第1話 100万回のキスをしよう!19

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-From 1-

連れ去られて、連れてこられた落ち着いた作りの和食のお店。

常連らしく店の人に迎えられ奥の個へと案内される。

「なんか元気ないね、つくしちゃん」

道明寺を置いてきぼりの格好で会社を抜け出した。

呆けた顔から今頃は自分を取り戻して暴れていたらどうなる?

自分の会社だから物が壊れてもまあ大丈夫だろうけど。

一緒に帰ると張り切っていただけにこの後どうなるか考えただけで青筋立てった道明寺の顔がプカッと浮かぶ。

場を仕切りながら食べ物や飲み物を注文する甲斐さんには問題ないことだろうけど。

話声の合間から聞こえだす聞きなれた着信音。

携帯画面を見る前に道明寺からだと知らせている。

バックからそそくさと取り出しボタンを覚悟を決めてプシッと押した。

「もしもし」

「どこにいる?」

低めの声は機嫌の悪い確かな証拠。

「どこって・・・みんなと一緒に和食のお店みたい」

少し上ずった声は私の焦りを暴露している。

スーッと目の前に腕が伸びてきて私の携帯を岬所長がつかみ取る。

「司君でしょう?」

任せてって感じにウィンクされた。

「おい、こら、最初からあんまりつくしちゃんを束縛するとすると嫌われるぞ」

「一人じゃ寝られないなんてダダはこねないわよね」

「心配なら来てもいいわよ」

道明寺を挑発しているのかいないのか・・・

からかっているのか諭しているのか・・・

時折、岬所長の口元はほころび出している。

ついでみたいに道明寺までお店に誘そっているって・・・

本気かぁーーーーッ。

お店の名前と場所を事細かに岬社長が道明寺に教えてる雰囲気にガクッと肩を落としてしまった。

「く・・・・来るんですか」

答えは分かっているのに確認する私はかなり動揺している。

「なかなかこんな機会ないものね」

「みんな代表が来てくれるって」

やけに楽しそうな岬所長に面食らった。

大人しく家に帰って道明寺は待っているなんて甘い考えは粉々と崩れ落ちた。

「わーっ」

「若いイケメンが増えるのは大歓迎」

やたらテンションが上がっている玲子さん。

もう酔ってないか?

「二人の馴れ初めなんて聞きたいなぁ」

女子高生並みのキャピキャピ気味の森山さん。

いじめられてぶん殴った話なんて馴れ初めの話には程遠い。

期待されても困ると言うものだ。

「代表と食事できるなんて自慢できるぞ」

富山さんはいったい誰に自慢する気だ?

「もっとビールー持ってきて」

酔っ払った方の勝ちって甲斐さんは何の勝負をする気なのだろう。

歓迎ムードがすっかり出来あがっている。

私は・・・

そんな気分じゃない!

あの携帯の不機嫌さのまま道明寺が現れたらどうしよう。

一緒に楽しく食事ができるのだろうかただただ疑問だ。

来てくれるってみんなは喜んでいるけれど私に言わせれば奇襲を受ける気分だぞ。

必要以上の期待を裏切ることにならなければいいのだけれど。

なんて・・・

考えながら道明寺の到着を祈る思いで待っていた。

 

 

-From 2-

なんなんだいったい・・・

目の前でかっさらわれた様な感覚。

夢じゃなくて現実だ。

まさかこんなことが起きるなんて思いもしない。

状況把握できるまでの数秒間で目の前から消えていた。

早業だと唇をかむ。

つくしの同僚、いったい何者だ。

なに考えてる?

俺達の仲を引き裂いてなんの得がある?

新婚だぞ!

邪魔すんなッ。

怒りをぶちまけたい相手は影も形もありゃしない。

ボスの岬のおばはんにはいろいろ迷惑かけて頭が上がんねぇところがある。

若気のあたりだか、いたりだかってやつだ。

俺に対する嫌がらせ?

今さら仕返しでもねぇだろう。

たいして遠くまで行ってはいまい。

早足で会社の外に向かう。

左右どっちに向かったのか全く分からなくなっていた。

携帯に連絡すればいいだけの事。

そう思った矢先に胸の内ポケットから携帯の振動音が胸に響く。

西田からじゃねぇか。

狙っていたようなタイミング。

ぐるじゃないだろうかと勘ぐりたくなるというものだ。

「今どちらですか」

「会社を一歩出たところ」

しょうがねえから素直に応える。

「申し訳ありませんが急ぎの書類に目を通していただきたくご連絡いたしました」

そんな連絡いらねぇよ。

渋々と最上階に引き返す俺も一応はこのビルの最高責任者。

しょうがねぇ。

「つくし様とご一緒では?」

一人部屋に戻った俺を意外そうな顔で見つめる西田。

西田は関係なかったようだ。

「弁護士仲間に連れ去られた」

愚痴るように言っていた。

「迎えにいかれるのですか?」

「ああ」

「ほどほどに」

なんて言いながら西田の口元が微かに緩んだ。

サインした書類を受け取り西田は秘書室に戻る。

それを確かめてつくしの携帯に連絡を入れた。

なかな出ない呼び出し音にしびれを切らしたころようやく反応しやがった。

「どこにいる?」

みんなと一緒って、そんなことは初めから分かっている。

どこにいるのか場所を聞いてるんだろうがぁ。

反応の悪さに舌打した。

「おい、こら、最初からあんまりつくしちゃんを束縛するとすると嫌われるぞ」

途中からつくしじゃねぇ落ち着いた声が聞こえてくる。

弁護士の説教なんて聞けるもんじゃねぇ。

あいにくだがつくしに嫌われることなんて天地がひっくり返ってもある訳ない。

「夫婦の時間を邪魔しないでもらいたい」

人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえとか言わなかったか?

