第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 22

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-From 1 -

午後からの時間。

落ち着きを取り戻すオフィス内。

類は俺からの追求を愚問と失笑して帰って行った。

冷静さを取り戻してないのは俺だけ。

西田の横で一言も聞きのがなさない雰囲気でメモをとる真剣な牧野の横顔。

それに見惚れてる俺。

「代表、何かご用でも?」

西田が俺を排除させる構えを見せる。

「午後の会議の書類は?」

とってつけたようないい訳。

「お部屋のディスクの上に置いておきましたが」

まじめな顔がかすかに歪む。

「もう目を通されてると思いました」

皮肉るような言い回し。

お前の推察通り午前中には目を通したよ。

他に何かここにいる理由ねえか?

みつからねぇ。

「プル~ッ」

鳴り響く携帯音。

「仕事中はマナーモードで」

西田が部下に静かめの威圧。

「すいません、でも・・・」

何か言いたそうな女子社員。

「代表のお写真が・・・添付されて社内を回っているようです」

携帯画面を西田の目の前に持ってきた。

それを覗き込む俺。

西田が吹き出しそうに顔をゆがめて元にもどす。

絶対こいつ腹のそこで笑ってる。

類が食べる寸前の卵焼きを横取りする俺。

次は俺の膝の上の牧野。

そして最後は口を開けて箸でおかずが口元を運ばれるのを待つ俺。

どの顔もしまりがない。

最後の写真どこで撮られた!

周りには誰もいなかったぞ?

代表が婚約者の女性と屋上ランチの題名付きで転送されてきましたと話す女子社員の顔も心なしか赤い。

俺の横では牧野は全身ゆであがってる。

「このメールの反応は」

西田のやつ何のリサーチだ。

「代表の意外性が受けて好感度はいいようですけど・・・かわいいとか素敵とかの反応もあるようで・・・」

この短時間でよくそんな反応まで調べられるもんだ。

恐るべし西田軍団。

こいつらスパイ?忍者集団か?

「俺の威厳損傷気味じゃねぇか」

「代表の場合は威厳より威嚇の色合いが強いかと・・・」

「触らぬ神に祟りなしみたいな風潮が社内には充満してます」

「少しぐらいその部分が排除された方が仕事にはちょうどいいかと」

ここでも俺は猛獣扱いかよ。

「柔和な部分が前に出た方が商談がスムーズにいく場合もありますから」

「なんだよそれ」

「週末から温和に表情がなられてる、つくし様効果ですな」

お前の顔もいつもより色艶がいいじゃねか。

「今日の午後の会議終了までその雰囲気でお願いします」

今日の会議はアメリカの会社との提携協議。

うちの描く好条件で話が進んでいるはずだ。

「相手を柔軟に介入するには坊ちゃんの威嚇は脅威ですからね」

「猫にまたたびより効果がある」

そのために牧野?

無性に腹も立つが牧野を俺の側に置く効用!効果!は絶大な作用?

喜べるかぁぁぁぁぁ。

「西田、馬鹿にすんなよ」

「あっ、こんな写真も・・」

西田に詰め寄る俺の鼻先にさっきの女子社員が携帯を差し出す。

赤いタコウインナーを頬張る西田のドアップ。

そのインパクトに思わず吹きだして腹を抱える。

「西田・・・お前の弁当・・・タコ・・・ブハハハハハハ」

「似あわねぇーーーーッ」

おやじギャグにしてもすげーぞ。

声も途切れで途切れで息を吸うのも忘れる。

牧野のどうしたの?みたいな顔も俺の笑いを増長してる。

「今回はお前の思惑にのってやるよ」

「持続させるために牧野は連れてくぞ」

「えっ?あっ?」

焦った反応を示す牧野の肩を抱いて自分の部屋へと引き上げる。

まだ笑いは収まらない。

「あの・・・これで良かったんですか?」

上目遣いでそっと西田の反応を確かめるように女子社員がつぶやく。

「上出来です」

代表の執務室へとつくしを従えて消えていく司の背中を西田が満足そうな表情で見送った。

 

-From 2 -

洗練された容姿。

その一瞬で自分の目の前に立つ男性は特別な人間だと思わせる。

独特のオーラーで周りを魅了する。

・・・って誰のことだ?

