第13話 愛してると言わせたい 17

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-From 1 -

もろにとられてねぇか・・・。

            

          ・・・ 一発

伸ばした手が躊躇するように宙で彷徨う。

目的を失った指先でごまかすように髪をかきむしった。

「アッーーーッ!」

「誤解すんなよッ!無理やりお前が嫌がることするつもりはないから」

「同意!同意の上ってことだ」

何言われてるかわかんない二つの瞳がじっと俺を見つめてた。

「あっ・・・そうか・・・」

「そうだよね・・・」

放心状態?

力なく崩れるように床に牧野が座り込む。

助け起こしてソファーに座らせる。

その横に腰を下ろす俺。

そこから20センチ横に牧野が腰をずらしやがった。

逃げんじゃねぇよ。

逃がすつもりなんてまったくねぇけどな。

「・・・で・・・なんか思い出したか?」

正面を見据えるように牧野から視線を外す。

顔がまともに見れないのは警戒心を植え付けてしまった後悔。

言葉の危うさ。

わずかな沈黙も場が持たなくなりそうだ。

だからって・・・

何を聞いてるのか。

もっと・・・この・・・甘くする言葉とか・・・

盛り上げるためにとか・・・

ガラじゃねえよな。

まだ落ち着きを取り戻せずにいる俺。

情けねぇ。

「お・・・っ・・・思いだす訳ないじゃない。」    

   

         「キスだけで・・・」

「・・・・・・・・」

小さく消え入るような声が付け加えられて真っ赤になった。

めちゃ意識してるじゃん。

頬を染める牧野に、胸の奥から込み上げる思い。

感情は喜びと愛しさと狂おしさが入れ混じる。

いつもこうだ。

自分の気持ちを押し付けていてもこいつに支配されてしまってる五感。

くるくる変わる表情が素直に見せる喜怒哀楽。

こいつの笑い声。

指先に伝わる体温が俺を惑わす。

甘くしびれるようなキス。

抱きしめるたびに胸一杯に吸い込みたくなる清楚な香り。

すべての感覚が研ぎ澄まされていく。

まるで麻薬みたいに・・・

支配される。

自分じゃどうしようも出来ない思い。

伸ばした腕は迷いのないまま柔らかい曲線を求めて抱きしめる。

「あっ」

小さく上げた声は身体の硬直とともに喉の奥へと押し戻される。

「・・嫌なことしないって・・・」

わずかに耳元に聞こえる抵抗の声。

「抱きしめられるのイヤか?」

牧野の顔を持ち上げて覗き込む。

躊躇するように牧野の眼球がわずかに揺れて視線がぶつかった。

「キスも?」

戸惑いを拭い去るように重ねた唇。

わずかに漏れる吐息。

何も変わっていねぇ。

「お前、俺のこと好きだろう?」

開きかけた唇を塞ぐのは期待する言葉以外聞きたくないから。

だらしねぇ。

離した口元から漏れる牧野の声

「強引すぎる」

そう、小さくつぶやかれた。

 

-From 2 -

「つくしちゃん~」

突然ドアが遠慮もなくバンっと開いてギョッとなって侵入者を凝視。

こんな無作法な登場するやつ一人しかいねぇ。

音符付きの声で飛び込んできた姉貴

突然のご帰還。

聞いてなかったぞ。

「お・・お姉さん?」

「キャーッ」

感嘆の雄叫び上げて両手を上げて取り合って飛び上がって喜んで抱き合った。

なんで姉のことは覚えてるんだよッ。

突然の疎外感。

姉貴に嫉妬なんて冗談じゃねぇ。

「つくしちゃんに悪さしてないでしょうねぇ」

じろりと向けられる視線。

「悪さってなんだよ」

完全に機嫌を損ねて拗ねた口調。

悪さって・・・

したくても出来ねえ状況だよ。

心の中で舌打ち。

「相変わらずね。つくしちゃん取られたからって」

クフと笑うその笑顔は俺をいじめて喜んでいる。

「つくしちゃん怪我したの?」

左手に包帯巻いた牧野を心配そうな表情で眺める。

「司がやったんじゃないわよね」

俺に不安そうな視線を姉貴が向けた。

余計な心配するなッ。

俺が牧野に怪我なんて負わせるはずはない。

こいつを守るためなら俺の方が骨を折るぞ。

「違います」

焦ったように首を左右に牧野が振る。

「車で事故に遭っちゃって・・・」

「これくらいで済んで助かったんです」

俺のことさえ忘れてなければな。

「良かった。司がまた馬鹿なことやったのかと心配しちゃったわ」

「この馬鹿も女性にだけは手を上げないと思うけど」

馬鹿は余計だよ。

「なんで帰ってきたんだよ」

「お姉さまが帰ってきたら困るわけでもあるのかなぁ~」

「最近まであんなに喜んでいたのに薄情なんだから、つくしちゃんは喜んでくれるわよね」

牧野に同意を求めるような仕草。

「ハイ」と機嫌良く返事を返す牧野。

やっぱり疎外されている。

「今日は司じゃなくつくしちゃんに用事があったの。

いてくれてよかったわ」

牧野の肩に腕をまわした姉貴は俺には様がないとばかりに片手を振られてる。

「そろそろ結婚の準備もしないと来年の春までには間に合わないわよ」

言った姉貴にサーッと音を立てて顔色を変えて牧野が硬直した。

続きは愛してると言わせたい18

椿お姉さまの登場って実は初めてなんです。

あ~忘れてました。

これで話はどう動く?