第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 6

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-From 1-

バイト二日目、何事もなく終わる。

今日の日記にはそう書いておこう。

考えてるのは道明寺の事ばかり。

会いたいけど会えないつらさ・・・

なんて甘いものじゃない!

どう会わないで、連絡取らずに道明寺をやり過ごすかそればかり考えている。

今日の携帯の道明寺からの着信歴22回。

今までで最高だよ。

「今どこ?」

「なにしてる?」

「一人か?」

全部、大学で勉強中と答えてた。

道明寺の束縛感はまだ西田さんの姪に対する疑惑は消失してない感じだ。

会社の同じフロアーで携帯をかけられたりしたら一発でばれてしまう危険性を含む携帯着信音。

念のためマナーモードに変更する。

ブルルルルル

手の中で震える携帯に驚いて落としそうになって慌てて携帯を握りしめる。

電話の主は西田さん。

「今、大丈夫ですか?」

「はい大丈夫です」

「今朝は危なかったですね」

全く危なげない落ち着いた音程のない声で言われても実感がこもっていない。

助かりましたと一言だけ礼を言った。

「それより道明寺の携帯の着信がすごかったんですから」

「さすがに私でも坊ちゃんの携帯を取り上げることはできませんから」

つれなくかわされた。

「急いだ方がいいと思いまして、別な部署を準備しましたので明日はお迎えにあがります」

「ついでに坊ちゃんは明後日まで本社には出社出来ないように追い払っておきましたから」

追い払ったって・・・

うるさいハエでも軽く追い払ったかのような言い様に笑うに笑えない。

「支社の方に出社するように仕事を作りました」

どうせなら明後日と言わず2週間には出来なかったものだろうか。

道明寺が知ったらただでは済まないような考えがチラッと浮かぶ。

「本社の方もそう長くは留守に出来ませんので2日が限度で・・・」

私の考えは西田さんには筒抜けらしい。

ドキッと強張る私の心を置き去りに西田さんの携帯は切れた。

あくる朝西田さんのお迎えで一緒に本社ビルに出社。

西田さんは道明寺についていかなくていいのだろうか?

「坊ちゃんには第2秘書がついています。この後に私も合流しますので心配はいりません」

やっぱり西田には私の心を読まれてる節がある。

「つくし様も、坊ちゃんもすぐに感情が顔に出るので楽です」と西田さんが口元を少し緩める。

「ことお互いのことととなると」と付け加えて元の顔に戻った。

コンテをゴロゴロと押して会社内を回る。

回るのは清掃と変わりがない。

部署を回って書類を預かったり届けるメッセンジャー

「部署のつながりが解かりますよ」と簡単な説明を西田さんが告げる。

「でもこれではやっぱり道明寺に気がつかれませんか?」

「坊ちゃんの眼は掃除婦しか追ってないでしょうから」

「その辺は単純で助かります」

完璧な経営者の威厳のオーラーを振りまく道明寺を単純と位置付けた西田さん。

確かにそんな感じはすると納得した。

総務部の次は営業部?

ビル内の案内図を片手にグルグルと回る。

「つくしちゃん~」

呼び止められたのは加川さん。

「ひどいじゃない掃除婦やめるなんて」

「・・・西田のおじさんの指示なんです」

「仕事は変わっても私はつくしちゃんの味方だから」

ギュっと手を握られてぶるぶると握手で手を上下させる。

味方ってなんの味方?

意味が解からない。

味方される覚えはなにもない。

「西田さんに聞いたんだよ」

聞いたってなにを?

「あんたも苦労してるんだね」

加川さんが涙目になっている。

いったいなにを西田さんが喋ったのか状況がまったく見えずにキョトンとなった。

泣かれる理由なんてあったか?

道明寺との仲が認められるまでは泣きたくなるようなことはたくさんあったけどそんなことを西田さんが喋るとも思えない。

いろんな仕事を経験させたいのでと西田さんは加川さんに私が今日から別な部署にいくことを説明したらしい。

「西田さんの姪ならもっと楽な仕事を選んでやればいいのにねぇ」

「そう思ったら私はピンときたのよ」

「つくしちゃんいじめられてるんじゃないの?」

「えっ・・・それはないと思いますけど・・・」

「そこをそう思わないのがあなたのいいところよ」

「私が救ってあげるから」

別に救ってもらう必要はないんですが・・・

ここはうちの息子と結婚してなんて言い出して一人で悦に入っている。

どこからそこまで話がブッ飛ぶのか。

息子さんに彼女がいないのはこの母親のせいだったりしてと思えてくる。

結婚てねぇ・・・・

「・・・」

「・・・・・」

「結婚!」

「うん、そう」

加川さんがにっこりとほほ笑んだ。

-From 2-

なんとか2日目でビル内の構図を把握することができた。

ビル内を心配せずにウロウロ出来た御蔭だ。

それも明日までかと思うと身が縮む。

道明寺・・・

明後日にはこのビルに戻るんだよなぁ・・・。

それまでに加川のおばさんを諦めさせないと!