間違いなく社内での道明寺司の評判。

「あの・・・西田がタコ食ってたぞ」

「それも写真まで撮られて」

膝を叩いて喜んでいる。

あごが外れないのが不思議なくらいだ。

この状況なら威嚇の威力は半減されることだろう。

それにしても猫にまたたびって・・・

道明寺の雰囲気を温和にするためのわたしは小道具なのか?

効果てきめんと言われて喜ぶべきなのだろうかと疑問が浮かぶ。

「フーッ」

笑い疲れたように一息ついた道明寺が椅子に深々と身体を預けて座り込む。

「ここに私を連れてきてどうするのよ」

「何かすることある?」

道明寺の鼻の先に顔を近づける。

「チュッ」

吸いついた唇は音を立てて離れて口角を下げる。

「な・・・何すんのよ」

「急に顔が近づいてくるからキスしたいのかと思って」

「ここ仕事場でしょう!」

「俺が呼ぶまで誰も来ねぇぞ」

悪戯を見つけてそれを楽しむような道明寺の瞳。

思わず道明寺のバカでかいディスクから飛び下がって、数メートル先のソファーの端に座り込む。

「西田も言ってたろう、お前の仕事は俺を機嫌よくさせること」

そんなこと西田さん言っていた?

猫にまたたびしか記憶がないんだけど・・・。

従順、大人しくさせる、光悦状態に陥る猫。

猫はまたたびが大好物で・・・

私は道明寺の大好物?

また自分勝手な解釈を持ち出すつもりじゃないだろうな。

自分がネズミに思えてくる。

窮鼠猫をかむって諺を道明寺は知ってるだろうか?

私・・・

道明寺を噛めるのか?

せいぜい爪を立てるとか?

それじゃ私が猫だ。

頭の中がパニックでおかしくなってる。

「機嫌よくさせろなんて言ってないでしょう!」

「俺にはそう聞こえた」

ネクタイ緩めながら近づくなッ。

色気ただ漏れ状態の容姿に目のやり場が見つからない。

「落ち着いて・・・」

私のソファーまで10歩の距離

道明寺の足なら5歩?

熱帯びた瞳が私の身体をとろかす様で・・・

惑わされるなと自分を言い聞かせる。

これでいつも好き勝手されるんだからと逃げ腰というか・・・

腰砕けの一歩手前まで追い込まれてる。

「ここ会社でしょ!」

迫力におされるようにソファーに身体が沈む。

発する声は威力に欠けるのは重々承知。

「もうすぐ大事な会議が始まるし・・・」

目の前に迫る道明寺の端正な顔。

真顔がムニュッとほころんだ。

「イタッ」

人の鼻を指でつまんで「あほ」とつぶやかれた。

「ここで襲うほど飢えてねぇぞ」

「案外残念とか思ってるとか・・・」

そんなわけあるかぁぁぁぁぁ。

「ばか!横暴!変態!意地悪!」

悪態付きながら心臓の鼓動は落ち着かない。

「お前が側にいれば西田が望むように穏やかに商談に臨めそうだ」

ソファーから助け起こすように道明寺が手を差し伸べる。

握った手をグッと引き寄せられて倒れ込むように道明寺の胸の中にすっぽりと私の体は収まっていまった。

「仕事がうまくいったら、褒美はお前な」

耳元をくすぐる聞きなれた囁きは甘い媚薬となって体中を鼓動に変えるよう。

「お弁当のお返しもまだもらってないんだけど」

身体の火照りを隠すようにキッと見上げた視線の先にゆっくりと降りてくる道明寺の唇。

言葉をさえぎるように柔らかい感触が私の唇を包む。

「まだ・・・いるか?」

離れた唇はそう動いてニンマリと形を変えた。

西田さんがのぞいてるとか?

それはないだろうなぁ・・・

でも都合よくは現れるのかな~

拍手コメント御礼

こう様

西田さんの株は最近急上昇気味です。

西田さん日記もそろそろ新しいお話をUPしなければなんて考えていますが(^_^;)