第13話 愛してると言わせたい 12

 *

-From 1 -

「おい待て!」

後ろから聞こえる声を無視して大股で歩く。

それでもすぐに追いつかれた。

「そう怒るな、悪気はねぇから」

悪気があったらなおさら始末が悪い。

抱きしめられて振りほどけなかった力強い腕。

けがの痛みはほとんどないはずなのに・・・

力が抜けるようで・・・

動けなかった身体。

離してと言葉にしてもこのままでいたいと思う気持ちが・・・

ちょっぴり・・・あった。

「お前、俺に惚れてるだろう」

言われて我に帰る。

思い出したら無性に腹が立った。

なんで道明寺なのよ!

揺れる思いは徐々に道明寺に傾いてる。

それを素直に受け入れるのはなぜだか怖い。

自信満々の表情に態度は相変わらず強引で俺様だけど・・・

私を好きだと言う気持ちは真っすぐで迷いがなくてそして私の心の奥に突き刺さる熱い想い。

「俺・・・お前ともう一度恋したい」

言われても・・・

恋した記憶ないんだもの!

それがいきなり「俺に惚れてるだろう」って、どんな思考回路してるんだあのバカッ。

「ついてくるな」

くるっと振り返ったら道明寺の胸が目の前でぶつかった。

「大丈夫か?」

覗き込む道明寺の顔は鼻先が触れ合いそうんな距離。

「だ・だ・だいじょうぶ」

思わずどもって上ずる声。

「何照れてんだ」

「べ・べつに照れてなんか・・・」

そしてまたどもる声。

「まだデート終わってねぇぞ」

「前みたいにけんか別れするつもりはねぇから、もう少し付き合え」

けがしてないほうの腕を掴まれ引っ張るように道明寺が歩く。

「私、まだ道明寺に惚れてなんかないからねっ」

慌てて道明寺の背中に向けて叫んでた。

その声に反応するように道明寺の足が止まって振り返った。

「お前・・・いま、まだって言ったよな?」

「・・・・えっ?」

気持ちは惚れてないと伝えたかっただけで・・・

まだって・・・確認されるほど重要なのか?

「まだってことはいずれ惚れるってことだよな?」

なんだ?

・・・その自分勝手な解釈。

そんな解釈必要ない!!

目の前で緩んだ表情の道明寺。

うれしそうな満面の笑み。

道明寺の手のひらが私の指先をそっと包み込む。

優しい想いが指先から腕に広がってそして包まれる。

何も言えなくなって・・・

違うと否定する言葉を飲み込む。

拒否する気持ちはそのまま何処かへ消えていった。

 

-From 2 -

つないだ指先にギュッと力を込めた。

ビクッとなった指先が思い直したようにそっとかすかに俺の指先を受け入れたように動く。

手をつないだだけでこみ上げるうれしさ。

ドキッと高鳴る胸の音。

俺・・・二十歳すぎた大人だぞ!

思春期に戻ったみたいだ。

離れないようにもう一度力を込める。

握りかえされた感覚にまた心が躍る。

こいつの華奢な身体も・・・

柔らかい感触も・・・

唇から洩れる甘い吐息も・・・

全身がしびれるような熱い思い。

すべて知ってるはずなのに・・・

指先が触れ合っただけで・・・

情けねぇくらいに喜優する心。

隠すように大股で歩く。

「もうちょっとゆっくり歩いてよ」

「あ・・あッ・・・ごめん」

思わず離した指先に後悔の念。

牧野が俺の目の前から両手を背中へと隠す。

もう一度・・・

なんて言えそうもなかった。

週末の公園の昼下がり。

寄り添うように歩くカップル。

あれよりアツアツだったぞ・・・俺たち。

「何見てるの?」

「あっ・・・うらやましいなんて思ってないからなぁ」

何が?見たいな表情で牧野が俺の後方に視線を移す。

「ボート?」

「えっ?ボート?」

「乗りたいの?」

肩を組んだカップルは俺らには目もくれず通り過ぎていく。

こっちのカップルを以前の俺たちに置き換えて眺めてたとばれるよりはボートに乗りたいと思わせていたほうがましなのだろうか。

「乗るぞボート」

「えっ?ちょっと?」

「乗りたいんだろう?」

「乗りたいの自分でしょう!強引なんだから」

牧野の腕をとってボート乗り場へと向かう。

少し強引に押せば結構すんなり腕ぐらい取れる。

進歩か?

牧野が嫌がらねぇ。

向かい合ってボートに乗りこむ。

俺・・・

手漕ぎボートって乗ったことなかったんだよな。

真っすぐ進まず回るボート

言う通りになんねぇのは牧野だけで十分だ。

「こげないんだ」

目の前でクスクス笑い声を上げる牧野。

喜びすぎじゃねぇか。

何とかコツを覚えてこぎ出せるまで数分。

「出来るようになったぞ」

「さすがだねぇ」

素直に褒められると妙に照れくさくなるもんだ。

「あっカモだよ、白鳥!」

別に驚くほどのもんじゃねえだろう。

見つめる先には牧野しか見えなくて・・・

向かい合った狭い空間に響く水面を叩く艪の音。

自然と笑顔で見つめて笑顔で牧野が俺に返す。

ゆっくりと船着き場にボートを戻す。

さっきまでの揺れの心地よさが地面に吸い取られていくように牧野が離れるんじゃないかと不安になる俺。

牧野が数歩走って俺を追い越した。

「楽しかったね、ボート」

振り返ってほほ笑む牧野は照れくさそうで・・・

「いつでも付き合うぞ」

「気が向いたらね」

相変わらず素直じゃねぇ言い回し。

それが無性に懐かしくて喜ぶ心。

俺も・・・

素直じゃねぇ・・・。

続きは 愛してると言わせたい13 で

拍手コメント

mari様

楽しんでいただいてるようでうれしいです。

このお話は「ないしょ~」のお話が終わってから更新していくつもりだったのですがみなさんの反応がよくて、

書き続ける結果になっています。

最初からお付きあいしてもらってる方はご存じだと思うのですが、

連載中のお話が終了間際になると次の物語の始まりをUPして、連載が終わったらそれを書き始める形をとってました。

そして同時進行が私を苦しめる結果に~(笑)

風邪をひかないように頑張っていきます。