第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 20

 *

-From 1 -

「いけないねぇ」

はぁ?

「友達の恋人が好きになるということはままあることだけど」

「いくら友達でも花沢の坊ちゃんに悪いですよ。つくしちゃんも嫌がってる」

憐れむような眼でこの俺が見つめられている。

「ど・どう・・・みょうじ、苦しい・・・は・・なして」

息が絶え絶えになるくらい牧野の首絞めていることに気がつく。

「すまん」

おばはんの指示に従う訳ではないが慌て腕の力を緩める。

でも牧野は離れないように腕をまわしたままおばはんを睨んだ。

「勘違いすんな、もともと牧野と類は何の関係もない」

「関係ないは、ないよな」

「あっ!類!お前わざと事をややこしくす・・る・・・き・か・・」

お前!落ち着いてなに食ってるんだ!

振り向いた視線の先でつくしの座ってたベンチに腰かけ重箱から唐揚げを頬張る類。

状況把握しろ!

「なに落ち着いて人の弁当食ってんだ!そんな場合じゃないだろう」

「今なら食べても司に邪魔されないと思って」

ふざけんな!

「花沢の坊ちゃんの方が冷静だ」

「確か代表は婚約したお嬢さんがいらっしゃるんですよね」

「他の女性に目移りしてる場合じゃないでしょう」

「だから!こいつが婚約者だ!」

俺が叫んだと同時に重なるように響くつくしの声。

「すいません!」

いきなり俺の声と牧野が重なった。

こんなとき高音のほうが耳に響く。

俺の叫びはかき消された雰囲気。

「私嘘ついてました。その・・・花沢類とは友達で・・・恋人じゃないです!」

思わぬ牧野の告白にさすがのおばはんも言葉を失う。

「私が付き合ってるのは本当にこっちの方で・・・」

牧野が俺の腕に指を絡める。

「あの時は本当のことが言えなくて、それで花沢類に頼んで・・・」

「そしたら話がややこしくなっちゃって・・・」

消え入りそうな声になっている牧野。

俺は牧野から腕を組まれただけで・・・

天にも昇る気分とはこのことか。

類!弁当全部食っていいぞと言いたくなった。

「つくしちゃんの彼氏が道明寺の代表で・・・」

「花沢の御曹司は友達で・・・」

「・・・もしかして代表の婚約者がつくしちゃん?」

頷く俺に心なしかおばはんの顔も青ざめる。

「それじゃ・・・全部私のしてきたことは無駄だったってこと」

力なく弾みの抜けたおばはんの声。

「いや~まいった」

「やだなぁ、会長にまで花沢の坊ちゃんとつくしちゃんがうまくいくように頼んだのに・・・」

会長ってお袋?

そんなこと一言も言ってなかったけど・・・。

お袋は無言の時が一番性質が悪いんだ。

変なこと企んでいたらどうする!

ったくあきれるよ。

「や~あ、あははははは」

今度はあっけらかんとおばはんが笑い出した。

このおばはんの立ち直りの早さは真似できねっ。

「あら、私としたことが、すいません」

最後は逃げるようにそそくさと立ち去っていく。

慌て過ぎて転びそうな勢い。

すれ違う奴にぶつかって尻もち着いている。

気が晴れて「ククッ」と笑いが漏れる。

これであのおばはんにかき乱されることもないだろう。

「もう本当につかれた」

牧野が俺の座ってたところに座り込むようにベンチに腰を下ろす。

弁当をはさんで並んで座ってるのは類。

類は指でつまんでリンゴを食べている。

ほっそりと二つ赤い皮を残したウサギの耳の形にうさリンゴ。

耳を残してパクと食べた。

「きゃー」と聞こえたのは悲鳴に近い叫び声。

類でこれなら俺ならどうなる?

それよりこのまま勝手に類に食べ続けさせるのは許せない。

さっき食べてもいいと思ったことは撤去した。

「類!どけ」

「なんで?」

「俺が座れねえだろうがぁ」

「牧野の横、空いてるよ」

類が視線で示す残されたベンチのスぺースは20センチ程度。

座れねーよ。

心の中ではき捨てて類を蔑視する。

「大丈夫だよ、牧野を司の膝に座らせれば」

当たり前のように言って俺を見上げる類。

俺の膝の上に牧野のおしり・・・。

やわらけぇよな。

恋人の雰囲気丸出しだし!垂れ流し!

弁当を食べるのには無理があるがこの際弁当なんてどうでもいい。

感触を思い出して思わず緩む頬。

「冗談」

慌てて牧野が立ち上がる。

とってつけたようないいタイミング。

するっと牧野の横に身体を寄せてそのまま腰を抱いて俺の膝の上に座らせる。

逃げないように牧野の腹の真中で腕を交差させる。

一斉に上がった悲鳴?感嘆符もついていそうな響き。

弁当食べるよりインパクトあるんじゃねぇか。

「パチーン」

響いたのは牧野に思い切り打たれた手のひらを音。

「テッ」

思わず緩んだ俺の腕から抜けるように牧野が立ち上がり振り向いて真っ赤な顔で睨まれた。

「類が言ったんだぜ」

「もうヤダ」

今度は膝を抱え込むように座り込んだ。

「これでゆっくりとごはん食べれるんじゃない」

ベンチにもたれてのんきにあくびする類。

「どういうことだ?」

「司が牧野を膝に抱いたの結構刺激強かったようだよ」

「遠慮したのかなぁ~」

そういってあたりにゆっくりと類は視線を移す。

「誰もいねぇ」

さっきまでのざわつきが嘘のように静まり返ってた。

「それじゃ、俺も遠慮するよ」

背中を向けて立ち去る類。

いったい・・・あいつ・・・

何しに来たんだ?