今は馬じゃなく車か・・・

縁起悪いじゃねぇか。

「一人じゃ寝られないなんてダダはこねないわよね」

人をガキ扱いするなッ。

一人で寝れねぇ訳ねえだろう、寝たくないだけだ。

「心配なら来てもいいわよ」

しばしの沈黙の後、この言葉に飛びつかないはずはない。

携帯をきってすぐに車を向かわせる。

こじんまりした店の入り口の暖簾をくぐる。

なにも言わないままに俺の顔を見た店員が奥の部屋へと案内する。

俺が来ることを知らせていた感じだ。

用意周到。

準備万全。

そつがない。

漏れて聞こえてくる声に時々混じる笑い声。

やけに楽しそうだ。

ガラッと開けた障子の前。

「やっと来た」と岬のおばはんが声を上げる。

その横で緊張した面持ちのつくしの視線とぶつかった。

 

-From 3-

なにが起こったか分からず呆然となった。

ど・・どうみょうじが頭を下げている。

つくしがお世話をかけますと・・・

今晩の主役と上座に案内されて二人並んで座らされた数分前。

なんとも居心地が悪るかった。

道明寺が前かがみに頭を下げた瞬間にきっと私は間抜けな顔をしていたに違いない。

そんな一般常識を理解していたなんて予想外。

外は嵐か雷が鳴りだしてないか?

思わずまじまじと道明寺の顔を覗き込み「熱でもある?」と発してた。

「なんだそれ?」

「お前の為に頭を下げるのは普通の事なんだろう?」

「西田が教えてくれた」

「西田さん?」

「俺がいつもの態度でいるとお前が後で肩身の狭い思いをすると言われた」

二人でテーブルの下に潜り込むように頭をつきあわせ小声でこそこそ話していた。

お前の為に頑張ってやるって・・・

後が怖いよ。

なにを要求されることだろう。

「ずいぶん成長された様で、これで安心してつくしちゃんをまかせられますね」

母親の心境の様な岬所長の反応なんなんだ?

道明寺の対応が傍若無人だったら今日は私を返さないとか?

ありえるかも・・・

なんの期待をしているのか・・・

道明寺のバツの悪そうな表情がなんとも言えず顔がほころんでしまっていた。

周りは何度目かの乾杯でグラスの重なる音が響いてる。

普段はなかなか話できませんからねと話題の中心に道明寺が置かれていた。

私は道明寺が何気に機嫌がいいのにホッとなって気が抜けた。

「つくしちゃんが側にいると代表の雰囲気変わるんですね」

「やさしい空気が包むような感じでひとを寄せ付けない雰囲気すっかり無くなってますよ」

「つくしちゃんが羨ましいです」

「ところで二人の馴れ初めは?」

玲子さんは饒舌気味だ。

やっぱりそれ聞くんですかぁーーーー。

「私も気になる」って玲子さんに賛同する森山さん。

場の雰囲気は記者会見なみの熱気を帯びている。

「同じ高校だったのよね?」

「雪山の遭難を助けたとか」

「家を捨てても彼女を選んだとか全部本当ですか?」

全部週刊誌やスポーツ新聞で仕入れた情報だ。

もともと人から話を聞きだすのはお手のものだもんなぁ。

この弁護士集団。

ホントと言えば言えなくもないがドラマ仕立てに脚色されている情報。

同じ高校で愛をはぐくんだ学生生活。

そんなのあったか?

「初めて会ったときから運命の女と思って・・・」

真顔で照れもせず言い放つ道明寺はやっぱり道明寺だ。

赤札貼って、いじめたことは記憶外らしい。

雪山遭難は迷った私を命も顧みず吹雪の中に飛び込んだ御曹司。

命がけの恋なんて一面に載っていたっけ。

「あの時はつくしを助けようと必死だった」

スッと道明寺の腕が腰に回される。

無下にもできない雰囲気に身体に力が入る。

「それで一気に恋心は盛り上がったとか?」

目を輝かせて私の反応を見守る森山さん。

そんな目で見つめられるほどのものはなかったかと・・・

熱くなる体温を下げるつもりでビールをキュッと喉に流し込んだ。

「卒業式のプロムでプロポーズしたんだよな」

道明寺のテンションは上がりっぱなしで機嫌がいいのはなにゆえだ?

「俺達の事あんまり人に喋ったことないよなぁ」

大体私たちの周りにいたのはF3か優紀ぐらいのものだ。

喋る必要ないぐらい精通している。

聞きたくもないだろうけど。

道明寺がご満悦気味なのはアルコールが入っただけとは考えにくい。

察すると・・

もしかして・・・

喋りたかったとか?

結婚式の写真の流出をそのままに週刊誌に載せていた前科を思い出す。

聞かれるままに、それ以上の話題を提供する道明寺は止めようがなくなっていた。

続きは 100万回のキスをしよう 20 で

子供の夏休みに突入です。

子供の学習時間にブログを更新。

横で子供に算数問題を質問されながら頭半分は花男の世界。

まともに教えられるはずがありません(^_^;)

子供が見たいと言っていた韓国ドラマ「美男子ですね」

子供にDVDを見ているその間にブログを更新と思っていたのですが私もはまってしまいました。

花より男子韓国版を見た方なら楽しめるのではないでしょうか。

カン・シヌ 役のジョン・ヨンファを花沢類に重ねてみてしまう私は未だにどっぷり花男につかっています。