木漏れ日の下で 5

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-From 1 -

「じゃ、またな」

修習所で車から私を下ろして道明寺を乗せた車は街の中へと姿を消した。

見えなくなるまで車を見送る私の心の声が離れたくないって聞こえてる。

このままついていきたと思う気持ちを打ち消す様に踵を返して前を向いて歩きだす。

たった二ヶ月のことなのに・・・。

一緒にいれば必要以上にベタついて・・・。

広い部屋で二人で使う空間は畳一枚にも満たない広さがあれば十分で・・・。

道明寺ならべットがあればそれでいいなんてさらりと言いだしそうだよね。

いつもは密着しすぎる道明寺がうっとうしいって思えるほどなのに・・・。

ベタつきたいと思っているのは案外私の方だったみたいだ。

道明寺に胸の中で抱きしめる幸福は忘れがたい媚薬だと思い知らされている。

今、別れたばかりなのに・・・

その媚薬を求めてしまってた。

淋しい気持ちを奮い立たせるように必要以上に大股になる歩幅。

空のてっぺんまで登った太陽の光は柔らかに降り注ぐ。

寝不足気味に見上げた空の青さはやけにまぶしい。

手のひらで光をさえぎる様に見つめる空。

この空も道明寺まで続いてる。

そう思ったら飛びかう鳥も空に浮かぶ雲も愛しく思える。

この修習が終わったらきっともう道明寺とは離れられないと思う。

そう思える自分が今はやけにうれしい。

道明寺には素直に伝えられそうにはないけれど。

真っすぐ見つめた視線の先にはまったく色気のない灰色の建物。

当たり前なんだけど。

司法の学習の場所だしね。

異性が泊ったなんて知れたらどうなるんだろう?

学生じゃないからそこまで問題にはならないだろうけど、精神的には落ち着かないよッ。

よくもまあこんなところに道明寺も一人で乗り込んできたものだ。

思い出してこぼれる笑み。

警備員を脅したことは大目に見てもらおう。

「迷惑かけました」

警備室の前で下げた頭を上げてみればきょとんとした若い警備員さん。

昨日の人とは違う・・・人?

「気にしないでください」

焦った顔のまんま小走りで駆け抜けて自分の部屋に戻った。

昨日の警備員さんは道明寺の迫力?脅しで?何も見てないと道明寺の存在を透明にしたいるはずだ。

変に思われてしまってるよッ。

恥ずかしさが全身を包む。

全部道明寺のせいだ。

恥ずかしいのも、淋しい気持ちも、すぐにでも会いたいと思う心も・・・

全部がすべて道明寺が置いていったよう心の中で増幅する。

部屋の窓側に置かれた乱れたままのベット。

それは・・・

否が応でも今朝まで道明寺がそこにいたこと思い出させる。

忘れる様にべットのシーツをはぎ取り両手で丸めて腕の中へ抱きしめる。

道明寺の想いを押し込める様に・・・・。

これじゃ堂々巡りだ。

あいつのことを頭の中から押し出すのは容易な作業じゃない。

今度は私の方が落ち着かなくなりそうだ。

「道明寺のばかやろうッ!」

愛しいあいつを心に描いて叫んでた。

 

 

-From 2 -

『元気か?

俺はしばらく日本を離れることになった。

じゃ』

三日ぶりの連絡は携帯メールの3行だけ。

って・・・。

突然私を襲ったあの夜はなんだったんだーーーーッ。

別にまた襲って来るのを待っていたわけじゃない。

ありふれた事務的にしか読めないメール。

他に書くことはないのかッ。

携帯の画面に突っ込んでも虚しいだけだった。

愛してるとか、最後にハートマークを入れるとか。

いつもの常套句!「浮気するなよ」とかもなしなわけ?

『身体に気をつけて、仕事頑張ってね 

一応はハートマーク付きで返信した。

健気じゃないかと自分を慰める。

ため息交じりに椅子に腰をおろして携帯の画面を見つめる。

新着メールはありませんの文字。

・・・・・今日で何日目だっ!

以前は「連絡したら会いたくなる」なんて可愛い理由があった。

でも今回は違うでしょう!

会いたくなったらどんなことをしても会うって感じじゃなかったか道明寺。

何考えてるのよーーーーーーー。

「なんか殺気立ってない?」

にっこりとほほ笑む公平。

ギロッつり上がった目じりのまんま公平を睨みつけてた。

「なんでもないっ!」

「えーと・・・もしかして・・・あの日?」

困惑気味に公平の顔がゆがむ。

「それセクハラ」

ますますつり上がる目。

「じょ・・・冗談です・・・」

「・・・俺、いないほうがよさそうだよね」

尻ごみ気味に後ずさる公平。

シャツの端を強引に引っ張って隣の椅子に座らせた。

「ねえ・・・」

公平に聞いてどうすんだろ私。

公平に道明寺のことが理解できれば誰も苦労しないッーの。

あいつの性格は予測不可能だし・・・

そう思っても聞かずに入れないのは私の不安定な心。

「男の人が連絡もよこさないってなに?」

「連絡くれないって、道明寺さん?」

「まあ・・・簡単に言えば・・・」

「この前はあんなに俺の前でイチャイチャしてたのに?」

私から逃げ出したそうな公平の態度が影を薄めた。

ノリノリの顔になってんだけど。

「お前らさ、付き合っていた時よりべたべたしてねぇ?」

「普通じゃないの?」

「結婚して可愛くなった。素直になったというべきかな」と俺は思うけどねと公平が小さく笑う。

「連絡くれなくて気をもんでるってそういうことだろう」

「以前は我慢していたことも表情に出ちまう。やっぱ前より可愛くなってると俺は思うけど」

「心配しなくてもいいんじゃねぇ」

「それでもやっぱ気になるか?」

最後はからかうように笑い声を公平が上げる。

こうなりゃ、メールの返事が来るまでとことん送信してやる。

バカみたいにムキになってる。

それでも携帯をかけられずにいるのは、道明寺の声を聞いたら会いたいと言ってしまいそうだから。

離れていれば離れるほど抑制する自信がなくなっている。

そしてまた返事の来ない携帯のメール画面をただ見つめ続けてた。

続きは木漏れ日の下で6

たまにはつくしが悶々とするのもいいかと(^_^;)

でも司クンどうしちゃったのでしょう~

けして事件じゃありません!

事件はDOUBT!! でお楽しみください

拍手コメント御礼

b-moka

いや~今回はこんな可愛いつくしを司が知らないのがかわいそうで

公平君も大変だ~