進の姉貴夫妻観察日記 6(抱きしめあえる夜だら 番外編)

 *

翌朝6時。

なぜか早めに目が覚めた。

眠れた様な眠れなかった様な感覚。

まぶたの重さはやっぱり寝不足を示してる。

洗面所でバシャバシャと眠気を吹き飛ばす様に顔を洗う。

「おはよう」

リビングに顔を出すとすっかり身支度を整えた姉貴の機嫌のいい笑顔がそこにあった。

「お・・・おはよう」

なぜか照れてしまう俺って・・・

やっぱり昨日の妄想を引きずてしまってる。

姉貴の機嫌がいいの義兄貴のせいか?

あーーーーーーッ!

また妄想が独り歩きしてしまいそうだ。

冷蔵庫からお茶をとりだしてごくっと一気に飲んで身体を冷やす。

それと一緒に頭も冷やした。

オヤジは居間で新聞を読んでいる。

おふくろと並んで台所に立つ姉貴。

その姿をボッとテーブルに座って眺める。

この二日間おふくろがうれしそうで楽しそうなのは姉貴の影響。

僕もこうして姉貴とすごせたのはうれしいんだ。

僕には兄貴が出来てオヤジとおふくろにもう一人息子ができた。

とてつもない兄貴と息子だけどね。

世界に君臨する企業のトップ。

その兄貴が姉貴の前ではデレーッとなるのがうれしいんだ。

今だに信じられないけど。

ドタドタと響く階段の音。

焦って現れた道明寺さんが姉貴の「おはよう」の声に表情がゆるむ。

ほら、デレーッとなった。

僕の表情も緩む。

「トントン」と響く小気味よいマナ板の音。

何の音か分からず辺りを見渡す道明寺さんがおもしろい。

世間一般の日常も道明寺さんには初めての体験だろう。

どんな気分なんだろう。

以前うちに来た時は俺んちのトイレより狭いとか、靴はいたまま畳の上に上がったもんな。

「マナ板の音だよ」

僕の声にようやく納得して台所の方に視線を向けた。

テーブルの上に並べられたご飯に味噌汁、卵焼きにきんぴら納豆。

いつもより豪華な朝ごはん。

ただ一人の反応が心配で箸もつけずにじっと待つ。

「うまい」

その一言で場がなごんで笑いが起きた。

一番うれしそうな表情を見せたのは姉貴。

道明寺さんが僕ら家族になじんでくれたのがうれしかったのだろう。

「姉貴良かったね」

心の中でつぶやいた。

帰り際。

家の前に横付けされた黒塗りの車が二台。

後方の車からは数名のダークスーツと大男。

何事かと隣人はカーテンの隙間から覗いてる。

数軒先は道路の出て来て野次馬状態。

目立っているわが家。

その中で人目もはばからず抱き合う姉貴とおふくろ。

横でオヤジは涙目って・・・。

姉貴が強制的に拉致されるみたいじゃないか。

誤解されるぞ!

近所のいい訳考えておかなくっちゃとフッーとため息。

車に乗り込んだ姉貴夫妻は見えなくまで手を振っていた。

必ず帰ってきてと祈りを込めて僕は見送った。

あっ!出戻りはダメだけどね。