第2話 抱きしめあえる夜だから 1

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-From 1-

披露宴からの落ち着きをようやく取り戻したころ、噂の主の一人は短期出張だと日本を離れた。

それは結婚後初めてのこと。

さびしくないか?

俺がいなくて大丈夫か?

仕事いけるか?

寝れるか?

食事できるか?

なにかあったらすぐに帰ってくるから!

いったい人の事を何だと思っているのか・・・

矢継ぎ早に口から飛び出す言葉はどう聞いても私の事が心配でしょうがないあいつの心。

さびしくないよ。

一人でも大丈夫。

仕事も行ける。

一人寝も問題ない。

食事なんてほっといてもお腹が鳴って教えてくれる。

仕事を放り出して帰ってきてという我がままを言える訳がない。

側にいないと心配だと見つめられる瞳の中にあふれる思い。

胸がキュッと鳴った。

そこまで心配されるような危機感はないと思うのだけど。

他人に聞かせられるものではないと苦笑する。

が・・・

心の奥底ではいつも求めてる。

離れたくないと・・・

「いったい何日離れるつもりでいるの?たった1週間だよ?」

弱くなりそうな心を奮って強気で言った。

「7日は長い」

愚痴ぽく道明寺は口を尖らせる。

いつもの自信満々の強気が影をひそめて道明寺ホールディングス代表の威厳はオフィスに忘れてきたようだ。

だから・・・

きっと私は強気でいられる。

屋敷を出てからもこの調子で落ち着きなくて・・・

1週間分抱きしめあおうって車の中で抱きつかれた。

出張が決まってからどれだけ迫られたことか・・・

この調子じゃこれ以上の出張は私の体がもたない。

1か月分は抱き合った様に思えるのだけど、道明寺に言わせればまだ足りないらしい。

西田さんも出来るならついてきてもらった方がいいのでは、なんて珍しく弱気な言葉を漏らしてた。

「浮気すんじゃねぇーぞ」

最後に言って道明寺が私を抱きしめた。

それが一番心配なんでしょうと顔をしかめる西田さん。

「そんな心配いりません」と断言する西田さんに道明寺は背中を押されて搭乗口に消えていく。

浮気する体力も気力も残ってないよ。

あっても出来るはずがない。

子供みたいに甘えてすねて私を抱きしめるその腕が居心地良くてしょうがない。

道明寺にベタ惚れなのだから。

雲の中に吸い込まれる飛行機を見送りながら「ホッー」と思わず口から出たのはため息。

背伸びをする様なこの感覚。

邪魔されずに仕事か出来るという開放感か?

道明寺が見ていたら雷の一つでも落とされかねない。

1週間も会えないのは久しぶり。

道明寺の言う様にさびしい気持ちがないと言ったらウソになる。

別れてからまだ数分も経っていない。

さびしくなる気持ちを押し込んで迎えの車に乗り込んだ。

道明寺ホールディングス本社ビル。

エレベーターの前で上りのボタンを押して待つ。

な・・・なに?

東西南北に張り付く屈強な男達。

これって道明寺の特権じゃないのかぁ?

普段仕事場でSPに守られることはないんですけど・・・

背伸びをしても見えるのはダークグレーの背中だけ。

息苦しさが私を襲う。

「なんなの?」

「司様の御命令です」

答えてくれたのは顔なじみのSPさん。

もしかして・・・

事務所の中まで付いてくる?

SP付きの弁護士なんて仕事になる訳がない。

「困るっ!」

思わず叫んだら「私達も困ります」と返されて固まった。

道明寺のやつーーーーーー。

これで安心だとニンマリしているあいつの顔がプカっと浮かぶ。

邪魔にしかならないよーーーーッ。

困惑気味にまわりのSPを眺めているとエレベーターが到着してドアが開いた。

いくつもの瞳が目の前の状況を把握しようとして視線が交差する。

私の顔は登録済みのはず。

それでも今までは一言、二言言葉を返す余裕もあった。

顔見知りの社員も私を見つめてサッーと戸惑いの色を浮かべてる。

エレベーターの中からそそくさと慌てたように頭を下げて社員が飛び出した。

完全に屈強な男たちの無言の脅迫だ。

「さあどうぞ」と促されても乗れるものではない。

・・・

・・・・

・・・!

ドアの閉まらないエレベーターの前に立ちすくむ。

私が乗らないとエレベーターが動きだしそうもないから仕方なく乗り込んだ。

私一人をとり囲むようにSPも乗り込む。

気まずい空間。

どうみょうじーーーッ!

もう一度心の中で叫んでサンドバック代わりに頭の中でバキバキとパンチを繰り出していた。

-From 2-

「どうなってるんだ!?俺、ボディーチェック受けたぞ!」

「ここ事務所だよな?」

甲斐さんが慌てふためいた感じで私の隣のディスクにつく。

「つくしちゃんにボディーガードがついたみたい」

後ろを見るように玲子さんが甲斐さんに指で示してる。

甲斐さんが何気ない視線を壁際に向けてギョッとなった。

屈強な長身のガタイのいい男が約二名目を光らせているのだから当たりまえだろう。

こんな光景のオフィスなんてある訳ない。

周りに迷惑この上ない。

この状態を招いてる張本人が目の前にいないことが恨めしい。

「どういうこと?」

小声で甲斐さんが私に耳打ちする。

ヌーツと私たちの間に割って入るSPに甲斐さんが慌てて椅子を横に移動させた。

「コホン」

自分を落ち着けるために咳払いを一つ。

「ここは大丈夫ですから外で待っててもらえませんか?」

「ビルのセキュリィティーは万全と聞いてますけど」

道明寺の警護でも部屋の中までは付き添っていないはずだ。

会社内で警護される理由は何一つない。

「つくし様に近づく異性は排除しろと・・・」

「ここでは同僚だけでしょう!」

心配な事はそっち系統!?

