第8話 From one's heart 2

From one's heart 1 からの続きです。

-From 1-

*

「いつもより注目浴びてるような気がするんだけど、なにかあったの?」

花沢類がにっこりほほ笑んだ。

あったなんてもんじゃない!

私が妊娠したと思った道明寺の行動が引っ込みつかなくなるようなこの雰囲気。

これ以上大きく出来るわけない!

「なんでもない!」

気がついたら花沢類に向かってそう叫んでた。

「なんでもないってことはねぇだろう」

なぜか私の言葉に道明寺が噛みついた。

「何にもなかったんだから、これでおしまいでいいでしょう」

道明寺をきつく睨みつける。

「こいつら、俺の子供じゃなくて類の子供って言ってるんだぞ!」

西門さんと美作さんを指さし道明寺が叫ぶ。

こんな場所で周りがこれ以上勘違いするようなこと叫ぶなーーーー。

と、私は焦る。

周りにいた数人の学生が表情を変えた。

きっとF4の修羅場目撃!みたいな噂が発信されそうな雰囲気だ。

それに誰の子なんて話が出てくるのがおかしい話で・・・

ただ道明寺じゃなかったら誰だ?という話になって、そこから花沢類の名前が飛び出しただけだ。

私はさっきから妊娠はしてないて言ってるはずなのに、誰が父親なんて話しにつながるのがおかしい事で、なんだか私の妊娠ありきで話しが進んでいるのはどういうことだと、怒りで思わず身体が震えだす。

道明寺の言葉に、花沢類が次の言葉を飲み込んで唇を閉じる。

訳が解からなくてキョトンとした表情の花沢類を初めて見た気がした。

気をとりなおした花沢類が短い言葉で疑問を口にした。

「なに?」

「何の事?」

花沢類がじっと私を見つめる。

私から説明するには何だか恥ずかしく言葉に詰まってしまった。

その横で道明寺はふてくされた態度で腕を組んで動かない。

私と花沢類の間で防波堤を作っている。

ぼそぼそと美作さんが花沢類に耳打ちした。

一瞬驚いた表情を作った花沢類が「ブッー」と大きく噴出した。

穴があったら入りたい。

そんな気分になってきた。

これも美作さんと西門さんが道明寺に同調して変なこと言いだしたからだ。

私が妊娠してないこと知ってて、道明寺を担ぎ出し今度は花沢類をまきこんできた。

ここに花沢類が現れた事でますます事情がこんがらがってきている。

どう収拾つける気だ!

その時、私は鬼の形相で西門さんと美作さんに詰め寄っていたと思う。

「この始末、ちゃんとしてくれるんでしょうね」

聞いたことのないような声色が腹の底から噴出した。

「今回は悪ふざけ過ぎた。まさかここまで大げさになるとは思ってなかったし・・・」

やけに素直に二人がバツの悪そうな表情を見せる。

「それよりお前ら早く手を打つ必要あるんじゃあないか?」

「なにっ?」

怒りの響きを持ったまま私は聞き返す。

私を憐れんだ様な表情を向けた西門さんがちょっと気になった。

「牧野が妊娠したこと・・・ここ以外で誰に喋った?」

少しの間をおいて西門さんが道明寺に言葉を投げる。

「うっ」

言葉に詰まらせた道明寺の表情が一瞬で強張って固まったのが私にもわかった。

だ・・・誰に喋っているのぉぉぉぉぉ!

