第1話 100万回のキスをしよう!13
*-From 1-
「この前は本当にごめん」
公平に会って真っ先に謝った。
別になんの被害も被てはないからと気にも止めたない公平の感じにホッとする。
「それよりお前の方は大丈夫だったのか?」
俺のせいで勘違いされたらと心配そうな表情で覗きこまれた。
「私の方は大丈夫、別に何ともなかったし・・・・」
公平の事は怒ってると道明寺にお灸をすえるつもりだった。
なのに・・・
なぜか・・・
結果は・・・
いつものごとく・・・
道明寺に主導権を握られて・・・
反対に私が甘いお灸をすえられたなんてことは公平に言える訳はない。
「まあ・・・男女の仲直りの方法はいろいろあるからなぁ」
「な・・なに・・バカなこと言ってるんのッ」
探る様な視線を公平から向けられて動揺は隠しきれずに顔にはりつけてしまっていた。
「図星だろう?」
正解だと認めるように耳まで真っ赤になる。
「もう、変なこと言わないでよ」
「俺は別になにも言ってないぜッ」
公平がいたずらっぽく微笑む。
下手すればいやらしい会話、セクハラものの話題も公平が言うと日常会話のように流れてしまう。
「つくしは道明寺さんに大事にされてるよ」
公平の表情が柔らかくなって暖かい空気が私をつつむ。
「そうか・な・・・」
道明寺の嫉妬心も怒りもすべて私に向けられた愛情だとは理解している。
道明寺がこれ以上ないという愛情を私に注いでくれることも当たり前の現実。
うれしくて幸せでしょうがないのに、それを他人から言われると素直にウンと言えないのは私の強がりだ。
「有名だったもんな。大学の頃から」
「えっ?」
「つくしにさ、声かけるだけでも睨まれるって」
「そうなの?」
「道明寺さんが卒業してから男友達が増えた気がしなかった?」
「それってグループ学習が増えただけじゃなかったの?」
「それまで声かけられた事なかったろう?」
確かにそれは本当で・・・
知らない人に大学内で声かけられた記憶は大学3年まで皆無だった。
公平以外には・・・
「俺も最初に知っていれば声かけられなかったかも」と、おどけた感じに公平が肩をすくめる。
変なところで道明寺の力が効力を発揮されていたのかと今さらながら気がついた。
「今度のテレビの告白も俺のもんだって宣言して予防線張られたんじゃないか?」
大学から全国に範囲が広がって大変かもよと公平がクスッと笑う。
「今週で前期の修習も終わりだな」
修習が終わるとバラバラだけど頑張れよと、こぼれるような笑みを公平が私に送ってくれた。
-From 2-
この数か月いろいろありすぎた。
私にとっては激動の日々、未経験ゾーン拡大中という感じ。
突然の婚約発表記者会見前の日常の生活と比べればまったく考えられなかった状況に陥ってた。
あの会見から始まって、結婚に、別居に、不倫騒動。
これまでの目まぐるしすぎる変化に、よくついていけたと我ながら感心する。
道明寺との結婚生活がず~とこんな調子だったらどうしよう?
慣れるまでには数年は、かかりそうだ。
私が頑張れたのも道明寺がそばいてくれたから・・・
なんて、あいつを増長させるような言葉を伝えるつもりはないけれど、心の中ではいつもいっぱいに感謝している。
2か月の前期修習を無事に終えて修習所を後にする。
一週間ぶりの我が家。
まだ我が家と言うほどにはなじめてないけれど・・・
この必要以上にバカデカイ屋敷は相変わらずの重圧で一人ではなかなか落ち着けない。
居心地の悪さは歪められなくて、自分の部屋から飛び出してタマ先輩の部屋へ顔を出す。
「若奥様お会えりなさいませ」
「やだなぁ、二人の時はつくしと呼び捨てで呼んで下さいよ」
節度は保ちませんとと、お固い調子で人前では若奥様としか呼ばなくなったタマ先輩を恨めしく見つめる。
「それじゃ、遠慮なく、お帰りつくし」
しわくちゃの顔をますますしわくちゃにしてタマ先輩が私を抱きしめてくれた。
「やっぱりここが一番落ち着きます」
「それじゃ、坊ちゃんがかわいそうだ」
「あっ、道明寺がいれば別ですよ」
少し赤くなった私を見てうれしそうにタマ先輩がウンウンと頷く。
この屋敷には唯一の畳部屋。
ちゃぶ台を挟んでお茶をすする。
たわいない話に相槌うって、笑って、そしてまたお茶をすする。
この雰囲気に心が和んで身体の緊張も溶けていく。
「そろそろ坊ちゃんが帰ってくる時間だよ」
時計の針は夜の7時を指していた。
「つくしが坊ちゃんの帰りを玄関で迎えたら喜ぶだろうね」
崩れた顔の坊ちゃんを見せてくれと先輩にせかされる。
そう言えば道明寺の帰りを玄関で迎えるなんてことはまだ1度もなかったと気がついた。
いつも突然部屋に押し込んでくる感じだからなと思い浮かべて「クスッ」と笑いが口元に浮かぶ。
エトランスに向かう廊下を先輩に手を引っ張られる様に歩く。
顔なじみの使用人が立ち並び道明寺の帰宅が近づいていると教えてる。
こんな状況・・・
慣れてないし、恥ずかしさが全面に押しでてくる。
それでも待ちどうしい気持ちはある様で、人の近づく気配にドキッと心臓が一つ飛びだした。
空港で夢中な芸能人が姿を見せる瞬間を待っている心境。
経験したことないけどそれと似たようなものなのだろうか?