どれだけ私がモテると思ってるのか・・・

モーションかけられた思い出は道明寺くらいしかないのだけれど・・・

あっ・・・それと花沢類か・・・

モテる割合で言ったら心配なのは道明寺の方じゃないのかぁーーーーッ。

怒りを通り越して恥ずかしさが全身を包んでいる。

「あなた達も男性だよね?異性じゃないの?」

「ある事、ない事を道明寺に言うという手もある」

・・・

・・・・・

困惑顔のSPが顔を見合わせる。

「分かりました。部屋の前で警備させてもらいます」

事務所から廊下に出て行くSPにホッと胸をなでおろす。

「代表が出張でいないんだって・・・」

「心配してSPつけられたみたい」

「へぇーすげー」

甲斐さんと玲子さんが額を押しつけるように私の横で会話を始める。

「本当に困ってるんですから!なにを考えてるんだか、頭にきますよ」

「それだけつくしちゃんのこと大事にしてるって事でしょう」

「ま・・あ・・・そうかもしれませんけど・・・他にやり様があるってものでしょう!」

愚痴る相手がいない分、私の怒りは蓄積されつつある。

空港でのやりとりも胸がキュッとなった思いも今は心の奥底に沈んでしまってる。

このまま道明寺の思惑どおりに監視される生活は癪に障る。

普段出来ない様な事この1週間でやると言うのはどうだ!?

結婚前の生活に戻って自由気ままに時間を満喫。

それにはSPは邪魔な存在だ。

なにか良い手はないものだろうか・・・

頭の中でシュミレーションが活発に動き出していた。

-From 3-

今日の話題は『私とSP』。

ドラマの題名じゃないのが悲しい現実。

「司君にも困ったものね」

まあ仕方がないかなと半分呆れながらも需要している雰囲気で岬所長にため息をつかれてた。

私が警備されているのが異性が近づくのを阻止するためだと岬所長が知ったなら完全にあきれ果てられるはずだ。

これだけは絶対言えないと妙な決心。

食堂でも張り付かれてた。

食べた気がする訳ない。

私たちのテーブル周辺は誰もよりつかなくなっている。

SPが見守る中で食べてるのは530円の焼き魚定食。

どう見てもセレブじゃない。

雰囲気違うよなぁ・・・。

一緒に食事をしている甲斐さんと玲子さんは「こんな体験できないよね」とおもしろがって笑ってる。

これが1週間も続くなんて考えただけで気が滅入りそうになった。

さすがに化粧室の中まではついてこないけど・・・。

女性の個室の前で警備する男達・・・。

やたら注目を浴びている。

「なにかいい方法ありません?」

「私に聞かれてもね・・・経験ないし・・・」

「私もこんなのありませんよ」

「久しぶりにゆっくりできるかなと思っていたのに・・・」

「あら?代表がいたらゆっくりできないの?」

「そんな訳じゃないですけど・・・」

玲子さんの意地悪な質問に思わず顔が熱くなる。

「まあ自分だけの時間はたっぷりあるわよね」

「あんなのが張り付いていたらどうにも落ち着きませんよ」

言いながら心の中で泣けてきた。

「そんなの簡単じゃない、まけばいいだけでしょう」

軽い調子で玲子さんがノリを見せる。

やたら自信ありげな表情。

警備の専門家から逃げ切れるのかぁ?

疑い深い目で玲子さんを眺めてた。

「今日は午後から一緒に裁判所でしょう?」

「さすがに裁判所の中ではSPはついていけないだろうし・・・」

「女性しか入れない場所もある」

「逃げだすチャンスはあると思うんだけど?」

私の視線に気分を害することなく玲子さんはにっこりとほほ笑む。

なるほど!

そうか!

確かに言われればそのチャンスはありそうだ。

頬が緩んで笑みがこぼれてた。

「ところで一人になってなにがしたいの?」

えっ・・・

私はなにをする気だったんだ?

単に道明寺の仕打ちに反抗心が燃え上がったいただけで・・

実はたいしたことを考えてる訳ではなかった。

普段出来ないことをやる!

大雑把な妄想!何気な思考!

仕事の後、帰りつくまでの時間を楽しむ。

いつもは運転手つきの車での送り迎えでそんな楽しみもなかった。

仕事以外で話をするのは道明寺に・・・

運転手の里井さん・・・

御屋敷の使用人にタマ先輩。

大半が道明寺なんだけど。

同世代の女の子とたわいないおしゃべりを楽しむ。

それはいつのことだったか・・・

フッと浮かぶのはそんなもん?

相手も優紀しか浮かんでこない。

たいしてやりたいことがある訳ではないと気がついた。

「そこまでは考えてませんでした・・・」

言葉尻が小さくなってしまってた。

「つくしちゃんらしい」

「それじゃあ、女どうしで交流を深めるって言うのはどう?」

クスクスと玲子さんの口元から笑いがこぼれ出していた。

続きは 抱きしめあえる夜だから 2 で

第1話100万回のキスをしようの続編的お話です。

区切りがいいので話が一段落したところでこちらでの続編となります。

これからのお話もたわいないつかつくの会話が主流となるかと(^_^;)

お付き合いをよろしくお願いします。

拍手コメント返礼

リゲル様

司の独占愛、束縛愛まだまだ続きそうですが(^_^;)

これもしょうがないといことでしょうか~

塚原様

ご訪問ありがとうございます。

ワクワクドキドキとこの先も楽しんでいただだけたらうれしいです。