第13話 愛してると言わせたい 10

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-From 1 -

道明寺から逃げるように部屋に戻った。

ベットに入っても眠れそうもない。

無性に頭が冴えて間隔が研ぎ澄まされていく。

高校生のF4しか知らなくて・・・

皆、見た目も華奢な少年の姿を脱皮して一回り線が太くなった感じで・・・

大人になっている。

高校生には釣り合いが取れない雰囲気。

23,4才の男の人って恋愛対象外だよね。

悪く言えば叔父さん?

下手すれば犯罪?

あの4人ならそんな心配はいらないだろうけど。

私も二十歳すぎてるはずなんだけど・・・

見た目全然変わってないし・・・

制服着ても違和感なさそうだ。

これって落胆することだよね?

大人になったどんな風に変わるのかななんて想像していたら、鏡の中の私は全然変わってない。

だから今の状況も信じられないのだろうか。

いまさら容姿のことをグダグダ思っても仕方のないことだけど。

目覚めたら道明寺が私の婚約者で来年には結婚する予定だと聞かされた。

デートの記憶もないのにいきなりぶっ飛んだ状況を受け入れるには無理だ。

それも意地悪で横暴でわがままな最悪な馬鹿男。

そう思っていたのに・・・

目の前の道明寺はぶっきらぼうでそれでいてそれで優しくて、抱きしめられるのもイヤじゃなかった。

私を抱く胸元から聞こえる鼓動は早くって・・・

それが私にも移って高鳴る鼓動。

重なる身体は熱は帯びて熱くなる。

心は受け入れてなくても身体が知っている愛おしさ。

そんなはずないと否定したい想い。

私が好きだったのって花沢類じなかったの!

知らず知らず言い聞かせている。

あこがれで・・・

初恋で・・・

側にいて・・・

見ているだけで満足する思い。

恋焦がれて・・・

会いたくて・・・

どうしようもなくって・・・

一緒にいたくて離れられなくって・・・

抱きしめられたくて・・・

抱きしめたくて・・・

喧嘩し合って・・・

大好きだけど大嫌い。

でも愛してる。

頭の中に浮かんで消える映像は靄がかかったようにうつろで鮮明さに欠ける。

こんな思いしてきたのだろうか・・・

でも・・・

どちらの思いが恋なのかは明白だ。

私・・・

道明寺のこと好きなのかな・・・

つぶやいた自分の言葉にハッとする。

ガバッと頭からシーツをかぶり猫のように丸まって目を閉じた。

 

-From 2 -

何気ないいつもの日常。

んな訳ない!

目の前には道明寺。

向かい合って座るテーブル。

目の前には二人で食べるには多すぎる朝食。

パンにスープに卵料理、デザートと御飯にお味噌汁

「好きな物食べろ」

そう言われてもねぇ・・・

食欲は・・・

情けないけどあるみたい。

「そんなに食べないわよ」

手につかんだロールパンをひとかけら千切って口にほおり込む。

見たくないけど自然に視線は道明寺を見つめてる。

洗練されたマナーの食事。

映画の1シーンを見てるみたいで生まれがいいと品があると実感。

「あんまり見るな」

「俺に見惚れてたか?」

「目の前にいるからしょうがないでしょ」

慌てて視線を皿に移してウインナーを頬張った。

「俺、お前の大口開けて食べるとこ見んの好きなんだよなぁ」

クスッと小さく笑って道明寺は目を細める。

優しいまなざし。

ドキッと小さく心音がなったのはそのまなざしのせいなのか好きと言われた単語のせいなのか・・・

どっちなんだろう。

「・・・好き・・・とか・・・簡単に言わないで・・・よね・・・」

視線は下に向けたまま黙々とフォークを動かす。

フォークは何もつかまずに皿の上を彷徨ってプチトマトを転がして遊んでる。

目標が決まらないのは自分の心の揺らぎを反映しているみたいだ。

「俺は思ったことしか口にできないから」

「好きなものを好きと言ってなにが悪い」

「それが困る」

「俺は全然困らないけど」

「今は嫌いと言われた方が楽」

「それ本心か!」

ドンとテーブルにつかれた両手の振動でグラスが倒れて水がこぼれた。

ポタポタと床にこぼれる水滴の音だけが響く。

「わかんないの!」

「道明寺こと嫌ってるはずなのに、抱きしめられるとドキドキして」

「私の知ってる道明寺と全然違うし・・・」

「戸惑って、気になって、仕方なくて」

「自分の気持ちがわからなくてどうしようもない」

一気に心の奥をぶちまける様に叫んでた。

感情が高ぶって頬に伝う涙も拭えずに立ちすくむ。

「牧野・・・」

私の横に歩み寄る道明寺を手で制御する。

「ごめん」

私に謝る道明寺。

私に伸ばした道明寺の腕は私に触れることなく道明寺の頭へと居場所を変えた。

「俺どうしようもねぇな」

移動した手で頭を掻くように動かして私に背中を向ける。

その雰囲気は道明寺の優しさで、温かい思いだと心に伝わる。

そこに毛嫌いしていた赤札の首謀者の面影は見当たらない。

「お前を焦らすつもりはなかったんだけどな」

「はぁ」とため息をつきながら道明寺は振り返って私を見つめた。

道明寺の指先がそっと私の頬に触れて涙をすくう。

「なあ、俺ともう一度最初から付き合え」

「そしたらきっとうまくいく」

命令口調なのに哀願しているような印象に思わず口元が緩む。

「付き合えって、何するの?」

「庶民デート」

「えっ?」

「映画見たり、動物園行ったり、遊園地なんてどうだ?」

「何か思い出すかもしれないだろう」

喜々とした表情を見せる道明寺ははしゃぎすぎに映る。

「付き合ってもいいけど急に抱きついたりしないでよね」

「おぅ!」

上ずるような声で返事する道明寺。

声が裏返ってる。

クスクスと喉を鳴らして飛び出す声。

事故で記憶を失ってから久しぶりに心から笑えた。

続きは愛してると言わせたい11

司が記憶をなくしたときは全くつくしの存在を否定しまくっていましたが、

つくしの場合は記憶が残ってなくても何となく覚えてるという設定で書いてます。

相反する反応で悩みながらどう司を受け入れていくのか?

これが話の流れでしょうか。

完全否定されてないだけでも幸せだぞ!司クン!