下弦の月が浮かぶ夜4
*「こんなところで何してる?」
「司がいたらあいつ半殺しだぞ」
睨みを利かせた表情が瞬時に和んで優しい瞳を向けられた。
「いや~美作さんも結構な迫力だったけど」
言いながら少し照れくさくなるほど甘いマスク。
一発で女性を引き付けるのは健在で、すれ違う女の子が立ち止まって視線を止めるのも無理はない。
「道明寺と待ち合わせしてたんだけどね。ふられちゃった」
表面はにっこり笑っても心の中ではギタギタにあいつの顔をひっかいている。
「それじゃ、俺に付き合ってくれないかな?」
「えっ?」
「司にすっぽかされたのなら暇だろ?」
明るくほほ笑んで美作さんが私の背中に手をまわす。
日ごろ見せない強引さに戸惑いながらも、促されるままに止めてある車の後部席へと身体を落ち着かせた。
「司が忙しいのなら俺が牧野の相手しても文句言わないだろう」
美作さんには「手を出すな!」くらいのものだろうか。
その数倍は私に返ってくるはずだ。
『何考えてる!
あきらにつきあうことはない!
浮気するな!
貞操がない!』
これぐらいのことは最低限言って拗ねられる。
自分が約束すっぽかした事は忘れたようにねッ。
割の合わない拗ねられ方されるんだから!
それを想像するだけでなんだか無性に腹がったってきた。
「司とどこに行く予定だった?」
「時間が空いたからって半ば強制的に会う約束させられただけだったから何も決めてないけど」
そしてドタキャン食らった私。
本当に貞操がないならナンパ男についていくつーの。
「牧野、少し俺を助けてくれる?」
「な・・・なに?」
頭の先まで沸騰しかけてた気分がシューッとしぼんだ。
美作さんに助けてもらうことはあってもこの人が私の助けを必要とする事が何かあるのか?
いつも冷静沈着。
物事はトラブル前に対処してそうな性格だ。
「悩まなくても、食事に付き合ってくれるだけでいいから」
「何も考えずに俺の横でにっこりほほ笑んでいてくれればいいから」
軽くウインクされた。
何も考えずに笑えって・・・なに?
簡単そうで難しい。
アホになれと言われてるみたいだ。
できなくはないと思うけど・・・。
それが助けになるってどんなこと?
「今付き合ってる女性と全部手をきるつもりなんだ」
車が止まったのは高級そうなホテルの前。
車を降りて歩きながらの美作さんの発言に息をのむ。
「いちいち説明するより、牧野に彼女役してもらったら早く済みそうじゃん」
えっ?
へっ?
彼女・・って・・・
道明寺にばれたら拗ねられるだけじゃ済まなくなりそうだ。
「美作さんならスマートに別れられるんじゃないの?」
「この前のパーティーを覚えてる?」
整った顔立ちがさらりと目の前に惜しげもなく近づいてくる。
道明寺で慣れてるとはいえこの近さは正常心をわずかにくすぐる。
「パーティーって・・・道明寺の?」
「そう」
「あの時、俺と牧野って二人で長い時間一緒にいたじゃん。噂になってんだよね」
「噂って・・・」
「俺の新しい相手ってさ」
「司の手前、牧野にわざわざ頼もうとは思ってなかったんだけどな」
「折角だからこの際助けてもらおうかなと思ったんだけだから」
思っただけの簡単なノリの話じゃない。
美作さんと噂になってて、そしてその数日後美作さんの彼女のふりして付き合っていた女性と手をきるお手伝い。
噂に油注ぐことにはならないのか?
美作さんならそんな失態は見せないだろうけど。
「無理だよ」
「まさか俺の願いをすげなく断るなんてことしないよなぁ」
笑顔の下で今までどれだけ助けてやったかと無言の圧力。
断り切れそうもない雰囲気に追い込まれてしまってた。
続きは下弦の月が浮かぶ夜5で
いつもなら類を彼氏にするつくしの設定を使ってますが、今回はいわゆる逆パターン。
どうなるんでしょうかね。
司がやきもきするのに変わりはないでしょうけどね(^_^;)
拍手コメント返礼
薔薇の花屋様
美作さんとのデートどうなるのでしょう。
たまにはいいですよね♪
しずく様
これからの展開、司はどうするのか!
この場合は主役はあきらかな?