ドッカン !! 10

「頑張れよ」

素直に送り出されても安心できるはずなどなかった。

公平のことが誤魔化せたなんて思っていない。

絶対に何か感づいた感情が私を責めてた気がする

乱暴で激しくてそれでいて優しい愛撫。

軽く触れた唇が歯を当てて結び目を解く。

手首から離れた絹の痕をクッキリと残す。

道明寺についた嘘を無言で責められてる気がする。

手首に残る縛られた痕は隠しようもなく袖からわずかに見える手首が赤くうっ血している。

その痕をなぞる指先。

チクリと鈍く肌に圧痛が走る。

それは今の私の心の痛みと同調してるようだ。

私の考えが決して最良だとは思わないけど、今回は許してって心の奥で道明寺に許しを請う。

ごめん。

この修習が済んだらもっと素直になるから。

そんなことを想いながら道明寺邸を後にした。

「頑張れよ」

そう言ったのは本心。

けしてあいつを疑ってるわけじゃねェ。

結婚式の写真の掲載を事前につかんだのに手を打たなかったのは俺だしな。

それがどんな結果を招くかも想像できなかったわけじゃない。

あの週刊誌に掲載された写真を見て、動揺丸出しで目を白黒させていたはずのあいつが頭の中で浮かんで俺の笑を誘う。

ただあいつに仲のいい男の同期がいたってことは知らなかった。

良く俺にばれなかったものだ。

つーか、俺がそばにいるときはつくしの周りに類、総二郎、あきら以外の交友関係があるなんて思いもしなかった。

あれは俺の威嚇の強さに誰も近づかなかっただけか?

威力が強すぎた悪影響。

デスクの上をコツコツと指先がリズムよく音をたてる。

べつに牧野つくしが道明寺つくしってばれてもいいんじゃねェか。

それをギャーギャー騒いで問題にするほど弁護士、検事、裁判官を目指す修習生が暇だとは思えねェし。

静かに修習生活を送ろうと考える事態が俺に言わせれば「あきらめろ」だ。

「おはようございます」

朝から見るには楽しくない顔が律儀に頭を下げる。

「代表、機嫌が良さそうじゃないですね」

つくし様と週末は過ごされたはずなのに?

そんな考えを貼り付けてるって分かるわずかな目の動き。

こいつの場合は、わざとわかる様にここだけ表情を作って流してくる。

ほかの感情はほとんど見せないくせになッ。

相変らず嫌みな奴。

「松岡公平とのことでケンカでもしたんですか?」

「なら、悪いか」

「小さなケンカも絆を深めるためには必要なことですから」

「ただ・・・」

「ただ、なんだ」

「嫉妬深いとか、信用してない、器が小さすぎだと、つくし様がそう坊ちゃんを評価しないといいんですけどね」

アーーーーーッ!

ここにきて代表から坊ちゃんに呼び方を変えやがった。

奥歯にものの挟まったような言い方。

でも遠慮も何もない言い回し。

「また、週末まで会えない訳ですよね」

「べっに喧嘩別れでしたままじゃねェからな」

たぶん。 

か細い手首に付けたタイで縛って出来たうっ血の痕。

そこまでするつもりはなかったんだ。

痛々しく見えた姿を庇いたくって抱きしめた華奢な体。

軽く唇が触れた痕はピクリと痛がるようにわずかに震えていた。

それでもしっかりと俺を迎え入れて温もりを感じあったはず。

満足な甘い夜は過ごせたはずだから。

別れ際もなるべく機嫌のいい声が俺は出せたぞ。

「司法修習初日から自分の結婚式の写真を松岡公平に見せられるとはつくし様も思ってなかったでしょうし」

「つくし様の驚きは手に取るようにわかります」

坊ちゃんのやった事ですよねと責める視線が俺に突き刺さる。

俺に出し抜かれた形の西田がひがまないはずはない。

後の記事はすぐに西田が手を打って差し止めた。

ん?

どうして西田が松岡がつくしにばらしたって知ってるんだ!

可笑しいじゃねェかぁぁぁぁぁ。

「数名は分からないようにSpをつくし様のそばに付けていますから」

俺の表情を読んだ西田が何でもないようにつぶやく。

「つくしの行動は報告がお前に上がってくるってことか?」

「人聞きが悪い、陰からお守りしいてると言っていただきたい」

「物は言いようだよな」

「つくしが知ったら西田、つくしのお前の信用はガタ落ちじゃねェの?」

「なら、SPを引き上げた方がよろしいですか?」

それはそれで困る気がする。

SPがいた方がいいに決まってる。

「護衛は必要だからな」

「この件は代表も承知ということでよろしいのですね」

あっ・・・やっ・・・

それは・・・

そうなるか。

バレタラ、つくしの不機嫌は西田より俺に向けられるはずで・・・

西田にノセられた。

この、策略家がッ!

SPがいるならなおさら都合がいい。

つくしの正体がばれても問題ねェじゃん。

その方が俺も落ちつけて専念できる。

仕事がはかどれば西田もよろこぶ。

「何を企んでるんですか?」

「お前が喜ぶこと」

そう言ってニンマリとした笑みを西田に向けた。

拍手コメント返礼

びー***様

西田さんの能力があれば子供たちの夏休みの宿題も問題なく済むでしょうね。(笑)

私も西田さんの能力が欲しい!

うちの娘なんて読書感想文を残してます。

そのうえまだ本も一冊も読んでない。原稿用紙5枚分かけるのだろうかと不安です。

毎日更新はなかなか難しいのでストックを予約投稿でこの夏は乗り切っています。

こちらこそいつも温かいコメントありがとうございます。