第1話 100万回のキスをしよう!24

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-From 1-

港にゆっくりと船が寄港する。

みんなで甲板のプールサイドで騒いでいた。

「水着もってくればよかった」

「このままでも気持ちいいかな~」

程よい気分の滋は本気でドレスのままプールに飛び込みそうだ。

桜子まで同調気味。

「いいぞ~」総二郎とあきらが煽っている。

「水着も準備してあります!」

慌てたように従業員が叫んでいた。

財閥つながりの招待客はほとんど船を降りたようで、プールサイドにはさっきのこっぱずかしい寸劇を笑いあって見ていた気心の知れた仲間達。

子供に戻ったみたいにはしゃいでる。

手すりにもたれて船の上から陸地を眺める。

港から離れる車のヘッドライトが数珠つなぎになって流れていた。

「渋滞してるよ」

俺の横でつくしが心配そうに「大丈夫かな」とつぶやいた。

「招待客半端じゃねえからな」

「招待客に、それに付いてるSP。合わせたら倍以上の数になるだろう」

「しっかり警備もしてるから大丈夫だ」

純白のドレスからスカイブールイブニングドレスに変えてつくしの身体を包んでいる。

華奢な身体をいつもより大人っぽく見せてナメでうっすら輝くピンクの唇も悩ましく思えてしまう。

「車のライトもこうして見ると綺麗だね」

「俺はお前の方を見ていたいけど、綺麗だ」

囁きながら唇を重ねてた。

待っていたように周りからフラッシュが瞬きだす。

焦った様につくしが唇を離した。

「な・・・なに?」

二人で見下ろした先からまたフラッシュが目の中に飛び込む。

俺達の周りにはひょっこりあきらや総二郎、類の見なれた顔が勢ぞろい。

結婚前はF4人で雑誌の表紙を飾ったのは人気モデルなみ。

「明日の一面決まりだな」

「道明寺ホールディングス代表披露宴」

「華やかに開催、招待客も超一流って感じじゃないか?」

「俺達も始まる前からインタビュー受けたしな」

「最高の二人だと言っといたからなッ」

総二郎とあきらは愛想良く俺達二人と肩を組んでピースサインなんか出している。

「あれ・・・取材なの!?」

「会場にもテレビカメラいたよ」

今頃気がついたのみたいな表情で類がクスッとした笑いをつくしに向ける。

「自分の事で精いっぱいだったし・・・」

「コケない様に道明寺にしがみつくので必死だったから・・・」

つくしらしい言い訳。

婚約発表の騒ぎを考えればどれだけ今日の披露宴が話題を提供するか予測できるはずなのになぁ。

「わーーやだぁぁぁぁぁ」

「もしかしてさっきキスしたの撮られた!?」

「たぶんな」

焦って百面相気味に騒ぎだすつくしがおかしくて、かわいくて笑いがこみ上げた。

きっと明日の新聞、テレビ、週刊誌の上で踊る記事が浮かんでグルグルしてるに違いない。

「いい加減なれろ」

微妙な距離を保とうと必死なつくしを抱き寄せる。

「慣れる訳ないでしょう」

「ここでパンチなんてやるなよ明日の一面が破局に代わるぞ」

少し意地悪だったが威力を発揮してつくしの身体から力が抜けた。

「・・・もう・・・キスはしないでよ」

すねたように甘えた唇。

触れるのを我慢するのは結構な労力。

「その代わり後でたっぷりなぁ」

「他の奴らに見せるのはもったいねェし・・・」

俺の言葉につくしは耳まで真っ赤になってコクリと頷いた。

-From 2-

「いい披露宴だったねッ」

同じような事を結婚式の後も言ってなかったか?

言葉をしらねぇ奴。

俺もそうとしか言い表せないけど。

化粧を落としてバスローブを羽織っただけのつくしが俺の横にちょこっと座る。

「会場に流れた結婚式の場面が照れくさかった」

「いったいどれだけF3は知ってるの?」

「知らないことの方が少ないとか・・・」

「私達の事で知らないことはないみたいだよね」

矢継ぎ早に喋り出す。

俺の口の挟む余地はなし。

一人で言って納得して頷いた。

やたらはしゃいでいるのは俺の気をそらすため?

無駄なことだと分かっているはずなのに。

初めての時より緊張してないか?

