第10話 Must be you will love me 1

*

-From 1-

俺に合う女はいない

世界中のどこ探しても牧野以外には・・・

お前に合う男も俺だけだ。

こんな言葉さらりと自信たっぷりに言えるのは道明寺ぐらいのものだ。

私達は運命共同体で、離れられないと自信たっぷりなはずなのに必要以上に束縛されている感じはどうなのだろう。

さっきも歩道で顔なじみと久しぶりに顔を合わせる。

中学時代の同級生の男の子。

同窓会の連絡来たかと尋ねられたから、葉書が来てたと返事しただけの事なのに、見る見るうちに道明寺の表情が険しくなるなんてどうかしているよ。

立ち止って挨拶交わすぐらいに目くじらを立てるなと言いたくなる。

威圧的に睨まれた同級生は会話の途中で逃げ出す様に足早に立ち去って行った。

参加すると返信した同窓会。

どんな顔して会えばいいのか情けなくなってきた。

「少し挨拶しただけでしょう、なんでそんな不機嫌になるの?」

機嫌よくとは言わないが、それなりの挨拶はできないものだろうか。

「どうして俺が知らない奴に愛想を振りまかないといけないんだ」

いつもの傲慢な性格がそのまま顔を出す。

「誰も愛想を良くしろなんて言ってないでしょう」

それなりにふつうに挨拶してくれたら彼氏って紹介もできるじゃないか。

牧野の彼氏は危ないぞなんて思われたら嫌だと思う私の気持ちなんて分かるはずがない。

「お前こそ俺と一緒にいて他の男に色目使うなんてはしたねぇー女」

「いつ誰が色目使ったのよッ!」

「知り合いに会って、少し話しをしたただけじゃない」

あのぐらいで色目使ったなんて思われたら男と歩いてるだけで浮気だとか言いだしかねない。

そんな発想がどこからくる!

バカらしくて言い合う気力も冷めてくる。

それでも、はしたないと言われた言葉が頭の中で増殖して、ムシャクシャする気持ちは止めようがなくなって、険しい顔になってしまってた。

「いい加減にしてよね」

わなわなと身体が震えだす。

「同窓会に行くのかよ?」

「行くのに道明寺の許可もらう必要なんてないはずだよ」

「行かせねぇて言ったら?」

「速攻別れる」

「あっ!」

道明寺の動きがピタッと止まって青筋が浮かぶのが見えた。

売り言葉に買い言葉。

テンポよく飛びだした言葉に自分で言って固まってしまった。

本気で別れるなんて思ってないと言ったら・・・

私が悪者になってしまう気がして言葉をゴクンと飲み込んだ。

無言でじっと見つめる道明寺の両腕が自然な動きで私を捉える。

「行かせねぇし、別れてなんかやらねっ」

チラチラと怪訝な顔を通行人に向けられる。

「なにしてるの」の小さな女の子の言葉に若い母親は「見ちゃいけません」て目隠して通り過ぎて行った。

道明寺のバカヤローーーッ。

ボクッ

「テッ・・・」

道明寺が腹部を押さえて座り込む。

「ここでパンチって・・・それでも女か」

「こんなところで抱きついてくる方が悪い」

それに喧嘩してる最中に抱きついて誤魔化そうとする魂胆が許せない。

そんなんじゃ、私の気持ちは収まらないと睨みつける。

「あんまりバカなこと言いだすと許さないからね」

捨て台詞を言い捨ててクルッと背中を道明寺に向けてすたすたと歩きだしていた。

-From 2-

「行くな!」

「行く!」

単純な単語の言いあいは真っ向から対立の度合を深め、収まる気配は見当たらず、私の愚痴の相手となった優紀もいい加減あきれ果てていた。

どうしてそこまで執着するのかその意味が解からずまた反発しあう。

元をただせば道端で男子と軽く喋ったことが発端だと思うのだが、完全にへそを曲げた道明寺は自分の「ダメだ」の一点張りの主張で私を押しきろうとしている。

「なんかあったら困るだろう?」て・・・

いったい何の心配してるのか。

優紀も一緒だと言ってはみたが、「男も来るだろう」とまたすねる。

こうなれば意地でも行ってやると意地の張り合い、押しあい、騙し合い。

誤魔化して・・・

喧嘩して・・・・

言い合って・・・

気が収まらないまま同窓会の日を迎えた。

「・・・で・・・道明寺さん納得したの?」

優紀と並んでテーブルにつく。

「してない」

「それに今日が同窓会の日だなんて教えてないもん」

ここ数日大学でも道明寺を避けて、携帯の着信音も無視しづつけている。

「大丈夫なの?」

「同窓会が終わってなにもなければ問題ないでしょう」

「それにさ、同窓会に行くのになんで道明寺の許しを得ないといけないわけ」

「あいつがわがままなのよ」

横暴!傲慢!わからずや!

「つくし・・・気がたってない?頭から湯気でていそう・・・」

「ごめん!」困惑気味の優紀に素直に謝る。

「あいつの事なんか忘れて楽しもう!」

思わずガッポーズのカラ元気で笑顔を作る。

気になってるくせになんて目で私を見て優紀が横で苦笑する。

今からはこれっポッチもあいつの事は思い出さずに過ごしてやる!

