St. Valentine's Day 4(司 20years)

 *

腕の中に閉じ込められて動けなくなる。

首筋に触れる息遣い。

声が聞こえる度に波打つように肌に優しく触れる。

考えがまとまらないままにその甘さに浸りたくなった。

フッと右肩が軽くなって、離れた道明寺の片腕はごそごそと動いて自分のジャケットのポケットから携帯を取り出す。

指先を滑らかに動かしボタンを押すそのしぐさをじっと見つめてる。

その指先が、私の方に動いてこないのにがっかりしてるなんて・・・

自分の感情と反応がいまいち追いつかない。

思わず息を止めた。

数秒ほど心音も一緒に止まったような気になった。

「どこに電話するの?」

「どこって、ベットにシャワーに下着だっけ?」

そんなの誰に電話して準備させる気だ?

「準備してやるよ」

携帯を耳に当てながらぼやく様につぶやかれた。

「ダメッー」

思い切り手を伸ばして携帯を奪う。

「おい!こら!投げるな!壊れる」

携帯を取り合う4本の手。

「もしもし・・・」

「ぼっちゃん?」

聞こえた声がツーツーと携帯がつながってない音へと変わる。

必死で死守した携帯を胸の中に両手で囲い込んでしゃがみこんだ。

西田さんに電話かけたんだと気がついて心音が数段速さを増す。

「いるんだろ?ベットにシャワーに下着」

その下着というところがやけに恥ずかしい。

ベットにシャワーの準備を頼むのも気が引ける。

西田さんに「牧野の下着を準備しろ」なんて言われたら顔から火が噴くだけじゃ足らない。

きっと一生西田さんに顔を会わせられなくなる気がする。

他人に準備してもらった下着を身体につける無頓着さなんてないぞ。

誰かに準備されるならこのままの方がましだ。

この山小屋にそんなもの準備される方がよっぽど恥ずかしくなる。

「もう・・・いいから」

「ヘッ?」

少し不安げな顔が上から見下ろしてる。

「ないとダメなんだろ?」

ダメというか・・・

何というか・・・

元からそんな問題じゃないことに気がついてない落ちこみ気味の表情を見せる。

普段の横暴さなんて微塵もない態度にキュンと胸が鳴った。

なんだか猫がスリスリとまとわりついて離れない様な甘える仕草を思い出す。

道明寺の場合は子猫というより猛獣に近いだろうけど。

抱っこなんて出来ないからねッ。

クスッと甘酢パイ思いが胸の中にあふれてくる。

「暖炉の火を眺めてるのもいいかも」

関係ないことに気をそらしなが暖炉の前で膝を抱えた。

道明寺が毛布を一緒にかぶる様に動いて私の隣へと座り込む。

ふんわりと動いた空気の流れでパチンと薪が音を立てて灰の中へと崩れ落ちるのを言葉なく見つめてる。

1年て・・・あっという間だ。

ここで一晩抱きあって温もり合って過ごした夜。

今ここに二人でいることが当たり前に思えるなんてすごく幸せなことなんだよね。

あの時、道明寺が記憶を取り戻さなかったらどうなってたのかな?

私を思い出してくれたうれしさで涙がこぼれた瞬間は今でも鮮明に覚えてる。

この場所で毛布にくるまって朝を迎えるのもすごく幸せかもしれない。

そう思えてきてコツンと頭を道明寺の右肩に乗せて両目を閉じた。

すいません~引っ張ってます。

周りの目が気になってこれ以上は・・・(^_^;)

で・・・・

まだどっちにでも転びそうな状況。

ドS倶楽部はどう動く?