第10話 Must be you will love me 2
*-From 1-
カラカラに乾きすぎた喉は唾も出てこない状態だ。
思わず目の前にあったグラスに手を伸ばす。
「牧野!それ俺の!」田中に止められたときには全部飲み干してしまってた。
口の中を一気にアルコールが充満しカッーと火照った感じが体中を襲ってくる。
「ゲホゲホ」とせき込んでみても1滴も口の中からアルコールが出てくることはなかった。
「それ・・・焼酎のロックだぞ。よく飲めたな」
「つくし、大丈夫?」
心配そうに優紀に顔をのぞかれる。
「久しぶり優紀ちゃん」
「わーー西門さん、お久しぶりです」
にっこりほほ笑む西門さんにメタぼれの優紀はメロメロな表情を作っている。
「え---もしかしてこの人がつくしの彼氏?」
周りから悲鳴とも羨望とも聞こえる声が上がる
「違うよ」
瞬時に優紀が否定した。
「俺、牧野の彼氏の友達」
西門さんはクスクス笑っている。
「道明寺も一緒と言うことは・・・ないよね・・・?」
心臓のバクバク音はアルコールのせいなのか切羽詰まった状況のせいなのか自分でも解からなくなってきている。
「俺、折角のデート断って司につきあわされてるの」
「牧野、お前のせいだぞ」
「だったら付き合わなければいいのに」
「付き合わなければ殴られそうな勢いだった」
西門さんが眉をしかめながらそう言った。
その場面・・・
確かに思い浮かぶと苦笑いする。
「でもなんでここが解かったのよ」
「牧野さ、ここ数日、司との連絡途絶えていたんだって?」
「それならと司は自分のところのSPをお前に張り付かせて逐一牧野の行動を報告させていたようだ」
「ぜんぜん気がつかなかった・・・」
「それで今日が同窓会だと分かって俺が呼び出し受けたわけ」
「俺は被害者なんだけど」
「司はあの席で爆発寸前ですねてるぞ」
「俺は牧野の代わりにここに混ぜてもらおうかな」
「かわいい子も結構いるし」
「キャー」なんて黄色い声が上がり出す。
優紀までうれしそうにポッと頬を染めている。
爆発寸前て・・・
そんな道明寺の状態のところに西門さんは私一人を本気で行かせるつもりなのだろうか。
普通しっかりフォローするのが今回の西門さんの役目じゃないのか?
本気で私の同級生を口説こうなんて思ってるんじゃないでしょうねーーーッ
気がつけば目を釣り上がらせていた。
「こら!総二郎!ここで一人だけ逃げようなんてするな!」
「私の同級生を口説くな!」
「・・・牧野・・・目がすわってるんだけど・・・」
大丈夫かなんて見つめる西門さんの思いに気がつくはずもなく・・・
いつも自分はどこかに飛ばされて、気が必要以上に大きく大胆になっていく。
道明寺がどんなに不機嫌で怒っていようとも対当にわたりあってやる!
それに私は責められる理由はどこにもない!
道明寺を目指して立ち上がる。
完全に酔っぱらって私の記憶はところどころ抜け落ちる状態に陥っていた。
-From 2-
夕方近く牧野に張りつけておいたSPから連絡が入る。
今回は牧野にばれないように顔見知りのガタイのいいSPでないのを張りつけさせた。
それも女性。
御蔭でばれずに今日まで来ている。
松岡優紀と出かけたとの連絡に色めき立つ俺。
教えられた店の名前を頭の中で繰り返し覚えた。
俺一人じゃ、危機の回避どころか最悪な状況を作る可能性は大だ。
ここはひとつワンクッション必要と頭を働かせる。
牧野に同窓会に行くなと言ったのは完全に俺のわがまま。
横暴、嫉妬心。
そんなこと分かっているがどうにもしがたい想いがそこにある。
完全に切れた牧野は俺からの携帯も受け付けず、さすがに今回はやりすぎたか?と危機感を覚える。
牧野が俺以外の男に目映りするなんてこれっぽッちも思ってはいない。
が・・・
俺が見てないところで、俺の知らない男といる。
それが許せねぇーーーーッ。
常識、理性では押さえられない感情は自分じゃ、どうにもなんねぇーッ。
携帯を取り出し短縮ボタンを押す。
「只今・・・電波・・・」
ありふれたフレーズの録音音声。
あきらの奴、どこかのマダムと楽しいお付き合いという最中か?
総二郎と連絡が取れて付き合えと否応なしに強制する。
二人で目立たないように店の中に入る。
牧野とは壁で死角を作ってるテーブルに腰を下ろす。
目立たないと思っても早速女の店員が愛想よく必要以上にテーブルから離れねぇ。
総二郎が機嫌よく愛想を振りまいてうまくあしらう。
店員はポッと顔を高揚させたままテーブルをようやく離れてくれた。
「司・・・こんなことしてどうすんの?」
たかが同窓会だろうと呆れたように視線を宙に向ける総二郎。
「別にいいじゃねぇか、今のとこ邪魔はしてない」
勝手な解釈、シャレにもなんねぇいい訳。
見つかれば牧野に通じる筈はない。
それでも大人しくしていることなどできないんだから仕方ない。
「今のところねぇ・・・・」
総二郎に訝しそうな視線を投げられた。
時々笑い声と一緒に聞こえる話声。
牧野の声だけ聞き取れるって、俺はどれだけ牧野に惚れてるんだと苦笑する。
彼氏は?の問いに『まあねっ』と、答える牧野。
俺はまあねぐらいの彼氏なのかとムッとする。
俺みたいな男は他にいねーぞ。
よりどりみどりの美女集団には目もくれず、牧野しか見えてねぇ。
お前だけに惚れこんでいる。
世界一の彼氏って自慢しても足りねぇくらいだと思うんだが・・・
牧野の彼氏見た事あるって・・・
あん時俺が睨みつけた軽そうな男。
別に謝る必要なんてねッ。
牧野と楽しそうな会話を見せつけられていたら半殺しにしていた。
おびえて逃げて行った根性のねえ奴。
それで牧野の機嫌を損ねた。
発端はこいつだ!