 *

-From 2-

「牧野の横、空いてるよ」

私の横のベンチのスぺースは20センチ。

子供くらいしか座れない。

重箱持てば座れるけどそうしたら私は食べれない。

立ち上がるのが妥当?

前のベンチは空いてる。

他の社員とは微妙な距離が保たれてる。

近くに寄りたいが近づけない雰囲気。

半径5メートル内には道明寺と私と花沢類。

道明寺の威圧的いや威厳?のせいか?

「大丈夫だよ、牧野を司の膝に座らせれば」

膝の上ってっ!

それでも食べるのは無理がある。

って、まだ食べることが頭から離れていない私の手には箸が握られたまんまだ。

のんきな顔で冗談言わないでよ!花沢類!

道明寺なら即行動に移してしまうよ。

もう道明寺の顔が微妙に緩んできている・・・。

なりだす警戒音。

「冗談!」

前のベンチに移動しようと立ち上がる。

・・・

足が動かない。

立ち上がったはずの腰には道明寺の腕が伸びていて・・・

そのままストン・・・

ストン?

「ギャーーーーーーーーーーー 」と、悲鳴を上げる間もなく道明寺の膝の上に収まる私のお尻。

「ぎゃー、キャー」別な場所から声が上がる。

ついでに携帯のシャッター音。

そして静けさが広がる。

立ち上がろうとする私の膝を道明寺の腕が妨げる。

逃げられない!

立ち上がれない!

どうにもなんない!

首元に触れるかすかな道明寺の息遣い。

首から上が真っ赤になりそうだ。

目の前できつく組んでいる道明寺の手のひら。

自由になるのは上腕のみ。

しっかり、思い切り手のひらめがけて振り下ろす。

「パチーン」と響く軽快な音。

いつものこぶしの「ボクッ」よりは響いてる。

「テッ」

痛そうに手を上下に振る道明寺から飛び降りて一歩大きく歩いて振り向いて睨みつける。

「類が言ったんだぜ」

確かにそうだけど、それに便乗する道明寺が一番悪い。

悪びれずにふんぞり返る道明寺はふてぶてしさ丸出しだ。

「もうヤダ」

顔を隠すように座り込む。

周りに目を向けるのが恐ろしい。

どうして屋上で食べたいなんて思ったのだろう。

道明寺だけでも許容範囲超えそうなのに、花沢類に加川さん。

きっと今日の占いは最悪だ。

「これでゆっくりとごはん食べれるんじゃない」

何気に耳に届く花沢類の穏やかな口調。

この人の場合は大体がこんなもんだけど。

焦りに慌てた様子なんて希少価値だものね。

頭を上げるとベンチにもたれてのんきにあくびをしていた。

「どういうことだ?」

右側から道明寺のふてくされ気味の声。

「司が牧野を膝に抱いたの結構刺激強かったようだよ」

「遠慮したのかなぁ~」

「誰もいねぇ」

道明寺の声に促されるように立ち上がり恐る恐るぎみにあたりを見渡す。

本当に誰もいなくなっていた。

まるで昼休みが終わったかのよう。

午後の業務が始まるまではまだ30分は残っている。

気がつくと道明寺と二人っきりで花沢類の姿は消えていた。

今のこの状況のほうがすごくはずかしい。

「邪魔ものいなくなったし食べるぞ」

羞恥心なんてこいつは持ち合わせてないのか?

「いまさら恥ずかしがるな」

「注目浴びるのは学生時代からだろうが」

まあ・・・

確かに・・・

少しは・・・

免疫はついてると・・・思う。

でも会社でこれでいいのだろうか?

私の悩みは大きくなりそうだよ。

しかめっ面は直りそうにない。

「ほら!食え!」

目の前に差し出された道明寺の箸の先には赤いタコさんウインナー。

作ったのは私だけどそれを道明寺がつまんでるなんてぇぇぇ。

予想外。

絵になるわ。

思わず「プッ」と吹き出していた。

「遠慮なく」

笑いながら差し出されたタコさんウインナーを頬張って、お弁当をはさんでベンチに座る。

「そこ類が座ってたから、お前こっちに来い」

しょうがないなとお弁当箱を持って道明寺の横に移動する。

「ほら」

「ん?なに?」

「さっき俺が・・・お前に・・・食べさせたから・・・今度はおかえし」

「はぁ?」

「お前が俺に食べさせろ」

私と目が合わないように視線を反らせて命令口調って・・・照れている?

言われたことに素直に従ってやろうと思えたのは甘えん坊の性格がかわいく思えたからで・・・

自然と笑顔になった。

おかえしにウインナをつまんで道明寺の口元に持っていく。

パクッと食べたよ赤いタコ。

「次それ」視線で次々とおかずを指定し出す道明寺。

「あーん」

雛みたいに大きく口を開けて催促。

小さい子に食べさせているみたいでくすぐったい笑いが体中を包む。

道明寺財閥の総帥の威厳はどこだ?

他の人には絶対見せないよね。

いや・・・見せられないか・・・。

その子供っぷりの変化に私が魅せられる。

時々私の口元にも道明寺の箸が動く。

周りに誰もいなくなってよかったね。

心の中でつぶやいた。

つづきはないしょ?ないしょ!ないしょ!?21

こんかいこれ幸いと弁当を楽しむ類。

ち**様のコメントから書かせていただきました。

食べさせあいの場面が見たいの要望多かったんですよね。

一応書いてみました。