第13話 愛してると言わせたい 23

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-From 1 -

いったいどこ行きゃいいのよッ!

私・・・法学部だよね。

時々すれ違う顔は高校時代の同級生。

たいした接点もなかったから声をかけられることなく通り過ぎる。

きょろきょろと今日の講義の教室を探してる私は田舎から出てきたばかりの学生の気分だ。

注意散漫で目の前の通行人にぶつかった。

「あら、誰かと思ったら牧野さんじゃない」

「バック大丈夫かしら?」

見下したような視線をそのままに手に提げていたバックを大事そうに胸に抱いたと思ったら裏と表を舐める様に確かめる。

私がぶつかったのはバックを持ってなかった反対の腕だぞ。

人の心配よりバックの心配してるあたりは家自慢とブランドのことしか頭にない英徳の典型的お嬢様。

高校の時から全く成長してないんだこの人たち。

「そんなに大事なバックなら金庫の中にでも入れとけば」

ぶつかって謝る気持ちなんて地下深く地球の反対側まで突き抜けてしまってる。

「使わなかったら意味ないじゃない」

私をあざ笑う様な頬笑み。

嫌みも通じないのは認識してるはずなのに後に引けない気分になるのは修行が足りないよな。

「つくし、講義始まるぞ」

背中から聞こえる聞き覚えのない声。

久しぶりに名前を呼び捨てにされた。

振りかえった先にはまったく記憶に残ってない顔。

男性が私に近づくと同時にそそくさとお嬢様方は退散して行った。

異性の前ではすぐに態度が柔軟になるのも気に食わないつーの。

睨みつけていた視線を緩めて声の主に向き直る。

F4には負けるがすっきりと通った鼻筋に切れ長の目。

さわやかな印象は育ちの良さを物語っている。

この大学に通うあたりからほとんどがお金持ちだろうけど。

家柄を顔に張り付けて自慢して歩いてる輩とは違う雰囲気。

「あの・・・どなたでしたっけ?」

笑みを浮かべてた口元がぽかんと丸く空洞を開ける。

「それ・・・なんの冗談?今流行り?」

まじまじと私を見つめる瞳は心配そうな色を帯びる。

「事故に合っちゃって・・・大学の記憶がないみたいで・・・」

こんな説明で通じるのかと不安が顔に出る。

素直に説明する気になったのはこの人が本気で私のことを心配してると感じたからだ。

「嘘だろう?でも冗談じゃなさそうだよな?」

緊張した面持ちの表情に小さく顎を下にさげてうなずいてみせる。

「俺のことも覚えてないの?」

「っていうか、大学に通ってるのも知らなかったから・・・」

じっと見つめていた瞳を瞼が塞いでフーっと大きく目の前で息を吐かれた。

「良かったぁ。俺のことだけすっぽり忘れられたのかと思った」

「あっごめん、記憶忘れてるのに良かったははないか」

安堵のため息をついたのを後悔するように目の前で深々と頭を下げられた。

「いえ、気にしてませんから、大学で何か思い出さないかと思って、すぐに私を知ってる人に会えて良かったです」

私のこと呼び捨てで呼ぶくらいだから仲よかったんだと思える男性。

「名前教えてもらえますか?」

「あっそうか」

変な気分だと笑いながらも「俺、法学部4年、松岡公平」よろしくと手を目の前に差し伸べられた。

慌てたように握手を交わす。

「牧野つくしです」

知ってるよとクスッと松岡さんは笑う。

「俺のこと公平と呼んでいいから」

「松岡って私の親友と同じ名字なんです」

「それ初めて会った時も言われたぞ」

くったくなく上がる笑い声。

「大学内を歩いてみる?」

優しく気遣う様な優しさのこもる声。

お願いしますと頭を下げていた。

 

-From 2 -

たわいのないやりとり。

少しずつ心をほぐしていくような心地よさ。

道明寺とは違う感じ。

気心の知れた相手。

側にいても、肩が触れてもドキリとも動かない心。

なんの気負いもなく話せる相手。

松岡公平はそんな相手だと感じた。

これだから警戒心が薄いと言われるのだろうか。

「すぐ人を信じるのはお前の悪い癖だ」

誰に言われたのだっけ?

