第2話 抱きしめあえる夜だから 22

 *

-From 1-

夕方近くツアーを終えてホテルに帰る。

くたくた気味の気分もつくしの機嫌のいい笑い声にどこかへもっていかれてしまう。

「お前はなんでも楽しそうでいいよなぁ」

愚痴じゃなく本気でうらやましいと思える。

「明日も何かツアーにいくのか?」

「動物園が近くにあるよ」

「絶対ヤダ」

「そういうと思った。動物苦手だもんね」

俺をからかってケラケラ笑い声を上げる。

怒る気にもなれねぇ可愛げのあるいたずら。

楽しげにほほ笑むことしか知らない気分。

いいもんだ。

「明日じゃなく夕方のサンセットクルーズ申し込んでおいたんだけど」

「はぁ?」

バリバリの観光ツアーじゃねぇか。

生演奏にディナーって、つくしはわくわくぎみに顔をほころばす。

生演奏もディナーも、もっといいとこあるぞッ!。

「船ってさ披露宴思いだすよね」

ポッと頬を高揚させるつくし。

二人の思い出に浸りたくて申しこんだのか?

可愛いとこあるじゃねぇか。

でも・・・。

披露宴の方が豪華だったぞ。

比べるなッ。

次々につくしから聞かされる初心者ハワイツアーによろけそうになる俺も結構柔順だ。

これも惚れた弱みというやつか。

3日もすれば落ち着くだろうか。

そのあとは・・・

俺が主導権をとって楽しめばいい。

もっと楽しめることあるぞ。

忘れんな。

正装だからと短パンにポロシャツを脱いでスーツに着替える。

これがタキシードとイブニングドレスを着こんでいたらVIPの集まるパーティーにすぐ行ける。

そっちの方がいいもの食べれるぞ。

それはそれで疲れるか。

俺・・・食べ物でつくしをつろうとしてねぇか?

つくしは質より量だと分かっているはずだと苦笑する。

ホテルの前で迎えの車を待つ。

迎えのバス?

じゃなくホテルの前に横付けされたのはリムジン。

「ツアーの中に豪華リムジンの送迎付きがあったの、この方が道明寺はいいかなと思って」

「新婚さんには人気なんですよって進められちゃった」

はにかむように笑うつくしに俺も自然と笑顔になる。

「昼間のバスツアーよりはマシそうだ」

「ではエスコートしましょうか奥さま」

つくしの目の前に手を差し伸べる。

きょとんとしたつくしの表情が見る間に真っ赤になった。

その反応、俺まで伝染しそうだ。

つくしの腕をとりリムジンの後部席に座らせて隣に乗り込もうとするその時、「パシャパシャ」の音とたかれるフラッシュ。

まぶしさに腕でその光をさえぎった。

慣れないことしたせいか?

俺が道明寺とわかったか?

やべーぞッ。

静かな時間が過ごせなくなる可能生がある。

「なんだ!」

「記念写真のサービスです」

片言の日本語。

「記念の写真を撮影するカメラマンのサービスつきなんだって」

車の中から聞こえるつくしの弾んだ声。

「ハイ、笑ってください」

笑顔でカメラを向けるカメラマン。

笑えるかぁぁぁぁぁ!

 *

-From 2-

テーブルの先に見おぼえのある奴ら。

なんでまたここであいつらカップルと一緒なんだ。

ジュンちゃんアイちゃんのバカカップル。

こっちに気がついてうれしそうに手を振られる。

気に食わなくてそっぽを向く俺。

つくしは俺の態度を気にしながら申し訳なさそうに手を振っている。

運ばれてくる料理に生演奏のハワイアン。

まあ昼間のB級グルメよりはましかというくらいの感想。

「わぁー大きいはさみ」

そのくらいの大きさのロブスターで喜ぶな。

俺の目の前にロブスターのはさみ動かして子供みたいに無邪気に喜ぶつくし。

イセエビのほうがおいしいと思うぞ。

見守っている親になった気分。

甘い雰囲気にはまだ数億光年離れてる。

ムード音楽に切り替わってステップを踏むカップルが徐々に増えていく。

テーブルについているお客もまばらになってきた。

部屋のライトも明るさが落ちている。

ここで踊るのは柄じゃねぇがこの雰囲気は捨てがたい。

立ち上がりつくしの腕をとった。

「踊るの久しぶりだな」

「私の卒業式以来かな?」

「プロポーズされたの昨日のようだよ」

赤くなった顔を隠すようにつくしが胸に顔をうずめる。

音楽が止まってライトが明るくなった。

同時に俺から手を離すつくし。

照れるのは相変わらず。

「あっ夕日見に行かなきゃ」

「折角のサンセットクルーズだし」

ごまかすように早口でしゃべりだす。

だれも俺たちのこと気にしてねぇよ。

みんな自分たちに夢中みたいだ。

どこもかしこもべったりで、中にはキスしてるのもいるぞ。

だから俺たちも・・・

なんて言っても素直に応じねぇだろうな。

どつかれるか?

二人で並んで外のデッキに立つ。

中の熱気が嘘のように波の音だけが響いてくる。

やっと静かになった。そんな感じだ。

数メートル離れた間隔で俺たち同様にデッキに立つカップル。

一つ一つが別世界を作ってる雰囲気。

これじゃ邪魔される恐れもない。

つくしの羞恥心だけを取り除けば。

そっと、何気に肩に手をまわして抱き寄せた。

こつんと俺の方につくしが頭を預ける。

甘えた様なつくしの仕草に胸の中に火がつく思い。

やっと新婚旅行みたいな雰囲気。

ホノルルの夜景が夜の海に映し出される。

「きれい」

夜景を見つめるつくしのあごにそっと手を添える。

「お前のほうが俺にはきれいだ」

上向くようにその手を動かしてキスを落とした。

サンセットクルーズの思い出は窓際の席で料理食べた記憶しか残ってません。

夕日、夜景、たぶん見たはずなのに。

それじゃお話は面白くないので無理やりデッキにカップル出してしまいました。

あとはホテルで勝手にやってくれ~ということで(^_^;)

えっ?駄目ですか?

書くの?