第10話 Must be you will love me 3

*

-From 1-

「司・・・なに襲われてんの?」

「バカ!違う!牧野の奴、寝やがった」

「さっき間違えて焼酎のロック一気飲みしたみたいだったから」

納得したように総二郎が頷く。

「司、そのままなっ」

携帯を取りだして「カシャ」の音。

写真を撮ってどうするんだーーーーー。

グッと睨みつける。

「恐い顔すんなって、今の二人の格好はどう見ても牧野が司を襲ってる図にしか見えない」

「貴重だろ」

「お前にも写メを送っといてやるから」

すぐにピロピロ~ンのメールの着信音が聞こえだす。

「これ牧野に見せたら仲直りできるんじゃねぇ?」と総二郎がニンマリ。

「ぶんなぐられたらどうする?」

その可能性も否定はできない。

お前の持っていき方次第だろうとまたニンマリしやがった。

「それよりも牧野を起こすの手伝え」

いつもより重く感じる体重が胸を圧迫して息苦しくなっていた。

総二郎の手をかりて俺の膝の上に牧野をすわらせるような格好まで引き上げる。

「ほら、牧野、水」

身体の力の抜け落ちたみたいになっている牧野の口に水の入ったコップを運ぶ。

ゴクリと喉が上下した。

「大丈夫か?」

「だいじょ・・・ぶっ?」

うつろなままの牧野が俺の顔を見つめている。

「あれ・・・?なんれ・・・ここに道明寺の顔があるろ?」

「テッ」

バンバン頬を叩かれた。

呂律もしっかり回ってねぇし・・・

完全な酔っ払いが出来上がっている。

「このまま俺は牧野を連れて帰るわ」

後は頼むと総二郎に言い残す。

「牧野、歩けるか?」

牧野の脇の下に腕を回し抱きかかえるように立ち上がる。

「だから・・・なんれ・・・あんたがいるろ・・・ 夢?」

キャハッ・・・て

頬をつまむなーーーーッ。

つまむなら自分の頬だろうがーーーーッ。

店を出て数分歩く。

突然立ち止った牧野が俺の腕にしがみつく。

「どう・・・みょうじ・・・」

「やっぱ・・・り・・・どうみょう・・・じ・・・だよね・・・」

「ああ、俺だ」

「本物だーーーー」

俺に本物も偽物もねえだろうが、この酔っ払い!

牧野の腕がゆっくり動いて俺の首に巻きついた。

「どうみょう・・じ・・・す・・き・・・」

耳たぶに唇の動きが伝わる。

くすぐったさを吹き飛ばす様な甘い吐息に心が揺れた。

牧野の酔っ払いもいいもんだ。

今ままでない素直さに気分も舞い上がる。

「俺も好きだ」

負けじと耳元で囁く。

「連れてって・・・」

「どこに?」

「べッ・・・ト・・・」

ベットって・・・

いままで感じた事もない誘惑の媚薬。

感美に酔わされ煽られる。

言われてもそんなもん道端においてあるわけはない。

ベンチくらいしかないじゃねーか。

ここで押し倒す訳にはいかないし・・・・

「もう少し待て!」

焦ったように繰り返す。

なんとか行きついたホテルの一室。

牧野がすぐにドンと真上を向いてベットに倒れ込む。

「おい・・・大丈夫か?」

「だいじょ・・・ぶ・・・」

「服・・・ぬがせ・・・て」

「いいのか?」

いつもなら問答無用に服を脱がせにかかるのに今までにないレア過ぎるパターン

思いっきり手が震えてしまう俺って純情すぎねぇか?

シャツに手を伸ばしボタンに指をかける。

荒い息使いに心臓は爆発寸前で鳴りやまない。

「グッ」

次の瞬間、一瞬の出来事。

牧野に力いっぱい抱きしめられて柔らかい胸の中に顔を押し付けられていた。

「牧野、これじゃ身動きできねっ」

「力緩めろ」

「・・・・・」

「おい!」

「・・・・・」

「こら!」

反応がなくなっていた。

-From 2-

「う~ん」

私・・・

居酒屋にいたんじゃなかったっけ?

このスプリングの感触はベットだよな?

居酒屋に西門さんがいて・・・

水と間違ってお酒を飲んで・・・

それから・・・

どうした?

お酒の残る頭では思考がうまく働かないようだ。

薄暗い部屋にようやく目も慣れてきたようでホテルの一室だと確信した。

ふと耳に入る衣擦れの音。

誰かいる・・・

それもベットの上の私の横。

ギョッとなって恐る恐る確かめる。

指に届いた感触はなめらかな肌の感触、暖かい。

は・・だ・・・か・・・

裸!

ギャーーーーーーッ

それも男だ!

はいでる様にベットから転げ落ちた。

思わず自分の姿を確かめる。

下着を付けてる事に大丈夫だとホッと胸をなでおろした。

動揺の為か状態を把握する意識が欠けていたのか、相手を確認する行動が起こせない。

恐くて顔を確かめられないと言うのが本音だろうか。

しらない男だったらどうなる?

同窓会のメンバー?

