第14話 DOUBT!!  3

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-From 1 -

「どいつもこいつもどうしてこうもお節介になるんだ?」

ソファーに腰を下ろす類は相変わらず俺から目をそらそうとしない。

ウソは許さないそんな意思を見せつけられている。

「あいつらも来たのか?」

俺の意を酌むのに類には無駄な言葉は必要ない。

無言でうなづいて見せる。

「お前が来るほんの1時間前あいつらもここに来てた」

「あいつらの話だと俺は知らねぇ女と婚約することになってるらしい」

「なんで?」

呆れた様な表情を類が浮かべる。

なんで今さらだよな。

俺は牧野との結婚を発表する段階の準備を進めていたところだぞ。

寝耳に水とはこのことだ。

あきらや総二郎が現れる1週間ほど前につかんだ情報。

西田も全く知らなかったみたいだからお袋が画策してるわけじゃねぇ。

それに牧野のことは随分認めてるみたいだしな今のお袋。

「まだうわさの出所が分かってねえんだ」

「それはあきらに任せたからどうにかなると思うんだがな、問題がもう一つあってな」

デスクのひき出しから1通の封筒を取り出し類のテーブルの前にポンと置く。

「差出人には書いてないよな」

封筒の裏表を確認する類。

「脅迫は初めてじゃないけどな、今回は厄介なんだ」

「俺の大事なものを奪うつもりらしい」

「それで牧野を遠ざけてたのか」

封筒の中身を読んで納得した類が封筒を元に戻す。

反吐が出る。

自分の命を狙われた方がどれだけましか。

落ち着かない日々と牧野に会えない時間。

手足を縛られ水の中でもがいてる苦しさ、そんな気持ちで過ごしてた。

「牧野に本当のこと話して司の屋敷にかくまった方が安全じゃないの?」

普通はそれが当たり前の判断だよな。

それで済めば俺もこんなに不機嫌な気持ちを積もらせることはなかったと思う。

「あいつはおとなしく家の中で息ひそめてるタイプじゃねぇだろう」

「あいつの凶暴さなら上等じゃないって立ち向かっていくぞ」

「司に凶暴って言われたら牧野も立つ瀬ないね」

類の口元が小さくフッと緩む。

お前を笑わすつもりはねぇよ。

いたって俺はまじめなんだ。

「牧野と連絡とらないで、訳のわかんねぇ婚約話を利用すれば牧野の存在はばれずに事は片付くと思ったたんだけどな」

牧野以外の女がどうなろうと関係ないと言い放つ俺に「牧野以外には冷たいやつ」そう言って、総二郎らは苦笑いで帰って行った。

「携帯も盗聴されやすいとか西田に言われてな」

「それが連絡も入れなかった理由なんだ」

「どっちにしろこのままじゃ牧野は黙ってないと思うけど」

そんなことお前らが俺を尋ねたてきた時点で気がついたよ。

「もうしばらく牧野とは接点持ちたくねぇんだ」

首謀者を突き止めるまでの時間の猶予。

俺自身にもそろそろ限界が来てる。

それを我慢してるのは牧野を危険な目に遭わせたくないとう気持ちが願望を押さえてるだけだ。

「牧野を丸めこんでくれ」

「司は別な女と婚約するらしいって牧野に言ったらどうすんの?」

そんな穏やかに表情作って言えることじゃねえぞ。

「お前はそんな奴じゃねぇだろう」

お前が牧野を苦しめる様な事を言えるはずねえもんな。

それにお前は俺を裏切らねぇーよ。

「信用されてるね、俺」

ソファーから立ちあがってわずかなほほ笑みを類が浮かべる。

「類だからな」

少しだけ緩む俺の頬。

「損な役回り」

のんびりとした口調でつぶやきながら部屋を出ていく類の背中を見送った。

 

-From 2 -

高層ビルから見下ろす下界。

車も豆粒くらいにしか見えない。

今の俺とお前はこれ以上に離れてるかも知れないな。

声も聞けずに離れてる時間だけが時を刻む。

切なく揺れる思い。

たった10日も離れてはいないのに、気がつけばお前のことを思ってる。

よみがえる鮮明な記憶。

今すぐ抱きしめたい思いを閉じ込めて窓から空を見上げる。

この空はお前につながってるんだよな。

・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

「悪戯かも知れねぇし、単なる嫌がらせかも知れないだろう」

「今までもよくあった事だ」

西田に殴る勢いで食ってかかったあの夜。

「もしそうでなかったら?」

「後悔するのは坊ちゃんですよ」

一歩も引かない強い意志。

西田は俺を全く怖がっちゃいない。

殴られるのも覚悟の上の反論。

西田が俺を呼ぶ名を代表から坊ちゃんに変えた時は一歩も引かない説得にかかっている時だと知っている。

こいつはそれに気が付いているのだろうか?

