進の姉貴夫妻観察日記 7(抱きしめあえる夜だら 番外編)

 *

姉貴夫婦を乗せた車が見えなくなってもボーッしたまんまの僕ら家族は放心状態。

「夢みたいな二日間だったね」と僕が言えば「最後の夜はしんどかった」とおやじがつぶやく。

「楽しかったね。また帰ってこないかなぁ」

一人ルンルン気分なおふくろ。

そこに好奇心を貼り付けた顔で隣のおばさんがやって来た。

「娘夫婦が来てたの」

聞かれる前にしゃべりだす母。

相当うれしかったんだとわかる母のしゃべり方。

あんまりしゃべんないほうがいいんじゃないのとおやじと顔を見合わせる。

「へぇ~あれが話に聞いていた娘さん」

「どっかで見た顔だと思ったのよ」

おばさんの声も高音にに響きだす。

道明寺さんほどではないが『牧野つくし』の名前は全国区。

その両親がここに住んでることは母と仲の良い隣のおばさんぐらいにしか話していないはずだ。

高級外車数台が道中を占領しカリスマオーラ全開の道明寺さんが人目を引かないはずはない。

しばらくは我が家は噂のネタになりそうだ。

そのそばから聞こえてくる話声。

「道明寺・・・」

「うそ!」

「ヤダ!生見た!キャー」

・・・て黄色い声。

「もう少し若かったら」

言ったのはどう見てもおふくろと変わらぬ年齢層のおばさん。

若いからってどうなるものでもないと思うんだけど・・・

落ち着いたら「どうしてこんなところに?」と冷静な判断が飛び交ってきた。

「奥さんの実家が・・・」

「牧野・・・」

「うそ!」

「ヤダ!キャー!」

さっきと同じ言葉が飛び交った。

言葉に込める色合いは黄色から色を変えているけど。

これから僕らは静かに暮らせるのだろうか・・・。

姉貴よりはましだと思うけど・・・。

「今度サインもらって」

あ~あしょうもないこと頼まれてるよ。

「いや、無理です」

必死に断るおやじ。

結局色紙を受け取った。

アイドルじゃないぞ日本有数の経済人。

サインさせる気かバカ親父!?

おやじの頼みじゃ道明寺さんも無下にできないだろうけど。

今度帰ってくるときは目立たぬように帰ってきてーーー!

切にそう願う僕だった。