第13話 愛してると言わせたい 9

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-From 1 -

考えたらこのまま自宅に送ってもらっても良かったはずだ。

気がついたら道明寺の屋敷の玄関をくぐってた。

「じゃあ、また」

花沢類はにっこり笑って私を下ろすとそのまま車で帰っていく。

気が重い・・・。

つかれた・・・。

足どりは重くなるばかり。

玄関をくぐって「ハーッ」出たのはため息。

「ようございましたぁぁぁぁぁ」

「帰ってこられて」

涙を流しそうな勢いで私を取り囲む使用人さんたち。

どうかした?

「何か・・・あったんですか?」

「坊ちゃんの御機嫌が悪くて、私たちでは・・・」

言いかけて言葉が止まる。

廊下の先に暗雲が見えている。

その影響は屋敷全体を覆っていそう。

雷の音をBGMにして近づいてくる。

そして目の前で止まった。

いつの間にか使用人さんたちは私を見捨てて姿を消している。

薄情だぁぁぁぁぁ。

この馬鹿でかい怒の噴射している道明寺を私一人でどうすんだ?

「どこ行ってた?」

「えっ?」

「類と二人でどこ行ってたんだ!」

「どこって、ドライブしてただけ・・・」

それでそんなに怒れるなんてイカレテル。

「俺の我慢も限界があるからな」

「来い」

握られて腕がキシキシと悲鳴を上げる。

「痛いッ」

すぐ横の部屋のドアを開いて中に連れ込まれた。

「何する気」

不安と恐怖を振り払うように声を強める。

「俺の心のほうが痛てぇよ」

人が変わったみたいに愁いを帯びたような瞳で見詰めたままそして抱きしめられていた。

「お前が類の車に乗り込んでいったって聞かされた時どうしようもなく焦ってそして腹が立った」

「心の中がざわ立って、波立って、そして苛立って、自分じゃどうにもなんねぇ」

わたしの頭は道明寺の胸の中にうずまった状態で耳元に響く道明寺の声。

「俺から離れるな」

切ない思いが心に染みいる。

動けなかった。

そんな自分が意外なのに私の腕は道明寺の背中をゆっくりとなぞるように進む。

そして抱きしめる。

今の自分は誰なのだろう。

今の状態が落ち着けて・・・

安心で・・・

この温もり幸せで・・・

道明寺を私の体はすんなりと受け入れている。

そんな自分に戸惑って慌てて道明寺を次の瞬間に突き放していた。

 

-From 2 -

「もう、自分の部屋に帰るから」

俺を突き飛ばして、ドタバタと走って出て行きやがった。

少し顔が赤くなってるぞ。

それがやけにうれしい。

今までなら俺の部屋で過ごした夜。

「ここにいろ」

言いたい気持ちをしまいこむ。

記憶をなくして俺を嫌ってるわりにはおとなしく俺の胸の中に顔にうずめていた。

突き飛ばすのは記憶がある時も結構やられてたから気にならない。

少しは前進してるのだろうか。

類と二人でのドライブは無性に腹が立つが、牧野を抱きしめた柔らかい感触と甘い香りに包まれる愛しい思いは以前のままで俺に穏やかな気持ちをとりもどさせる。

早く俺のことを『愛してる』と言わせたい。

記憶を取り戻すより、もう一度そんな告白されたら・・・

俺!どうなるかわかんねぇ。

有頂天!感動!絶頂!

もうなんにもいらねぇーーーーーーーーッ!

ベットの上にうつぶせて妄想にふける。

まだ遠い・・・

俺の冷静な部分が心の奥でつぶやく。

どうすっかな・・・

身体を半回転させ天井を見上がる。

牧野を抱いた満足感に浸りながらなんど一緒にこの天井を眺めたことだろう。

強情だとか・・・

生意気だとか・・・

もっと素直になれ!

それでも好きだと抱きしめたまんま眠った夜。

目覚めて照れくさそうに「おはよう」とつぶやいた初めての朝。

まだ鮮明に覚えてる。

あいつの中には何も本当に残ってないのだろうか。

俺に抱きしめられて照れて、すねて、甘えるあいつ。

胸元でつぶやく声の振動が俺の身体に伝わって・・・

それが好きだった。

二人の思い出が浮かんでは消える。

気がつくと朝になっていた。

一晩かけても思い出せないくらいの二人の時間を積み重ねてきたんだよな。

取り戻せないはずはない。

そう思いながらようやく眠りに落ちた。

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たまにはこんな司クンどうでしょう?

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拍手コメント返礼

kobuta様

記憶はなくても感覚は覚えてるつくしに司は感謝しないといけないですよね。

感謝の言葉司の辞書にあるかな・・・

けいさ☆様

指は大丈夫です。

ありがとうございます。

「愁い→憂い(うれい)」

愁い(悲しみ)憂い(心配)

この場合は愁いのほうが心情にはぴったりかと思っているのでこちらを使ってます。

間隔は変換間違いに気がついてませんでした(^_^;)。

お知らせありがとうございます。

nanaco

指は痛みがないと思って使っていると後でそのつけがきますね。

いつもよりUPのスピードは落ち気味です。

司クン切ないバージョン、遊ばれ気味の合間のカンフル剤。

時々遊びぬきの文章が書きたくなるのです。(^_^;)