ぶつかる視線。

先に外してしまったのは俺。

なんで俺じゃないんだ。

苛立ちをぶつける様にデスクの上の物を払いのける。

ガシャッと床に響く金属音。

「警護の手配を」

「ダメだ」

西田が困惑気味の顔を俺に向ける。

「脅迫の相手が牧野の存在をつかんでいるとは限らねえだろう」

「婚約を発表する前で良かったよ」

あいつは人に守られて安心するやつじゃねぇよ。

ヤダと抵抗するのが目に見えている。

「どうするつもりで?」

「相手がわかるまで牧野との接触を一切断つ」

「あいつに気がつかれないように警備をつけることは必要だけどな」

「それでよろしいのですか?」

西田が言いたいことは分かる。

俺が牧野に会えなくなっても大丈夫かということだよな。

念を押される様な西田の視線にゆっくりと頷いた。

あれから1週間を過ぎ、俺の元に駆けつけてきた類達。

心配してるのは俺のことより牧野のことだろうけどな。

牧野とケンカして責められるのは俺。

そんな構図が出来上がってしまった大学生活。

それは今でも変わりがねぇ。

「お前の行動は読めないから牧野も苦労するよ」

めちぇめちゃ俺のことでは同情を受けてる牧野。

俺の苦労が減って助かるって泣き真似までしたあきら。

「司には牧野しか調教できない」

言っていたのは総二郎。

「牧野を泣かせたら承知しない」

笑顔で言い放つ類の言葉がずしんと心に重くのしかかる。

あいつらがやってきたってことは、切羽詰まってる段階に来てるよな俺達。

類を追い返して一人になった部屋。

すべてが色をなくした様に見えてしまってる。

苛立ちも怒りもすべてがさびしさと虚しさに呑み込まれていく。

牧野を知る前の俺に戻っていくみたいだ。

心の奥がつぶやいた。

西田・・・。

俺・・・そろそろ限界に来てるわ。

お前の方が正しかったみたいだ。

窓辺にもたれかかって天井を見上げる。

頭に浮かぶのはあいつの明るい表情。

曇らせてるのは俺だよな。

連絡くれないと屋敷に押し掛けてきたあいつに不機嫌な態度を取ったのは俺の弱さ。

そうしなきゃ離したくない気持ちを押さえ切れそうになかったから。

自分の気持ちを押し隠す術、お前の前じゃ持ち合わせていないようだ。

別荘で抱き合って眠った夜。

この指も唇もすべてが昨日のことのように全部覚えてる。

会えない時間が赤く色づくやわ肌の感覚を鮮明に思い起こさせる。

愛しさに募る思い。

情けないくらいに会いたくなった。

それを・・・

心の奥に押し込める。

身体の大半のエネルギーを使い果たしてしまいそうだ。

脅迫者が見つかるのが先か・・・

俺の限界が切れるのが先か・・・

問題は俺の方だよなぁ。

珍しく弱気になってしまってる。

そん時は泣こうがわめこうがあいつを屋敷に押し込める。

馬鹿げた妄想に苦笑する。

自分で自分を卑下する思い。

今までの我慢は水の泡じゃねぇか。

「西田、さっさとかたつけろ!」

書類を持って現れた西田に声を荒げて叫んでいた。

続きはDOUBT!! 4

久々の切ない思いの司君。

好きなんですよね♪

この反動はどこに行くのかなぁ。

期待は薄目でお願いします。

ようやく本題に突入です。

さてさて事件は起きるのか!

サスペンス調でお話を進めたいと思ってもなんだか途中で変わってしまういつものパターン。

今度もある様な気がします。

拍手コメント返礼

nanaco

いよいよ今年もあと1カ月になりましたね。

早いな~

パスワード正解です♪

b-moka

切ない司に賛同ありがとうござます。

時々書きたくなるんですよね(^_^;)