もしかして・・・

道明寺のお母さんとかに喋ってないでしょうねッーーーーーー

巨大な鉄仮面が迫ってきて押しつぶされる夢を見そうだよ。

「そっちの方をどうにかしねえと収まりつかなくなるんじゃねえ」

美作さんの言葉に私は正常に立っていられる気分じゃなくなってきた。

「道明寺どうなのよ」

「誰に喋った!?」

倒れそうになるのをグッと腹に力を入れ持ち直す。

「俺・・・結構舞い上がってたからな・・・」

「あんまりしっかり覚えてないかも・・・ハハハ」

焦ったような表情で視点が泳いで、最後は笑いで誤魔化した。

「しっかり想い出せッーーーーー」

私はクッと唇かみしめて道明寺の頬にパンチを入れ込んだ。

-From 2-

ズルッ、ズルッ、ズルッ・・・

牧野に引きずられる様に校内を出る。

「あんたの記憶を呼び覚ますより里井さんに確かめる」

それが牧野の結論だった。

「西門さんに美作さん、この場の雰囲気収めてて」牧野の必死の形相にあいつらも絶句して頷いた。

「英徳の諸君、今ここで聞いたこと見た事は全くのでたらめだ。記憶の隅から抹消してもらいたい」

「もし何らかの噂が俺らの耳に少しでも入ってきたら責任は持てないことを覚えておいてほしい」

あきらがテーブルの上に土足で立ち上がり演説ブチ上げてるのを見つめながら俺は無抵抗の状態で牧野に引きずられていた。

見慣れた車が目の前に迫る。

後ろのSP用の車にはさっき片づけたはずの赤ちゃんグッズが車の中を占領しているはずだ。

SPの奴らが俺と目を合わせないように視線を外しやがった。

運転席から飛び出した里井が慌てて後部席のドアを開けた。

里井の奴も頭を下げたまま固まっている。

きっと牧野の不機嫌な様子に疑問を抱きあいつらに訳を聞かされてるに違いない。

本当なら牧野は俺の喜びに安心して幸せの絶頂!

そんな感じじゃないとおかしいはずだ。

今の牧野・・

見た事もねえようなしかめっ面で周りのもの粉砕しながら歩いてる感じだもんな。

開いたドアから転げるように俺・・・

後部席に投げ入れられた。

「里井さん、聞きたいことがあるんだけど、教えてもらえるかな?」

牧野の口調が落ち着いてきている。

恐縮するように頭を下げながら里井がチラッと俺を見る。

喋ってもいいのか俺に確認を求めているのが解かった。

「チッ」と舌打ちしながら頷いて見せた。

「私で解かることなら・・・」

俺の許可が出て安心したように「ホッ」と里井が息を吐き出した。

「今日道明寺が大学に来て、買い物終わらせて帰ってくるまでに会った人教えてほしいんだけど」

牧野の言葉に里井がしばらく考える。

そして口を開いた。

「坊ちゃんはつくし様に会いに行くと大学に車を向かわせて、その後突然慌てるように車に乗り込んでこられました」

「とても慌てて焦ってるようだったので私としましてもなにが起こったのか測りかねる感じでございました」

そんなことどうでもいい! その先!みたいにせかせるような視線で牧野が里井に圧力掛けている。

俺より恐い想いを里井がしてるんじゃないかとマジで思った。

里井の額からは汗が吹き出している。

その汗を手のひらで慌てた様子で里井がぬぐって言葉をつづけた。

「デパートにつきまして、見知らぬ妊婦の方にお坊ちゃんは声を掛けられてそのままベビー用品売り場で店員といろいろ話をされていただけです。」

「その後デパートの店長といろいろ機嫌よく話されていました」

牧野は自分が知ってる名前が出てこなかった事でホッと胸を撫で下ろしたようだ。

「なにしゃべっていたの?」

「フッー」吐息を噴出した里井から俺にお鉢が回ってきた。

「イヤ・・・たいしたことは喋ってねぇ」

妊婦の女性見てどのくらいたったらお腹が膨れてくるか気になった。

いかにも妊婦だ!みたいにお腹を膨らませている女性に何カ月か聞いただけだ。

8か月とか言ってたかな?

「5、6か月ぐらいになったら少しづつ膨らんできますよ」の女性の言葉に、腹の大きくなった牧野想像したら照れくさい笑いがこみ上げた。

その後俺も子供生まれるくらいの事は話の流れとして言っといた。

店長と、店員の前では結構デレデレ子供が出来た事を喋っていたはずだ。

予定日は?と聞かれて答えられない俺を不思議な顔して見ていたぞ。

「子供が出来たて・・・様な事を喋ったかな?」

それ以外の俺の様子は削除して牧野に喋る。

「俺の誤解だったと店長にはすぐ連絡とって頼んだ品物キャンセルしとく」

牧野の怒りのボルテージを下げるため早口でそれだけの事をなんとか言った。

「あっーーーーーーー!」

尻もちつきそうなるくらいの大声を里井が突然上げた。

何事か!?驚きの表情で牧野と同時に里井を見つめる。

「ぼっちゃん・・・西田さんに電話で伝えてませんでした?つくし様の妊娠の事?」

牧野の視線を気にして表情をこわばらせながら里井が一言、一言絞りだす。

泡を吹いて卒倒寸前!て感じの表情で牧野が呆然と俺を見つめていた。

-From 3-

西田さんて・・・あの西田さんだよね。

無表情、感情なし、キレ者秘書の!

