第2話 抱きしめあえる夜だから 15
*-From 1-
無言のまま迎えの車に乗り込む。
道明寺と俺を呼ぶつくしの声にも聞こえないふりする俺は完全にすねている。
口を開くと松岡公平が気にくわないとか・・・
俺以外の奴に笑うなとか・・・
つくしと言い合いになるのは明白でそれが解かっているから口をつぐむ。
本来なら機嫌よくつくしの肩に手を置いて・・・
なんて想像してた屋敷に向かう車の中のはずだった。
俺をからかう様に言った松岡公平の「つくし!後期の修習で会えるの楽しみにしてる」の言葉が耳にこびりついて離れない。
挑戦状を叩きつけられたようで気にくわねぇーーーーーッ。
つくしは松岡公平が自分に惚れてるとこれっぽちも思っていない。
警戒心なんて持ちあわせていないからなおさら心がざわつく。
今さらそのことを教えようとも思わないけどな。
「あの・・・後期の事なんだけど・・・」
「まだ先だから・・・」
「機嫌直らないかな・・・」
それで不機嫌な訳じゃねぇ。
その時期が近付けば分かんないけどな!
今ムカムカしてるのは忘れかけていたあいつ・・・
突然ゴキブリみたいにでてきた松岡公平だよ!
「なにしゃべってた?」
「なにって?」
「あいつと・・・公平とかいう奴」
「えっ?公平の事を気にしてたの?」
なんだと言う様にクスクスとつくしが笑う。
「久しぶりに会ったから近況報告みたいな感じ」
「ほとんど玲子さん達と一緒だったしね」
気にしすぎじゃないのとまたつくしが笑う。
「甲斐さんが言ってたよ『俺が喋るだけでも殺されそうだって』」
「公平が道明寺は私にベタ惚れだってさ」
明日事務所でまたからかわれそうだとか・・・
今朝の口紅の事でも散々冷やかされたとか・・
つくしは一人で勝手に喋って止まらない。
やけに上機嫌で俺が怒ってるの忘れてんじゃねぇか?
時々うれしそうにほほ笑んでポッと頬を赤らめるつくしに少しずつ気が和む。
「今日は待っていてくれてうれしかった」
つくしの指が俺の指を絡め取る。
その一言で陥落された。
怒りも続かないもんだってこいつのクルックル変わる表情を見ていると思ってしまう。
すべてはつくしを独り占めしたいっていう子供じみた俺の感情。
それを土台に左右されちまってる。
仕事じゃクールとか冷淡、冷静とか言われ続けてるのにこいつの前じゃなんの威力も発揮できないなんて情けねよな。
それでもいいと思える自分がやけにうれしくも思える気分。
やっぱ松岡が言うとおりつくしにベタ惚れだよ。
「あんまり俺を嫉妬させるな」
俺を瞳にうつしたまんま大きく見開いてそして細める。
ゆっくりと顔を近づけてつくしの唇に俺の唇をそっと重ねた。
「またルージュが移るよ」
「見せびらかしてもかまわない」
微かに触れ合う距離のつくしの唇が「バカ」と小さく動いて閉じた。
-From 2-
「なんだかお腹すいた」
「食べたんじゃないのか?」
道明寺の顔がしょうがねぇと言う様にやさしく笑う。
「あんまり食べられなかったかな・・・」
「そう言えば俺もそんなに食べてない」
「会食だったんでしょう?」
道明寺が食べてない方がやたらに不思議なんだけど。
「むしゃくしゃして食えなかった」
「えっ?」
「お前の肩抱いて会場に入る松岡が見えたから・・・」
話をまたぶり返すなと不機嫌そうに口をとがらす。
ごめんと言いながら顔がほころぶ。
「笑うな」
照れくさそうな顔の中の瞳はやさしく私を見つめてる。
赤の信号に車が止まる。
その先に見えるラーメン屋。
「ラーメンが食べたい」
ラーメンなんて結婚してから食べた記憶なんてない。
「ねぇ食べようよ」
甘えるように囁いた。
車から降りて暖簾をくぐる。
店の中は食事時間を過ぎてるせいかまばらで空いている。
隅っこのテーブルに向かい合って座った。
「会食は中華料理だったんだがえらくランクが落ちた」
言いながらトンコツラーメン選んでる。
ラーメン2杯を頼んで出来あがるのを待つ。
「ラーメン屋って・・・俺初めて」
「食べた事はあるよね?」
「カップラーメンならある」
インスタントは食べたことがあってラーメン屋で食べたことがないなんて・・・
思いもよらない道明寺の発言に「プッ」と噴き出していた。
子供のころテレビのCM見ていて食べたいって言ったらねえちゃんが作ってくれたと説明された。
「インスタントよりおいしいよ」
出来あがってきたラーメンが目の前に置かれる。
「熱いから気をつけてね」
「そんぐらい分かってる」
湯気の向こうでフーフー言って箸を動かす道明寺。
結構似合ってるんだけど。
フォークやナイフでマナーを考えながら食べるより断然おいしく感じるB級グルメ。
道明寺が帰って来てからうちの実家に泊まって、ここしばらくは庶民体験ツアーみたいになっている。
それに違和感なく付き合ってくれる道明寺にうれしくなって自然と顔がほころんだ。
「あっ!俺金持ってねぇ」
大声で叫ぶ高級スーツ着こなす道明寺に訝しそうな視線の店員。
「冗談です」
思わず叫んで焦ってた。
支払いを済ませて店を出る。
「店の中で叫んだら無銭飲食に間違えられるよ」
「俺がそんなことするように見えるか?」
不敵に笑って待たせてた車に道明寺が乗り込んだ。
確かにね・・・
運転手つきの高級外車で店の横に乗り付けてラーメン代が払えないってことはないだろうけど。
このアンバランスな感覚がなんとも危なくてハラハラして好きなんだよな。
「後は帰って寝るだけだ」
ご機嫌につぶやく道明寺に「静かに寝ようね」と答えてた。
続きは抱きしめあえる夜だから 16で
お話の展開はたいしてありませんが・・・
この後はどう続く?