第2話 抱きしめあえる夜だから 27

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-From 1 -

いい加減にしろ!

言いたくなった。

言葉にしなくても感情は隠すことなく態度に表れる。

ピリピリと放電中。

SPも排除して出かけた意味を分かってんだろうッ。

二人っきりで過ごす日々もこの旅行の間だけだってこと。

「ホテルに送ったら私たちは失礼するから」

俺の方にチラチラと視線を送りながら迷子女につくしが告げる。

それだけでも時間のロスだ。

「え~っ、一人じゃ淋しい」

しなを作って甘えるような視線に口調。

吐き気しかしねぇよ。

この手の女は自意識が過剰で不愉快この上ない。

「むしが走る」

「虫?どこに?」

キョロキョロと俺の背中や胸を手で払うつくし。

「何やってんだ?」

「虫がいたんでしょ?」

俺様に虫がたかるなんてあるわけねえだろう。

チョウぐらいなら呼び寄せるかもしれないが。

「あほか!不快とか不愉快の意味だぞ」

・・・

・・・・・

・・・・・・・?

「それ・・・『むしずが走る』でしょ?」

「似たようなもんだろうが」

「全然似てないし・・・」

相変わらずなんだからと小さくつぶやく。

クスッとつくしに笑われた。

「さっさと終わらせるぞ」

いらついたまま駐車場へ向かう。

一目で目を引くシルバーのスポーティな車体。

「キャーかっこいい!車」

車の周りを一周して感嘆を上げる女。

お前を喜ばすつもりなんて毛頭ない。

「これレンタカー?」

「ちげーよ 。。。。。。。 」

「わーっ ! そうレンタカー、レンタカー」

俺の車だと言おうとするところで大声を上げるつくし。

俺の声はかき消されてる。

そうか・・・

俺は牧野司だったと思いだした。

後部席へと乗り込む邪魔ものとつくし・・・

・・・って・・・なんでお前まで後ろに乗る。

おもむろに振り返ってつくしに視線を送る。

「あ・・・はっ・・・ ごめん」

思い出したようにドアを開けて助手席へと座り込んだ。

後ろでキャッキャトはしゃぐ女。

全部無視した。

時々後ろを振り返りご丁寧に相槌を打つつくし。

良く相手できるもんだ。

それも全部いらつきに加わってくる。

本当なら街並みを眺めて心地よい風を受け車を走らせて過ごす時間。

うれしそうにほほ笑むつくしを機嫌のいい表情で俺が見つめ返す。

信号で止まった時にはそっとつくしの膝に手を置いたり、肩を抱いたり・・・。

少しの時間も惜しむように触れ合って楽しむ。

それが・・・

つくしの意識が馬鹿女の方に向けられていることに拗ねている。

「着いたぞ」

ブスッとしたまま冷淡に告げる俺。

「一人じゃ淋しいからジュンちゃん帰ってくるまで一緒にてくれません?」

車からなかなか降りようとしねぇ女。

「俺たちはお前につきあう義理はねえ」

「ホテルまで送ってもらったことだけでも感謝してもらいたいものだ」

運転席から飛び出して助手席のドアを開けると引きずるように女の腕を引っ張った。

「道明寺!」

非難する様な響きで叫びながらつくしが助手席から飛び出す。

ハッと表情を変えて口を手のひらで押さえるつくし。

もう遅せよ。

「道明寺?」

えっ?

キャー?

ウソ?

どさくさに俺の腕をつかんだままの女が三拍子で叫んでた。

 *

-From 1 -

「え~っ!やっぱりそうだったんだ」

「もうジュンちゃんがあり得ないからなんていうから」

声色が1オクターブ跳ね上がってまとわりつく。

上から下まで舐める様な視線。

道明寺の腕を離そうとしないアイちゃん。

「ちゃん」なんてつけてられないつーの。

久々のもやもや感がわき上がる。

「行こう」

道明寺の腕を取り上げるように引っ張った。

歩きだそうとする目の前でホテルマンもなんだかこちらをじーっと見てる。

私が叫んだ瞬間に到着したバス。

そこからゾロゾロと降りて来たのは集団の観光客。

どう見ても日本人。

その人達もがホテルの中に入ろうとしてないんですけど・・・。

あっ!テレビで!雑誌で!

道明寺って聞こえなかった?

どこからともなく上がる声。

それぞれに目の前の現状を分析するように聞こえだす話声。

どう考えても非常事態だよね。

「お前が道明寺って叫ぶから」

苦笑気味に道明寺がつぶやく。

「つかちゃん、つくちゃんて呼んでたら良かったかな」

力ない笑顔を作って見上げた先の精悍な顔。

「笑えねぇよ」

眼光を鋭くざわつく先を眺めてる。

落ち着いてる雰囲気は威嚇的にも効果がある様で、騒ぎは半径メートル単位先で距離を保つ。

動物の檻に入れられたパンダの気分。

「車にも乗り込めそうもねえなぁ」

早口で英語をまくしたててドアマンに道明寺が車のキーを投げた。

「しばらくホテルにいるしかねぇ」

見物客を引きつれたまま足早にロビーに向かう。

何事かと向けられる視線は増えている。

本当に大丈夫なの!

ロビーの前で駆け付けた従業員が状況整備?警護?

ホテルのお偉いさんらしき人に迎えられた。

「なんでお前がいるんだ」

冷淡な声の先には騒ぎのもとになったギャルが当たり前のようについてきている。

もう名前も忘れたい。

「だってこんな機会ないんだもの」

相変わらずの媚を売る様な態度。

それは再会した彼氏に向ければいい。

まだその彼氏の姿は見えない。

本当に彼氏とはぐれたのかと疑いたくもなる。

学生時代に道明寺を遠巻きに見ていたファン集団。

いじめられてたけどあの人たちのほうがまだましだ。

彼女!いや私は奥さんだ!

その前で遠慮することなくモーションをかける神経

道明寺には通じないわよ!

なんだかどんどん鼻息が荒くなってくる。

その私の肩に道明寺の腕が回された。

緩やかに落ち着く気持ち。

まわされた指先をギュッとつかむ。

それだけで優越感に浸れるなんて私も単純だ。

ちらっと支配人に合図を道明寺が送る。

あっという間に邪魔ものは排除された。

「お前があんなのにかかわるからだぞ」

「ごめん」

「まあ、しょうがねえか。それがお前らしいって思えばあきらめもつく」

クシャッとほころぶ顔。

諦めてる顔には思えないんですけど・・・

「騒ぎが落ち着くまでホテルの部屋から出られないだろうし」

「さ~部屋でなにして時間つぶそうかなぁ~」

尻あがりに道明寺の機嫌がよくなってきている。

えっ・・・

あっ・・・

ポッ!

電池が入ったみたいに身体が熱を帯びる。

ホテルに逆戻り、それもチエックインしたのは最上階のスゥートルーム。

海は・・・

どこ行った?

続きは抱きしめあえる夜だから 28

たまにはつくしにもに嫉妬させてくださいというコメントにお答えして、

この展開ならねぇということで。

書かせてもらいました。

つくしが嫉妬してるって司が気がついているかどうかは微妙ですが・・・

拍手コメント返礼

RICO様

「言っちゃった」

「ばれちゃった」

という感じでしょうか?

ばれたら折角のお忍び旅行も・・・

邪魔が増える?

b-moka

つくしの嫉妬もたまにはいいものですよね。

でも書くときは司の嫉妬のほうがのってくるのはなぜなのでしょうか?

S1~そこらへんのひとり~

バカップルのノリ♪

私も好きです。

残念ながらジュンちゃん&アイちゃんの騒動はこれで終了です。