今頃どこまでこの嘘の情報駆け巡ってる?

道明寺のお母さんに真っ先に報告してそうじゃないか。

「なんで喋ってるのよ」つんざくような声で道明寺に張り付いた。

気がつけば後部席に投げ入れた道明寺に覆いかぶさるように馬乗りになっている。

見かねた里井さんがパタンと車のドアをしめた。

さすがに道明寺の御曹司が女性に、それも一応婚約者に馬乗りで迫られいる図なんて世間に発信できるものじゃないだろうけど。

今の私には嘘の妊娠発進されるよりまともだよ。

里井さんは車の前に仁王立ちで誰も近づけない体勢とっていた。

「俺今日のスケジュールいっぱいいっぱいで、お前の妊娠の事で舞い上がって仕事出来そうもなかったから、キャンセルさせるために連絡取っただけだ」

「なにも理由言わずに西田が仕事をキャンセルさせるはずないから説明する必要あるだろうが」

「西田は涙流しそうな感じで喜んでたぞ」

緊張な面持ちの道明寺の首根っこを思わず押さえつけた。

「そんな問題じゃないでしょうーーーー」

涙流しそうに叫んでた。

西田さんがなんで涙流してたなんて電話して表情見てないあんたがなぜわかる。

その道明寺の報告をいかに効果的に利用するかなんてこと考えてたんじゃなかろうか。

西田さんがアホタン道明寺みたいに確認もせず行動するとは考えられない。

それを信じて祈るしかない。

でも・・・

でも、でも!

道明寺のお母さんに連絡がいっていたら・・・

どうなる?

結婚は認めてくれているから、産むことは認めてくれるとしても・・・

ふしだらなんてことは思われるよね。

私にも責任ないとは言わないがほとんど、大半はあんたの息子の責任だぁぁぁぁぁぁ。

道明寺のお母さんの冷酷な威圧的な顔しか浮かんでこない。

うちの両親の場合手を叩いて喜びそうだけど・・・

あれ・・・

私また妊娠前提で考えてないか?

危ない!

私は妊娠していない!

別に誤解を解けばいいだけじゃないか。

「西田さんにすぐ連絡とって!」

私の下敷き状態になっていた道明寺を解放して言った。

さすがに苦しかったのか道明寺をフッ吐息を吐いてネクタイを緩める。

「殺されるかと思った」

道明寺がつぶやくように言った。

「なあ、牧野どうせならこの話本当にしねえか?」

「あっ?」

道明寺なに言ってんだ?

道明寺の意図が解からずポカンとしてしまった。

「誤解解くより子供作った方が楽しそうじゃねえ?」

道明寺がニヤッと笑った。

あんたのその余裕どこから来るんだーーーー

それとも・・・・

開き直られた?

