イルの憂鬱 1
イルバーニ君。
考えたら花男の西田さん的存在。
うちの西田さん見たいなおちゃめな存在になるでしょうか?
あ~天河の小説を書くの10年ぶりくらいです。
花男をしばし忘れて没頭。
*-From 1 -
婚礼も済みこれでようやく平和な日々が訪れると思ったのは幻だった。
今日もまた朝早くからハディーの声が宮廷内を響き渡る。
後宮の穏やかな日常も今朝は朝から慌ただしい。
「イル・バーニ様、ユーリ様をお見かけしませんでしたか?」
「こちらにはいらっしゃらなかったが」
心配げな表情をのぞかせるハディーをイル・バーニの冷静な瞳が見つめる。
それは時としては冷淡な雰囲気で人を寄せ付けない。
ユーリを知らないと言い切るイル・バーニにハディーは執着することなく視線を後宮から宮廷の出口へと向けていた。
「カイル様と一緒ではないのか?」
後宮にいなければ執務室に皇帝陛下が連れだっているのがここ数日当たり前になりつつある。
皇后の仕事を教えるという建前のもと、ひと時もユーリ様を離したくないカイルの心を苦笑しながらも認めているイル・バーニだ。
私も柔らかくなったものだ。
以前なら女性を政務の側に置くなど考えもしないことだったろう。
それはイルがユーリを認めてることに他ならないのだが、人を信じることを愚行だと思っていたイル・バーニを変えたのがユーリの存在であることもイル・バーニ自身が知っている。
カイルのそばにユーリが現れてからどれだけの信頼される人材が集まったことか。
それがイル・バーニの心を軽くして穏やかな気分を生んでいる。
「それなら私も心配しません」
イルの言葉に不服を漏らすハディ。
「アスランもいないのです」
イル・バーニが困惑気味にわずかに眉を目元に寄せた。
それは過ぐに感情を隠す動きへと変わる。
「間違いないのか?」
「キックリも行方を追ってます」
「宮廷を出られる前にお止しないと・・・」
ハディーが顔色を変えるわけだとイル・バーニも納得した。
あの御身体で乗馬だとは・・・
まだそこまでお腹は目立っていないが妊娠が分かったばかりのお体のはず。
皇帝が知ったら政務を放り出してユーリ様を探しに行くに違いない。
ユーリ様がいないことをどうカイル様に悟られずに過ごすか。
これが一番の重大なこと。
カイル様で宮廷を飛び出させることになっては・・・
目立ちすぎる。
早くユーリ様を見つけ出す様に幾人かの側近を走らせる。
後は・・・
何食わぬ顔で皇帝の執務室のドアを開けた。
「おはようございます」
皇帝の前にはカッシュとミッタンナムワ、シュバスの帝国の要ともなる将軍が顔をそろえる。
「珍しくユーリー様はいらっしゃらないのですね」
ハディーがいたら白々しいと白い目で見られているに違いない。
「最近はやたら眠いらしい」
目を細める穏やかな表情。
それはあくまでもユーリ様を思い描いている時だけ見られるもの。
後宮ですやすやとお休みになってるような方かどうかは一番カイル様がご存じだ思うのですが・・・
それだけは言えるわけがない。
もう少しは時間が稼げそうだ。
それまでにお帰りになられるといいのだがと心の中で祈った。
-From 2 -
「イル・バーニ様」
3隊長の視線が痛いほど熱くイル・バーニに注がれる。
シュバスに至っては周りに分かるほどの安堵のため息が漏れる。
皇帝を執務室に足止めして置く。
この計画を3隊長にもち込んだのはキックリに違いない。
ユーリ様少しはお考えください。
天真爛漫と思えば聞こえはいいが猪突猛進型の行動も少しは収まると思っていたがやはりユーリー様はユーリ様だったとイル・バーニは溜息き交じりに心がぶやく。
「これで問題は解決したな」
3隊長をゆっくり見渡したカイルが椅子から立ち上がった。
「いや・・まだ・・・その・・・」
どうみても陛下に疑問の種を蒔くに等しい歯切れの悪さ。
これ以上は無理ですとでも言いたげな視線がイル・バーニにまとわりつく。
「陛下どちらへ」
コホッと一つ咳払いをしたイル・バーニに3隊長から厄介なバトンを渡された。
ユーリへの小言しか浮かんでこない頭の中を押し鎮めて冷静に言葉を探す。
「後宮に戻ろうかとな」
にっこりと優雅な微笑をカイルが浮かべた。
この笑顔がどれだけの美姫を虜にしてきたことか。
それはもう遠い昔。
あのころは別な意味で悩まされたものだ。
カイル様のことだけを考えていればよかった頃が懐かしく思いだされる。
「まだ執務室に来られたばかりだと伺いいましたが?」
「特に私が目を通さねばいけないものは片が付いた。あとは自由にさせてもらう」
「後宮で日々の大半を過ごされるのもいかがなものかと・・・」
「イル・バーニ、急にどうした?」
「私がユーリの側にいるのをほほえましいと言っていたのはお前ではなかったか?」
「お前たちは私を後宮に行かせたくない訳がある様だな」
3隊長のあいまいな態度。
イル・バーニが執務室に訪れる前にカイルは何かあったと気がついていた。
それが後宮、つまりはユーリに関することだと決定づけたのがイル・バーニの訪室だ。
カイルを執務室に押しとめることは難しくなった。
そしてユーリの不在をこの頭脳明晰な皇帝に隠し通すことも限界だと観念するしかない。
最初から私にユーリ様の逃走を知らせてくれればと思ってもどうしようもない。
イル・バーニは外見的には穏やかな表情を浮かべながらも胃の中ではチクチクと針で刺されてる様な痛みでうずいてる。
「ユーリに会いに行く」
「お待ちください陛下」
颯爽と歩きだすカイルを押しとどめようと3隊長が同時に声を発す。
今さらなんの効力を発揮するものではないとイル・バーニは3隊長を押しとどめた。
「ユーリ様は後宮にはいらっしゃらないようです」
言いたくもない現実をカイルに告げる。
カイルの機嫌を損ねる役目はいつも私らしいとイル・バーニは心の中で苦笑する。
「どこに行った?」
「今、3姉妹がお探ししているはずです」
「探してる?」
「宮廷から出て行ったのか?」
滅多に感情を表情に表さないカイルの瞳に不安が現れてる。
驚きの表情はすぐに冷静さを取り繕う仮面の下に隠される。
そのことに気が付いているのはこの場所でイル・バーニ一人だけだ。
「御意」
頭を下げながらアスランがいないのはもうしばらく伏せておこうと思うイル・バーニであった。
拍手コメント返礼
しずか様
私も名前が出てこなくて焦りました(^_^;)
久々にコミック読み返しました。
またはまりそうです。
カイルと司似てますよね。
俺様ではありませんが。
威圧感と存在感はばっちり♪
愛する者一筋~
カイルの場合はそれなりの経験があるのか・・・
ゆー様
拍手コメントありがとうございます。
久々のUPでドキドキモノでしたがホッとしています。