第11話 花に嵐のたとえもあるが・・・ 7

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-From 1-

牧野の声に一番焦ったのは・・・

たぶん俺。

部屋に入る寸前まで俺の腕の中で甘えるようにしおらしく身体をほとんど預けっぱなしだったのにッ。

これからのつくしとの二人の時間・・・

出来事!

睦ぐ愛!

想像したらたまんねえだろう!

爆発寸前!よく持ちこたえたものだ。

それもホテルに二人っきりだと分かっていたから。

目の前にニンジンぶら下げられて力いっぱい走ってた。

優勝したと喜んだら横から賞金ぶんどられた。

憤慨するのは当たり前だろうがぁぁぁぁぁぁーーー。

どこで変化しちまった?

悪の根源はバカなおふざけ組みだったはず。

なのに牧野の怒りの矛先が俺って・・・

割にあわねーーーーーーーッ!

その引き金はいつも類。

情けなるぐらいムキになるのも類だから。

総二郎やあきらなら牧野の味方って言われても笑って余裕で無視できる。

心の奥底で牧野の信頼ナンバー1が類だと今でも思っているからにほかならない。

愛情と友情を別にしても俺の心をざわめかせるのには十分だ。

「飲んでやるっ!」

ビール缶に白い手が伸びてゴクリと音を出す。

「牧野、よせ!あんまり飲めないんだから」

「これくらい大丈夫。少しは鍛えた」

鍛えたって・・・

たいして飲めねぇだろうがぁーーーッ。

あっけにとられて見つめる10の瞳。

あ~。

一本飲んでしまいやがった。

「喉乾いて、心臓バクバクだったからおいしい」

心臓バクバクはさっきまでの俺との余韻。

忘れてねえだろうなぁッ。

まだ夜は長いと期待は膨大。

「牧野・・・本当に大丈夫か?」

「大丈夫にきまってるでしょう、やだなッ、キャハ」

「テェッ」

バシッと背中を手のひらでたたかれた。

ポッと頬を火照らせて・・・

アルコール回ってるじゃねぇーかぁぁぁ!

「みんな飲もう!」

俺一人を仲間外れに牧野中心で乾杯って・・・

牧野に乗っかる方が無難だという魂胆ありありに俺から視線を背けてやがる。

総二郎!あきら!無視するなぁーーーッ。

ありえない現実が目の前で繰り広げ出している。

二人で抱きあって・・・

キスして・・・

触れ合って・・・

流れるはずだった狂おしい時間・・・

どこに行く?

遠く彼方に花火とともに飛び散った。

総二郎からビールー缶を取り上げて一気に飲み干す。

お前ら全員!

覚えてろッ!

 

-From 2-

酔えねェ・・・

飲んでる気がしないと言った方が的を得てるのだろうか。

総二郎と類に挟まれてにこにこと笑顔を振りまく牧野の腕をグイッと引っ張り抱き寄せた。

「俺以外の奴とひっつくな!」

ただの嫉妬で動いてる。

はだけた裾から覗く素足。

俺の膝の上によたついて倒れ込んだ格好の牧野。

思わず視線が固まった。

もう少し上なら太ももまで・・・・

浴衣着せてて良かったと思うスケベ心。

「キャー」

俺の凝視に気がついた牧野が慌てて素肌を隠す。

「お代官様~♪」

「お許しを~」

あきらの手のひらが総二郎の胸元に滑り込む。

そこまでやってねえだろうがぁーーーッ。

男同士で気持ちワリーぞッ。

お前ら二人だけでやっておけッ!

・・・そっちの方が危ないか・・・

逃げ出そうとする牧野を膝の上で座らせ抱きしめる。

「逃げんなッ」

これが一番安全だ。

「静かにしねぇとここで襲うぞ!」

「やれるもんならやってみなッ」

ウッ・・・

こいつが酔っ払ってるの忘れてた。

どのくらい飲んだ?

見てる限りはそう飲んでないと思うのだけど・・・

俺の方が飲んでるはずだ。

ほっぺをぺチぺチなでながら「わーどうみょうじ~」って・・・

出来あがっている。

これ以上酔っ払ったら大変だ。

「お前ら勝手にやって勝手に帰れ」

「こいつ寝かせつけるわ」

「まだ飲む~」

俵担ぎで牧野を肩に放り上げる。

「寝かせつけるってどうやって♪」

「反対に司が寝かせつけられてるかもなぁ~」

「このまま戻ってこなくてもいいぞー」

余計な御世話だ!

ピキッとしそうな怒りをグッとこらえる。

今はこっちの方が大事だと牧野を支える両腕に力を込めた。

運がいい事にいくつも部屋のあるスイートルーム。

最初から気にせず寝室にしけこめば良かったんだと今頃気がついた。

牧野は絶対嫌がっただろうけど・・・

今なら大丈夫か?

部屋の中央に置かれたダブルのベット。

相変わらず俺の肩の上で手足をばたつかせてる暴れ馬をベットに横たえた。

「もう!なんで!」

不満そうに口をとがらせる。

「あいつらと酒が飲みたかったわけじゃねえだろう」

「忘れたとは言わせねェぞ」

横たえた牧野の身体を真ん中に両腕をついて見下ろした。

「あっ」

短く声を発した牧野の頬が紅葉する。

「思い出したみたいだな」

やさしさを含む声を発してた。

少し開いた口元にゆっくりと唇を近づける。

夜はまだまだ長い。

そんな思いが頭をよぎってた。

 

-From 3-

ピッチリ重なった襟元。

入りこめそうで入りこめない指先。

足元だけがはだけ気味。

そそるには十分な体勢。

「くるしい・・・」

小さく牧野がつぶやいた。

「えっ?」

「ま・・って・・・」

とぎれとぎれに聞こえる声も甘く俺に囁いて煽り気味。

「待てねェ・・・」

少し開いた唇からそっと舌を絡め取る。

ようやく離した愛しい唇。

息も絶え絶えに唇が形を変える「パス!」

パス?

パスって・・・

なんだ?

なにをパス?

ボールはねェし・・・

キスのパスなら問題ねぇ。

キスしようとしたらそのpassじゃないとはねのけられた。

「息苦しいの・・・帯で胸を締め付けられて・・・」

帯・・・

さっきの総二郎とあきらの小芝居じゃねえが、帯をクルクルって回してほどく場面が浮かんで消えた。

「ほどいてやろうか?」

緩む頬を引き上げるのにこんなに苦労したことはない。

「いい!自分でする!」

警戒したように牧野がベットの端に飛んだ。

どっちにしても俺にはおいしい話。

ひょうたんから駒。

棚からぼた餅。

でも・・・

どうせなら和服を脱がせる楽しみ味わいたい。

襟元を乱してそっと手を差し入れる。

乳房に触れる指先も狭い空間で密着度を増していく。

はだけた襟元。

露わになる太もも。

擦れる衣ズレ。

いつものシチュエーションとは違った楽しみ。

妄想が先走りして俺を煽る。

「なあ・・・牧野」

振り向いた視線の先・・・

・・・

・・・・・

!?

「あー楽になった」

「着なれないものはダメだね」

Tシャツに短パンて・・・

速攻着替えてた。

帯をほどいて、はだけて露わになった素肌。

緩んだ襟元・・・

ーーーーーどこだーーーーーー!

落差に思わず落ち込んだ。

こうなれば妄想より現実と気を取り直す数秒の格闘。

考えるまでのない結論。

「牧野・・・」

身をよじってガシッとしっかりと柔らかい体を抑え込んでいた。

続きは 花に嵐のたとえもあるが・・・ 8 で

これから、これから・・・

バカンスはまだまだ続く~