どーうーみょーじーーーーっ。

「プッチ」頭のてっぺんで堪忍袋の緒が切れた。

「一度死ねーーーーーーッ」

後部席の上、起き上がりかけた道明寺の胸を思いっきり突き飛ばし、車のドアを勢いよく開けて外に飛び出る。

目の前に後ろ向きに立っていた里井さんが私の風圧で飛ばされたかのような雰囲気で1メートルほど横に飛び跳ねた。

「寝言言ってないでさっさと西田に連絡とれ!」

道明寺の目の前、後部席のドアをこわすほどの勢いでバンと閉めた。

-From 4-

誰を睨みつけるという訳ではなく牧野が仁王様になっていた。

司の車のドアの前。

牧野は法隆寺中門に立つ金剛力士を思わせ俺達の行く手を阻むようで、思わず歩きを止めてしまった。

校内の学生達に睨みを利かせて噂の鎮静化にひとまず成功させた俺達3人は司と牧野の後を追う。

下手にしゃべって、親の会社潰されて今の生活を棒に振る事希望する奴らはいないはずだ。

これから先、俺らに見せる牧野の反応・・・

考えていたら俺の体に緊張が走った。

「牧野、どうだった?」

ビビって声をかけるタイミングを推し量ってた俺とあきらを無視して類が軽い感じで牧野の肩をたたいた。

牧野の肩がピクッとなって、異次元の世界から突然呼び戻されたみたいに呆然とした表情で「花沢類」と牧野がつぶやく。

「悔しいーーーッ」

類の胸に顔をうずめるまで後数秒の距離で牧野が叫んだ。

「道明寺の奴、全然危機感なし」

「事もあろうに、『誤解解くより子供作った方が楽しそうじゃねえ?』なんて言いだしたんだよ」

「私の気持ちなんて全然わかってないんだからぁぁぁぁぁ」

類と視線が絡まった瞬間、その顔の近さに驚いたように真っ赤になって口を閉じた牧野が一歩後ろに下がる。

司なら本気で思ってるかも・・・

この際だから牧野と結婚本気で画策してるなんてこと、ありえない話じゃない。

偽妊娠騒動から婚約発表そして婚姻まで明日には完了させそうだ。

「牧野と早く一緒に暮らしてぇ」と時々ぼやいてる司を見ているだけに否定できない気がしてきた。

牧野が喜んで賛同するとは思えないけど・・・

「司は本気で牧野との結婚考えてたりしてな」

あきらが俺に小さな声で耳打ちする。

「その可能性否定できねえ」と相槌を打った。

こんな考え牧野に言ったら俺たちどうなる?

ますます責任取れ!と胸ぐら掴まれそうだ。

言えるわけねえ。

あきらと二人「ゴクン」と生唾飲み込んだ。

これは俺達だけの秘密の話!

お互い顔を見合わせ暗黙の了解を確かめあう。

「司は牧野と少しでも早く結婚したいみたいなとこあるからな」

苦笑しながら類がつぶやく。

「「あっ!」」

思わずあきらと二人声をそろえて叫んでしまった。

牧野は声を失って口をパクパク酸素のなくなった水槽の中の金魚の状態になっている。

さっきの類の笑い・・・

牧野に対して向けた訳ではなく、俺達に対するものなのか!

類の奴!

俺達の考え解かった上で牧野に教えやがった。

あいつが司の考えていること気がつかないわけねえもんな。

類を睨みつけた俺らにゆっくり近づいて「いつも牧野で遊び過ぎてるお返し」と類がにっこりほほ笑みやがった。

キッと眉毛を吊り上げた牧野が一歩、一歩俺達の目の前に迫ってくる。

たった数歩の距離。

地響き鳴らして牧野が迫ってくる。

その後ろには阿形像と、吽形像の金剛力士2体も引き連れているような錯覚覚えてしまった。

「ど・・・どうにかしてッ」

男3人に泣きつくような牧野に思わず拍子抜けする。

牧野が泣きつくなんて・・・

怒り沸騰で責められる方が気分的には楽だと気がついた。

切羽詰まった表情で哀願されるような上目使い見せられて、「グッ」とくる胸の内。

遊んでられねえ、どうにかしなければと本気にさせられた。

牧野が無意識でこんな表情作ったのなら、男をたらす才能あるかもなんてことが頭の隅にチラッと浮かんだ。

司と類を本気にさせた牧野の姿をそこに見た気がした。

自分を落ち着かせるつもりで目を閉じて「フーッ」と長めに息を吐く。

「司の牧野との結婚の話しはまだ俺らの予想内、それより司が妊娠の事誰にしゃべったか解かったか?」

「何人か教えてもらったけど、問題になりそうなのは西田さんくらいかな?」

「西田って、秘書の西田だよな?」

牧野がコクと頷く。

司・・・

一番いいとこついてる・・・

感心してる場合じゃなかった。

まずは司に西田と連絡取らせなければ話が進まねえ。

「牧野、司は?」

返事の代わりに牧野が車の後部席を指さした。

急いで車に近づき後部席のドアを開ける。

中で携帯片手になにやら大声でわめいて喧嘩している司がいた。

-From 5 -

牧野に胸押されて後部席に寝転ぶ状態になってる俺。

長い脚が邪魔で仕方なく膝を曲げて立てた。

牧野が力いっぱい締めた後部席のドアでもう少しで革靴ごと挟まれるとこだった。

車の天井を見つめていたらため息しか出なくなっていた。

スーツの内ポケットから携帯を取り出す。

結婚するしないは別にして妊娠の件は否定しとかないと牧野は機嫌損ねたままだ。

あいつの事だこのまま口きかずにストライキ決め込む可能性は大いにある。

別にいいじゃねえかなんて俺の思いが本心を占めてはいるが、仕方がねえよなと自分に言い聞かせる。

まずは品物買った店に連絡を入れ速攻店長に電話をつなげさせる。

「電話などして頂かなくても、すぐ出向かせてもらいます」と恐縮する店長に「品物キャンセル、いらなくなった」

不機嫌に言って電話をきった。

次は西田か・・・

俺の電話の後あいつどう動いたかな?