「何考えてる?」

覗き込こんだ瞳は純粋に温かい。

「なかなか思い出さないもんだねって考えてたの」

大学内を歩いてて観察してたのは君のことだよって面と向かっては言えないものだ。

「あっ!講義いいの?」

思い出した様に叫んだのは心の中の気まずさなのかもしれなかった。

「つくしも、俺も単位は取れてるから出ても出なくても大丈夫」

「記憶なくしても講義を聞いて分かるの?」

「それは私もわかんない」

眉をしかめて答える。

「真面目なのは記憶をなくしてもかわんないのはお前らしいよ」

屈託のない笑顔を向けられた。

「ここ食堂だよ」

ランチ3000円から~の案内板。

大学になっても英徳は英徳だった。

どこの三ツ星レストランがやってるのか・・・

そんな雰囲気。

「F4が卒業するまでは、つくしと一緒の所をよくここで見かけたよ」

「見かけたって道明寺と私?」

「ああ、ランチの時くらいしかゆっくり会えないって俺によく愚痴ってた」

公平からみた私たち二人はどんな風に映っていたのだろう。

他人からのどう見られてたのか気になるなんて、バカみたいなことなのに・・・。

思ってしまう自分に苦笑する。

「いい顔してた」

「えっ?」

「つくしが彼氏といるとき」

「俺には見せない様な優しい表情」

「そう・・・なんだ」

返事に困ったのは心を見透かされたから?

ちょっぴり温かな気持ちが心の中に湧き上がる。

私・・・喜んでいる。

まずい!顔が赤くなりそうだ。

「まき-のッ」

間延びする様に名前を呼ぶのんびりとした声。

火照る頬のまんま声のする方向へ振り返る。

「花沢類!」

素っ頓狂に上がる声。

「大学に来たんだ」

「何か思い出さすかなって思ってねッ」

照れたままの表情に焦りが加わった。

別に焦る必要はないはずなのに、どうしようもない。

「あっ、この人同じ学部の人なの」

「あんまり覚えてないんだけどね、友達だったみたい」

なんだか弁解してるようにしゃべってしまってる。

「記憶のこと喋ったの?」

「まあ・・・そう言うことになるのかな?」

「そうか」

花沢類には珍しく不機嫌な感じの表情を浮かべてる。

道明寺ほどガンつけてないけど二人の間に微妙な火花が散ってないか?

「後は俺が案内してやるよ」

「花沢類が?」

「ああ、俺の方が司は安心すると思うけど」

えっ?なに言ってる?

花沢類の考えが読めない。

私を連れさるように力強い腕に捉えられる。

花沢類には珍しい強引さ。

くるっと踵を返す花沢類に引っ張られて歩くしかしょうがなくなってしまってた。

「花沢類、どうしたの?」

「別になんでもないよ」

さっきの不機嫌さは影を隠してるが、このままついて行くしかないほどの握力が私の手首にこめられている。

「つくし!」

心配げな響きのこもる公平の声。

「公平、ごめん」

振り返って声を上げた。

「あいつは呼び捨てなんだ」

花沢類の表情が少しきつくなった気がした。

オリキャラ公平君と類の絡みを見てみたいというリクエストに答えてこの物語に緊急参戦させた公平君。

あ~これで終わりが延びた。

注)オリキャラ松岡公平君は『100万回のキスをしよう』に登場します。

読まれてない方そちらも読んでもらえるとうれしいです。

拍手コメント返礼

こう様

確かに新しい修羅場ですね。

類との修羅場は経験ないだろうからどう対処するのでしょうか?

つくしの記憶はどうなるのか!

もうちょっとお話は続きそうです。

ささ様

牧野が幸せなら俺も幸せ的なスタンスがどう崩れるのでしょう?

部外者と仲よさそうにしてたら類も気になるでしょうしね。

b-moka

何とか二人の火花を散らせるところまで来ました♪

この後はどうなるのか!

頑張って書きあげないと(^_^;)

ただいま行き詰っております。