あの時はただただ夢中なだけだったけど・・・

熱に浮かされているようでどうやったかも覚えてねぇ。

つくしを腕に抱いたまま朝を迎えた幸福感。

当たり前となった今でも変わることはない極上の思い出。

この思いだけは誰にも喋ってねェぞ。

もったいなくて言える訳ない。

今夜の心の充実は数ミリの隙間もないほど満たされてこれ以上の望みはない様に思えてしまう。

あとは身体の充実だけ。

つくしのすべてを飲み込んで腕の中に押し込めてこの欲望を満たしたい。

触れ合う肩・・・

触れ合う指先・・・

触れ合う唇・・・

ガツガツするなと言うのは無理な話。

今日のお前はいつもより大人ぽくて・・・

なまめかしくて・・・

澄ました顔も、照れて笑う顔も、焦った顔をすべてが俺を魅了する。

飽きずに穴のあくほど眺めてた。

どれだけ会場を抜けだして二人になりたかったかなんて教えてやんねェ。

それはただの虚栄心。

俺がこいつに惚れぬいてるのは周知の事実。

今はこいつの中で流されるままに溺れたい。

ベットに押し倒したつくしが「ア・・ッ」と小さく声を上げた。

それだけの事でどうしようもなくあふれる想い。

抱きしめるだけで自分が自分でなくなるような感覚。

つくしだけが愛しい。

はだけて露わになる素肌にキスを落とす。

慣れている行為のはずなのに余裕がなくなるのは俺の方。

なにも考えられなくなって・・・

頭の中はショートしてしまいそうだ。

律動は一つにつながった瞬間から始まってその感覚に溺れこむ。

息を整える余裕もないほどに・・・

ギュっと抱き合ってのぼりつめた瞬間。

喘ぎ声すら貪りつくす様に唇を重ねてた。

幾度も夜を重ねて繰り返す充足した安らぎ、幸福感。

これからも永遠に続くようにと願いながら腕の中にギュっとつくしを閉じ込めた。

「きゃー」

な・・なんだ!?

満足して熟睡。

ここは心地よい眠りから目覚めるじゃずじゃないのか?

つくしの悲鳴で目がさめる。

なにが起こった!

ギョッとなってベットの上に飛び起きた俺の膝の上。

バサッと落ちてきた新聞の山。

一面は昨日の俺達のキスシーン。

使用人が気を利かせているつもりだったのかドアの前に置かれていたとつくしは涙目だ。

つけたテレビの画面には披露宴の映像にF3のインタビュー。

結構時間を割いて流れてた。

「もうヤダッ、仕事いくのが恥ずかしい」

俺に飛びつくように抱きついてつくしが力なくつぶやいた。

「・・・だから・・・いい加減に慣れろって・・・」

「まだ無理だってッばぁ」

必死で強気になろうと目を吊り上げて俺を見つめる。

「慣れるためにもっと派手なことをするか?」

ニンマリ笑った俺を見つめるつくしが焦って「ヤダッー」って必死の形相。

相変わらずの不器用さ。

だがそれも愛しい。

「冗談」

クスッと笑って抱きしめた。

-From 3-

いつの間にかなにも考えられなくなってしまう。

「あんまり・・・じらすな」

そんなつもりは毛頭ないのに・・・

せがむようなキスを繰り返されてベットに押し倒される。

少し乱暴に私の髪をなでて、ため息をつく道明寺が色っぽい。

愁いのある瞳をそっと閉じてあいつの唇が甘く私の唇を覆った。

いつもと同じ手順で繰り返される指の動きに敏感に反応してしまう。

全身に押し寄せるしびれるような感覚に余裕なんかなくなって、なにも考えられなくなってくる。

押し殺そうとした熱い吐息が漏れそうになって唇をかんでこらえてた。

流されるまま流されて押し寄せる快楽を受け止める。

心臓が壊れそうなくらいに高鳴ってもちそうもない。

こらえられなくなって道明寺の背中にまわしていた指先にギュっと力を込めて抱きついていた。

目覚めたのは外が明るくなり出してすぐの時間。

私を抱いている道明寺の腕はなかなか放そうとしてくれなくって飽きもせずに道明寺の顔を眺めてた。

少し照れくさいのは昨日の余韻。

ふと思い出すフラッシュの光。

ど・・・・どうなってるんだろう!?