西田の事だそれなりの対応はしてると思うが・・・

もう引くに引けねえとこまで話が進んでたりしてるかも・・・

まずはババァに連絡だろう?

あれでも一応母親だからな、自家用ジェットに飛び乗って今頃日本に向かってたりして。

後は会社の重役連中相手に「司様の結婚が早まりました」なんて宣言してたりしてな。

明日には婚約発表。

牧野のお腹が目立たないうちに式を上げる算段。

籍だけは早めに!

明日入れてもかまわない。

牧野にどつかれるような状況になってたらどうする?

そう考えながらも顔がにやついてくる。

あっ!牧野は妊娠してないんだった・・・。

あぁぁぁぁぁ!こんなことなら本当に妊娠させときゃよかった。

いくらでも機会はあったはずなのに!

牧野に知れたら蹴りぐらいじゃ済まないような事考え出していた。

今回の事で「結婚するまで絶対エッチしない!」なんて宣言されそうだ。

そうさせないためにも早めに西田と連絡とって牧野の妊娠の情報の抹消が大切だ。

携帯の短縮番号をプッチと押す。

「ハイ、西田です」

呼び出し音3回で出やがった。

相変わらず素早い反応している。

「なにかご用でしょうか?」

「用がなきゃお前に電話できねえのか俺は?」

「用事がなければぼっちゃんが私に電話するはずありませんから」

西田の事務的な音程のない言い回しにイラついてしまう。

「さっき電話した内容覚えてるか?」

「つくし様が妊娠したとかいうお話ですか?」

「あれ、間違い」

「・・・・」

西田からの返事がなく数秒の沈黙

その後に西田の「はぁ~」みたいなため息音が携帯から漏れてきた。

「結婚の話は本当かと坊ちゃんがお買いものなさったデパートの社長自ら私の方にお電話がありました」

妊娠から結婚にこの短時間で進展て・・・

いくら情報の社会と言っても早すぎないか?

「お子様が生まれたら、うちのブランドの服もなんて売り込みの電話も・・・」

俺と牧野の子だったらなに着てもかわいいはずだ。

生まれてもいねえのにこれも速攻だよな。

「お屋敷の方にはいくつかのお祝いの花束が届けられ、私の方に何事かと連絡がきています」

屋敷の使用人にも牧野の妊娠知れ渡った?

「すべて、私の方で対処させていただきました」

「そういえば何人子供が生まれるのか?なんて質問する方もいらっしゃいましたね」

「子供なんて生まれてもせいぜい一人か二人だろう?」

「それ以上生まれるような誤解をされるようなお買い物はされませんように」

西田が呆れるようにまたため息つきやがった。

俺の話・・・すべてで伝わるの早すぎっ

さすがの俺もこれには焦った。

西田は対処したって言ったよな?

それにあの呆れたような西田のセリフ回し・・・

西田が皮肉るような言葉を俺に向けるのは今に始まったことではないがやっぱりイラッときてしまった。

「お前・・・もしかして全部否定したのか?」

「当り前です。ぼっちゃんの言葉だけ鵜呑みにはできませんから」

「それにつくし様に確認してから動いてもなんら問題はありません」

「物事は正確さを欠いては成就できません」

「西田!お前は俺の事全然信用してないのかっ!」

思わず頭に血が上って電話相手に叫んでいた。

「仕事の面では信頼しております」

杓子定規に携帯握りしめたままで90度頭を下げる西田が想像できた。

「しかし・・・」

「つくし様の事に関しましては想像だけで動かれることが否定できませんので・・・」

一呼吸間をおく感じに西田が言った。

「それじゃあ俺は馬鹿みてえじゃねえか」

「少なくとも今回は・・・・・」

寝転がっていた体をガバッと起こす。

「それじゃぁ本当にしてや・・・る」

完全に切れかかって大声あげた瞬間いつからいたのか総二郎の呆れたような視線と俺の怒の視線がぶつかった。

目の前の後部席のドアが開いているのにようやく気がつく。

総二郎とドアの隙間からあきらに類に牧野が「なんだ?」みたいな顔をのぞかせていた。

From one's heart 3へ続く

司君どうするつもりなんでしょうかね?

本当にするって・・・つくしちゃん相手では無理だと思うんですけど(^_^;)

私・・・どう展開させるつもりなのだろう・・・