第9話 杞憂なんかじゃないはずだ 10
*-From 1-
「・・・ったく、油断も隙もねッ」
「・・・ごめん・・・」
「俺がついて行かなかったらどうなっていたか考えてみろ」
「・・・ゴメン・・・」
「お前・・・俺に心配かけさせる天才だよな」
消え入りそうになっていた私を道明寺が抱きよせた。
「・・・心配かけるな・・・」
やさしさを包んで熱を帯びた声が耳元でささやかれる。
もう一度「ごめん」と謝って、心の中でありがとうとつぶやく。
「ここでラブシーンは早いんじゃねぇ?」
西門さんの言葉に慌てて道明寺を突き飛ばす。
出てくんじゃねェ見たいな強気の目で西門さんを道明寺が睨んで舌打ちした。
「牧野、俺らにも感謝な」
美作さんがクスクス笑って張り詰めそうになった空気が途切れた。
絶妙なタイミング。
これでF4って均等を保ってるんだよね。
美作さんの存在はありがたい。
「牧野・・・少しは大人になったね」
そう言って花沢類がニコッとほほ笑む。
「えっ?」
私は何の事か解からず怪訝な顔で花沢類を見つめ返した。
「雰囲気に流されなかった」
「さっき、あの子・・・俺達に興味があるミエミエだったよね」
「今までの牧野だったら真面目になるって言ったあの子の言葉そのまま受け入れていたと思うんだけど」
「あの子の興味がたとえ俺達にあると分かっていてもね」
「だから、成長したなと思った」
私を見つめる花沢類の瞳はどこまでもやさしくて・・・
どんな顔をして・・・
どんな言葉を返せばいいのか・・・
・・・・分からなくなる。
「類!てめえ!牧野を見つめるな!」
真っ赤な顔をして道明寺が私たちの間に割って入る。
「いいじゃん、別に減るもんじゃないし」
相変わらず花沢類は冷静だ。
「るっせ!俺が気にくわないんだ」
「見んな!喋るな!触んな!」
傍で呆れたように見ていた西門さんと美作さんの口元が緩み出す。
「相変わらず~」
「牧野の事になると単純で明快だよな司は」
「牧野大変だぞ。こんな単細胞のやきもち焼きと付き合っていると」
遊びだしている・・・
完全に二人は道明寺をからかいだしてた。
「付き合うの考え直した方がいいんじゃねぇ?」
「何なら俺達で、どう?」
二人息の合った掛け合いにみるみる道明寺の顔色が変わり出す。
「てめえら!それ以上言ったらどうなるか知らねェぞ」
血走った目で二人を睨みつけ怒り沸騰気味の道明寺。
「・・・ねぇ・・・二人とも本気じゃないから・・・怒らないの」
からかう二人にマジに向かい合う道明寺がおかしくてクスッと小さく笑っていた。
「「俺達、マジだけど」」
口をそろえる二人に花沢類もクスクス笑いだす。
「笑うな」
ふてくされ気味の道明寺にますます笑いは大きくなる。
「わりぃ、もうお前たちの邪魔はしねえから怒るな」
「俺達3人は牧野に振られたと言う事で退散します」
おどけた調子で顔を見合わせ、ほぼ同時に二人は肩をすくめた。
「・・・あっ・・・」
意気消沈気味の表情で道明寺が3人を見送ている。
「確かに・・・ヤキモチ焼き過ぎる彼氏って、考える余地あるかもね」
そう言ってクスッと小さく笑って道明寺の指にそっと自分の指先を絡めてみた。
「ばか」
「そんな考えすぐに追い出してやる」
コツンと道明寺と額を寄せあって照れるように笑い合っていた。
-From 2 -
「今日はすごく楽しかったよね」
俺の腕の中で身を任せきった牧野が胸元に頬をすりよせる。
オレを好きだと言えと何度も責めて何度も好きって言わせたべットの中。
幸福感をそのまま味わっていたくて必要以上に牧野との肌の密着を求めてしまう。
「そうかぁ?」
「俺は今の状態が一番楽しいけど」
俺の言葉になにを思い出してるのかは一目瞭然て感じに耳まで真っ赤になった顔で睨まれた。
甘ったるいままの目で睨まれても甘えられてるようにしか思えねぇ。
「そんなことじゃなくて・・・」
「居酒屋が楽しかったなぁ~とか、思い出してた」
「もう二度とないだろうなぁ~」
思い出に浸ってなつかしむ様な遠い目でホテルの白い天井を牧野が見つめる。
ブスッとしてしまった。
抱き合った後で余韻に浸っていたのは俺だけで、こいつはなに考えてる?
