第2話 抱きしめあえる夜だから 23

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-From 1-

サンセットクルーズも終わり、迎えのリムジンに乗り込む。

滑るように走るリムジンの中から見えるホノルルの夜の明かり。

穏やかに時が流れる感じは普段のあわただしさから解放されてゆとりの中に包まれてそれを二人で楽しむ。

肩を抱いたままのつくしは昼間のハワイ島の観光の話や料理の話と次々に話す話題に事欠かない。

「でも、道明寺といればどこでも楽しい」

照れくさそうにほほ笑んで俺の肩の上にこつんと頭を落とす。

肩にかかる重みが程良くて愛しくなってそっと髪に指をからませるように手を添えた。

「俺も、すげー楽しい」

観光じゃねぇぞ。お前といるからだとは内心の叫び。

「本当?楽しめた?」

不安を少し絡めた視線を取り除きたくて「ああ」と答える。

「それじゃ、明日はどこいく?」

明日もツアー参加行く気満々にしてしまってた。

少しの後悔もつくしの笑顔に包み込まれて消えていく。

ベットの中で動けない様にするという手もあるか?

頭に浮かぶのは昨日お預け食った夜の楽しみ。

今日も先に寝る!

なんてことすんなよッ。

これも内心の叫び、羨望、祈りみてぇなもん。

この状況・・・

たいして結婚前と変わんなくないか?

口元からこぼれる笑いは苦笑気味。

ホテル正面玄関に横付けされたリムジンから降りるつくしをエスコート。

まだするの?みたいで俺を見上げるつくし。

どうせなら抱き上げてもかまわないと思える気分。

結構浮かれてる。

ロビー内はツアー客の帰りなのか昼間と変わらぬにぎわいを見せている。

離れないようにつくしの手を握って歩いた。

「Est-ce que ce n'est pas Domyoji?」

聞こえてきたのはフランス語。

さすがにDomyojiはつくしにも解るらしい。

二人とも歩みが止まって声の主を振り返る。

白髪の混じったかっぷくのいい紳士。

「Avant merci pour votre aide」

握手を求められて断るわけも行かずフランス語で会話するしかなかった。

プライベートだからと俺には珍しくやんわりと断ると、私もプライベートでと返される。

仕事関連の相手を無下にも出来ず結局話が終わる頃は明日のパーティーに招待されていた。

本当にプライベートかよ。

「Je pourrais entendre qu'il y avait vous ici et être chanceux」

それどういうことだ?

俺の居場所を聞いたと言ったぞ!

俺の居場所知ってるのは西田ぐらいのもんだ。

一応このホテルに泊まってることは連絡している。

誰に聞いたのかと尋ねたらあなたの秘書は優秀だと返される。

すんなり俺の休み認めたと思ったらこんなからくり考えてやがったのかぁぁぁぁぁ。

あのくそ仕事人間めッ。

文句を言ってみても「夜の数時間程度よろしくお願いします」

「そのくらいの配慮はあっても差し支えないでしょう」と返ってくるに決まってる。

西田と俺のやりとりはこんなもの。

わかっていてもあいつのシナリオ通りに進む現実。

気にくわねぇーーーーー。

約束した予定をキャンセル出来るほどの無謀さは代表の地位では出来るはずもない。

西田の満足そうな顔を想像の中でぶんなぐる。

「このホテル明日は引き払うからなッ」

今度は誰にも居場所教えねぇーーーーーッ。

話の内容をつくしが理解したとは思えない。

・・・・が、俺の正体がばれたのはそれなりに分かるはずだから黙ってコクリと頷くつくし。

「どこからばれたの?」

「西田」

「じゃ、計画的だね」

あきらめたように小さくため息をつく。

西田!つくしにもばればれだぞ。

「でも・・・西田さんのことだからひどい予定は立ててないと思うけど」

そこで西田のかたがもてるつくしの信頼は気に障る。

「なんでそう思うんだ?」

不機嫌面で言葉尻を上げる。

「だって、あんまり無茶させて道明寺スネさせたら帰ってからが大変なこと西田さんわかってると思うから」

クスクスと小さく笑うつくし。

お前らぐるじゃないだろうな。

「明日は夫婦でパーティー参加だから」

「えっ!私も!嘘でしょう!」

西田!たまにはつくしに恨まれろッ!

 

-From 2-

パーティーのことが気になってツアーに参加する気分にはなれなかった。

というより・・・

一晩中道明寺が離してくれなくて・・・

ベットから抜け出すのが億劫で・・・

また道明寺へと身体をすりよせる。

安心してまどろめる感触がたまらなく幸せでうれしくてしょうがない。

そしてまた胸元に顔を埋めて目を閉じる。

かさなりあう足先も抱きしめ合う指先もすべてが離れられなくて素肌に吸いついている。

このままベットの中で過ごすのも悪くない。

でも・・・

夜はパーティーか・・・。

ハワイでは道明寺の名前から解放されて過ごしたかったはずなのに、降って湧いたセレブの付き合い。

新婚旅行に連れてきてもらっただけでも満足するべきなのだろうか。

パーティー・・・

なに着て行こう。

ラフな私服に仕事着のスーツ、イブニングドレスなんて準備してない。

道明寺は普段からそれなりのスーツ着てるからなどうとでもなりそう。

準備しなきゃ!

道明寺に恥はかかせられない。

間に合うのかぁぁぁぁぁぁ。

「あっ!起きなきゃ」

「道明寺!起きて!」

跳ね起きて道明寺の身体を揺り動かす。

「あっ?」

目をこすりながら道明寺が腕をつきながら上半身をベットの上に起こす。

まだ頭の細胞は中途半端な活性化してしてない様子であくびを一つ。

そしてその開いた口元は開いたまんま、そして緩んだ。

「いい眺め」

「どこ見てんのよ」

慌ててシーツを身体に巻きつける。

道明寺もなにも着てないから目のやり場に困る。

「今日パーティーなんでしょう?」

「ほら、着ていくものなんて何も用意してないよ」

「ああそのことか」

いたってのんきな道明寺の反応。

「別荘に行けはひとそろえそろってると思うけど」

「ひとそろえって・・・なんで!」

「パーティーに行くことを画策したの西田だろう?」

「その準備はしっかりしてあると思うぞ」

「別荘に準備させてるか、案外ホテルに衣装が届くか・・・その辺のところはぬかりないだろう」

「だから、俺たちはそれまでのんびりしてればいいわけだ」

私の体からシーツをはぐように道明寺の腕が動く。

とられないようにグッとシーツを握る両手に力を入れた。

「邪魔すんな」

「そっちこそ何する気」

「そんなこともわかんねぇの?」

シーツに丸まったまんまの私を背中から道明寺が抱きしめる。

「昨日の続き」

耳元に寄せた道明寺の唇がかすかに動いた。

新婚旅行ですもんね。

やっぱり雰囲気作ってやらないと(^_^;)

まあこの辺であとは勝手に想像して~