秘書西田の坊ちゃん観察日記 10(ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 番外編)

このお話は『ないしょ?ないしょ!ないしょ!? 28』のお話をもとにした番外編です。

 *

普段はけして見ることのない砕けたお顔。

はじまってしまった・・・。

安堵のため息が苦笑を押し込めたため息へと代わるまで30分と経たなかった。

つくし様を婚約者として紹介できることで喜々揚々と迎えられた接待の場。

並んで穏やかに談笑。

何か・・・

話が別方向へと進みだす。

つくし様との馴れ初め・・・

殴られてその気の強さに惚れた。

・・・

・・・・・

・・・・・・・ 

ハァー

無言で漏れるため息。

その間が抜けてます。

それだけでなぜ好きになるのか相手には全く理解不能かと・・・。

今はだれもがうらやむ相思相愛。

・・・・・

相思相愛は否定しないがうらやむかどうかは別問題。

話の流れを折るのは本位ではないが・・・

話を完全に理解できてないつくし様まで見るのも気の毒なくらいの紅葉気味。

そのうちに変わる話の内容。

明日の1日のお相手に相手側はつくし様をご希望。

ジョン氏の存在を全く知らない坊ちゃんはすんなりそれをお認めになる。

まあ・・・

ここはつくし様にお任せするのも一興。

何も告げづにその場を離れた。

あくる朝の執務室。

ディスクに頬杖ついて不機嫌さを隠しようともなさらない。

「最初から知ってたわけじゃないよな?」

「何がですか?」

不機嫌の理由を気がつかないふりで対応。

「ジョンのことだよ」

「骨抜きにして自分たちに有利な条件を推し進めるという情報はつかんでいましたけどね」

「代表の場合は心配はしておりませんでした」

「つくし様意外の女性に対しては相変わらず冷淡でいらっしゃる」

つくし様もご同様。

ただ冷淡でない利点、相手から好意をよせられる危険性は含んでいるが。

好意に関しては不安に襲われるのは坊ちゃんだけでしょうけど。

「さすがに女装までして入れ替わってるとは思いませんでしたが・・・」

そこまではさすがの私も予測しておりませんでした。

ジョン氏がすんなりそのお姿で現れるとばかり思っておりましたから。

女装のことをなぜ知っていると訴える視線。

「入国の時から解ってましたよ」

「どうです、わが社も女性の時は坊ちゃんが、男性の時はつくし様で充分対抗できるかと・・・」

坊ちゃんを説得しようとまでは思わない提案。

「おい!まさか、ジョンが牧野を気にいると最初から思ってたんじゃねえよな!?」

咬まれるかと思う勢いですごまれる。

「つくし様は人の心をつかむのがうまい、いい戦力になると思います」

人を引き付ける魅力は予想以上と帆くそく笑んだのは私よりも奥さま。

「女装のこと黙ってたのは俺に邪魔させず牧野に接待させたかったから?」

分析できたのが遅かったようですがそれで助かったのが本音。

「長い付き合いになりますからね、あちらの会社とは」

今日の予定を言い終えて手帳を閉める。

この中身を見られたら坊ちゃんのしかめっ面だけでは済まないことだろう。

つくし様にご厚意を寄せる方の名簿。

一人二人じゃありません。

「手の込んだことすんじゃねぇ」

「牧野を巻き込むな」

不機嫌な要素は消去されないままの言い草。

「いずれは坊ちゃんの奥さまとなられる方、いろんな経験を積むのも必要では?」

少し気分を持ち上げる言葉を返す。

『奥さま』に反応して緩む頬。

私に隠すように口元が引きしまる。

「思ったよりもオモテになるものだ」

これからの道明寺にとっては重要不可欠な存在。

つくし様は坊ちゃんだけのものであっては困るのです。

「これ以上、貸さないからな」

威圧的に発する声。

「申し訳ありません。ジョン氏の見送りにつくし様には行ってもらってます」

はぁ?

「ジョン氏のたっての希望で」

「俺も行く」

「行き違いになりますよ」

「では・・・失礼いたします」

これは坊ちゃんの試練です。

つくし様をお責めになりませんようにそんな願いで頭を下げた。