居酒屋にいたのは類に、総二郎にあきらだぞ!
俺もいたけどな!
他の男の事を思い出す余地があること自体に不機嫌さが募り出す。
「なにほかの男の事を思い出してんだ」
冷たい響きをもった声を出していた。
「・・・ほかの男の事って?」
牧野のキョトンとした顔がますます俺の不機嫌さを増強させる。
「居酒屋の事を思い出していたんだろう?」
「・・・そうだけど・・・」
それがどうかした?みたいに不思議そうに見つめられた。
ここまで言っても気がつかないなんて全くどうかしている。
バカ女だ。
それとも俺が遊ばれてるだけなのか。
「居酒屋には類も総二郎もあきらもいたよな」
我慢できずに起き上がると牧野を身体を拘束するように両腕を押さえつける。
見下ろした視線の先で牧野が戸惑いの表情を見せる。
「えっ・・・」
「みんなって言うより・・・道明寺のこと思い出していたんだけど・・・」
「ず~と午前中から一緒にいたの久しぶりだったから・・・」
「変な勘違いしないでよ」
強気の言葉で責められた。
「でも居酒屋が楽しかったんだろう」
「道明寺につくねを横取りされたり、嫌そうな顔で酎ハイ飲んだりしてたの思い出したの」
「あんな表情の道明寺初めて見たしね。別にみんなの事を思い出していた訳じゃないから」
そこまで鈍感じゃないと唇を尖らせる。
お前の言い方が悪いんだろうがぁーーーー。
居酒屋なんて名詞が出るから勘違いしてしまう。
さっきまであいつらには邪魔されっぱなしだったの忘れた訳じゃないだろう?
俺の考えがそこに行きついても何ら不思議でない。
俺を慌てさせるのはこいつの芸当なのだろうか。
確かに・・・
今回は勘違いさせられっぱなしで慌てて焦らされた事ばかりだった。
変な男に告白してたと思った事から始まって・・・
「どうしようもなく好きだから!離れらんない」
最高の告白に舞い上がっていた。
牧野の事を考えるとバカみたいな不安がわき上がる。
自分ではどうしようもない猜疑心に支配され、必要以上に牧野を束縛したい想いに胸が痛みだす。
無性にいじめたい気持ちがわき上がった。
「なあ、牧野・・・」
「なによ」
押さえつけている腕から逃れようと抵抗を見せながら訝しげな視線を俺に向ける。
「暴れんな」
逃れようとする身体を押さえつける。
「前に言っていたよな」
「俺の事どうしようもなく好きで離れられないって」
俺の言葉に逃れようとしていた動きが収まりギュっと唇をかみしめる。
「思い出したみたいだな」
意地悪く言って上から見下ろす。
「今さらそんなこと持ち出さないで」
それ以上喋らせないと牧野の言葉を遮断する。
噛みつくようにキスをして・・・
それは・・・
やさしく、熱っぽいものへと形を変える。
牧野の抵抗が止んだのを確信してゆっくり牧野の唇を離した。
至近距離で見据えてそっと長い黒髪を指で絡めて愛おしむ。
「一生忘れてやんねェ」
「お前の傍で一生お前を守ってやるから」
真っ赤になって牧野の目がうるんで俺を見つめてる。
プッツン。
理性の音がそこで切れた。
熱い熱にうかされる様に牧野の胸元に顔をうずめる。
「さっき・・・終わったばかりなんだけど・・・」
ムードがねえ言葉を唇ごと飲み込んだ。
先ほどの牧野の体中に付けたはずの自分の印をなぞる様に唇を移動させる。
荒い息づかいも・・・
せつなげな表情も・・・
わずかに見せるか弱げな抵抗も・・・
自分のすべての行為を増長していく。
飽きることなく・・・
煽られて・・・
戸惑って・・・
飲み込んで・・・
包み込んで・・・
すべての行為を肯定する様に慈しむ。
END
ようやく邪魔者は退散。
この後は・・・
そこは・・・それ・・・
やっぱり・・・ということで・・・
一件落着。
これにてこのお話は終了とさせてていただきます。
長かった・・・
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