奴だから笑って許してくれるだろうけど、いろいろからかってくるに違いない。

道明寺の見境ない行動に私は振りまわれっぱなしだ。

が・・・。

それが道明寺の真っ直ぐな愛情で・・・

本能みたいなもんで守られて・・・

抱きしめられて・・・

うれしくて・・・

愛しくて・・・

恋しくて・・・

幸せで・・・

感化されてきてると自覚する。

自己中、強引、傲慢、わがままでバカだけど・・・

それでも・・・

かなり・・・

愛してる。

「・・・迎えに来てくれたのは正直うれしかったから・・・ありがとう・・・」

道明寺の右手が私の頭を自分の肩の上に置くように動く。

「・・・たっく・・・」

「だから・・・俺の前で、俺以外の男の名前を呼ぶな。気分が悪くなる」

ありがとうとか・・・

うれしいとか・・・

好きだとか・・・

愛してるとか・・・

そんな言葉以外は聞きたくはないって耳元でささやかれた。

「それじゃあ、会話が続かないよ」

「会話なんていらないだろう・・・」

「今は・・・」

「もう不意打ちのパンチはなしだからな」

わずかに笑みを浮かべた私のあごのラインを道明寺の指先がそっと持ち上げる。

寄せてくる唇を拒む事なんて出来きなくて、素直にそれを受け入れていた。

 

-From 3-

「勝手に抜けられては困ります」

屋敷に着くと表情を崩さずに困ったと責められた。

そのどこが困ったような態度なのかと舌打ちする。

「西田さんに内緒で私を迎えに来たの?」

「別にたいしたことじゃない」

お前が心配することじゃないと笑って見せる。

「西田さん、ごめんなさい」

つくしがすまなそうに頭を下げて、ダメじゃないのと非難の目を向けられた。

完全に西田はつくしを味方につけた。

そんな気がした。

電話をかけてきて責めるわけでもなく・・・

屋敷で待ち受けてつくしの前で西田をまいて会社を抜け出した事を暴露する。

完全に俺のわがまま。

それに手を焼く秘書の姿をつくしが見たら喜ぶはずなんてある訳ない。

西田の作戦勝ちで完全に孤立状態になっていた。

こんなことなら車の中でつくしを堪能しととけばよかったと後悔したのは言うまでもない。

「そんなに仕事は残ってなかったはずだ」

不満を顔に貼りつけたまま西田を睨みつける。

「つくし様の事が公になればこのぐらいの自分勝手な行動は想定範囲でしたが・・・」

俺の不満は完全にスルーされたまま西田が答える。

だったらいいじゃねぇかぁ。

俺もそこまでバカじゃない。

仕事に支障をきたす様な放棄はしてないはずだ。

「残りの仕事はお持ちしました」

澄ました顔で書類の入ったカバンを差し出された。

残ってる仕事なんてたいしたものじゃない。

西田ならどうとでも振り分けられるはずだ。

「来週でも間に合うはずだ」

甘やかすと為になりませんからと真顔で言われる。

お灸をすえられているそんな感じ。

俺はガキじゃねぇーーーーッ。

睨んでみても西田は慣れてますと不敵に笑う。

「会社に戻りたいのであればそうさせてもらいますが?」

有無も言わせない威圧的な言葉で拘束された。

「・・・ったく・・・」

「冗談じゃねぇ」

差し出されたカバンを殴る様に奪い取る。

「すぐに片づける」

つくしの頬にそっと片手を添える。

本当ならこのまま部屋に二人で缶詰になるはずだった。

甘い考えは仕事の鬼にブチ壊された。

「慌てないでいいから、無理しないで」

つくしの小さい手は俺の両手をギュっと握る。

キスも抱き寄せるのも禁止という様に俺が手を出す前に先手を打たれた。

「西田さんお手数かけます」って・・・

お前まで俺を子供扱いしてるんじゃねぇーーーーーッ。

早く終わらせてねとか・・・

離れたくないとか・・・・

さびしいとか・・・

側にいようか?なんて言葉はでねぇのかよ!

言うわけないよな。

西田も使用人もその他大勢いる前では・・・。

「速攻終わらせて素直にさせるから覚悟しとけよ」

隙を見つけてつくしの頭ごと胸の中へ引き寄せてつぶやいた。

返事の代わりに耳まで真っ赤になっていたつくしに満足する。

「西田、行くぞ」

連れて行きたいはずのつくしを置いて一緒にいたくない西田と共に自分の部屋に戻った。

時間がもったいないとすぐに机に座りカバンの中から書類を取り出す。

「例の週刊誌の件の黒幕が分かりました」

西田は待ち構えていたように一枚のCD-ROMを俺に手渡した。

「・・・・・・」

「西田・・・お前が本当に俺に見せたかったものってこれか?」

「お二人の仲を邪魔するのは私としても不本意ですから」

「そこまで野暮じゃありません」

真面目にいつもの高低のない音域で言われても笑えねっ。

「しっかり責任は取らせないとな」

二度とこんな邪推な手は使わせない様に叩きのめす。

高揚する気持ちを押し殺しながら受け取ったCD-ROMをPCの画面に表示させた。

                          続きは 100万回のキスをしよう!12 で

お話を先に進ませていただきました。

すっかり週刊誌の事忘れていたような感覚が・・・

別にどうでもいいんじゃない?

そう思っている私って・・・(^_^;)