第12話 ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 23

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-From 1 -

目の前に在った愛しい唇にキスをした。

俺としたら当たり前の反応。

子犬が突然尾っぽを踏まれたように「キャイン」と一声鳴いて飛びのいた。

そして『何すんの!』みたいな非難の目を向けられる。

今の俺は機嫌がいい。

どんな顔を見ても可愛いと思えてしまう。

彼氏からのキスの一つでここまでビビったような態度示す女はいないぞ。

それも天下の道明寺だぞ!

って・・・こいつには関係ないか。

喜んで「もっと~」なんて甘く首に手をまわしてくるとか・・・

・・・なんねえだろうなこいつの場合。

「西田も言ってたろう、お前の仕事は俺を機嫌よくさせること」

きょとんとした顔が焦り出す。

青くなったと思ったら少し桃色がかった頬。

そして耳まで赤くなる。

牧野のやつ・・・

俺がなにを喜んで欲してるかなんて本能?経験でわかってるよな。

好きな女が慌てふためく様子に喜んでるなんて俺もガキだ。

「機嫌よくさせろなんて言ってないでしょう!」

「俺にはそう聞こえた」

演技するようにネクタイをゆるめながら牧野に近づいた。

「落ち着いて・・・」

落ち着くのはお前の方。

「ここ会社でしょ!」

反抗は形だけ。

俺を拒もうと伸ばしてきた腕は全然力が入ってない。

ゆっくりとソファーに牧野の身体が沈み込む。

ベットじゃないのが残念だ。

隣の部屋に西田がいなければ・・・

今から会議じゃなければ・・・

会社じゃなければ・・・

欲望を押さえこむ自制心。

俺に我慢させるのはやっぱりお前だけだ。

「もうすぐ大事な会議が始まるし・・・」

最後の力を振り絞るように牧野の腕が垂直に俺の胸を押す。

全然威力なし。

つまみやすそうな鼻を指でムニュッと挟む。

「イタッ」

「あほ」

拍子抜けしたような顔に牧野がなった。

「ここで襲うほど飢えてねぇぞ」

「案外残念とか思ってるとか・・・」

言葉が出ないでパクパクと口を開くだけ。

まるで酸素が足らない金魚見てぇな牧野。

「ばか!横暴!変態!意地悪!」

悪態を付かれながらもニンマリする俺。

悪口ぶつけながらも牧野は茹で上がってて、どんな言葉も「好き、愛してる」としか変換できねぇよ。

結構こいつ期待してたとか?

そしてまた顔がゆるむ。

「お前が側にいれば西田が望むように穏やかに商談に臨めそうだ」

ソファーから牧野を助け起こすために手を差し伸べる。

素直に俺の手を牧野が握り返した。

グッと力を入れた俺の腕に引かれるままに牧野の身体は俺の胸の中へすっぽりと収まった。

馴染んだ肌のぬくもりとシャンプーの清純な香りが鼻をくすぐる。

「仕事がうまくいったら、褒美はお前な」

胸一杯にその香りを吸い込むように鼻孔を牧野の髪の中に押し付ける。

「お弁当のお返しもまだもらってないんだけど」

キッと強気な色合いをにじませた牧野の瞳が俺をとらえた。

まだ何か言いたそうな唇を塞ぐようにキスを落とす。

「まだ・・・いるか?」

離した唇は艶やかに色づいて俺を誘ってるようにしか思えない。

動かないままの唇に誘われるように自分の唇を近づける。

「プルーッ」

部屋中に響く電話のベル。

会議の呼び出しかと舌打ち。

牧野から離れ秘書室のドアを開ける。

視線の先には受話器を握った西田。

「わかってるよ!」

言い捨ててドアをバタンと閉めた。

「牧野、俺が帰って来るまでこの部屋から一歩も出るなよ。いいな」

「出るなって・・・何でよ」

「逃げ出されたら困るだろう」

「しっかり留守番しとけ」

「ちょっと!」

まだ何か叫んでる牧野を残して部屋を出る。

念のためSPを張り付かせておくか。

そんな思案を浮かべて会議室へと向かってた。

 

-From 2 -

滞りなく順調に会議が進む。

にこやかな雰囲気。

結構壊れかけてる俺。

牧野が待ってんだよなぁ・・・俺の部屋で。

音符付きで浮かぶ想い。

気を抜くと必要以上に緩みかける頬。

必死で耐える。

相手先はアメリカでも有数な資産家この提携がうまくいけば道明寺はさらなる飛躍を遂げられる。

・・・とは会議前に西田に耳がタコになるくらい聞かされた内容。

「タコになる~ッ」

それくらい俺でもわかってる。

「いい加減にしろ」と叫んだ俺に、真顔で「蛸でははなく胼胝(タコ)ができるです」

耳に蛸ができるわけねえだろう、耳で蛸が飼えるか。

よくよく考えれば耳が蛸になるはずもないんだが・・・。

西田に訂正されてもわかんなかった。

いい話し合いができたと相手先の代表と握手を交わす。

無事終了。

・・・

・・・・・

・・・・・・・・!?

・・・・・・・・・・・・?

いい加減に手を離せッ。

にこやかに笑顔を向けられる。

相手の代表じゃ無下にもできず笑顔を返す俺。

金髪美女と手を握ってんのあいつに見られたらどうすんだーーーーッ。

相手先の会長の娘。

うまく扱わないとこれからの事業にも差し支える。

わかってますねなんて目で後ろから視線投げんなぁぁぁぁぁ!西田!

「The schedule for the future?」

これからの予定といえば牧野と二人で~って決まったんじゃねぇか。

考えて緩みかける顔に力を入れる。

あぶねぇ・・・

仕事の予定は特にないと返す俺。

これからは俺と牧野の二人で過ごす大事な時間。

1分たりとも無駄には出来ないから早く終わらせたい。

目の前の女の顔が輝きだす。

弾む声。

日本を案内?

なんで俺が?

ぺラペラ自分勝手にしゃべるんじゃねぇよ。

「It is scheduled to spend・・・・・」

婚約者と過ごすと言いかけた言葉を西田の咳ばらいが制する。

その方向を思わず睨みつける俺。

「・・・ったく」

西田のやつには珍しく聞き分けいいと思ったらそういうことか。

俺をすんなり返す予定はないらしい。

横から簡単な食事場所を用意してますなんて説明してやがる。

俺に令嬢押しつけてにこやかに相手しろなんて思ってんじゃねえだろうな。

夕食にはまだ少し間のある時間。

牧野と別れたらそこで今日の浮いた気分は終わり。

満腹の感じは程遠い。

たらねぇーーーーッ。

楽しみにしてますと笑顔を振りまいて会議室を出ていく令嬢。

「西田、牧野連れて行くからな」

「時間外ですが」

「俺の婚約者として同席させれば問題ないだろうがぁ」

「つくし様が了解されれば」

ぬけぬけと返された。

女の扱いに慣れたあいつらを呼ぶか・・・

そしたら牧野と抜け出せるという邪な考え。

その前に牧野の説得だよな。

嫌がるのは目に見えている。

「俺が他の女と食事してもいいのか?」

「やだ、嫌い」

「仕事でも許さないんだから」

俺にしがみついて駄々をこねる牧野。

頭の中に広がる空想劇。

・・・。

・・・・・。

・・・・・・・・・。

言いそうもねぇ。

続きは ないしょ?ないしょ!ないしょ!?24 で

あ~この先は~

どうなる?

どうなるってねぇ。なるようにしかならないでしょう。

結局終わらせるつもりで書いているはずなのに終われない・・・

「はぁー」とため息一つ吐いて今日もUPしました。