秘書西田の坊ちゃん観察日記 7 (抱きしめ会える夜だから番外編)
このお話は『抱きしめあえる夜だから 6』のお話をもとにした番外編です。
今回はつくしの里帰りをそれとなく西田さんがフォローしてるお話です。
つくしのことを思いながら考えてるのは坊ちゃん為♪
そんなお話でしょうか。
*もくもくと仕事に励む代表。
わき目も振らず一直線。
向かう先に思いをはせるのは愛しい若奥さま。
カーブでもあったものなら激突か。
直線コースで良かった。
「もう一息で日本に帰れます」
仕事に励むそのお姿に無言で思いを投げかける。
鞭を入れることなく優秀に仕事が進む。
見ていて気持ちがよい。
背筋が数センチは伸びた晴れがましさ。
日本で待たれるつくし様の様子もつつがなく進んでいるよう。
昨日は坊ちゃん意外お仲間が集まって夜遅くまで楽しまれていたと報告が届いている。
つくし様のことなると行動が早いのは坊ちゃんだけではないようだ。
あの3人を退けて良くぞ坊ちゃんを選んでいただけたものだ。
私がそう思ってると坊ちゃんが知ったら「当たり前だろう」と反応されそうだが・・・。
つくし様を射止めた坊ちゃんより、坊ちゃんを受け入れて愛してくれたつくし様のほうがどれだけご苦労が多かったことか・・・。
表情は変えず心の中で感謝の涙を流す。
あとは日本でゆっくりと刻む時間。
つくし様の緊張を取り除くわずかな時間を確保する事が私の仕事。
今、日本は朝方。
出勤前のつくし様の携帯を鳴らした。
数度目の呼び出し音で聞こえる懐かしいお声。
数日ぶりに聞いた声に心がなごむ。
坊ちゃんのどなり声が響く私の耳にはなかなかのカンフル剤。
坊ちゃんには骨抜きにされる媚薬がプラスで含まれている声。
「お忙しいところ申し訳ありません」
「楽しんでいますか?」
「はぁ?」
私の言葉を頭の中で反芻しているような少しの沈黙。
「SPの事は気にしなくていいですから」
「はぁ・・・」
戸惑いをはおったような返事。
昨日までのつくし様の行動はこちらでも把握済みと告げる。
「・・・それって道明寺も・・・ですよね?」
「知ってらっしゃいます」
電話の向こうの沈黙はつくし様の焦りの度合いを示している。
「知っているって・・・花沢類とか西門さん、美作さんに会っていたことですか?」
早口になって声が高くなっている。
「SPをまいたことも・・・」
SPから直接連絡が言っていたわけですから時差など関係なく届いておりました。
ストーカーじみた坊ちゃんの行動はつくし様に良い印象は与えないとそこだけは私の胸にとどめる。
「うっ・・・」
「怒ってますよね?」
だんだんと小さく消え入るような声。
「大丈夫です。こちらでなんとかなりましたから」
励ますつもりで言いながら、つくし様の反応はほほえましく心がなごむ。
「明後日帰国ですがそれまでに充分に羽を伸ばして下さい」
「里帰りされるならそれなりの手配もしときますが?」
あわただしく急変した生活にそろそろ疲れも出てくるころだ。
緊張した毎日は知らないうちに心の疲れを蓄積してしまう。
今つくし様に必要なのは元の生活を楽しめるゆとり。
それがひと時だったとしてもいい方向を示してくれるに違いない。
つくし様との結婚で舞い上がって毎日を幸せボケで過ごしてる坊ちゃんにはその視点が完全に抜け落ちている。
坊ちゃんには当たり前の生活も慣れないつくし様にはどれほどご負担なことか。
その配慮がほしいところだが・・・
少しは私の気づかいが坊ちゃんにも届いてくれるといいのだが。
「します!帰ります!」
鼓膜が破れそうな勢いで返事が届く。
「それではそのように手配させていただきます」
携帯を切って内ポケットへ携帯を戻す。
良い休日になりますようにと心から願う。
もし坊ちゃんがつくし様が実家に帰っていると知ったらどんな行動をとられるか・・・
一人お屋敷で過ごす・・・。
それはあり得ない。
つくし様を必ず実家にお迎えに上がられるはず。
その準備をしておく必要がある。
先の見通しは確実的でそれを手配するために携帯のボタンを押した。
良くも悪くもあとは坊ちゃんしだい。
つくし様の気持ちを優先していただける配慮を見たいものだ。
代表、お願いしますよ。