第2話 抱きしめあえる夜だから 14
*-From 1-
「遅くなるのご連絡ですか」
渋々と切った携帯を眺めて正面に椅子を向ける。
そこには待ち構えたような西田のまなざし。
全部把握済みという態度はいつもの事。
きっとつくしのスケジュールも俺のスケジュールの横に並んで手帳の中に書きとめてありそうだ。
「良かったですね、仕事が増えても問題なさそうだ」
きっと最初からその考えあっただろうと苦笑する。
「夕方の会食はつくし様の会場と同じホテルで予約を入れています」
こんなところは抜け目がないと言うか俺を喜ばすツボは心得ている。
これだから西田には頭が上がらない。
確かに仕事ははかどりそうだ。
書類にペンを走らせる俺に頭を下げて西田がパタンとドアを閉めた。
夜7時を過ぎた頃、会場のホテルへと向かう。
ロビーには固そうな連中がチラほら見える。
こいつらが弁護士連中か?
やけに男が多いじゃないかと不機嫌になる要素を見つけてつくしの姿を探す。
最初に俺に気がついたのはつくしの同僚。
教えられたつくしが俺をようやく見つけて顔をほころばす。
かけて来て「なにしてんの?」と困惑気味に口を開いた。
「俺も仕事、帰りは待ってろ」
照れくさそうにコクリと頷くつくしに満足する俺。
「じゃあ、後で」ふりむきながら同僚のもとに戻るつくしに手を挙げて答える。
同僚と会場に入って行くつくしをしばらく見つめてた。
・・・
・・・・・
あいつ・・・
見覚えあるぞ!
松岡公平!
司法研修の時つくしと一緒にいた奴。
つくしに惚れていて、俺につくしが好きだと宣言したんだよな!
あいつがここになんでいる!
いても不思議じゃないんだが・・・
今、あいつつくしの肩に手を置いたぞ!
触るんじゃねぇッ。
閉ざされるドアの向こうに俺の心の叫びは届くはずもない。
つくしもつくしだ、声かけられて驚いてほほ笑んで・・・
俺以外の男にそんな顔を見せんなよ。
気にくわねぇーーーッ!
会食中、気が気がじゃなくて・・・
落ち着かず・・・
西田に何度か視線で諭される。
なんとか無事に切り抜けて会食が終わった。
すぐにつくしの会場へと向かう。
まだ終わってないらしい。
会場前のソファーにドカッと腰を下ろす。
腕組みして会場のドアを睨みつける。
俺の雰囲気にSPまで遠慮して近づかない。
頭の中に浮かぶのはさっきの松岡公平に向けられたつくしのうれしそうな笑顔。
ただの嫉妬だと分かっていても不機嫌さは時間とともに増倍して止めようがなくなっていた。
-From 2-
会場の舞台には某有名タレント弁護士が上がって熱弁をふるってる。
それを聞いているのか聞いてないのか・・・
あちらこちらで名詞が飛び交っている。
就職先の品定めと久しぶりに会った松岡公平が教えてくれた。
私の場合この調子だとそのまま岬法律事務所にお世話になりそうだから焦る必要はなさそうだ。
いいところに就職したいイソ弁には大切な場らしい。
道明寺がうるさくて面倒見切れないと岬所長に拒否されたらどうしよう!
一抹の不安。
そんなことは考えまい。
一緒に来た玲子さんと甲斐さんが私のお守をかってくれている。
悪い虫がつかないようにと冗談じゃない様な心遣い。
大学の同窓生だと公平のことを紹介した。
「これじゃぁ代表も気が気じゃないわね」
玲子さんは意味深な視線で公平を観察してる。
「バカな勘違いしないでくださいね。公平はただの友達なんですから」
真っ向から否定して慌てた。
「俺がつくしちゃんと話してるだけで殺されそうな視線を代表には送られるんですけど」
それで済むのか~と、甲斐さんが完全に私を脅す構えを見せる。
「ベタ惚れですからね。道明寺さん」
同意するように公平まで頷いている。
「俺からつくしに声かけてるの見られたらぶん殴られるかな?」
ククと笑って公平がニンマリする。
「笑ってられないかもしれないよ」
「代表も仕事でこのホテルにいるみたいでさっきつくしちゃんに会いに来てたもんなぁ」
甲斐さんが公平の肩にポンと手を置いた。
「ラブシーン期待してたんだけど俺、今朝みたいなやつ」
「会社の前ではキスなんてしてません!」
言って思い出すのはピンクの口紅をつけた道明寺。
この話題をここまで甲斐さんに引っ張られるとは思わなかった。
強気で言って赤くなるなんて私もまだまだだ。
この二人にかかったら結局未だに遊ばれて楽しまれてしまってる。
嫌みがないから怒るに怒れなくて始末が悪い。
なんだかんだと笑い合って料理を食べた。
なんの勉強会だったのか・・・
ただ久しぶりに公平に会えたのは楽しかった。
う~っ
今週は道明寺から離れたお付き合い。
なんだか気が軽くなる。
この付き合いは捨てがたい。
思う私は未だに庶民感覚を捨てきれずに楽しんでいる。
お開きになってぞろぞろと4人で入口へ向かう。
ドアを開けたすぐその前のソファーは異様な雰囲気。
道明寺が腕組み足組み、その四方向には近寄りたくない雰囲気のSPが警護中。
SPの一人の顔なじみがすまなそうな視線を私にながす。
道明寺の不機嫌の原因・・・
なんなんのよーーーーーッ。
道明寺の視線は私を外れてその後方後ろに集中砲火中。
・・・公平?
そのまんま道明寺が近づいてきて視線を公平から外すことなく私の肩を乱暴気味に抱き寄せた。
「帰るぞ」
「そ・・・それじゃぁ」
戸惑い気味にそれだけ言って道明寺に連れられて歩く。
「つくし!後期の修習で会えるの楽しみにしてる」
後期修習・・・
道明寺に対抗するように言って公平がニンマリとする。
わざと嵐を作ってないかぁぁぁぁぁぁ。
何の仕返しのつもりなんだ!公平の奴!
後期の修習まではあと五カ月ほどある。
まだ先の話なんだけど・・・
後期の修習が始まれば二カ月はまた別居生活なのだ。
不安を凝縮して道明寺をそっと見上げる。
「行かせねェえ!」
完全にへそを曲げた感情丸出しで睨まれた。
続きは抱きしめあえる夜だから 15で
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