第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 19

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-From 1 -

「なんで非常階段から行くの?」

「1階分の階段の距離ぐらいたいして疲れないはずだ」

階段を使うのを別に嫌がってるわけではないのだけれど。

エレベーターはすぐそこで、非常階段は廊下を直進20メートル先。

「エレベーターより階段のほうが他のやつら使わないからたぶん二人だぞ」

私の手を引っ張って先を行く道明寺が振り返ってニヤケ気味。

「少しでも二人のほうがいいだろう?」

それならあんたの部屋で食べたほうがずっと落ち着いて食べれると思うのだけど。

たどりついた非常口。

重たく響くドアの開錠音。

電燈の光がなければ真っ暗だ。

壁のスイッチを入れる道明寺にホッと安心してため息つく私。

二人っきりの暗闇に昨日から羽目を外しすぎている程の道明寺との密着度。

まさかここで押し倒すとか、壁に押しつけられるとか・・・。

何考えてるんだか。

道明寺が邪な考えを持っていたらどうしようと頭が動いてた。

これはけして願望じゃない!

「何か考えてたか?」

「顔が真っ赤だぞ」

「道明寺があんまり強く手を握って離さないからでしょう」

振りほどこうとした手をさらに強く握られて引き寄せられる。

「今はこれだけで勘弁なっ」

腕の中にすっぽり包み込まれた。

勘弁って・・・

抱きしめる事を許せということか。

ここまでしかできないことを許せと言ってるつもりなのか・・・。

どっちだ!

素直に受け入れるべきか嫌がるべきか反応が分かれるところ。

身体に命令が行く前に道明寺の腕が解かれて自由になった。

「変なこと考えてないでさっさと行くぞ」

変なことってェーーーーー。

考えていたから反論できずに赤くなる。

望んでいたわけではないからねっ。

階段を上る道明寺の背中を追いかけるように階段を走って登って追い抜かす。

逃げるように屋上に飛び出した。

突き抜けるような青空。

肌に当たる風は緩やかで心地よい。

ベンチにはちらほと先約の社員の姿。

女性同士に、気さくな感じの男女のカップルの姿も見える。

「先に行くな」

私の後ろから聞こえる声の主に反応して驚くように一斉にその方向に視線が飛ぶ。

「代表!」

「嘘!どうして!キャー!」

その声にどぎまぎしながら逃れるように空いているベンチに腰かけた。

後ろからは3段重を下げた道明寺が当たり前のような顔でついてくる。

この後私の横に道明寺が並んで座ったら・・・。

いまだに周りの視線の熱気は上昇中だ。

「キャー!やだ!何!」

道明寺が私の横に座った。

そしてすべての音が止まる。

道明寺の様子を唾を飲み込むのも忘れて視線が注がれてる感じ。

私の心音だけがドクンと脈を打ち響く。

「おい」

道明寺の顔が必要以上に近づく感じで私を覗き込む。

「どうした」

「いや~、考えていた以上の注目浴びてると思って・・・」

小声で言って膝に置いていた手はこぶしを作り自然と力が入った。

覚悟決めなきゃ。

何度自分に言い聞かせれば落ち着けるだろう。

ベンチの真中に置かれた重箱の包みをゆっくりと解く。

「手が震えているぞ」

道明寺の声は喜々としている。

「う・うるさい!」

言いながら動かす手でお弁当の中身が姿を現す。

「代表が、女性とお弁当?」

「食べるの!?」

外野の声は大きくてこちらに背中を向けて携帯をかける仕草に、携帯カメラのレンズが狙ってるがほとんどで、

みんなの箸の動きは止まってる。

休憩時間終わるぞっ!

それどころじゃないだろうけど・・・。

西田さんの読みは相変わらず正確だ。

それをまったく気にしない雰囲気で道明寺はお重の中を眺めてる。

「おっ!食えそうだぞ」

その反応はないんじゃないか!