西門さん・・・て・・・事はないよなぁ・・・

あったらどうなるーーーッ

シャレにもならない。

頭の中はパニック状態でどうしようもならなくなっていた。

  

まずは落ち着こうと洗面所に駆け込む。

一緒にホテルで寝ていたけどなにもなかった。

なにもないはず・・・。

道明寺に対するいい訳が頭を支配していく。

今はまだそんなこと考える段階ではないはずなのに。

バシャバシャと残った酒を吹き飛ばすつもりで水で顔を洗う。

あれ・・・?

確か、居酒屋で・・・会わなったっけ道明寺?

いたような・・・

いない様な・・・

文句を言った様な・・・

言わなかったような・・・

うろ覚えの記憶。

居酒屋からの記憶が全く抜けてることに呆然となってしまった。

タオルで思い切り不安をはがし取る勢いにごしごしと水滴をふきあげる。

「何やってんだ」

聞き覚えのある懐かしい声はさっきまでの不安を吹き飛ばすのには十分で腰が抜けるほどにホッとした。

「どう・・みょう・・・じ・・・」

声の方を振り返り道明寺の顔を確認してまたホッとする。

「なんだ?」

「なんで私たち・・・こんなところにいるのかな?」

呆れたような表情を向ける道明寺に聞くのが怖いような感覚が私を襲ってきていた。

-From 3-

「全然覚えてないのかよ」

「俺に抱きついたのも?」

「えっ!抱きついた!」

焦ってどもって牧野は口を閉じる。

まともに俺の顔を見ることなんて出来ないという感じに視線をそらした。

「居酒屋では襲われそうになったしな」

小さくなって焦りまくってる牧野は完全に俺の手中にあるような感覚がわき上がる。

やさしくなんて出来そうもない意地悪な気分に俺の中で優越感が芽生えだす。

「う・・・そ・・・・」

「証拠ならある」

ジャケットから携帯を取り出しボタンを操作し総二郎から送られた画像を表示させた。

それを牧野の目の前につきつける。

俺を上から抑え込んでいる牧野の写真。

じっと見つめて開いた口を閉めるのも忘れている間抜け顔の牧野。

噴き出しそうになる笑いをグッと飲み込んだ。

「これ・・・誰が撮った?」

「えっ?」

「どう考えても道明寺には撮影は不可能な体勢だよね」

思いっきり動揺したように牧野の視線が定まらない。

「総二郎」

「ヤダッーーー」

悲鳴に近い声を牧野が上げていた。

「お前がグダグダ酔っ払った姿は俺と総二郎しか見てないから心配するな」

誰にも見られたくなかったと力なく牧野がつぶやく。

こんな酔っ払ったの初めてで、全部俺のせいだとぐずり出す。

ここで話が同窓会の以前に戻されたらややこしくなりそうだ。

このまま帰ると出ていかれたら俺の理性なくなるぞ!

牧野の気持ちを今に戻す必要ありと結論する。

「本当にまったく覚えてないのか?」

「俺とホテルに来た事も?」

「全然覚えてない」

ただただ牧野は首を振り続ける。

「俺はしっかり覚えてる」

「お前にもてあそばれて捨てられた気分なんだけど」

「えっ・・・」

ニンマリする俺に驚いた様に牧野が目を見開いた。

牧野に迫ってべットの上に二人で倒れ込む。

「私・・・なにした?」

「お前を連れて帰ろうと居酒屋を出た」

「途中でお前は俺と分かって『好きだ』て首に手をまわして抱きついてきたぞ」

「き・・記憶ない・・・」

視線が泳いで動揺しまくりの牧野を動かないように両手で腕を抑え込む。

わざとらしく牧野の真っ赤になった耳元に唇を寄せた。

「耳元で『ベットに連れて行って』て、囁かれたんだけど」

たぶん牧野はベットで寝たかっただけ。

俺は牧野と抱き合いたかっただけ。

ベットに行きたいの解釈の違いがあったことは今となれば問題ないはずだ。

「ホテルについたら『服脱がせて』てお前の方から誘われた」

本当に牧野から誘われたと喜び勇んだ俺。

牧野はただ単に寝苦しかっただけ。

服を脱がす手前で眠ッちまいやがった。

「俺をその気にさせといて、そのまま一人寝込んだんだよなッ」

「ごめん」

「お前の横で膝を抱えてモンモンとしてたんだけど」

「すげ~拷問」

「自覚なかったし・・・知らないし・・・許して・・・」

見下ろした牧野が困惑顔に眉をひそめた。

その表情もすげーかわいいと思ってしまう俺は今日はやっぱり牧野を困らせていじめたいのだろう。

俺の復讐みたいなもんだ。

ここまで我慢をさせられたのは生まれて初めてだもんな。

「責任取ってくれるよな」

牧野の返事など聞くつもりもないままに指先を牧野の下着へと滑らして行った。

続きは Maybe you will love me 4  で

このままつくしはベットで寝ていた司に気がつかずパニック状態のまま外に飛び出すパターンを考えていました。

それではあんまり司もつくしもお間抜けな感じがするので止めました。

どっちが良かっただろうか・・・

今でも迷い気味~