ピキッと眉が吊り上る。
「とびっきり、かっこいいよ」
聞こえる声に唇が緩む。
これが牧野なら瞬時に飛びだして抱きしめるところだ。
彼氏を呼んでの言葉に思わず腰を上げる。
このままでて行ったら今までの事チャラにできるかとの思いが頭をかすめる。
「ほっといて」の牧野の不機嫌な声にボトッと尻もちをつくように椅子に落ちる。
だらしねッ。
田中・・・
中学校の時に好きだった?
誰が?
田中が牧野を・・・て・・・ことか?
牧野が好きだった訳ではないとホッとする。
中坊のガキの想いに嫉妬するほど馬鹿じゃない。
バカじゃないが・・・
気にくわねぇーーーっ。
中学時代に戻れねぇかなって、戻れるわけねえだろう。
戻っても牧野が相手にするはずないだろう。
バカらしい幻想を見るんじゃねぇよ。
胸ぐらつかんで言いたい気持ちを抑え込む。
なかなかしんどい。
「遅かったねッ」て・・・
遅いも早いもねえだろうがぁーーーー!
牧野も相手すんじゃねぇーーーーーッ。
ムッとしたまま目線を上げると、総二郎が姿を消していた。
「キャー」なんて声が牧野達のテーブルから上がり出す。
総二郎!何のつもりだ?
お前の行動読めねっ。
顔を思いきりしかめてる俺の前で「バン」と、両手が振り下ろされる。
「道明寺ーーーッ!なんで、あんたがここにいるの!」
「ま・・き・・の・・・」
驚きで見つめる視線の先に妙に目のすわった牧野の激しい視線がぶつかった。
-From 3-
「やあ・・・久しぶり・・・お前も・・・ここにいたのか」
「ハハ・・・ハッ・・・」
顔が強張ってうまく笑えねぇ。
「総二郎に全部聞いたんだけど・・・」
「わざわざ私にSP張りつけていたこともねッ」
俺の鼻先に顔を近づけて凄まれる。
今までにないパターン。
それに牧野が総二郎を名前で呼び捨てなんてありえねぇーッ。
総二郎もなに喋らないでいいこと喋ってるんだ。
きっと今日のデートをキャンセルさせた腹いせに違いない。
それにしても・・・
牧野の態度、なんか・・・・変?
「お前・・・いつもと違うくねぇ?」
「なにが?」
「雰囲気・・・」
「それよりなんで今日の事を黙ってたんだ!」
自分を奮い立たせるように強気で攻めてみる。
「・・・・」
「・・・」
「邪魔するくせに・・・」
沈黙の後、牧野が小さくつぶやく。
「あっ?」
「今日の事を教えていたら絶対邪魔するでしょう!」
襟首つかまれる勢いでのしかかられた。
思わず椅子の上に倒れ込む。
ベンチ形式の椅子でよかったなんて思っている場合じゃない!
身体に感じる心地よい重さ。
いつもはほとんど俺が抑え込んでる状態が多い実態。
牧野に抑え込まれるなんて・・・
レアだーーーーッ
もう二度とないかも・・・
なに考えてるんだーーーー。
そんな雰囲気じゃねえだろうがーーーーー。
「・・・るっせ・・・」
「しょうがねえだろう、お前の事が気になるんだから」
拷問を受けて渋々白状させられるような感覚・・・
こんな拷問なら大歓迎だけどなッ。
耳まで真っ赤になってしまってた。
牧野の事だ、男に言い寄られても分かんないだろうし・・・
ちょっかい出されたら困る。
俺をじっと見つめる牧野の視線から逃れるように顔をプイッと横に向けた。
「お前に・・・なにか・・・あったら・・・俺が困る」
「目の前にいないと心配なんだ」
「なに言ってるの?」
牧野の両手がゆっくり頬を包み込んで動いて横を向いてた俺の顔を90度回しこむ。
俺を見つめる瞳がやさしく動いた気がした。
ゆっくりと愛しい唇が降りてくる。
思わず両腕を動かし牧野の背中に回す。
「牧野・・・」
唇が素通りして俺の肩に落ち込んだ。
「ねむい・・・」
耳元でそう牧野がつぶやいた。
続きは Maybe you will love me3 で
総二郎はナンパに夢中ということはないですよね優紀もいるしな・・・
オオトラ状態のつくし寝せちゃいました。
この後は・・・ご想像で♪
蛇の生殺し状態突入でしょうか(*^_^*)