「なにがいい」

開き直った感じに皿に食べ物をとってやろうと覚悟を決めた。

「うまそうだね」

頭の上から聞きなれた声。

覗き込むように腰をかがめた花沢類。

みるみるうちの道明寺の顔が不機嫌になった。

 

-From 2 -

「なんでお前がいるんだ」

完全に不機嫌に支配された自分の声にもいらついている。

「牧野の携帯に昨日かけたら、司の秘書をする羽目になったって言ってたから、敵情視察」

「なんで敵情なんだ」

「ほら、俺は牧野の彼氏の役まだ降りてないし」

「受付で連絡とってもらったら、西田さんから司と屋上に行ってるって聞いたから来てみた」

俺の不機嫌など全く気にしない態度で類が牧野にほほ笑かける。

お前も頬を赤くすんなッ!

「あっ、それうまそうだね」

重箱の中から牧野が挟んでいるのは卵焼き。

「食べる?」

俺の皿の上から類の口先へと箸が移動する。

そのままんま類に食べさせる気か!

間接キッスになるぞ!

それにお前に食べさせてもらうのは俺の特権じゃねぇのかよッ。

慌てて横取り気味に箸の卵焼きを食ってやった。

「何にするの」

「類に食わせる必要はない」

「だっていっぱいあるよ」

「司は牧野が作った弁当独り占めしたいようだよ」

類のやつ、わかってるじゃねぇか。

だから横から手を出すな。

「俺は牧野の手料理、司より食べてると思うから」

類のやつ俺を挑発してるのか?

牧野の手料理って・・・なんだ?

俺が食べたのってまずいクッキーしかねえぞ。

「類に食べさせたのか!?」

不機嫌さが類の登場から牧野の手料理を食べたとほざいてることに移行する。

「それって、道明寺がNYに留学した時の話でしょう」

牧野が非難気味な視線を類に向ける。

気持ちいい。

いつも類のことそんな目で眺めていれば俺の気も落ち着くんだが・・・。

「そっ、牧野の家にも遊びに行ったよな」

「あっ、司が帰ってきてからは一度も牧野の家には行ってないから牧野を責めるなよ」

気のせいではなくて類のやつ完全に俺を挑発してやがる。

牧野の作った弁当一口も食わせねぇーーーーーッ。

「類!お前帰れ!彼氏の役は必要ねぇし」

「まだ困ることもあるかもしれないよ」

「あるわけねぇよ」

類には珍しく強気な応戦。

「あれ?つくしちゃん」

「加川さん・・・」

驚いた表情で牧野が立ち上がる。

つられて俺も立ちあがってた。

牧野が最初に掃除婦のバイトで一緒になったおばはん。

牧野の顔がこわばる。

「どこにいったのかと思ったら、こんなところで会えるなんて、私たち縁があるのね」

牧野の様子などお構いなしにおばはんが一人ではしゃいでる。

このおばはんにはうんざりぎみだ。

「うちの坊ちゃんもいいとこあるのね」

「はぁ?」

まじまじとおばはんの顔を眺める。

「だって、つくしちゃんと花沢の坊ちゃんを会わせてあげようなんて、なかなかだねぇ」

肘で小突かれる。

何言い出した?このおばはん。

俺が牧野と類の仲を取り持ってると大きな勘違いしてねぇか。

そんなわけねぇだろーーーーッ!

「ほら!」

「はぁ?」

「邪魔しちゃ悪いだろう。こんなときは二人にさせてあげるもんだろう、気が利かないね」

気が利かない!?

きっとおれは今間抜けな顔をしてると思う。

そして・・・。

だんだんと怒りが地下から天井へとの上りつめる。

勝手に自分が勘違いしてるだけだろうがぁぁぁぁぁ。

気が利かないのはおばはんと類だろう!

「こいつは俺ンだぁぁぁぁぁ!」

両腕の中にガシッと牧野をとり込んで離れないように抱きしめた。

拍手コメント返礼

kobuta様

かわいそうですか?

それがあるから後の楽しみが倍になるということで♪