秘書西田の坊ちゃん観察日記 19(木漏れ日の下で  side story)

この物語は『木漏れ日の下で21』の西田さん目線のside storyです。

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携帯から流れてきたメロディ、『JE TE VEUX』。

それは仕事用でなく個人用の携帯電話。

珍しいお方から連絡があるものだと携帯を耳に当てた。

内容はつくし様がらみの事だと予想はつく。

「西田さん、司はどうしてる?」

本題を言いだす前に坊ちゃんの様子を尋ねられるとは・・・。

どこまでつくし様を椿さまは坊ちゃんからお借りするつもりか。

すぐに返そうとはしない算段をはじき出されている様子。

「まじめに仕事しておいですが・・・」

椿さまの出方次第では鬼が出るか蛇が出るかといったところでしょうが。

お手柔らかにお願いしたいと思う心は司坊ちゃんの為か、自分の為かそれは微妙なところ。

「つくしちゃん、ロスに連れていくから後はよろしくね」

隣の町に散歩に行くような軽い口調。

NYとロス、すぐに帰ってこれる距離ではありません。

さすがの私も次の言葉が出てこなかった。

やはりあの坊ちゃんのお姉さまだ。

私たちとは最初からスケールが違いすぎる。

用件だけを告げると無言となる携帯。

携帯を見つめたまま出るのは溜息。

今、時刻はお昼を少し回ったところ。

ここで坊ちゃんに椿さまの言葉を伝えたなら・・・

状況はすぐに判断できる。

ピキッと露わになる怒の感情。

怒号が響き渡るのは最低限。

周りに巻き散る被害は最小限に抑える必要がある。

ここはひとつNYでの仕事を終わらせて、ロス経由でご帰国と予定をたて替える。

明後日には終わる予定の代表のお仕事。

1割程度ずつ時間をずらして仕事を増やした。

これなら夕刻までは仕事が増えてることに坊ちゃんも気がつかれないだろう。

書類を携えて目の前をドアをノックする。

ドアを開いた側から聞こえる坊ちゃんの声。

「5%の削減といったはずだが」

威圧的な声が部屋中に響いてる。

このテンションなら仕事の2割ましでも気がつかれなかったかも知れない。

「これ以上の削減は無理です」

代表に反論するのは社員には珍しい。

「これ以上削減すれば安全面に支障が出てきます」

決死の覚悟の社員の表情。

フッとわずかに険しい代表の表情が緩む。

「俺もそう思う」

「この辺が限界だろう」

何を言われたか理解できないように社員の表情がこわばる。

「よくやった」

代表が社員をほめる姿を初めてみた気がした。

これもつくし様効果か。

やはりもうしばらくは執行猶予を頂いた方が社内は平和に過ごせそうだ。

夕刻を過ぎる頃に椿さまとともにつくし様がロスに旅立たれたことを告げる為に代表の部屋をノックする。

今さらロスに行くのは陸地しかない。

それより明日にジェットを飛ばした方が早いのは周知の事実。

何もできない状態に追い込むことがこの計画の最大の勝利へとつながる。

「西田、この量・・・俺に徹夜させる気か?」

「私が言わなくても代表自ら徹夜をされると思います」

「どう言うことだ?」

「椿様が・・・」

すべてを言わらぬ間に何かを感じ取った様に両手で頭を抱えての深い溜息。

「姉貴とつくし、何してんだ?」

「椿さまがつくし様をロスにお連れしたようです」

代表の目の前の書類の上に付け足す書類をドンと乗せた。

「うそだろう!」

私が驚く以上にあきれ果てた様な反応。

「西田!ロスに行く」

「今からは無理です」

「ジェットも椿さまが使用なさいました」

「こちらの仕事をかたずけてロスに行かれた方が十分な自由な時間が持てるかと思いますが?」

答えはもう決まっていますよねと無言のまま見つめる。

「これで全部か」

諦めたようにつぶやく言葉。

「頑張れば明日の昼にはこちらを発てるかと思います」

ここの仕事を終わらせればロスでの少しのお二人の時間は確保するつもりでいますから。

そう心の中でつぶやいてゆっくりと頭を下げた。

徹夜はエネルギーの余りすぎた坊ちゃんにはなんでもないでしょうが、私の体には応えるんです。

家で私の帰りを待つピース助に愚痴も言えない。

坊ちゃんと連なる様に同時に溜息が洩れた。

拍手コメント返礼

b-moka

なんとか西田さん日記も順調に書くことができました。

着信音にピー助君。西田さんの知られざれる一面を少しずつはがしていけたら面白いかもなんて思っているところです。