て・・・

どういう決意表明だ。

思い出さないつもりでいる筈なのに「行くな」とすねたあいつの顔がプカッと浮かぶ。

楽しくないかも・・・

そんな気持ちを必死で追い出した。

「つくし・・つくし?」

「あっ!久しぶり?」

何度も呼ばれて我にかえる。

中学以来の懐かしい女友達。

横長のテーブルでは近況報告みたいな話題で盛り上がっていた。

女の子が集まればいつの間にか話題は恋愛論に変化をしている。

「つくし、彼氏は?」

話題を振られて顔が強張る。

「まあ・・・ね」

「同じ大学?」

「う・・ん・・・」

「英徳だったらお金持ち?お坊ちゃん?」

返事に困るような質問ばかりされていた。

道明寺と付き合っているのを知っている優紀はクスクス笑いをかみ殺している。

「あっ!俺、牧野の彼氏に会ったことある」

テーブルの中央をぶんどっていた一人の男子が手を上げる。

道明寺の不機嫌の発端要因のこの前道端で道明寺と一緒にいる時に会った男子だった。

一斉にみんなの注目が注がれる。

「牧野と少し話しただけで、スーゲ睨まれた」

「俺、殺されるんじゃないかと本気で思ったもんな」

「あの時は、ホントにごめん!」

焦ったまま手を合わせて頭を下げた。

「牧野、やきもち焼きの彼氏は元気?」

大声で笑い出す男子が道明寺の正体を知らなかった事にホッとした。

「つくしの彼氏ってヤキモチ焼きなの?」

話題は私に集中したまま変らない。

「そんなことより、みんなはどうなの?」

「募集中!」

数人から一斉に声が上がり陽気な笑い声が聞こえだす。

この話題からどう逃れる?

必死に頭を働かす。

「優紀はつくしの彼氏に会ったことあるの?」

話題を振られた優紀が「とびっきり、かっこいいよ」と、にっこり笑った。

-From 3-

「えっ~見てみたい、写真持ってないの?携帯の待ち受けとか?」

みんな優紀の反応に感化された様に騒ぎだす。

「写真とかあんまりね・・・」

私のあやふやな態度に騒ぎは収まるどころか盛り上がってきている。

いったいなんてことしてくれた!と優紀を睨んでみても、どうしようもないくらいに私そっちのけで盛り上がりを見せている。

「今日迎えにとか来ないの?」

「それは無理!」

全身に力を入れて否定した。

「呼んだら来るんじゃない?」

優紀!余計なこと言うな!と、完全に焦った表情で反応してた。

「仲直りできるチャンスかもよ」と、優紀が耳打ちする。

今の状態で仲直りできるはずがないじゃないか。

道明寺の性格じゃあ下手すれば同窓会もぶち壊しかねないぞ!

同窓会の日を黙ってた事で絶対一方的に責められるに決まってる。

「私の事はいいから、ほっといて」

私の大声に場がシーンと静まり返った。

「あんまりお前ら、牧野をからかうなよ」

「久しぶり」

「え・・っ?田中?」

「あんまり変わってないね?」

「お互い様だろう」

思わぬ助け舟にホッと一息ついてクスッと笑う。

隣に座っていいと断りを入れる田中に遠慮なんて柄じゃないと頷いた。

「中学時代ってさ牧野が一番、男子と仲が良かったよね」

「どうせ女子に見られてませんでしたから」

「男気あったもんな牧野」

「あんた達よりよっぽどつくしの方が頼りがいあったもんね」

「こら、人をさかなに盛り上がるな!」

笑いながら突っ込み入れる。

私がしらけさせた雰囲気が一気に和んで笑い声に包まれる。

「ねえ、田中君て中学時代つくしのこと好きだったよね?」

「えっ?嘘でしょう?」目の前の女子の言葉にまじまじと田中を見つめた。

「ばればれだったもんね」

異口同音に口々に喋り出す。

「気がついてないのは肝心なつくしだけだったもんね」

優紀の言葉に耳を疑った。

「そうそう、少しでも牧野と一緒にいたくてさ委員会の仕事引き受けたりな」

「あの頃は俺も純情だったよ」

思い出に浸る様に田中が目をつぶる。

「田中!まさか今も思ってるなんてことはないよな」

アルコールの入った男子はからかい気味に騒ぎだす。

「だったら、俺、速攻で失恋じゃねえか」

「みんな慰めてくれ~」

「わー残念、中学の時に告白されてればね」

調子を合せるように軽く嘯く。

「あーーー中学時代に戻れねーかな」

「遅かったねッ」

顔を見合わせるように笑い合っていた。

「つ・・・つくし・・・」

振り返った優紀の顔が強張っている。

「どうしたの?」

「幻じゃないよね・・・?」

優紀の示した方向のテーブル席。

にっこり手を振っている西門さんが目に入る。

西門さんが一人で来るような店じゃない・・・

西門さんがいるってことは・・・

もしかして・・・

いる・・・のかな・・・?

背中を冷たい汗がツーッと伝う感触。

一気に冷え込んで凍死してしまいそうな冷気が漂い始めていた。

続きは Maybe you will love me 2 で

さあこの後はどう収まる?

待ち伏せさせるか、それとも店の中でのご対面

サーどっち?

と考えながらつくしの会話が筒抜けの方が面白いかと・・・

トラブル希望のプッチが多かったようなのでこのような展開になりました。

大丈夫かな・・・つくし・・・