プルッとポケットから響く振動音。

最近めっきりかかってくる回数が減った花沢類からのものだった。

「もしもし、珍しいね」

「そうだっけ?今大丈夫?」

久しぶりに聞くやさしい響き。

午前中の加川さんのしんどいオシも忘れて機嫌が上向く。

「今なにやってるの?」

「なにって?別にたいしたことはやってないけど・・・」

「司から俺に連絡があった」

その一言で次の返事が出来なくなった。

「牧野が大学にいるだろうから様子見てくれって言われたんだけど」

「牧野・・・昨日から大学来てないよね?」

「それ道明寺に言った?」

「まだなにも言ってないよ。様子を見る約束はさせられたけど」

携帯の向こう側で花沢類がクスッと笑う。

こうなると花沢類には味方についてもらうしかない。

本当の敵がいる訳ではないが無事にバイトが終わるまでの不安材料は目白押しの状態だ。

「・・・訳ありのバイトしてて・・・」

「司に内緒な訳?」

それだけで大体の察知はついてる花沢類の雰囲気。

「携帯では全部話せないんだけど・・・」

なんとなくそれだけで気がゆるんでホッとしている自分がいる。

「もうバイトは終わったの?」

「うん、もう帰るところだけど」

「今どこにいる?」

「道明寺の本社・・・ビル・・・」

「バイト先ってそこなの?」

「まあ・・・ね」

「待ってて迎えに行くから」

そう告げられて花沢類の携帯が切れた。

道明寺本社ビルの前で花沢類の到着を待つ。

その斜め前方5メートルにヤバそうな人を発見した。

見つかったらなにを言いだされるかわかったもんじゃない加川さん。

その側に男性が駆け寄ってきた。

すらっとした細みの長身。

スーツ姿も様になって小顔に均等に整列している目鼻立ちはハンサムの分類に入りそうだ。

なんとなく加川さんに似てると気がついた。

息子?

もしかして呼び寄せた!?

視線がぶつかる私と息子。

ゲーーーッ!

見つめすぎてたか!

思わずクルッと背中を向けて歩き出す。

でもここから遠くに離れる訳にはいかないわけで数歩歩いたその先の街路樹の陰に身を隠す。

振り向いて確認するさっきの前方付近。

今度はしっかり加川さんと視線がぶつかった。

「つくしちゃん」

呼びかけられた名前の後には♪マークが張り付くテンション。

飛ぶようにやってきた加川さんに腕をつかまれ引っ張られ息子の前まで運ばれた。

「うちの息子、拓斗って言うの」

「この子が牧野つくしちゃん、かわいいでしょう」

完全に仲人気分で加川さんが喋り出している。

「すいません、母が勝手なこと言って」

「いえ・・・」

戸惑ったまま感情を押し殺して小さく答える。

息子は意外とまともに話が出来そうだ。

「つくしちゃん、うちの息子がカッコイイからってそんなに照れなくていいのよ」

「照れてなんかいません」

言った私の言葉なんか聞いてないのいつもの調子の加川さん。

「これから3人で食事なんてどう?」

食事って・・・

ここまで勝手に物事を進められると怒りを通り越してあきれてしまってる。

断ろうと深呼吸。

「牧野」

後ろから花沢類が救世主のように現れて笑顔が浮かぶ。

「すいません、予定があるんで、この人と」

ばたばたと花沢類の腕に自分の腕を巻きつける。

少しよろける感じで花沢類が私の横に並んだ。

「この人、彼氏なんです!」

咄嗟に口から出た自分の言葉に自分で言って驚いた。

花沢類の腕をつかんだ手のひらにも力が入る。

この状況を察知したように花沢類がすぐに「よろしく」とにっこりとほほ笑んでくれた。

「行こう」

半信半疑の加川さんに背中を向けて花沢類と腕を組んだまま街の中へ早足で逃げるように歩いていた。

続きはないしょ?ないしょ!ないしょ!? 7

花沢類の登場予定はなかったのですがmebaru様のリクエストを受けて急きょ登場させることにしました。

これで話の続きが予定とはずいぶんと変わって脚色。

う~んどう終わらせるかなぁ(^_^;)

拍手コメント返礼

edeak様

毎日の更新はもう日記みたいなものですね。

お気づかいありがとうございす。

掃除婦しか追ってない司君、見破れるのか?

続きお楽しみに♪

マリエ様

脱帽するにはまだまだですよ♪

今回の展開はいかがだったでしょうか?