私を見つけた道明寺の瞳がやさしく笑う。
「坊ちゃんの崩れた顔、見ちゃいられないね」
後ろで先輩がぼそっと呟く。
「後は邪魔だ」と先輩が発した声に蜘蛛の子を散らす様にみんなはいなくなり、道明寺と二人きりになった。
「気がきくじゃねぇか」
満足そうに笑って道明寺がゆっくり私に歩み寄る。
「お帰り」
「ただいま」
言葉より先に抱きしめられていた。
胸の中でつぶやく『おかえり』はどこまでも甘く、耳元で聞こえる『ただいま』は、愛しい想いを導き出す。
「実務修習はここから通えそうだから・・・」
1番に伝えたかった事を言葉にした。
「当り前だろう、地方に飛ばされない様に手を回した」
「えっ?」
思わずこれ以上開かないぐらいに目を見開いて見つめてた。
「それぐらい簡単だぜ」
そうか・・・
そうだよね・・・
そうだった・・・
首相でも電話一本で動かせる実力者。
すっかり忘れてた強引すぎる手段。
「これ以上の邪魔はさせないから」
つぶやく道明寺の顔はあどけなく笑って・・・
明るくて・・・
子供のように輝いて・・・
甘えるようにもう一度私を抱きしめた。
ギュっと・・・
深く・・・
しっかりと・・・
-From 3-
これから3か月ごとに民事裁判、刑事裁判、検察、弁護の実務研修が予定されている。
まずは検察、それから弁護の実務研修は法律事務所。
てな感じだ。
これらは全部、家から通える距離なのでまずは道明寺の機嫌を損ねることはない。
部屋に戻ってからも必要以上に道明寺の機嫌がよすぎると思うのは気のせいだろうか?
「なあ、つくし・・・お前は弁護士になるつもりなんだよな?検察官とか裁判官になるつもりはない訳?」
「もともと弁護士にしかなるつもりなかったしね。そのつもり」
道明寺がニンマリした気がした。
「な・・・なに?」
なにか企んでる様な雰囲気に動揺して舌を噛みそうになった。
「弁護士にしかならないつもりだったら実務修習て他を受ける必要ないよな?」
「えっ?そんな事できるはずないでしょう。カリキュラム決まってるんだから」
「それが出来るんだな」
もったいつけた様に言って道明寺満足そうに胸を張る。
「手を回したの研修場所だけじゃないの?」
道明寺に思わず飛びつく。
「実務修習は弁護だけでいいと言うことにしてもらった」
してもらったって・・・
「なんでそんなことするのよッーーーーー」
それが道明寺にとって何のメリットがあると言うのだろう?
どの修習場所も家から通える訳だし、そこまでする必要はどこにあるのかと不安になった。
「最終試験を受ければ問題ないそうだ」
すんなり融通をきかせたくれたぞって・・・
そんな話は今まで聞いたことない!
俺様だからできることだとますますふんぞり返る。
そんなことに圧力かけるなッーーーーーー。
「そのメリットって、なんなの?」
半分諦め気味にため息ついて聞いてみた。
「お前の修習受ける法律事務所、俺のところの顧問弁護士」
「それも事務所は本社ビルの中だぜ」
「実務修習が終わるまで一緒にいられる」
緩みっぱなしの崩れた顔はどうしようもなくなっている。
「あーッ」
あきれ果てて言葉が続かない。
なに変なこと考えているんだ!?
一緒にいて修習になるはずないじゃないか!
道明寺が満足いく結果を自分勝手な解釈で押しつけられた。
傲慢!
横暴!
考えなし!
怒りで身体が震えだす。
それを私が喜ぶと本気で思っていたらぶっ飛ばす。
「心配するなしっかり指導してもらうようには頼んであるから」
「いつでも呼び出せるとか考えてないでしょうね?」
「当り前だ」
少し照れてぶっきらぼうに言い放つ。
絶対考えてたと確信をもった。
「俺・・・お前が、俺と一緒のビルの中にいると思っただけで幸せだ」
照れくさそうに笑てやさしく見つめる道明寺に私の怒りも揺らいでくる。
どんな実務が出来るのか・・・
本当に道明寺を信じていいのだろうか・・・
大丈夫か私!
不安の暗雲が私を包み込む様だ。
満足そうな道明寺の横で頭を抱えて座り込んでいた。
つづきは 100万回のキスをしよう!14で
司応援隊のリクエストを受けてどんな展開だったら司が喜ぶだろうかと考えた設定です。
実際は無理でしょうけどね。
道明寺の力ならなんでもありだーーーと思った私の勝手な解釈です。
ブログランキングの結果を受けてこの後は・・・
ご機嫌の司とつくしのバトルの展開と言う事でお話を進めたいと思っています。
ご協力ありがとうございました。