気になるのは今朝の新聞の記事。

確かめたい衝動を抑えられなくて決死とベットから抜け出して身支度をさっと整える。

道明寺の屋敷に届けられる新聞は経済新聞から英字新聞、スポーツ紙と幅広い。

いろんな観点から情報を得る必要があるからと言うらしいが・・・

全部見る時間なんてある訳がない。

部屋から出ようとドアのノブを回して押した。

・・・

・・・・・

ドアが開かない?

身体をドアにあてて力いっぱい押してみた。

「バサッ!」

なにかが崩れて落ちる音が廊下に広がる。

新聞?

ようやく手が入り込めるほどの隙間から目についた一枚を引き寄せた。

甲板での二人のキスシーン。

幸せそうにほほ笑んで綺麗に撮れている。

絶妙なポイント。

さすがはプロと感心するが・・・・

これが全国紙の一面で、モデルが私たちじゃなければ笑って見ていられるのにッーーー。

物音に気がついたのか、顔見知りの使用人が一人慌てて飛んできて新聞をまとめ出す。

「素敵に撮れてますね」

にっこりほほ笑んで手渡たして立ち去る使用人の後ろ姿を言葉なく見送った。

きっと今は間抜けな顔をしているに違いない。

「きゃー!ヤダー」

手渡られた新聞紙の重みがそのまま心の重みと重なって、全身の血が噴き出しそうだ。

どれもこれも同じ内容。

豪華披露宴、招待客も超豪華、道明寺ホールディングス代表披露宴一部始終!

ーーーーーって・・・

なんなのよーーーーーッ。

両手いっぱいにもった新聞を呆けた顔で見つめてる道明寺の目の前に「バサッ」と落とした。

すでに心は恥ずかしさで崩壊寸前。

つけたテレビには披露宴会場の豪華客船が映し出されアナウンサーがなにやら喋っている。

次はF3登場で画面にくぎづけになっていた。

いったいどれだけテレビの向こうで若い女性が見惚れていることだろう。

カメラ目線で場慣れした対応。

どう対応すれば1番注目を浴びるか知ってる言葉のやりとり。

完璧だ。

「ふたりの最高の幸せを最後まで見れて俺達も幸せです」って・・・

魅了してやまない頬笑みも三人三様。

「最後じゃねぇーだろう!」

テレビに向かって道明寺が枕を投げていた。

「もうヤダッ、仕事いくのが恥ずかしい」

道明寺の首に抱きついて力なくつぶやく。

「・・・だから・・・いい加減に慣れろって・・・」

「まだ無理だってッばぁ」

どうすればこんな事に慣れるというのだ。

そこまで見せびらかす必要があるのか?

ほどほどでいいと思うのだけれども・・・

これじゃハリウッドの有名セレブ扱い以上だ。

ついていけそうもない。

呑気にあくび交じりにもう慣れろって言われても需要出来るはずないじゃないか。

なれねぇーつーの!

「慣れるためにもっと派手なことをするか?」

ニンマリ笑った道明寺が見つめてる。

こんな時は絶対なにか本気で考えている。

これ以上派手な事ってなに?

なにする気?

なにがある?

考えつかないけど絶対無理!

「ヤダッー」って食い下がる様に言っていた。

「冗談」

クスッと笑って道明寺の腕がスッポリと私を抱き寄せる。

「もう少しベットの中で楽しもう」

耳元で呟いた道明寺の身体が反転してベットの上に私の体は押し倒されていた。

END

mebaru様のコメント披露宴の模様がどんな風にメディアで紹介されたのかのリクエストに答えて、今回盛り込んでみました。

婚約発表以上に騒がれている事でしょうねぇ♪

甘アマ場面は相変わらず苦手です。

こんなもんでお許しを~。

このお話・・・

この辺で御開きを~

結構区切りがいいかとも思うんですが(^_^;)

まだ見たい?

読みたい?

どんな構想をお望みでしょう?

2話のお話までには半年ぐらいの余裕があるでしょうか。

まだまだ続きをと言う方はプッチと一つ 二次小説ランキングに1票お願いいたします。

*たくさんのランキング参加ありがとうございます。

終わって見ればこの作品は大変思い入れのあるものになりました。

リクエストもたくさんもらって皆さんと一緒に作りあげて出来あがったものだとおっています。

感謝!感謝!感謝!

張り切って続編『抱きしめあえる夜だから』の執筆開始しました。

そちらでお楽しみを~